最後の魔法は、ひとを待つための魔法だった

まるねこ

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25 久々の魔女の村

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「魔法も使えるんだし、私みたいに魔女になってみたら?」
「魔女、ですか?」

「魔女の村はあるし、記憶の定着が済んでやりたいこともないのならその魔力を生かして魔女になってもいいんじゃないかな」

 私はそう口にすると一筋の光を見出したようにアリアさんの表情は明るさを取り戻しつつあった。

 その後、昼食を用意し、アリアさんと食べながら平民の生活の仕方を教えた。

 彼女はあとがないと切羽詰まっているせいか、一つひとつ真剣に聞いて取り組んでいる。

 夕方頃になると、徐々に知識が定着をし始めているようで彼女の身体が薄っすらと光を帯びている。

 やはりエティ師匠のやり方を基本とした知識の継承は、私のように眠りに入る必要はないようだ。目の前で見て改めてこの魔法は感慨深いものだと知る。

 そうだ、ラルド副官には明日休むことを伝えておかないと。私は思い出したように手紙を書いてラルド副官宛に送った。

「魔女様、なんだか、他人の記憶が増えていくような感じがします」
「記憶?イメージかな?」

「えっと、物を覚える時や勉強している時の感覚に近いような? でも、どれも断片的なんです。けれど、平民や下位貴族の暮らし方が一気に理解できるような……」

 彼女は増えていく知識に混乱しているようだ。

「一晩経ったら落ち着くだろうし、今日はごはんを食べて早めに寝ようか」
「はい」

 彼女は素直に頷いた。私は台所に立ち、夕食を作り始める。鶏肉を畑で採れた香草と一緒にオーブンで焼いていく。

 肉の焼けるいい香りとパチパチと油の爆ぜる音。魔法でさっと温めたパンにバターを塗り、サラダを添えて食べていく。

 久しぶりに誰かと食べる食事にどこか心が温かくなる。

 アリアさんの口に合うか心配だったけれど、「温かな料理を食べるのは久しぶりです。とっても美味しい」と喜んで食べていた。

 そうして私たちは早々に床に就いた。

 翌朝、私が起きると、既にテーブルには朝食が用意されていた。

「魔女様、おはようございます」

 そこにはアリアさんが立っていた。

「おはよう。これ、アリアさんが準備したの?」
「はいっ。寝て起きたら様々な知識が増えていて、私でもできるかなって思ったんです」

 朝食はパンと野菜のスープという簡単なものだったけれど、アリアさんにとっては初めての調理なはずだ。

 よく見ると手には切って止血した跡が見て取れる。

「知識は増えても身体がそれを覚えるまでが大変だからね。大丈夫だった?」
「はい! 世界が一変したような感じです。昨日まで見えていたものは本当にちっぽけなものだったのだと理解しました」
「とりあえず食べようか」
「はい!」

 私達は朝食を食べ始めた。アリアさんの様子をみているけれど、特段問題は出ていないようだ。

「さて、朝食も食べたことだし、アリアさんのこれからを聞きたいんだけど?」
「魔女様、私、様々な知識を得て考えました。私、魔女様のような魔女になりたいです。そして、一人前の魔女になった暁にはこの知識で得たものを利用して様々なことに取り組んでいきたいです」

「そっか。わかった。ならこのまま魔女の村に向かうかな」
「魔女の村ですか?」
「うん。私のような忌み子も沢山いる村なの。詳しくは村長に聞くといいと思う」
「わかりました」

 私達は朝食を終えて準備に取り掛かる。

 久々の魔女の村だ。

 ユーグ師匠のお使いで度々訪れていたけれど、ユーグ師匠が亡くなってからは忙しくて一度も顔を出していなかった!

 準備を怠ると村長は烈火のごとく怒り始めるので気を付けないとね。私は庭の薬草を急いで摘み、魔女の村へと転移した。 



「リディンナさんいますか?」
「おや、クロエじゃないかぃ。久しぶりだぇ」

 私は村長のリディンナさんの家を訪ねた。リディンナさんは笑顔で私達を迎え入れてくれる。

 リディンナさんは私にとっては可愛いおばあちゃんという感じなの。

 見た目は五十代くらいなんだけど、年齢は八十歳を超えたところ。リディンナさんは薬の女王と言われるほど薬の調合が上手で、その若さも自身が調合している薬の影響だと言われている。

 エティ師匠とはまた違った年の取り方をしている。

「今日はどうしたんだぇ?」
「魔女になりたい女性を連れてきました。アリアさん、こっちへきて」
「はい。アリアです。私は、魔女クロエ様に助けてもらいここに来ました。一生懸命、頑張ります。どうか魔女にさせていただきたいです」

 彼女は緊張しながらも丁寧にリディンナさんへ挨拶をする。

 すると、さっきまで笑顔だったリディンナさんが不審そうな目でアリアさんを見ている。

「……ふぅん。貴族の子かぃ。色々と訳ありな娘っこねぇ。でも、最近の貴族の子は心が折れやすくてかなわないのよねぇ」
「使えなかったら手放して構わないよ」
「そうかぃ。まぁ、クロエが連れてくるくらいだからねぇ」

 リディンナさんはアリアさんを手招きする。

「ふぅむ。魔力は結構あるねぇ。とりあえずこっちで預かろうかねぇ」
「リディンナさんありがとう。これ、最近渡してなかった薬草もついでに持ってきたの」
「助かるわぁ」

 私はそう言って薬草と金貨の入った小袋をテーブルの上に置くと、リディンナさんはまた笑顔に戻っていた。

「じゃあ、アリアさん私はこれで。あとは自分で頑張ってね」
「魔女様、ありがとうございます」

 私は転移してまた家に戻った。

 一日だったけど、人がいるってやっぱり違うんだな。

 師匠、早く戻ってこないかな。
 私はそう思いながら部屋を片づけていた。
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