最後の魔法は、ひとを待つための魔法だった

まるねこ

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31 ラルド魔法使い総団長

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「なぜラルド副官が知識の継承をしているうちに副官を勝手に決めるのですか?」
「だって、ラルド殿下が総団長に代わるのに副官がいなかったら困るでしょう? それに私が勝手にジェイドさんを選んだわけじゃないよ。団長たちの推薦でジェイドさんは副官になったもの。私が勝手に決めたらそれこそ文句が出てしまうよね」

「ですが、クロエ総団長がいるのに」
「私はラルド副官の継承が終わればただの魔女に戻ることになってるから。これはモンシェール様との約束だからね。それに黒髪の忌み子がいつまでもトップではみんなも嫌だろうし」
「そんなことは……」

 彼は自分が思っていたことを思い出したようで言葉を濁してしまった。

 私としては数年間だけだと思っていたのでそう思われていても全く問題はないのだが。

「さて、雑談はこのくらいにしてジェイド副官、この書類とこれをお願い」
「はい」

 私はラルド副官がしていた仕事もこなしているが、まず彼には書類の場所から覚えてもらおうと指示を出す。

 優しいよね!

 ジェイド副官は思うところはあったようだが、口にすることはなく黙々と仕事を続けている。

 一日、また一日と残り僅かな総団長の暮らしを満喫しつつ、時々、ラルド副官の寝室に顔を出た。

 従者の話では彼は一度起きたようだが、また粉を飲んで眠りについたようだ。

 魔力の流れを調べてみたけれど、特に問題は出ていない。順調に知識の定着は行われている。



 そうしてジェイド副官が来てからひと月ほど経った日のこと。ラルド殿下が目覚めたと従者から連絡が入った。

「ジェイド副官、ちょっと行ってくるね」
「畏まりました」
 私は転移でラルド殿下の部屋に飛んだ。
「ラルド殿下、おはようございます」
「ああ、クロエ殿」

 ラルド殿下は目の色が少し濃くなっているような気がする。

 モンシェール様の記憶はどんなものだったのだろうか。

 私は記憶の継承を終えた時、何かが変わったのかな。自分では全くわからないので気にしてもしかたがない。

「体調はどうですか?」
「すこぶるいい。クロエ殿、私は、無知だった自分が恥ずかしい。でもモンシェール様のおかげで私は沢山の知識を得ることができた。本当に感謝しかない。ユーグ大魔法使い様にも初めて会った。彼は元王族だったのですね」

「ええ。師匠は若いころに沢山執務をしたから王宮の仕事を早くモンシェール様に引き継いで遊び惚けていたかったようですけどね」
「モンシェール様も自分が魔法使い総団長になるとは思わず、押し付けられた仕事で大変だったみたいだ」

 私とラルド殿下は師匠たちの話をしてフッと笑った。記憶を共有する人という安心感もあったと思う。

「ラルド殿下、元気そうだし、明日からは仕事に復帰してくださいね」
「私はいったいどれほど眠っていたのだろうか」
「大体ひと月です」
「ひと月!?」

「ええ、私もそれくらい寝ていたと思います。こればかりは仕方がないです」
「儀式の継承自体はすぐに終わるようだが、やはり記憶を覗くとなればそれ相応の眠りにはつくのか」

 ラルド殿下は顎に指をあて、少し考え事をしていた。目覚めたばかりで考えることは沢山あるだろう。

 私はそのまま殿下に明日、仕事に復帰するように再度念を押し、仕事へ戻った。

「ジェイド副官」
「クロエ総団長、どうしましたか?」
「私の荷物をまとめておいて、といってもあんまりなかったね」

「……ラルド副官が戻ってこられるのですね」
「うん。ジェイド副官、短い間だったけどありがとう」
「いえ、こちらこそ。クロエ総団長には様々なことを教えていただいて感謝しかありません」

 ジェイド副官は副官になってから真面目に私に教えを請い、素直に取り組んでいた。

 そしてジェイド副官には新しく、私からの課題を出した。

「クロエ総団長、何を?」

 私はジェイド副官の腕に金字の装飾が入った腕輪を嵌めたのだ。

「これはね、執務が襲ってくる腕輪。仕事を早くこなせるように魔法が掛かってるんだ。
 そのまま仕事をこなすスピードをあげるか、魔法を解くために魔力の扱いをさらに向上させるかの二択ね」

「えー。それは困ります! これ以上仕事を増やさないでください」
「大丈夫、大丈夫。ジェイド副官ならすぐ腕輪もとれるよ」
「ジェイド副官、急遽申し訳ありませんが書類を見ていただきたくて」

 一人の魔法使いが扉をノックして入ってきた。ジェイド副官の目が半目になったのは仕方がない。

 ふふっ。
 これも愛だよ。

 そうしてジェイド副官が仕事に追われている間に私は荷物をまとめ、森にある我が家へと送っていく。

 翌日の昼前にラルド副官は復帰してきた。

 もちろん各団の騎士団長たちも勢ぞろいしている。

「ラルド副官、知識の継承の儀おめでとうございます。そしてお疲れ様でした」
「クロエ魔法使い総団長。ありがとうございます」
「それでみんなに集まってもらった理由なんだけど、これからはラルド副官がラルド魔法使い総団長になる。これはみんなも知っての通り、モンシェール様の言葉でもあるからね」

「ラルド副官、これからは魔法使い総団長として頑張ってね。新しい副官はそこにいるジェイド・ラッセン様なの。もし、気に入らなければまた変えてもらっていいよ」
「クロエ総団長!? 俺、頑張っていますよねっ!?」

「うん。頑張ってると思う。まぁ、もっと頑張って?」
「クロエ魔法使い総団長、私はまだまだ貴女が魔法使い総団長であることを願っておりますが」

 ラルド副官は困惑した表情で口を開いた。

「ん? 私には合わないよ。まだまだ小娘だし、やることあるし。ラルド殿下がなる方がいい。何かあったらいつでも呼んで? 協力するから」
「……分かりました」

「では団長さんたち、これからラルド魔法使い総団長をお願いするね」

 私はそう言ってあっさりと森へと転移した。

 あんまりゆっくりお別れをしていると情も移って泣いてしまいそうだもん。

 最初は黒髪の私をみんなが敵視していた。

 でも、実力で偏見や差別は跳ね返せたんじゃないかな。

 師匠、私はいっぱい頑張ったよ。

 私は魔法使い棟での出来事を思い出しながらゆっくりと部屋を片付けていく。

「……静か」

 やることは沢山あるけど、なんだか億劫になっちゃう。

 師匠はどうやって日々を過ごしていたっけ。

 私はそんなことを考えながらまた元の暮らしに戻ろうとしていた。
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