最後の魔法は、ひとを待つための魔法だった

まるねこ

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新章 切掛

40 完成した回復薬

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「ジルディット殿下、お待たせ。できたよ」

 私の声に今まで黙っていた魔法使い達が歓声を上げた。ジルディット殿下も感慨深いというような表情をしている。

「誰か試しに飲んでみる?」

 私が棚にあったコップを取り、窯の液体を掬ってみせると、みんなが手を挙げた。

 ふふっ。その様子がちょっと嬉しかったのと懐かしい感覚だった。

 人にこうして教えたのなんて五百年も前だったから。

 固唾をのんで見守っていた管理者の恰幅の良い男の人が手を挙げ、代表して飲むという。

 私はコップを渡すと、彼は液体を目視して確認した後、恐る恐る一口飲んだ。毒ではないことがわかると一気に回復薬を飲み干す。

「フィル、どうだ?」

 ジルディット殿下は興味深そうに、少し面白そうにしながら聞いてきた。

「……ジルディット殿下、これは素晴らしい。この国一番の回復薬で間違いありません」
「でしょう? 私の作る魔法薬は最高なんだから」

 すると、フィルと呼ばれた男の人が怖いくらい真剣な表情で聞いてきた。

「魔女クロエ様、どうかこの回復薬に限らず、先ほど使用していた魔法円の知識など私共にご教授願えませんか?」
「あ、こらっ。私が今言おうとしていたのに」
「んー。いいよ。暇していたし」

 私は気軽に返事をすると、拍手が起こった。

「では詳しい話は執務室にてお願いします。フィルも同席するように」
「畏まりました」
「うん。じゃあ、みんなまたね」

 私はジルディット殿下に連れられて彼の執務室へと戻っていく。

 するとジルディット殿下は伝言蝶をどこかに飛ばしているようだ。伝言蝶は途絶えずに残っているんだね。

 魔法自体は簡単なものだし、とても便利なため廃れることはなかったんだろう。

 執務室に入り、私はソファに座り、先ほどと同じようにお茶を淹れてフィルさんにもカップを渡すと驚いていた。

「魔女クロエ様。先ほどの魔法円は一体!?」
「あのさ、聞きたいんだけど、今どんな魔法円があるの?」
「それが……。現存している魔法円は一部を残してほぼ消滅しております」

「なんでそうなったの?」
「記録によれば三百年ほど前でしょうか。世界を巻き込んだ長い戦争がありました」
「うん。それは知っている。ずっと私は見てきたから。でもそれは魔法円が無くなる理由にはならないよ」

「魔法を使用した戦争を終わらせるために一人の魔法使いが立ち上がったと聞いております。その男の名はアーズワース。当時の記録はほとんど残っていないのですが、彼が各国を回り、色を持つ者を殺していき、魔法に関する物を全て燃やしていたというのです。

 色を持つ者は元々少なかったけれど、さらに減り、一時はほとんど見かけなくなったという記述もあります。

 けれど、平民に落とされた貴族や魔女になっている者などたちの子孫が今こうしてまた増えてきているのですが、魔法に関する資料は無くなり、魔法は衰退したのです」
「そっか」

 ジルディット殿下の髪色は金髪だ。きっと王族は魔女の森やどこか別の地に逃げ、絶えることはなかったんだろう。

「戦争もようやく終結し、魔力のある者たちも増えてきてようやく魔法を研究すべくこうして魔術師を集めて研究を始めているんだ」

 なるほど。だからジルディット王太子殿下が指揮を執っているのか。フィルさんの話を聞いている時に扉をノックする音が聞こえ、殿下の返事で扉が開かれた。

「殿下、魔法使いが見つかったと聞いてきたのですが」
「ああ、宰相。そこに座っている方が魔女クロエ様だ。彼女は五百年以上生きているそうだ」
「まさか、本当に、そんなことが……?」
「その、まさか、かな?」

 宰相はとても驚いていたけれど、フィルさんとジルディット殿下がこの目で見たと話をしてくれたおかげで疑われずに済んだみたい。

「すぐに陛下へお知らせしなければ」
「ああ、興奮してすっかり忘れていた。そうだな。すぐに父上に連絡しなければ」

 ジルディット殿下は忘れていたようですぐに伝言魔法で国王陛下に連絡を入れていた。

 宰相とジルディット殿下が話をしている間に陛下から伝言魔法が返ってきた。

『すぐに執務室へ魔女様をお連れしろ』
 低い声がそう聞こえてきた。
「クロエ様、我が国の王へ会ってもらえますでしょうか?」
「うん、いいよ」

 私は軽く答え、宰相たちと共に国王陛下の執務室へと向かった。
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