最後の魔法は、ひとを待つための魔法だった

まるねこ

文字の大きさ
48 / 62
新章 切掛

48 魔女がいなくなった理由

しおりを挟む
 私たちは牢屋まで歩きながら雑談をする。

「クロエ様は長い時間を生きてきたと言っていましたが、大変ではなかったですか?」
「大変? 貴族が攻めて来たり、国が変わったり、魔女の村がなくなったりしたことは大変だったね。でも、それも運命だよ」

「魔女の村がなくなる時に守ろうとはしなかったのか?」

 ジルディット殿下がなぜだという表情で疑問を口にした。

「……魔女の中にはね、占いを得意とする人や薬草を扱って薬を作る人、呪術に長けた人もいたんだ。

 その人たちをまとめ上げるほどの実力者が村長になるんだけど、その魔女がね、私に知らせを寄越したんだ。家から出るなってね。

 魔女の村がなくなることを予期していたんだ。私は村長の言いつけを守り、魔女の村には行かなかった」

 フィンさんも不思議そうな顔をしている。

「でも、事前に把握していたならなんとか手を打てたんじゃないでしょうか?」
「打てる手は打っていた。それでも、魔女の村はなくなった。村長と一部の魔女の犠牲が必要だった。

 逃げ出した魔女の大半も大罪の水の影響を受け、他の平民と変わらなくなった。村は燃やされ、資料は全て燃やされた。村長からしたら私は後世に情報をもたらす唯一の存在だったんだよ。だから私には家から出るなって言われたの」

 二人とも理解したようで深刻そうに頷いた。



「さっ、到着したね。誰に飲ませればいいのかな?」

 牢屋の前にたどり着き、階段を上がっていく。どうやらロシュフォードという人は最上階の貴族牢に入れられているらしい。

 彼が貴族ということと、まだ罪が確定したわけではないらしいのでここに入れられているのだとか。

「ロシュフォード、元気そうか?」

 ジルディット殿下は低い声でそう話しながら牢へ入った。

「ジルディット殿下、どうされましたか?」

 ロシュフォードという男は生成りのシャツに麻のズボンという姿でベッドに座っていた。
 均整の取れた体格、きっと彼は武官だったのだろう。

 ジルディット殿下の盾になるものを陥れる者はきっと殿下の命を狙う者なのかもしれない。

「ロシュフォード、この薬を一日一回、毎日飲んでみて欲しいんだ」
「……これは?」

 彼はジルディット殿下が差し出した小瓶を受け取る。

「本来の魔力量に戻るための治療薬だそうだ」
「? 本来の?」
「ああ、そうだ。三百年前に魔法使いがいなくなった話は知っているだろう?」
「もちろんです」

「我々はまだその影響を受けているようなんだ。この薬をひと月服用すれば本来の魔法が使えるようになるかもしれない。ロシュフォード、お前は魔力持ちだったから飲んで効果が出るかどうか調べたい」
「なるほど。わかりました」

「ロシュフォードさん、ちょっと手を貸して」

 私は彼の前に立ち、手を取り魔力を流して現在の状態を確認してみる。

 うん、やっぱり半分くらいは詰まっている感じがするかな。これがひと月の間にどれくらい効果が出るか気になる。

「この薬を一日一瓶飲んでちょうだい。三日に一度体調を見に来るよ。とりあえず今、飲んでちょうだい」
「わかりました」

 彼は迷うことなく薬を一気に飲み干した。

「味はどうだ?」
「……草の香りと苦みが少しありますが、飲めなくはないです」
「でしょう? 私特製の治療薬だもん!」

 しばらく様子を見ていたけれど、特に変わった様子はないようだ。

「じゃあ、そろそろ戻るかな。ロシュフォードさんまた来るね」
「はい」

 そうして私たちはフィンさんの執務室の部屋に戻った。

「クロエ様、隣にクロエ様の部屋を用意したのでどうぞお使いください」
「ん? わかったー」

 私はジルディット殿下たちと隣の部屋に入ってみる。

 入り口には「王宮魔術師顧問執務室」と大きく書かれていた。

 私、顧問になったんだね。

 部屋に入ってみると、隣のフィンさんと同じような作りで立派な机と椅子が設置されていて来客用のソファとローテーブルが置かれている。書棚にはこの国の歴史と法律に関する本だけが置かれていた。

「さて、治療薬も渡したし、ジルディット殿下の課題だったね」

 私がそう言うと、ジルディット殿下はピクリと反応し嬉しそうだ。

 鞄から小さな小箱を出して殿下に渡す。

「クロエ様、これは?」
「これは魔力操作の練習だよ。この間よりも難しい。時間がある時にやってみて」

 ジルディット殿下は不思議そうに箱を持ち、魔力を流している。魔力を流した部分だけほわりと光った後、光の線が伸びている。魔力でその線を追っていくんだけど、それが中々に難しい。

「これは面白い」
「そうでしょう? 箱が開いたら教えてちょうだい」
「わかった」

 こうして私はみんなに課題を出し終わり、やることがなくなったので家に戻った。

 久々にたくさん歩いて疲れた。
 早く寝よう。

 ベッドに入り、今日のことを思い出す。未来視は難しい魔法の一つとされている。一つ違えば全く違う未来になるのだ。

 けれどあの時、どの未来も魔女の村が無くなることが確定していたのだろう。

 だから村長は一人でも生かすために若い魔女や魔法使いたちを村から出した。それでも半数は殺された。生き残った人たちは、街や村に入り他の人たちと変わらない生活を送り溶け込んでいった。

 村長の言いつけは間違っていなかったと今なら思える。

 私の存在意義ってなんだろうなんて悩んだこともあったけど、今はもう悩まない。

 悩んでたって仕方がない。

 それに未来を見つけた。

 私の未来はもうすぐ来る。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

処理中です...