最後の魔法は、ひとを待つための魔法だった

まるねこ

文字の大きさ
51 / 62
新章 切掛

51 魔術師顧問の副官

しおりを挟む
「ロシュフォードさん、そろそろ起きる時間だよ」

 私は寝ている彼の額に手をかざし、魔力の状態を確認する。彼はあの魔法を使い、詳細に映し出したようだ。

 魔力をすべて使い、生命力も少し削ったようだ。

 私は魔力を流し、魔法で絡まり、滞っている魔力を解いていく。

「よし、これでもう大丈夫だね」

 私はそばにあった椅子に座り、彼の様子を見ていると、彼はぱちりと目を開けた。

「ロシュフォードさん、おはよう」
「ここは……?自分の部屋?」
「そうだよ。ロシュフォードさんは無罪が決まったから家に戻ってきたんだ」
「そうなのですね。クロエ様、ありがとうございます」

「さて、ロシュフォードさんは今、ジルディット殿下の側近をクビになった。つまり無職だよね。奥さんは?」
「妻は、子供と共に実家に戻っています」
「そっか。呼び戻すといいよ。これからは私の部下として働いてもらうから」
「……いいのですか?」

「うん。そういう契約だったでしょう? 私はロシュフォードさんに色々とやってもらいたいことがあるんだ」
「やってもらいたいこと、ですか」

「うん。でもまあ、眠り続けて体力も落ちただろうから起きるのも大変だろうし、動けるようになったら私に手紙をちょうだい」
「わかりました」
「じゃ、またくるよ」

 私は言い残すようにそのまま家に戻った。
 やることが沢山ありすぎて目が回りそうだ。

 でも、この忙しさは嫌いじゃない。

 この世界の傍観者だった私がこうしてまた関わることができた。後悔のないようにやりきっていきたい。



 そうして二週間が経った。

 ジルディット殿下は最初こそメルローズ妃の魔力を抜く練習に四苦八苦していたけれど、徐々に慣れ、今では毎朝の日課として魔力暴走が起きない程度に彼女の魔力を抜いている。

 お腹の子供も順調に育っているようだ。

「クロエ様、ようやく身体も元に戻り、クロエ様にお仕えできるまでに回復しました」
「ロシュフォードさん、待ってたよ」

 魔術師顧問の執務室へとやってきたロシュフォードさんはジルディッド殿下の側近を外されているため、制服ではないが、かっちりとした服装をしている。髭を剃り、髪も撫でつけて清潔感がある。

「これからロシュフォードさんは私の下で働いてもらうからこの制服になる。明日からこれを着てきてね。あと給料は魔術師顧問の副官ということで」

 そう言いながら私は私がデザインした魔術師の制服、ローブ、バッヂと契約書を渡した。
「契約書はただの契約書だけど、ちゃんと確認してね」
「はい」

 ロシュフォードさんは契約書をしっかり読んだ後、サインをする。

「私で本当にいいのでしょうか?」
「うん。これからよろしくね。副官」
「こちらこそよろしくお願いします」

 私は早速ロシュフォードさんにローブとバッヂを付けてもらい、魔術師の人たちに挨拶をしにいく。

 フィルさんや一部の貴族たちは驚いていたけれど、彼が無実だということを知っているし、ジルディッド殿下の元側近でとても優秀だということを知っているので特に反対はなかった。

「さて、挨拶も終わったし、まずは覚えてもらうことからはじめようか」

 私は笑顔でそう言いながら昔の王宮魔法使い志望の学生が使う本を現代語に訳した本を数冊手渡した。

「これは……?」
「ロシュフォードさんは治療薬を飲み、今王族以外で一番魔力を使える状態なんだ。色々ロシュフォードさんにはやって欲しいことがあるからね」

「わかりました。私にどこまで出来るかは分かりませんが、一生懸命頑張ります」

 私の斜め向かいに一つの机を準備してもらい、彼は副官として執務室で仕事をすることになった。

 彼は真面目で魔法についての知識をしっかりと覚えていった。もともとジルディッド殿下の影響で魔法の知識はあったのが良かったのかもしれない。

 最初の三ヶ月はほぼ知識の習得をするため机で本と向き合い、その後、技術の習得を目指すため訓練場で魔法の訓練を始めた。

 この訓練は他の魔術師たちも参加している。
 彼は魔術師としてめきめきと頭角を現してきていた。

 ジルディッド殿下はというと、彼が私の副官として仕えたことで心配事が一つ解決したようだ。たまに私の執務室を訪れては彼と話をしてから戻っていく。

 そうして一年が過ぎ、メルローズ妃は王子を産んだ。

 世間は祝福に包まれた。私が見えていた大まかな流れがその通りになっているようだ。御子はアルノルドと名付けられた。

 ジルディット殿下は私の忠告を守り、南部との折衝を早いうちから始め、衝突は回避された。またそのことでメルローズ妃と不仲になることもなかったようだ。

 アルノルド王子が一歳になったころ、メルローズ妃は再び懐妊したことで国はお祝いムードで明るい雰囲気となっていた。

 この頃になると、私が準備をしていた大罪の水の解除薬と治療薬で国中の貴族を中心として魔術に興味を持ち始める人も増えてきて魔術師棟の活動も活発になってきた。

 もうすぐ、もうすぐだ。

 メルローズ妃の第二子はアルノルド王子よりも魔力が多く、ジルディット殿下が朝晩魔力を抜く必要があった。

 その魔力の多さに陛下も王妃陛下も喜んでいるようだ。

 国王陛下はというと、私に奴隷契約のような契約を結ぼうとして怒られて以降、ジルディット殿下を窓口にして接触は最低限になっている。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

選ばれなくてよかったと、今は思います

たくわん
恋愛
五年間の婚約を、一夜で破棄された。 理由は「家格の不一致」。 傷ついた翌朝、私は泣くのをやめて仕事着を着た。 王立文書院の渉外部職員として、今日も書類と向き合う。それだけでいいと思っていた。 出勤すると、一枚の張り紙があった。 新長官着任。エドワード・ヴァルツ・シュタイン侯爵。 昨夜の晩餐会で、遠くに座っていた「氷の侯爵」がそのまま上司になった。 彼は口数が少なく、笑わず、感情を見せない。 でも仕事の評価だけは正確だった。 「君の報告書は読みやすい」「渉外部はあの職員が要になっている」——誰かに選ばれたくて生きてきたわけではないのに、仕事を通じて初めて、自分の輪郭がはっきりしてくる気がした。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

処理中です...