最後の魔法は、ひとを待つための魔法だった

まるねこ

文字の大きさ
52 / 62
新章 切掛

52 第二王子の誕生

しおりを挟む
「ロシュフォード副官、少し話があるの」
「クロエ様、どうされましたか?」

 真面目な顔をして話をする私にロシュフォードさんも真面目な顔で聞き返した。

「あのね、もうすぐ第二王子が生まれるでしょう?」
「はい」
「それでね、ロシュフォード副官は第二王子を守って欲しいの」

「第二王子を守る、ですか?何か脅威でも?」
「ううん。脅威というほどではないんだけどね、第二王子は誰よりも魔力を持っているの。そのために他の貴族から狙われやすい。それに魔力暴走も起きやすいと思うの。魔力暴走が起きた時にすぐ対処できる人が護衛に就いた方がいいからね」

「魔力暴走ですか?」
「うん、魔力の多い子供がたまに起こすんだけど、今までは体外に出せるほど魔力を使えなかったけど、これからは違う。大人が傍にいれば危ないんだ。彼は将来この国の魔術を支える人になる。そのためには魔法を得意とする人が傍に付いていてあげないといけない」

「クロエ様は第二王子がどうなるか知っているのですか?」
「分からない。メルローズ妃を占った時に少し未来が見えただけだから。彼がどうなるかはわからないけれどね」

「わかりました。クロエ様がそうおっしゃるのなら私は副官の任を離れ、第二王子の護衛となります」
「ありがとう」

 私はジルディッド殿下に第二王子の護衛にロシュフォード副官を入れるように話しておいた。


 ……そうして私が待ちに待ったこの日が来た。

 大雨の中、産婆が慌ただしく部屋に呼ばれたこの日、第二王子が誕生した。

「おめでとうございます」

 生まれた王子の体調確認をするために私はメルローズ妃の私室に呼ばれた。

「クロエ様、この子を見て欲しいのです。左肩の痣のようなものがどうも魔法円のように見えてしまうのです」
「魔法円……?」

 私は王子の身体を目視すると、確かに左肩に丸い焼き印のようなものがある。魔力を通して魔力の流れなどをチェックする。

 左肩の焼き印のような形に手を翳してみると、魔力をどんどんと吸い込んでいる。

 ……これは今、触らない方がいい。

「うん。身体を見てみたけど、体調は問題ないし、魔力は誰よりもあるかな。将来が楽しみだね。メルローズ様が気にしていたこの左肩の印なんだけど、これは彼の記憶を封印しているものだと思う」
「記憶を封印……? どんな記憶を有しているのでしょうか」

「気にしなくていいと思うよ。悪い影響はないけれど、幼少期に大人の記憶を思い出してしまえば成長に影響が出るでしょ? 今はこのまま触らない方がいい」
「わかりました」

「王子の名前はもう決めているの?」
「ええ! もう決まっているわ。ユーグよ。この子がお腹にいる時に夢で言ってきたのよね。不思議でしょう?」
「ユーグ……。いい名前だね」

 メルローズ妃は可笑しいでしょうと言いながらも笑顔に満ちている。

 反対に私は驚愕するしかなかった。

 記憶を封印した状態で母体に知らせるなんてユーグ師匠は破天荒過ぎやしない?

 もしかしたら私が触らなくても師匠自ら封印を解いちゃう気がする。もし封印が解けなくてもユーグ王子としての人生をしっかりと生きて欲しい。彼が大人になり、望むのなら封印を解こうと心に誓った。

 そしてロシュフォード副官はユーグ王子の護衛として就くことが許された。彼は魔法の先生でもあり、護衛でもある。

 私はそっと彼の幸せを見守ることを決めた。



 一年が経ち、二年が経ち……。

 ユーグ王子はすくすくと成長していく。生前の若かりしユーグ師匠の見た目のまま成長している。

 あの時の魔法は記憶だけじゃなく、身体にも影響しているのだろうか。それとも封印された記憶の一部が影響しているのだろうか。

「クロエ! 遊ぼう!」
「ユーグ王子、勉強は終わったの?」
「さ、さあな」
「また逃げてきたんだね」
「だってクロエと一緒に遊びたかったから」
「……わかった。少し遊んだら勉強だからね」
「わかったー」

 今度の生は第二王子として育っているため、生前のような生活はしていない。

 明るく活発な性格だ。振り回されるロシュフォードさんや乳母たちはさぞ大変だろう。

 ユーグ王子を見ていると、とても優秀で将来王太子に名が挙がるのではないかと噂されている。

 魔法についても幼い頃からロシュフォードさんが付いていることもあってとても優秀だった。

 優秀なユーグ王子が六歳になった時、レティシア・ポストマ公爵令嬢が婚約者に決まった。周囲はとても喜んでいたけれど、ユーグ王子は泣いて嫌がっていた。

「僕はクロエと結婚するんだ! クロエ以外誰とも結婚しない!」

 そう言っていた。彼の成長を見ているうちにそう言われるのが嬉しいと感じてしまう。でも、彼はやっぱり王子で義務を果たさなければならないのも分かる。

 私はずっと一人で生きてきた。

 こうしてユーグ師匠の生まれ変わりである彼と時間を共にするうちにレティシア公爵令嬢への嫉妬をしている自分にも気づいた。

 でも、自分はただのクロエだ。

 身分差はよくわかっている。それに彼はまだ子供だし、彼が『クロエがいい』と言っていても、一時の感情で遊び相手の延長としか思っていないだろう。

 言葉を曖昧にしながらユーグ王子と接していく。

 十歳を過ぎた頃からユーグ王子はロシュフォードさんでは追いつかないほど魔術の使い手となったため、私の執務室に入り浸るようになっていった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

選ばれなくてよかったと、今は思います

たくわん
恋愛
五年間の婚約を、一夜で破棄された。 理由は「家格の不一致」。 傷ついた翌朝、私は泣くのをやめて仕事着を着た。 王立文書院の渉外部職員として、今日も書類と向き合う。それだけでいいと思っていた。 出勤すると、一枚の張り紙があった。 新長官着任。エドワード・ヴァルツ・シュタイン侯爵。 昨夜の晩餐会で、遠くに座っていた「氷の侯爵」がそのまま上司になった。 彼は口数が少なく、笑わず、感情を見せない。 でも仕事の評価だけは正確だった。 「君の報告書は読みやすい」「渉外部はあの職員が要になっている」——誰かに選ばれたくて生きてきたわけではないのに、仕事を通じて初めて、自分の輪郭がはっきりしてくる気がした。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

処理中です...