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「モア、ようこそウェルム侯爵家へ」

フルム兄様は笑いながら玄関前で手を広げている。

「フルム兄様、ようやく着きましたわ」

 私達は出国から約二週間の馬車旅をしてようやく到着した。国境では渡された書類が本当に使えるのか、隣国へ渡る事が出来るのか心配だったけれど、問題なく通る事ができたの。私の遠い記憶にあるサルドア国。本当に薄らとしか記憶にないの。

前回でお茶会の前や没落前に隣国へ行った事があるくらい。もしかして前回はお茶会の後、隣国に逃げられては敵わんと船舶を沈めて借金まみれにしたのだろうか。そう思うと怒りしかない。今は隣国へ逃げることが出来た事を素直に喜んでいる。

今回は残念ながらここへ来た記憶はない。赤ん坊の時に来たのだろうと思うんだけどね。

 私はすぐにフルム兄様と一緒にアインス伯父様の所へ挨拶に向かう。

 やはり侯爵家だけあってとても立派な邸で執務室までの距離も遠い。廊下には様々な美術品が並べられている。我が家はどちらかと言えば廊下に舶来品が置かれているのよ?そんな事を考えつつ、伯父様の執務室へと入った。

「君がモアちゃんかな?」

 机で仕事をしていたアインス伯父様。その姿は前回と変わらずとても身体が大きくてクマさんのようでフルム兄様にそっくりだった。

「お久しぶりですアインス伯父様」

そう言って失言に気づいた。

「初めまして、でした。アインス伯父様。モア・ウルダードです。数日間の滞在を認めていただき有難うございます」

私はすぐに言い直して礼をする。

「そうか、会ったのは生まれた頃だったね。シーラに似て可愛いお嬢さんだ。母も君に会うのを楽しみにしていたよ。離宮までは少し遠いからここでゆっくり休んでいくといい」
「はい。ありがとうございます。数日間ではありますが、お世話になります」

私はそう言って礼をするとアインス伯父さんは目を細めている。

「さぁ、モア。父上に挨拶は終わったから部屋へ行こう。案内するよ」
「はい。フルム兄様!」

 私は兄様と一緒に部屋を出て客室へと案内された。荷物は既に運ばれていてあとはゆっくり過ごすだけ。侍女に早速湯浴みの準備をしてもらった。今は何よりも先にお風呂に入りたい。

「クククッ。モアも女の子なんだな」
「もうっ、兄様!臭いのは嫌なだけです。兄様も臭いのですからすぐにお風呂に入って」
「あぁ、モアに嫌われては泣けてくる。是非、そうしよう」

 フルム兄様は笑いながら部屋を出て行った。馬車旅では宿で泊まっていたけれど、お風呂はなかったので湯舟に浸かるとそれまでの疲れが一気に飛ぶような気がする。上機嫌なまま湯浴みを終えてベッドでゴロゴロとしているうちに眠くなってきた。

夕食の時間になったら侍女が起こしてくれるわよね。


――チュンチュン。

「おはようございます。モア様」

侍女の声で目が覚めた。どうやら寝すぎたらしい。

「ごめんね、昨日は夕食までには起きようと思っていたの」
「大丈夫ですよ。旦那様もフルム様も疲れていたんだろうと仰ってました」

 私は急いで朝食を摂るために食堂へと向かった。食堂には既にウェルム侯爵と夫人、長男のロード様とフルム兄様、レイラ様が席に着いていた。

「遅くなりました。すみません。昨日は結局寝てしまって挨拶が出来ていませんでした」

 私は素直に謝って数日間の滞在の話をしてから席に着いた。フルム兄様は前からウルダード家に何度も遊びに来ていたので良く知っているけれど、フルム兄様の兄であるロード様、妹のレイラ様とは初対面なの。

「君がモアか。よくフルムが可愛いと言っていたんだ。本当に可愛いな。王家が執着する気持ちが分かるな」
「でも、傷が出来たから出国出来たのでしょう?それって酷いわよね!人形かなんかだと思っているのかしら!?」
「レイラ、王太子はまだ諦めていないらしい。両陛下が駄目だと言ったから手を引いただけのようだぞ。すぐに逃げて正解だった」

フルム兄様の言葉にギョッとする私。

「フルム兄様、本当なのですか?」
「あぁ。どうやらダミアン叔父さんから来た手紙にはそう書いてある。ここも安全だが、早くお祖母様の所へ向かった方がいいのかもしれない」

フルム兄様が少し困ったような顔をしながら言った。

「あら、クロティルド様は素敵な方よね?望まれているのならどうして王太子妃にならないのかしら?」

 レイラ様は不思議そうに疑問を口にした。確かにクロティルド様は素敵なのだと思う。けれど、王家と繋がるのは前の生で家が陥れられたし、私は……。許したくない。滅べとさえ思っている。

でもレイラ様に時戻りの話をしていいのか分からずに困惑しているとフルム兄様が助け船を出してくれた。

「レイラ、人には事情があるんだ。それ以上言ってはいけない」
「……はぁい」
「モアちゃん、食事が終わったら一緒に王宮へ向かうよ」
「アインス伯父様、分かりました」

 私達はその後、和やかに話をした後、伯父様と王宮へと向かった。
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