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エイシャの危機
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「クククッ」
気が付くとそこには一人の人間の男の子が立ってこちらを見ていた。
「貴方は誰?」
「誰でも良いだろう? 私は私だ」
見た目は人間そのものだわ。
魔力も人間の平均的なものだし、乗り移られているのかしら?
私は魔法円の中に寝かされていたようで、魔法円に縫いつけられたように動けない状態になっている。
何の目的で私を攫った?
私は注意深く見ていると、男の子は楽しそうに話をはじめた。
「エイシャ、神々の出来損ないのお前がよくここまで生き残れたな」
「出来損ない? どういうことかしら?」
「これからお前は私の手によって生まれ変わるのだ。感謝しろ」
「生まれ変わる?」
私の言葉を無視するように男の子は魔法円の周りに魔石や輝石を置き始めた。これから何か儀式のような何かをするようだ。
魔石を使うということは魔力が足りないのだろう。
何とか魔法円を壊すことが出来ないだろうか。
「あと少しで私の望みは叶う」
私は何かの生贄なのだろうか?
このままでは不味いわ。
なんとかして話を引き延ばさねば。
カインが私を見つけてくれるのも時間との戦いだろう。
私がどれくらい意識を失っていたのかも分からない。
「生まれ変わるってどういうことかしら? 魔法円では何もできないでしょう?」
「クククッ。出来損ないのエイシャ、パイアは不完全だったが、お前は完全体になるのだ」
「パイア叔母様が不完全? お前は誰? 神にでもなったつもり?」
「私は神だ。お前はこれから完全な神になり、神々に取って代わる存在になるのだ」
ああ、話が繋がったわ。聖獣の輝石と魔石を融合させて神に近づく存在にするということね。
ムーマを改造していたのはその足がかりにするための物だったようだ。だが、お祖母様がジェットを改造したけれど、神になるようなものではなかった。
パイア叔母様もそうだ。
神になり替わりたいのかしら?
そんなことは上手くいくはずがない。
「……話をし過ぎたな。さあ、始めよう」
男の子は魔法円に魔力を流しはじめた。魔石と輝石が魔力に呼応するように淡い光を放ちはじめた。
間に合わないかもしれない。
そう思った時、扉が勢いよく開かれた。
「エイシャ様!!」
「カイン。遅かったわね」
カインは私の置かれた状況を見てすぐに理解したようだ。黒剣を鞘から抜き魔法円に突きさした。
黒剣はカインの魔力に反応し、赤い文字が浮かび上がる。そして黒いモヤが突きさしたところから溢れ魔法円を取り込んでいる。
―パキリッ
魔法円が割れると共に魔石や輝石の魔力が噴き出した。
カインはそのまま剣を鞘に収め、私を抱き起す。漏れ出る魔力からして彼は相当怒っているようね。
男の子は苛立った様子で魔石の魔力を取り込みはじめた。
「私の邪魔をするな。半端者は死ね」
男の子は手を翳し、カインに向けて氷の矢を放ちはじめた。カインが私を庇いながら応戦しようとした時、中庭の方から爆発するような音が聞こえ、建物が揺れた。
「チッ。厄介な」
男の子は攻撃を止め、音が聞こえた方に視線を向けた後、逃げるために私達から背を向けた。
「逃がしはしないわ」
私は棘の蔓で男の子を捕まえようとするが、一歩遅かったようだ。
床がジワリと黒色に変色していく。
そこから無数の手が伸び男の子を捕まえたのだ。
そして一瞬にして建物は全て崩れ去り、私達だけがその場に立っていた。
「我の子を、我の孫に手を出すお前は許さない」
地を這うような低い声、大気が怒りで振るえている。
……ああ、私に捕まっておけばまだ楽に死ねただろうに。
私はカインから離れ、頭を下げた。
カインも同様に後ろで頭を下げている。
太く大きな大蛇の尾は地面を這い、圧倒するような魔力で周囲に恐怖を与える。
祖母は本来の姿でここに来たのだ。
「お祖母様、私は来て下さったのですね。私はこの通り無事です」
「ああ、良かった。だが、我が娘は、あれは、もう治らない。大切な我が娘を。お前だけは、お前だけは許さんぞガイア」
「チッ。あと少しだ。お前は私の邪魔をするな!」
男の子は捕まったことよりも目的が達成できないことに苛立っているようだ。
ガイアは祖母の義理の母に当たる人だ。
元神族であるが、ガイアは魔獣の子を産み、神々から非難され、神域を追われるはめになった。
神域を追い出された彼女は神々を呪い、我が子を使い、魔獣を増やし、勢力を広げ神々に復讐を行おうとしたのだ。魔獣の中で目を付けられたのがパイア叔母様だ。
前回はパイア叔母様を騙し、神々を人間界へ引き摺りだそうとして人間の大量虐殺を行った。
そのことで神の怒りに触れ、パイア叔母様は黒氷の牢獄に送られ、ガイアは消滅させられたはずだ。
人間の男の子の姿を見るからに彼女は生まれ変わったか、乗っ取ったか、記憶を移植したかのいずれかだろう。
祖母はすぐにガイアだと見抜いた。
祖母は私には感じるものの出来ない何かが見えているのだろう。
本来の姿に戻った祖母に人間がどうあがいても勝てるわけがない。苛立つ祖母は尾を床に打ち付けた。
「カイン、下がるわよ」
私はそっとカインに耳打ちし、祖母の邪魔にならないよう距離を取った。
黒い手はガイアを押さえつけ、一つの小瓶を無理やり飲ませた。
「何を飲ませたっ」
「お前を楽に殺さないためだ」
祖母はそう言うと、ガイアの体に尾を叩きつけた。すると小さな体は攻撃に耐えきれず手足が千切れるが、すぐに復活する。
祖母は何度も何度も尾を打ち付ける。
ガイアは痛みを感じ呻きを挙げている。
黒い手はガイアを離すと、祖母はガイアの頭を鷲掴みにし、首から下を切り刻みはじめた。
「……グッ、グッ」
ガイアは痛みで白目を剝き始めたが、祖母は止める様子はない。
その後、小さな体を尾で絞めだした。
「た、たす、たすけてくれ」
「許さぬ」
どれくらい経っただろうか。祖母はガイアを何度も壁に打ち付け、切り刻み舌を抜き、目を抉り、体を痛めつけていると、空から一筋の光がガイアを照らしだした。
するとガイアの体は消滅し、首だけの状態となった。
祖母はガイアを許すことが出来ず、雄たけびを挙げ、残った頭を潰そうとするが光がそれを拒んだ。
「エキドナ、コレは我々の罪だ。我々がコレを転生させぬよう未来永劫神域に封印する」
「だが! だが、神よ! 我が娘は元に戻らぬ! 許せぬのだ!」
「怒りを抑えよ」
声の主は薬を祖母の手元に浮かび上がらせた。
そうして一筋の光が消えると共にガイアも消えていった。
祖母は何も言わず薬を手に持ったままどこかへと転移していった。
「カイン、私達も帰りましょうか」
「はい」
気が付くとそこには一人の人間の男の子が立ってこちらを見ていた。
「貴方は誰?」
「誰でも良いだろう? 私は私だ」
見た目は人間そのものだわ。
魔力も人間の平均的なものだし、乗り移られているのかしら?
私は魔法円の中に寝かされていたようで、魔法円に縫いつけられたように動けない状態になっている。
何の目的で私を攫った?
私は注意深く見ていると、男の子は楽しそうに話をはじめた。
「エイシャ、神々の出来損ないのお前がよくここまで生き残れたな」
「出来損ない? どういうことかしら?」
「これからお前は私の手によって生まれ変わるのだ。感謝しろ」
「生まれ変わる?」
私の言葉を無視するように男の子は魔法円の周りに魔石や輝石を置き始めた。これから何か儀式のような何かをするようだ。
魔石を使うということは魔力が足りないのだろう。
何とか魔法円を壊すことが出来ないだろうか。
「あと少しで私の望みは叶う」
私は何かの生贄なのだろうか?
このままでは不味いわ。
なんとかして話を引き延ばさねば。
カインが私を見つけてくれるのも時間との戦いだろう。
私がどれくらい意識を失っていたのかも分からない。
「生まれ変わるってどういうことかしら? 魔法円では何もできないでしょう?」
「クククッ。出来損ないのエイシャ、パイアは不完全だったが、お前は完全体になるのだ」
「パイア叔母様が不完全? お前は誰? 神にでもなったつもり?」
「私は神だ。お前はこれから完全な神になり、神々に取って代わる存在になるのだ」
ああ、話が繋がったわ。聖獣の輝石と魔石を融合させて神に近づく存在にするということね。
ムーマを改造していたのはその足がかりにするための物だったようだ。だが、お祖母様がジェットを改造したけれど、神になるようなものではなかった。
パイア叔母様もそうだ。
神になり替わりたいのかしら?
そんなことは上手くいくはずがない。
「……話をし過ぎたな。さあ、始めよう」
男の子は魔法円に魔力を流しはじめた。魔石と輝石が魔力に呼応するように淡い光を放ちはじめた。
間に合わないかもしれない。
そう思った時、扉が勢いよく開かれた。
「エイシャ様!!」
「カイン。遅かったわね」
カインは私の置かれた状況を見てすぐに理解したようだ。黒剣を鞘から抜き魔法円に突きさした。
黒剣はカインの魔力に反応し、赤い文字が浮かび上がる。そして黒いモヤが突きさしたところから溢れ魔法円を取り込んでいる。
―パキリッ
魔法円が割れると共に魔石や輝石の魔力が噴き出した。
カインはそのまま剣を鞘に収め、私を抱き起す。漏れ出る魔力からして彼は相当怒っているようね。
男の子は苛立った様子で魔石の魔力を取り込みはじめた。
「私の邪魔をするな。半端者は死ね」
男の子は手を翳し、カインに向けて氷の矢を放ちはじめた。カインが私を庇いながら応戦しようとした時、中庭の方から爆発するような音が聞こえ、建物が揺れた。
「チッ。厄介な」
男の子は攻撃を止め、音が聞こえた方に視線を向けた後、逃げるために私達から背を向けた。
「逃がしはしないわ」
私は棘の蔓で男の子を捕まえようとするが、一歩遅かったようだ。
床がジワリと黒色に変色していく。
そこから無数の手が伸び男の子を捕まえたのだ。
そして一瞬にして建物は全て崩れ去り、私達だけがその場に立っていた。
「我の子を、我の孫に手を出すお前は許さない」
地を這うような低い声、大気が怒りで振るえている。
……ああ、私に捕まっておけばまだ楽に死ねただろうに。
私はカインから離れ、頭を下げた。
カインも同様に後ろで頭を下げている。
太く大きな大蛇の尾は地面を這い、圧倒するような魔力で周囲に恐怖を与える。
祖母は本来の姿でここに来たのだ。
「お祖母様、私は来て下さったのですね。私はこの通り無事です」
「ああ、良かった。だが、我が娘は、あれは、もう治らない。大切な我が娘を。お前だけは、お前だけは許さんぞガイア」
「チッ。あと少しだ。お前は私の邪魔をするな!」
男の子は捕まったことよりも目的が達成できないことに苛立っているようだ。
ガイアは祖母の義理の母に当たる人だ。
元神族であるが、ガイアは魔獣の子を産み、神々から非難され、神域を追われるはめになった。
神域を追い出された彼女は神々を呪い、我が子を使い、魔獣を増やし、勢力を広げ神々に復讐を行おうとしたのだ。魔獣の中で目を付けられたのがパイア叔母様だ。
前回はパイア叔母様を騙し、神々を人間界へ引き摺りだそうとして人間の大量虐殺を行った。
そのことで神の怒りに触れ、パイア叔母様は黒氷の牢獄に送られ、ガイアは消滅させられたはずだ。
人間の男の子の姿を見るからに彼女は生まれ変わったか、乗っ取ったか、記憶を移植したかのいずれかだろう。
祖母はすぐにガイアだと見抜いた。
祖母は私には感じるものの出来ない何かが見えているのだろう。
本来の姿に戻った祖母に人間がどうあがいても勝てるわけがない。苛立つ祖母は尾を床に打ち付けた。
「カイン、下がるわよ」
私はそっとカインに耳打ちし、祖母の邪魔にならないよう距離を取った。
黒い手はガイアを押さえつけ、一つの小瓶を無理やり飲ませた。
「何を飲ませたっ」
「お前を楽に殺さないためだ」
祖母はそう言うと、ガイアの体に尾を叩きつけた。すると小さな体は攻撃に耐えきれず手足が千切れるが、すぐに復活する。
祖母は何度も何度も尾を打ち付ける。
ガイアは痛みを感じ呻きを挙げている。
黒い手はガイアを離すと、祖母はガイアの頭を鷲掴みにし、首から下を切り刻みはじめた。
「……グッ、グッ」
ガイアは痛みで白目を剝き始めたが、祖母は止める様子はない。
その後、小さな体を尾で絞めだした。
「た、たす、たすけてくれ」
「許さぬ」
どれくらい経っただろうか。祖母はガイアを何度も壁に打ち付け、切り刻み舌を抜き、目を抉り、体を痛めつけていると、空から一筋の光がガイアを照らしだした。
するとガイアの体は消滅し、首だけの状態となった。
祖母はガイアを許すことが出来ず、雄たけびを挙げ、残った頭を潰そうとするが光がそれを拒んだ。
「エキドナ、コレは我々の罪だ。我々がコレを転生させぬよう未来永劫神域に封印する」
「だが! だが、神よ! 我が娘は元に戻らぬ! 許せぬのだ!」
「怒りを抑えよ」
声の主は薬を祖母の手元に浮かび上がらせた。
そうして一筋の光が消えると共にガイアも消えていった。
祖母は何も言わず薬を手に持ったままどこかへと転移していった。
「カイン、私達も帰りましょうか」
「はい」
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