5 / 81
第1章 遥か高き果ての森
五話 説明とレアアイテム
しおりを挟む《…落ち着きましたかね?》
「おう…一応な」
一通り騒いで、ありがたいお節介に対する鬱憤は吹き飛んだ。
さて、それじゃあ気持ちを切り替えて、この力をうまく使う方向にシフトチェンジしていこう。
とりあえず、まだ少しだけ聞きたいことがあるので質問を続けることにする。
「気になってたんだけど、なんで霊力のことをこの世界では魔力っていうんだ?」
《そもそも、この世界では霊力の回復のプロセスが違うんですね》
「というと?」
《霊力は名前の通り、人間の魂が持つ力であり、体外に放出した霊力は自然界に存在する八百万の神々が回復するですね。回復速度は権限レベル次第で決まるですね。話は変わりますが、龍人様のいた世界では、ベクトルは違えど人々は盛んに神を崇めていたですね》
そういやそうだったな。キリスト教やイスラム教、仏教など、地球では沢山の神が崇められていた。あんまりにも宗派が多いし、考え方の違いで宗教同士の争いが盛んに起きている。
ちなみに、俺の家は特別崇めている神はいない。日本独特のあらゆるものに神が宿っているという考えを何よりも大切にし、国土の上に広がる全てのものに信仰を捧げた。
だからこそ、皇家は現代になっても八百万の神々や人界に留まっている霊魂たちから気に入られ、力を得ることができていた。
当然、家系の中にはそれをあたかも自分が成し遂げたかのように横柄に振る舞った馬鹿もいたらしいが、そういう奴はその時の当主に破門にされた挙句、どれだけ強くともすぐに神々にも見限られた。いきなり自慢の種であった術を使えなくなり、のたれ死んだものもしばしば。
っと、話が逸れたな。シリルラ、続けてくれ。
《はい。いかな神といえど、自分を慕ってくれるというのは嬉しいものなのですね。だから、ごく稀に龍人様の家のように長く力を与え続けることもあるのですね。しかし、この世界では一部の人間しか教会を建ててはいないのですね。ほとんどの人間は、信仰など持ってはいないのですね》
「まあ、地球でもそう変わらないけどな」
大多数の人たちは、宗派だのなんだのなんて気にして暮らしてはいないと思うけど。毎日欠かさず何かに感謝してるのなんて、教会のシスターとか神父さんとかだけだ。
《だから、人間にほとんど干渉をしない神々の代わりに精霊と呼ばれる神霊の眷属が霊力を補充するんですね》
「ふむ、それで?」
《精霊は火、水、風、土の四元素を扱い、使う霊力はそれぞれの元素に左右されるですね。故に染まる前の純粋な霊力ではなく、 補充する際に混ざってしまうのですね》
なるほど、だから区別するために霊力ではなく魔力と呼ぶのか。…って、ちょっと待て。
俺、異世界から来たから持ってるの純粋な霊力なんだけど?いや、この世界で生活しているうちに俺のも魔力になるのか?
《あ、ちなみに龍人様の霊力は下級神である私が補充を担当するので綺麗な霊力のままですね。おめでとうございます、バレちゃいけない案件が一つ増えたですね》
…ちなみにバレたら?
《おそらく魔法使いたちの恰好の研究材料になるかと。彼らは魔法の真髄…つまり魔力の根源にたどり着くことこそが使命と考えていますね。そんな綺麗な霊力放って置くわけがないですね》
「ノオォォォッ!」
ついさっき叫んだばかりだというのに、俺はまた頭を抱えて絶叫した。ちょっと転生してからハードモードすぎませんかね!?
…でも、霊力が純粋なままなのは悪いことじゃない。陰陽師にとって霊力は非常に重要なものだ。繊細で心に左右されやすく、絶望したり憎悪に飲み込まれると呪力と呼ばれるものに変わる。
人を呪いにかけ、無残に殺す力に。…俺が何よりも忌避しているものに。
陰陽師として熟達していれば早々堕ちることはないが、俺はまだ未熟だ。だから、変に霊力が変質しないのはありがたいな。
「…はぁ、もういいや。とにかく頑張ろう、いろんな意味で」
《本当に切り替えが早いですね》
そうと決まればまずはこの森で暮らすために寝床と食料の確保だ。シリルラの案内があれば出れそうな気もするが、しばらくはここで自給自足の生活を送ってレベルを上げ、外に出た時に舐められないように装備などを整えることにしよう。
とりあえず、さっきの空波でなぎ倒した木でログハウスでも作るか。権限レベルが最高の今なら土台作りも楽だろうし。飯は…さっき倒しちゃった何かでいいや。火で焼いて食べよう。
そういうわけで綺麗に一直線に開いた道を進んでいくと、やがて空波が消えた地点にたどり着く。するとそこには腹に風穴が空いた灰色の狼らしき何かの死体が転がっていた。きっとこれだろう。
「これが魔物か…」
《ウルフ系モンスターの上級種、グレイウルフですね。集団で狩りを行い、鋭い爪と牙、そして素早い動きで獲物を捕まえるんですね》
ふーん。あれ?でもこいつ一匹しかいないけど?集団で狩りをするなら他のはどこにいったんだ?
《どうやら群れとはぐれてしまった個体のようですね。そして森の中をさまよっていたところを龍人様の空波で腹に風穴を開けられ死んだ、と》
シリルラの説明になるほど、とうなずいていると、ポケットの携帯からピコンッという音が鳴る。取り出してみると、さっきまで表示されていたゲージが消え「アップデートが完了しました!」という文字が浮かんでいた。
「なんだこれ?」
《マップやインターネットの検索機能にこちらの世界の仕様が追加されたようですね。試しにネットを開いてみるですね》
言われた通りにインターネットを開いてみる。すると『地球版にしますか?ヒュリス版にしますか?』という選択肢が出てくる。へぇ、この世界ヒュリスっていうのか。
ヒュリス版を選んでみると、『魔物図鑑』、『冒険者ギルド一覧』『大陸内の国一覧』などいろいろな項目が出てくる。魔物図鑑を選んでグレイウルフを調べると体長から習性、レベルの範囲などが表示される。おおっ、こりゃすごい。
逆に地球版を選ぶとお馴染みの赤いYの文字が特徴的なインターネットが展開される。いろいろ調べてみた結果こちらも問題なく使えることがわかったので、狼のさばき方を調べ毛皮や爪、牙、肉を分別することにする。
「あ、でもナイフどうしよう…」
普段からナイフなんて持ち歩いてるわけ無いのでどうしようかと悩む。
しかしすぐにイザナギ様から受け取った多大なお節介を思い出し、試しに地面に手をついてサバイバルナイフを思い浮かべてみる。
するとわずか二、三秒で手の中に茶色の鋭い短剣が形成された。一瞬その姿を想像しただけなのに、柄から伝わってくる内部の回路は驚くほど密で強力なものになっている。
相当量の土が凝縮されたのか、短剣はそれなりの重量もあった。思わず手を離すと刀身が全て地面に埋まる。どんだけ切れ味いいんだよ。
《すごいですね。たとえ権限レベルが最高だとしても、この数分でここまで適応するとは。龍人様は霊力を扱う才能がありますね》
「いや、今回はたまたまだけどな」
地面からナイフを抜き取り、スマホを片手にさばいていく。ナイフの切れ味は凄まじく、まるで狼を紙のようにスパスパと分解できた。
「ふぅ…こんなもんか」
解体するついでに近くの木を削って作った台の上に解体したものを並べる。血抜きするために切り離した頭部に、注意しながらなんとか剥ぎ取った毛皮、四本足の爪、そして肉。
《おめでとうございます龍人様。称号スキル、解体師を入手したですね。解体する際にどこをどういう風にすれば上手くさばけるのかがわかりますね》
「おっ、そりゃ便利だな。これからしばらくサバイバル生活を続ける中で役に立ちそうだ」
ポウ…
そんな風に喜んでいると、突如狼の頭が光に包まれる。そして少しずつ形を変えていき、やがて光が収まると頭があったところには黒い金属が縫い付けられた灰色のブーツが一足代わりに置いてあった。えっ、なにこれ。
《これは…すごいですね。龍人様、これはドロップアイテムですね。モンスターの特性を引き継いだ魂が実体化したものですね。しかもこのブーツはレアドロップですね》
「レアドロップ?」
《モンスターの上級種の魂が稀に突然変異を起こし、より強力なものになったのがレアアイテムですね。既に所有権は龍人様になっているようですね》
恐る恐る手に取ってみる。金属が縫い付けられているので重いかと思ったが、普通の靴と変わらない重量だった。
…《灰狼のブーツ・疾風》
秘境『遥か高き果ての森』に生息するグレイウルフの魂が変質したもの。レアアイテム。風を操り、装着者が疾風のごとき速さで動くことを可能にする。疲労を軽減する効果がある。縫い付けられた金属は霊魂の核、魂核が物質化したもので、オリハルコンと同等の硬さを誇る。
所有権:皇 龍人
と、頭の中に説明文が浮かぶ。この森遥か高き果ての森っていうのか。いかにもな感じだな。っていうか、オリハルコンと同等って、あの架空金属のオリハルコンか…?
《ちなみにオリハルコンはこの世界に存在する金属の中で5番目に硬質ですね。さらに風の加護もついているとは…》
あれ、ひょっとして俺最初からチートアイテム手に入れちゃった?
《まあ、いいんじゃないですかね。あ、あとその靴は人間の都市で売却すれば三百万リラはくだらないですね。リラはこの世界の単位で、一リラは一円と同じですね》
つまりこのブーツ一つで三百万円はくだらないと!?とんだ掘り出しもんじゃねえか!レアアイテムってそんな高価なのか?
《ドロップする確率は0.5パーセントからプラスマイナス0.1パーセントの範囲なので、持っているのは上級の冒険者か金持ちのボンボンくらいですね》
…うん、もう驚き疲れたわ。
はぁ…初っ端から色々あったけど、とにかくこれから頑張っていこう。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる