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第1章 遥か高き果ての森
八話 検証と擬似錬成
しおりを挟む早速そのエクセイザーの皮膚と恒例である土を使って、あるものを作ろうと思う。
まず始めに五メートルもあったのでいくつかに分けた皮膚の一つの上にエクセイザーの刀身を置き、長さ、刀身の幅、厚さを図る。
大体目測で測り終えると、エクセイザーで皮膚を、ちょうど彼女をくるっと丸めておけるくらいの大きさを切り取った。
インテリジェンス・ウェポンであるエクセイザーでも、相当苦労した。
飛躍的に向上したステータスがなかったらもっと時間がかかっていたことだろう。
しかしこれにより、皮膚の靭性にさらなる期待が持てた。
それが終わるとエクセイザーと切り取った皮膚を持って外に出て、地面にエクセイザーを突き刺した。
『いったい何をするのじゃ?』
「まあ、見ててくれ」
エクセイザーの前に座り込み、地面に向かって手をつく。
「ふっ……!」
そのまま地面に霊力を流し込んで、目を瞑って集中力を高め、エクセイザーの周りの土を操作し始める。
数分間かけてその地層を探し当て、一気に表面に引き出す。
それは、真っ黒な土だ。地中深くの『エナジーコア』に近く、かつ霊力が豊富に溜め込まれている頑丈な土。
それで、エクセイザーの紫色を帯びた刀身を覆っていく。
『おっ?おおっ?』
初めての不思議な感覚にエクセイザーは戸惑っているようで、困惑したような声を上げていた。
最初はただ自動的に超圧縮された土が纏わりつくだけだったが、少しずつ、脳内でイメージを浮かべ続けながら操作していった。
ただの土塊だったそれは、やかエクセイザーの刀身に合わせて洗礼された形に整ってゆき、鞘になる。
「ぐっ……」
その間、こちらに来てからログキャビン作成と土ツールの作成以外ほとんど消費しなかった霊力がごりごりと削られていった。
「全身に、重りをつけてるみたいだな……!」
当然、肉体にかかる負担も大きくなり、俺の頰を幾筋もの汗が伝う。
ただ何かを作るだけなら簡単だけど、こういう緻密な作業は難しいな……!
地球にいた頃もよく小さかった時に土人形を作って遊んでいたが、それを動かすための回路を作ろうとすると、かなりの負担が体にかかっていた。
レベルアップやイザナギ様の加護があるからそれよりは楽だが、やはりキツい。
これは後からシリルラに聞いた話だが、普通はこうやって地面の土を精密な調整することなどできないそうだ。
俺の権限レベルと昔からの経験、そしてこの『遥か高き果ての森』という場所の潤沢な霊力を持った土地だからこそ、可能になった。
「あと、少し……!」
やがて体感時間で十分ほどたった頃、ついにそれは完成した。
全長70センチほどの、漆黒と形容していいほど真っ黒な鞘。
材質は全て高質な土で形成されており、地中にあった木の根や小石をなるべく取り除くよう意識したおかげで、綺麗に完成させることができた。
全力で作っただけに、中の構造は今まで作った土ツールと比べてもかなり密になっており、これだけで充分鈍器になり得るだろう。
「はぁっ、はぁっ……」
全身を駆け巡る疲労感と、久しぶりの複雑な作業による激しい頭痛に、思わず脱力して地面に寝転がった。
《お疲れ様ですね》
「はぁ、はぁ、ふぅ……おう、サンキュー。けど、まだ仕上げがあるんだよな」
そのまま数分間休憩し、やがてすっからかんだった霊力が動けるようになるまで肉体に巡ってくると、立ち上がって傍に置いた皮膚を拾う。
そして出来上がったばかりの鞘に巻きつけ、また霊力を流し込んでその上からさらにもう一回り、今度は土ツールに使っている地面の表面層の土を覆わせた。なるべく薄く、しかし強固になるように。
土が全体を覆った後表面を滑らかにすると、ようやく完全に完成した。
エナジーコアに近い硬質な土、エクセイザーの皮膚、さらに土の3層構造の、俺が考えうる限り現状の素材で作れる最も堅牢な鞘。
インテリジェンス・ウェポンであるエクセイザーに相応しい鞘…とまでは言えないが、それなり出来ているのではないかと思う。
最後に地面と繋がったままの鐺の部分を整え、中に収まっているエクセイザーごと持ち上げた。おっ、結構重量があるな。
《…補足しておきますと、龍人様のレベルに反して異常なほどの高ステータスだからこそ、それは重いとだけ感じるのであって、普通のレベル20の人間が持とうとしても、絶対に持ち上げられない重量ですね》
……うん。もう俺のステータスのことは気にしないことにしよう。エクセイザーの亡骸の解体中に自分でも確認したが、あのインフレ率はもはやバグとしか思えない。
だってあれだぞ?普通の人間のレベル上限が100で、ステータス上限は10000だ。
それなのに、俺もうレベル20でMP以外のステータス、6000超えてるからね?MPに至っては、9000超えてたし。
これはもうそういうものだと諦めるしかないだろう。じゃなきゃ、実力に釣り合わないことのストレスで、胃に穴が空くわ。
まあ、ステータスは鎧とか不思議な効果のついたアクセサリーとかをつけると多少補正がかかるみたいだが。
しかし、決してこのバグじみたステータスに感謝していないというわけではない。
身体能力が上がれば、地球にいた時基礎能力が足りなくて出来なかった爺ちゃん考案の鍛錬をすることが出来る。
だから、助かるものは助かるのだ。ただ唯一の問題は、俺がチート能力を得てそこまで喜ぶような性格じゃないってこと。
《普通ならば、自分が強者だと分かれば飛び跳ねて喜びそうですけれどね》
「自分に力があるなんて過信は、一瞬でもできないよう、徹底的に精神を鍛えられたからな。例の如く爺ちゃんに」
逆にもし強い力を得たのならば、それを振るうだけでなく、自在に使いこなす術を身につけなければならないというのが爺ちゃんの口癖の一つだ。
そして俺はその意味を、よく理解していた。幼き頃、俺が犯したとても大きな過ちのせいで。
『ふむ、良い心がけじゃな』
《そうですね》
さて。そろそろ、エクセイザーやいつの間にか新しく手に入れていたスキルの検証に移ろう。
シリルラ、新しいスキルを表示してくれるか?
《了解ですね》
するとシリルラの了承とともに、毎度の如く脳内にリストのようなものが浮かび上がってきた。
【銀を倒せしもの】
秘境、『遥か高き果ての森』の西部全域を支配していた大いなる女皇を倒したものに送られる称号。西部全域の魔物を従える資格を持つ。また、女皇が持ちし力の一部を受け継ぐ。
【風の狩人】
その体はまるで疾風の如く。何者も捉えられぬ狩人は静かに獲物の命を刈り取らん。
奇襲をした際ほぼ完全な確率で成功する。
【大地を操るもの】
土を扱い、多くのものを作り出したものへ与えられる称号。名誉スキル。特に効果はない。
【水使い】
多くの水を扱ったものへ送られる称号。名誉スキル。特に効果はない。
【大番狂わせ】
圧倒的実力差のある相手と相対し、見事打ち倒したものへ与えられる称号。レベルが三十以上格上の魔物を倒した際、経験値にブーストがかかる。
【身体能力超強化Lv3】
体内で魔力(霊力)を高速で循環させ、肉体能力を向上させるスキル、身体能力強化の上位互換です。レベルが上がっていくにつれ、強化の倍数が上がっていきます。
Lv3…魔力が枯渇するまで、全ステータス六倍
【体術Lv6】
名前の通り、体を使った戦闘をする際動きに補正がかかる。レベルが上がっていくにつれ、五感が鋭くなり、高ければ高いほど強い格闘家だということを示している。
Lv6…免許皆伝
【爪撃Lv4】
名前の通り、爪を使った闘術。レベルが上がるにつれより早く、より鋭く技が鋭角になっていく。
【衝撃、打撃、精神、魅了、阻害、毒、炎熱、疲労耐性】
名前の通り、衝撃、打撃、精神、魅了、阻害、毒、炎熱、疲労に対しての耐性がつく。レベルがカンストしている際、八割の確率で完全に無効。
特殊:疲労耐性は常時発動。
【空歩】
魔力(霊力)で空気の足場を作り、その上を移動する高等技術。本来ならば【立体起動、瞬歩、韋駄天、風の使い魔、集中、魔力操作、魔糸】のスキルを全てカンストした上で手に入る【天歩】というスキル。しかし、イレギュラーな取得方法によりさらに強力な固有スキルへと変化した。
所有権:皇 龍人(固定)
「ふむ、こんな感じか。というか、またしても固有スキルを手に入れたのか……」
このスキルは多分あれだ、修行で山に放り込まれた時に、猛獣から素早く逃げるため、手っ取り早く木の上に登ろうと試行錯誤した末に思いついたやつがスキル化したんだ。
しかも地球にいた頃、心の中で【空歩】って呼んでたのが何故か名前になってるのが何となく嬉しい。読み方は違うみたいだけど。
《馴染みのあるものがあって良かったですね》
「ああ」
他のは……色々とお腹いっぱいである。【爪撃Lv4】とか、昨日までは持ってなかった耐性系のスキルは【銀を倒せしもの】の効果で、エクセイザーの持っていたスキルがこっちにきたみたいだな。
エクセイザーから無理やり奪ってしまったものとはいえ、せっかく手に入ったものだ、しっかりと修練して使いこなせるようになろう。
それが勝手な理由でエクセイザーの命を奪ったことへのせめてもの恩返しってもんだ。
『む、別に気にしなくて良いぞ。7割がたはこの体に残っておるからな』
「あ、そうなのか。じゃあ遠慮無く……とは言えないけど、活用させてもらうよ」
『うむ。お主に使われるのなら大歓迎じゃ』
「そう言ってくれると、こっちも多少気が楽になるよ」
あ、【大番狂わせ】はスルーの方向で。もうこれ以上成長促進系はいらない。【創世神の友】だけで充分すぎるわ。
最後に、手に入れたスキルで唯一使えないのが、【大地を操るもの】と【水使い】か。これは何か使い道があるのだろうか。
《他人に知られたとき、羨望の眼差しを送られるくらいですね。本来ならば精霊と契約を交わし、長い修練の果てに手に入れるものですからね。これを誰かに見られれば未熟な魔法使いに追いかけ回されるでしょうね》
「……なあ、ちょっと思ったんだけどさ」
《何ですかね?》
「お前さ、俺が頭を抱えるのを見るためにわざと細かい説明してない?」
《………さあ、何のことでしょうか》
「おいコラ、何だ今の間は」
ま、まあいいや。ただ単に親切に教えてくれてるだけってことにしとこう。
そうした方が俺の精神的にもいいに決まってる。
《その通りですね》
『……お主ら、仲がいいの』
そうシリルラとやり取りをしていると、木に立てかけたエクセイザーがぽつりと呟く。
「まあ、こっちに転移してから何かと世話になってるしなぁ」
それに、こいつと話してると友人を思い出すんだよな。
だから、この説明してくれてるのか、自分が楽しむためにわざと教えてるのかわからない解説も、苦笑いで済ませられる。
『ほう、友人とな?』
そ。あっちの世界じゃ浮きまくりの俺の外見を全く気にせず接してくれた、かけがえのない友人。
一つ年下の、どこかぼーってしてそうで、でも実際はよく周りを見てた女の子だ。
……あ、そういえば。
『? どうかしたのか?』
シリルラと最初に話したときおかしいなって感じたのは、あいつが似たような口調だったからだっけ。
一つ下の後輩なのに、よく俺をからかって楽しんでいた。
…あいつ、どうしてるかなぁ。もしかして、俺のこと心配とかしてくれてるのかな。もしそうだったら、なんか嬉しいな。
あいつは、本当に大切な存在だったから。
あいつがいなかったら、俺は一人な事に耐えきれなくて、もっとネガティブな性格になってたんじゃないかなー、とか常々考えていた。いや、過去形じゃ無くて今もか。
まあとにかく、それくらい友人は俺にとって大切なやつだったから、似た口調のシリルラに何か言われても、あんまり怒る気にならないんだよ。
『なるほどのう。くくっ、その友を大事に思う心意気、妾は結構好きであるぞ』
お、そっか。なんか、ありがとな。
《……………》
●◯●
さて。いつの間にか話が脱線しまくってたな。スキルの確認も終わったし、エクセイザーの検証に移ろう。
立てかけていたエクセイザーを持ち上げ、三層目を作った時につけておいた、日本刀の鞘で言う栗型の部分で後ろ腰に固定する。
すると、はりというべきか、ずっしりと腰に確かな重みがのしかかってくる。
次に激しい運動をしても取れないか、試しにその場で蹴り技を連続で放つが、一向に栗型がぽろりといく様子はない。
俺が修得している中で最強の技である皇ノ脚術序列五位、〝壊首〟をしても、しっかりと腰にくっついていた。
わかりやすく表現すれば、空気が破裂するような音を出す動きをしても大丈夫ということだ。
「これなら大丈夫か……」
無事鞘の強度を確認できたので、今度は右手で本命であるエクセイザーを鞘から引き抜く。
「うおっ、軽いな」
鞘が付いていた時と比べると、五分の一ほどに重量が減った。やっぱりこの鞘、相当重いんだな。
『ふふ、そうじゃろう?妾は軽いのじゃ』
……体重の話じゃないけど、まあいいや。
ちなみに陰陽師なのに西洋剣が使えるのか、という心配はない。
一応武器全般の手ほどきは受けている。中でも刀剣は得意な方で、最近は爺ちゃんに一本取れるくらいには上手くなっていた。
数度両手の中で回したりして剣の重さに慣れ、現在の自分の身体能力を考慮し、込める力を定める。
「よし、このくらいか」
それが終わると体を半身にして引き、左手を前に、右手を水平になるように後ろに構えた。左足で地面をしっかりと踏みしめ、最後に目を瞑った。
すると自然と思考が明瞭になり、余計な考えが全て廃される。
明鏡止水、そう呼ばれる境地に、俺は入った。
視界は瞼を閉じたことによって黒一色に染まっている。
だが、目に頼るな。自然を体で感じ、一体となれ。
『…っ!凄まじい気迫じゃな…』
………………………。
ーーザアァァァァ…
ーー唐突に、タイミングよく風が吹いた。それにより目の前の木から一枚、葉が落ちるのを直感で悟る。
そしてその葉が目の前まで落ちてきた瞬間ーー
「ーーシッ!」
強く足を踏み込み、極限まで力を抜きーー最後の一瞬にのみ力を込め、最高の速度で振り抜く!!!
鋭い風切り音と共に、刀身が何かをするりと通り抜けたような感触が剣から伝わってきた。
ゆっくりと目を開けば、振り抜いた腕の先に、二つに分かたれてヒラヒラと舞う木の葉があった。
「よし。剣の腕は鈍ってないな」
でも、切れ味が鋭いだけにまるではしで豆腐を崩すような、どこか手応えが薄く感じた。
その後も一通りの型をこなしていくが、【灰狼のベルト】やステータスの上昇の効果があるためら地球にいた時より剣の冴えは、より鋭いものになっていった。
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