陰陽師の異世界騒動記〜努力と魔術で成り上がる〜

熊1969

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第1章 遥か高き果ての森

二十八話 終わりと眠り

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   俺がこの世界に来てほんの少しの頃。水源を探しに行って、川にたどり着き……そこで魔物状態のエクセイザーに会った。いや、遭遇したと言うべきか。

   その時俺は、【空歩】や【身体能力強化】、そして……全力に近い霊力を込めて作った武器を使い、意識の外からの攻撃でエクセイザーを倒したのだ。

   そして、今の俺は鍛練の成果で【固有剣奥義・龍ノ一太刀】というスキルがある。これは剣に相当量の霊力を込め、俺ができる最高の斬撃を繰り出すスキル。

   つまり、このスキルを使えばあの時と同じようなことができる。すなわち、亜神すら殺した、あの一撃を。

 あの異形がいくら絶望的な力の持ち主でも、それでも亜神と同等レベルとは考えにくい。実際、攻撃は通っている。

 それなら……倒せる見込みは、ある。ただ、それには全てを費やさなくてはいけない。俺の持っている力、技術、スキル、武器……命。文字通り全てを。

 そうした時、もし生き残れるとしても……おそらくエクセイザー以外の全ての武具は、壊れる。数ヶ月とはいえ、愛着のあるものたちだ。

 でも、エクセイザーとシリルラに約束した。必ず生きると。それなら…心苦しいが、やる他に道はない。

   手の中に握ったドラゴエッジと、腰の壊れかけたホルスターに収まるオールスを見る。ドラゴエッジは、ガルスさんが俺のために鍛え上げてくれたものだ。オールスは、俺が初めて作り上げた武器。

   未練はある。それでも……やらなければいけないことがある。そのためならば、きっとこいつらも納得してくれるだろう。いや、それは俺の勝手な願望か。

「……今まで、ありがとな」

   そう一言呟くと、轟音の聞こえる建物の外をきっと睨む。  

《……龍人様、お知らせを。全ての住民の避難が完了しました》

   サンキュー、シリルラ。これで存分に暴れられる。

『……行くのか』

……ああ。生きるために。

《……ご武運をお祈りしていますね》

   ……ありがとう。二人とも、最後まで付き合ってくれ。

『当然』
《それが私の役目ですからね》

…そっか。

   二人の言葉に答えると、今一度覚悟を決める。そのまま歩き出し、ここに来たときに空いた穴に近づくと瓦礫を足場にして【空歩】を使った。

   溶岩と災火に沈んだ都市の上を、【空歩】を使い移動する。やがて禍々しい魔力の持ち主と弱まった魔力の持ち主のいる場所に行き着くと【空歩】を弱めて降り立つ。

   俺が降り立った場所は……奇しくも最初に黒鬼暴君がいたあの広場だった。そして黒鬼暴君の代わりに、広場の中央に立つのは……血濡れの黒龍を片手に持った、異形。

   背を向けていた異形はぴくり、と体を震わせて俺を振り返る。そうすると元々剥き出しの牙をギリギリと鳴らせ、弱々しい鳴き声をだす黒龍を手放した。

   俺はそんな異形をまっすぐに見て、右半身を引く。左手のドラゴエッジを正眼に、右手のエクセイザーを肩と水平に構えた。

「さあ……決着をつけようか」
「ゴロズ……ゴロズゴロズゴロズゴロズゴロズゴロズゴロズゴロズゴロズゴロズ!!!ガァアアアァァァアアァアアァアアァァァアアァァァァアアァッ!!!!」

   この局面に来て初めて、異形が汚い声で言葉を発しながらこちらに突進して来た。

   突進する異形は四腕全ての爪を揃えて、こちらをバラバラに切り刻もうとしているのが一目瞭然だ。あれを食らえばひとたまりもない。

   そんな異形に対して俺は……静かに深く息を吐き、目を閉じてブーツの裏に霊力を込める。そして持ちうる全ての戦闘系スキルを起動させた。

   全て起動し、目を開けたとき……目の前に、異形の姿があった。そして爪も。命の危機を前にして、俺は……驚くほど冷静になっていた。

   まず、俺は……【身体能力超強化】を使ったフルパワーでドラゴエッジを異形に向けまっすぐに投擲した。驚く異形だが、すぐに右上腕を使ってドラゴエッジを粉々に破壊する。

   一瞬で、ガルスさんとの絆の証とも言えるドラゴエッジが壊れた。だがその稼いだ一瞬は、絶対に無駄じゃない。

   次に、【瞬歩】と【超身体能力強化】を併用して自分から異形の懐に潜り込む。右上腕はまだ振り切られたまま、異形は仕方がなく右下腕を俺に振るった。

   振るわれた右下腕に、刹那の瞬間で引き抜いたオールスを向け、つまみを一番右……レベル〝伍〟に合わせて霊力を充填、発砲。


ドッパァァァァンッ!!!


   ミサイルに匹敵するであろう威力を放ったオールスは右下腕を右上腕もろとも跡形もなく消しとばした代わりに、威力に耐えきれず自壊した。

   ドラゴエッジで稼いだ一瞬が過ぎ、また一瞬時が作られる。

   あと俺の手に残ったのはエクセイザーだけ。対して異形は数秒もすれば再生すると分かっており、その醜悪な顔を歪めて左の腕二本を振るって来た。

   それに構わず、【気配遮断】と【瞬歩】を使用。異形の背中に回り、その間に左手の中にストックしていた木札全てを掴むと突起だらけの異形の背中に押し当てた。

   オールスで稼いだ一瞬。それを使って左手に霊力を木札が耐え切れる何倍にも込めて、木札を暴発させた。


ドガァァァンッ!!

   
「ギァアァァァアアァッ!?」

   異形が初めて苦悶に叫ぶ。木札の暴発により、背中の突起は綺麗に皮膚ごと消え去っていた。代わりに、俺の左手は肩口まで炭化している。もはや感覚はほぼない。  

   背後に俺がいると理解した異形が右足で後ろ蹴りを放ってくる。それを見て左手の状態にかかわらず、ほとんど黒焦げになった神経に霊力を通し、迫る右足に刹那の間で手のひらを押し当てた。

   そのまま右足の押し出す力に逆らわず、ただその一瞬で【気功法】を使って異形の魔力を乱す。その代償に、最後まで押し出された右足に押され根元から左腕は千切れ飛んだ。


パァンッ!!!


   代わりに、逆流した魔力に耐えきれずに異形の右足も内側から吹き飛ぶ。内側からの痛みは耐えられなかったのか、異形がよろめいた。


   左腕を犠牲に、また一瞬。


   異形がよろめいたその一瞬……その時間を使い、【皇ノ技】が三段、〝断脚〟を使った蹴りを残った左足に叩き込んだ。  

   左足が地面から離れてバランスを崩した異形が宙に浮かび、蹴りを放った俺の右足の膝から下がグチャグチャにねじれ曲がる。

   だが、宙に浮かせたのがまずかった。わずかに異形の体の正面側がこちらに向いたのだ。つまり目の付いている頭部が。

   異形の目が光り、光線を放つ。が、突如宙に浮いた異形の陰から【影舞】で呼び出した俺のコピーが出現し、頭を引っ張った。


ビシュッ!!

  
「ぐっ……」

   狙いがそれて、脇腹を貫通する光線。異形は苛立たしげに吠え、禍々しい魔力を纏った左腕二本で影を叩き潰した。つまり一瞬、俺から影に意識が向く。

右足と影を代償に、一瞬。

   意識がそれている間に再び【空歩】で異形に向かって前方に跳躍、そしてもう一度下ではなく横の空間に【空歩】で空間を蹴ると、斜めに回転してエクセイザーで伸びきったままの左腕二本を斬りとばす。

   ここでようやく、異形が俺の存在に意識を戻し、自分の左足以外の両腕両足全てが奪われたことに気がついた。複数の目を全て俺に向け、憎しみのこもった目で見てくる。

   そうするとガパリと口を開ける。口の奥には炎が見えた。やはり黒龍のブレスもコピーしていたようだ。それで俺を焼き殺すつもりなのだろう。

   そんな異形に俺は……異形の口に膝から先がねじれ曲がった右足をねじ込んだ。剥き出しの牙が吹き飛び、視界から太ももの半ばまで足が消える。代わりに尋常でない熱が皮膚を焼いた。


ゴバッ!!!

   
   しかしそれも一瞬のこと。外まで到達できなかったブレスが逆流して、異形の下顎が内側から吹き飛び胸板から下が破裂した。同時に、思い切りブレスに突き立てていた俺の右足も消し飛ぶ。


   右足を犠牲に、異形の体を破壊して一瞬……いや、それ以上。


   俺が【空歩】を残った左足で使って後方に飛ぼうとすると、異形は額の角に魔力を込めて伸ばした。俺は【空歩】を諦め、左足を角に突き出す。



ズブジュッ!!



   ブーツを履いていた足裏から角の先が侵入し、そのまま内部を突き進んで太ももの付け根まで到達した。当然、骨や神経、筋肉は貫かれ破壊された。

   しかし、失くした左腕と右足の傷口を霊力で無理に治癒力を促進し止血したためかすでに痛覚が死んでいるために、痛みを感じなくなった俺はどこか冷めた思考の中エクセイザーを振るい、自分で左足を根元から切り離した。

   それに異形はニィイと笑い、なんと牙を射出してきた。が、俺はそれをエクセイザーを握る手の中に隠し持っていた〝結界〟の木札を起動、展開して弾き返す。

   だがいくつかの牙は結界を貫通し、体をかすめていく。その過程でアイテムポーチが破け、効力を失いアイテムポーチ中にあったものが空中にばらまかれた。

   さらに駄目押しと言わんばかりに、異形は全ての目で光線を放ってくる。

   もはや木札もない俺はそれを避けることができずに、心臓を貫かれ死亡ーーしたかのように見えた。

   

「ギギャギャギャギャ……ギ!?」



   空中から地面にどさりと落ち、笑いをあげていた異形の驚く声が聞こえる。それもそうだろう、貫いたと思ったら、それは真っ黒な影法師だったのだから。

   では本物の俺はどこにいるかと言われれば……

「ーーここだよ、化け物野郎!」
「!?」

   異形が上を見る。そこにはーー空中から落ちてくる俺の姿があった。

   俺はフリューゲルを使い、影法師と入れ替わりになって異形の光線から逃れていた。もはや両足はないので、口でくわえて霊力を流し込み浮かせ、上空に避難したのだ。

   そして今、俺の唯一残った右手の中には……灰色の澄んだ輝きを放つ、エクセイザーがあった。戦っている間、ずっと霊力をチャージしていたのだ。

   そのエクセイザーを見て本能的にまずいと感じたのか、再び光線を放とうとするが……目に集まっていたわずかな魔力は霧散した。当たり前だ、先ほどのでエネルギー生成器官は吹き飛んでいる。魔力も打ち止めだ。

   つまり異形にできるのは……大人しく、全てを犠牲にして作り出した俺の一撃を受けることだけ!



「はああぁああぁあぁぁぁああぁああぁああぁあぁぁああああぁあぁぁぁああぁぁぁぁああぁああぁあぁぁぁああぁあっ!!!!」



   雄叫びをあげながら、エクセイザーを振り上げる。そのまま異形めがけて一直線に落ちていき、霊力を解放したエクセイザーを振り下ろすッ!

《ッ!?  ダメです、龍人様!!!》
 




「オ……オノレェェェエエエエエエェェエエエエエエエエェェェェエエエエエエェェエエエエエエエエエェエエエエエエエエエエエエエェェエエッッッッ!!!!!!」





ザシュッ………

   全てをかけた一閃は、断末魔の叫び声をあげる異形の頭頂部から入り、そして……異形の体を一刀両断した。

   もはや何もバランスを取る手段がない俺は力の抜けた右手からエクセイザーが離れてすっ飛んでいき、地面に顔面から着地する。

   右腕一本ではどうやったって減速できず、先程からの先頭でえぐれた大きな破片にボロボロになったコートの裾が引っかかってようやく止まった。

   そのまま逆さの状態でぶらんぶらんと揺れて、五体不満足な体が回転する。すると異形の落ちていた方が見えた。

   視界の先で、もはや再生することもできない左右真っ二つになった異形がサラサラと砂になっていき、熱風でどこかへとさらわれていった。

「ああ……よかった……倒せた。俺の戦いは、無駄じゃなかった……」
「主人ッ!」

   もはや掠れ声にすらならない声で呟いていると、体を誰かに抱えられる感覚があった。俺を抱えた誰かはそのまま破片から飛び降りる。

   軽い衝撃とともに、地面が視界に移った。かと思えば反転して仰向けに寝かされる。おいおい、こちとら五体不満足なんだ、勘弁してくれ。

 そう思っていると、俺を移動させた主……人間態になったエクセイザーの顔がアップで写り込んだ。なんだ、お前だったのか。

   エクセイザーは俺に手をかざすと、治癒魔法を唱え始めた。だが欠損しすぎた体は力を注がれてもすぐに抜けていった。

「主人、聞こえるか!主人ッ!」

   涙目でエクセイザーが呼びかけてくる。あまりにも必死なその様子に、少しだけ体に活力が戻ってきた。

「エク……セイ……ザー…」
「主人!よかった…!  待っていろ、すぐに治療してやる」

「ああ…頼む…」

 俺の言葉に頷いたエクセイザーが、治癒魔法にさらに魔力を込めていく。それに身を委ねると、先ほどの一撃を繰り出した際に霊力が枯渇して止血できなくなった四肢の欠損部分の流血が止まっていく感覚を覚えた。

 それと同時に、突然ひどく眠くなってきた。無茶をしすぎたためか、ほぼ達磨状態の体がひどくだるい。大量の失血のせいか、とても寒くなった。もともと流血で片目しか空いていなかった瞼が、だんだんと下がり始める。

 このままでは眠りに落ちる。そう自覚した俺は、必死に意識をつなぎとめてエクセイザーの顔を見上げた。するとエクセイザーは不思議そうな顔をする。

「どうしたのじゃ、主人?」
「ああ……なんか、すごい眠くてさ…少し、眠ってもいいか……?」
「ふふ…そうか。まあれだけの大立ち回りをやってのけたのだ、疲れもするじゃろう。ゆっくりと眠るがよい」

ああ…ありがとう……。

 感謝の言葉を伝える前に、俺の瞼は完全に閉じた。眠気に逆らうことをやめると、暗闇に意識が落ちていく。今日は少し頑張りすぎた、しばらく休もう。

「……え?」

 完全に意識がなくなる直前、エクセイザーの呆然としたつぶやきを聞いた気がしたが……










 ブヅッ。
















 ……ここで、俺の意識は途絶えた。


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