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第一章
~閑話~ ジェーンの苦悩
しおりを挟む私の名前はジェーン。
アスタナ王国シェルトネーゼ家の長女、エルーナ様の専属侍女をしている。
エルーナ様と二人、シェルトネーゼ家の領地マルタナ村に移り住んでから、二カ月が経とうとしている。
今でもこの状況が信じられない。
また、この地に戻ってくる日がこようとは。
エルーナお嬢様はある日、突然変わられてしまった。
いや、『元に戻った』とも言うべきなのだろうか。
常に眉間に皺を寄せ、苛立った様子で、必死に食べ物をかき込み、味が気に入らなければ皿ごと投げ出す始末。
何人の使用人がシェルトネーゼ家の屋敷を去ったことか。
妹のユリア様に嫉妬しているのは明らかで、弟のロベルト様にも時につらく当たっていた。
ご両親であるファウスト公爵様とマリアンヌ様は、私の目からは分け隔てのない愛情を3人に注いでいるように見えた。
けれど、エルーナ様自身はどう感じていたのだろうか。
もしかしたら、私の知らないところで、愛情の差を感じていたのかもしれない。
昔のエルーナ様は素直で明るく、旅芸人だった私に他の使用人と差別することなく接してくれた。
あの頃のエルーナお嬢様には、もう戻れないのだろうか。
「ジェーン、私マルタナ村へ療養をかねて、行こうと思いますの。ついてきてくれるかしら?」
いつものエルーナ様らしからぬ、肩を不安げに揺らし、おそるおそるといった様子で私に尋ねてきた。
専属の侍女なのだから、命令をすれば「はい」としか言わないと分かっていらっしゃるはずなのに。
「もちろんですよ、エルーナお嬢様。ジェーンはどこへでもお嬢様についてまいります」
そう言うと、ほっとした表情を浮かべ、エルーナ様は微笑まれた。
2年前とは見た目はだいぶ変わられてしまったけれども、懐かしさを感じた。
エマニエル様とは2年ぶりの再会だった。
だけれど、「そちらの方はどなたかな?」と問われた時、少し悲しい気分になった。
胸に突如沸いた感情に動揺しつつも、お嬢様から向けられた視線に私は平静を装った。
「お初お目にかかります。わたくしはエルーナ様の侍女のジェーンと申します。
エルーナ様の身の回りのお世話を公爵様より仰せつかっております」
私が自己紹介をすると、エマニエル様はにこりと笑い、そのまま話を進めていった。
私のことは忘れてしまったのだろうか。
たしかエルーナ様と初めて出会った時、この方はファウスト公爵様と一緒にいたはずなのに。
この胸の痛みはなんだろう。
けれど、あれこれ考える時間はなく、荒れ放題の屋敷をエルーナ様と朝から晩まで掃除する羽目になり、気づけば1週間。
ほっとしたのも束の間、エマニエル様は村の警備をしている身元不明の男にエルーナ様の武術の特訓を任せると言い出した。
エルーナ様からエマニエル様へ申し出たそうだが、それなら町にいる、それなりの身分の人間を寄越すべきなのではないだろうか。
しかも、公爵家の令嬢というのはまずいから、エルーナ様をエルーナ様自身の従者として紹介するという。
もし、顏に傷でもつけたら……、考えただけでぞっとする未来が目に浮かぶ。
「行ってらっしゃいませ、『お嬢様』。道中くれぐれも『お怪我』のないように。
捻挫しないよう足首を良くお回しくださいませ」
エルーナ様の武術を指導する若い男に聞こえるよう、私ははっきりとした口調で言った。
斜め前に立っているエマニエル様の表情は伺えないが、特に変わった様子はない。
そもそも、エマニエル様のほうこそ、従者に勉強などありえない事を言ったのだ。
公爵家の人間ではない、爵位を返上した貴族の男子に、なぜエマニエル様が直々に勉強など施すのだ。
聡い人間なら気づかない訳がない。
そして、この若者は聡い。
さて、そろそろ、現実を見なくてはいけないわね。
私はため息をついて、今日エルーナお嬢様が山から採ってきた、立派な傘の開いたエリンギを手に取った。
最近、マルタナ村ではイノシシが農作物を荒らしているらしい。
あの若者にそれとなく伝えれば、明日はイノシシの鍋を食べることができるだろうか。
血抜きは昔よくやっていたから、問題ない。
ちょうど、明日あの若者が村はずれまで、エルーナお嬢様と私を連れていくという。
その時に、それとなく伝えよう。
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