42 / 60
第42話 ダメなわけない
しおりを挟むお姉さん先輩は首を左右に振る。
「私の為に怒っているって分かってるけど、これは私のだから」
お姉さん先輩の目に鋭さが走る。
危ない、僕は主人公じゃない。
そうだよな、お姉さん先輩が小さい頃から持ち続けた怒りを、ぽっと出の僕の怒りなんかで汚しちゃいけない。
カッコイイ主人公ならお姉さん先輩の心ごと救うんだろうけど。
「でもありがとう」
優しい言葉だ。僕は左手の拳を顔に出ないように本気で握る。
サブキャラは主人公のようになれない。
でもサポートぐらいは出来るだろうか? 今追われてるって言っても空奏の魔術師であるお姉さん先輩は僕より強い。
お姉さん先輩ならアブノーマルなんか瞬殺だ。
「月夜先輩、昼飯でも食べます」
「いや、もう出ないと」
僕も顔がバレてるので空奏の魔術師が家に来るだろうことは想像がつく。
「あっ、追っては次の日の朝まで来る事はないですよ。安心してください」
お姉さん先輩が僕を見ながら動きが止まる。
僕なんか変な事を言ったか?
「このマンションは僕の才能の範囲内なんで、朝まで見つかる事はないです。朝になったら持続時間が切れちゃうって事なんですけどね」
「日影君……まぁ、いいや。日影君がこう言う人って知ってるからね」
僕はどう言う人なんだ。
キッチンに行くとお姉さん先輩が軽いステップで後を着いてくる。
冷蔵庫を見て献立を考えていると、お姉さん先輩が僕の肩をチョンチョンと指で押してくる。
顔をお姉さん先輩に向けると。
「私が料理作っちゃってもいい?」
いやここは僕の家であって、お姉さん先輩は大事なお客様だ。
「お願いいたします!」と、冷蔵庫をお姉さん先輩に明け渡した。
前にお姉さん先輩の料理を食べれる機会があったのに冷蔵庫が空で料理を作って貰えなかった。
それから冷蔵庫には沢山の食品が並べられるようになった。
今回の冷蔵庫は完璧な筈だ。
僕はソファーで待っててと言われたので大人しく待つ事にした。
美少女と言ってもいい女の人に僕は手料理を作って貰える。こんなことは初めてだ。
妹は例外で。
料理してない僕の方が緊張している。
フライパンで何かジュージューと焼く音が聞こえて香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
まな板でトントントントンと何かを切ってる音が響いていた。
これが新婚の家庭か! と僕は幻想を抱く。
幻想を抱いて五時間。
お姉さん先輩は料理を本格的に作っている。
僕は昼ごはんと思ったのに夜ごはんシフトチェンジしそうだ。
でも僕は待つ。
お姉さん先輩の料理が食べれるなら何時間でも待つ所存だ。
「日影君ごめんね、もう出来るから。男の人に料理作ったの初めてなので凝りすぎたみたい」
僕は大丈夫ですと伝えて皿を出しましょうか? と言ったら「全部私がやりたいの。ダメ?」と返って来た。
ダメなわけない。
ダメなわけない!
ダメなわけない!!!
大事な事だから心の中で三回言いました。
お姉さん先輩がテーブルに運んで来たのはスープだ。
匂いを嗅いでみるとトウモロコシの匂いがする。
白っぽい黄色の色味でこれは間違えなくコーンスープだ。
でも冷蔵庫にトウモロコシはなかった筈だけど……小さい事は気にしない。
次はジュージュー言わせてる鉄板の上に乗ってる僕の顔ぐらいあるステーキが運ばれて来た。
大迫力のステーキにゴクンと喉を鳴らす。
ちなみに冷蔵庫にステーキはなかった。
白飯は皿に盛っている、ライスだ。
野菜の盛り合わせもドレッシングは市販の奴じゃなく薄い緑色のドレッシングで匂いを嗅いでも僕にはオシャレすぎて分からない。
ナイフとフォークとスプーンは既にテーブルにセットされていて、最後にお姉さん先輩はジュースを持ってソファーに座る。
僕にジュースを渡し乾杯をする。
ジュースを一口煽ると。
美味い! えっ? 薄い緑色でミックスされた果物なんだろうけど輪郭がない、どの果物なのか分からない。
いやいや、果物なのか野菜? 頭が混乱しそうだ。
いただきますを言った後、僕はサラダに目をつける。
サラダもジュースと同じ色のドレッシングが掛かってる。
サニーレタスとアボカドと人参と大根と水菜。
サニーレタスにそれぞれの野菜を包んでドレッシングすくって口に放る。
ジュース飲んでる時みたいにサラダを飲んでる感覚になる。
みずみずしい野菜から出る水分がドレッシングと調和して野菜のジュースみたいだ。
冷たい物を取って後は暖かい物。
コーンスープを一口。ふぅ、と息が出るほどのクリーミーさ。
じゃ、次はステーキ。
ナイフを持って切り刻む! と意気込んだが驚く程にナイフは力を入れなくともスルっと入る。
フォークで一切れ取ると口に頬張る。
ナイフで切った時にはスルッと入ったのに歯で噛み切ろうとするとちゃんと弾力があり、僕は今まで食べた事はないような肉だ。
「月夜先輩! すごく美味いです」
「じゃあ私がずっと料理を作ろうかな」
えっ? 食器を離し、お姉さん先輩に向き直る。
「いや! いいんですか!」
これがずっと食べれるなんて最高じゃないか。
僕はお姉さん先輩に真剣な目で頼み込む。
「お願いします』 」
「えっ!? えっ!?」
お姉さん先輩はみるみる顔が真っ赤に染まり、煙を出しそうな勢いで倒れた。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
真実【完結】
真凛 桃
恋愛
自分のせいで事件に巻き込まれた彼女を守るため、命懸けの決断をするイケメン俳優。だが、それがきっかけで2人は別れることに…
それから3年後。イケメン俳優は新たな真実を知ることになる。2人の行方は……
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
春風のカンタービレ
あや
恋愛
モスクワの片隅、雪解けと冬の名残が入り混じる春の公園。
ギターを抱えた少女と、ヴァイオリンを手にした少年が、偶然出会った。
孤独をまとうようにパガニーニを爪弾く、大人びた眼差しのアーシャ。
その音に魅せられたハンガリーからの留学生、ミクローシュ・レメーニは、そっと弓を取る。
年齢も、国も、楽器も違うふたりが、音楽と静かな対話を重ねてゆく。
これは、“音”が導いた出会いと、心をほどいていく恋の、はじまりの物語。
◆物語中に登場するクラシック曲◆
🎼パガニーニ《24の奇想曲》第24番
🎼エルンスト《夏の名残のバラによる変奏曲》
🎼パガニーニ《ヴァイオリンとギターのためのカンタービレ》
🎼タレガ《アルハンブラの思い出》
🎼チャイコフスキー《ヴァイオリン協奏曲 ニ長調》
🎼ロシア民謡《黒い瞳》
🎼ベートーヴェン《ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調》(通称:クロイツェル・ソナタ)
🎼パガニーニ《ソナタ 第6番 作品3-6》
婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
僕の前世は日本人で25歳の営業マン。社畜のように働き、過労死。目が覚めれば妹が大好きだった少女漫画のヒロインを苦しめる悪役令息アドルフ・ヴァレンシュタインとして転生していた。しかも彼はヒロインの婚約者で、最終的にメインヒーローによって国を追放されてしまう運命。そこで僕は運命を回避する為に近い将来彼女に婚約解消を告げ、ヒロインとヒーローの仲を取り持つことに決めた――。
※他サイトでも投稿中
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる