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姫君と、その父と
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地下から引きずり出されて、城の廊下をどれほど歩き回らされたろうか。
縛られたままのナレイは、やはり冷たく固い石の床の上に放り出された。
だが、牢などよりは、遥かに広い。
壁の高いところにある窓からは、外の光が差し込んでいる。
それを見上げるナレイを、冷ややかに見下ろす者たちがいた。
親衛隊の鎧をまとった者もいるが、あらかたは、すっきりした身なりをして、揃いの長いマントに身を包んでいる。
いずれも整った顔立ちの若者であったが、その中でも見覚えのあるのが、おもむろに口を開いた。
「あのまま放っておいても差し支えなかったのですがね……使用人風情に手間をかけることもないのですから」
鎧こそまとっていないが、親衛隊の制服らしいマントを翻して歩み寄ってきたのは、間違いなくヨファだった。
その指図で床に転がされているというのに、ナレイは穏やかに尋ねた。
「どなたですか? そこまでして僕を会わせなくちゃいけないのは」
その問いに答えるかのように、親衛隊たちが一斉に居住まいを正した。
部屋の奥にある扉が、その両脇に控えたマントの若者の手で開かれる。
現れたのは、髪に白いものの混じった中年の男だった。
ヨファがひざまずくと、親衛隊たちは一斉に、それに倣う。
男はそれに目もくれない。
黒光りのする杖を手にナレイの前へつかつかと歩み寄ると、部屋中に響き渡るほどの声で怒鳴りつけた。
「なぜ逃げたか! 何が不満じゃ!」
呆然と見つめるナレイに、男はひたすら罵声を浴びせ続ける。
「あの時、本当ならお前は死んでおったのじゃ。それを助けた余の恩も、その恩も知らずにこのような……!」
怒りがよほど凄まじいのか、脈絡のないことを喚きたてる。
そんな言葉が、長く続くわけがない。
代わりに杖を頭上に掲げると、ナレイの背中めがけて振り下ろした。
その勢いからすると、どうやら杖は徹か何かで出来ているようだった。
こんなもので打たれた日には、身体がいくつあっても足りるまい。
もっとも、明日があるかどうかも定かでないナレイには、そんなことはどうでもいいことかもしれないが。
だが、その杖がナレイの骨を砕くことはなかった。
「お待ちください! お父様!」
開け放たれたままだったとびらの奥から、駆け込んできた者がある。
その姿を見て、ナレイはぽつりとつぶやいた。
「シャハロ……?」
それは、ジュダイヤ王国の姫君、シャハローミであった。
すると、振り上げた杖を下ろせないでいるこの中年男は、他の誰でもない。
「止めるな、娘よ。ヘイリオルデが国王として、この不届きものを打ち懲らそうというのだ」
だが、父王に咎められて聞くようなシャハロではない。
ナレイの背中に覆いかぶさると、ジュダイヤの国王に向かって哀願した。
「お許しください! 全ては私が!」
それでも、ジュダイヤの国王ヘイリオルデの怒りが収まることはない。
鉄の杖を振り上げたまま、足下の娘を叱り飛ばした。
「離れよ、シャハローミ! いかに幼き頃は共に遊び暮らしたとはいえ、此度の過ちは、この、身分の違いを弁えぬ使用人の落度である!」
シャハロは身体の下にナレイを庇ったまま、父王を見据えた。
静かに、しかし、毅然として言い放つ。
「いいえ、それは姫の立場に考えが及ばなかった私の至らなさから起こったこと。お怒りはごもっともです、ですから私をお打ちください」
縛られたままのナレイは、やはり冷たく固い石の床の上に放り出された。
だが、牢などよりは、遥かに広い。
壁の高いところにある窓からは、外の光が差し込んでいる。
それを見上げるナレイを、冷ややかに見下ろす者たちがいた。
親衛隊の鎧をまとった者もいるが、あらかたは、すっきりした身なりをして、揃いの長いマントに身を包んでいる。
いずれも整った顔立ちの若者であったが、その中でも見覚えのあるのが、おもむろに口を開いた。
「あのまま放っておいても差し支えなかったのですがね……使用人風情に手間をかけることもないのですから」
鎧こそまとっていないが、親衛隊の制服らしいマントを翻して歩み寄ってきたのは、間違いなくヨファだった。
その指図で床に転がされているというのに、ナレイは穏やかに尋ねた。
「どなたですか? そこまでして僕を会わせなくちゃいけないのは」
その問いに答えるかのように、親衛隊たちが一斉に居住まいを正した。
部屋の奥にある扉が、その両脇に控えたマントの若者の手で開かれる。
現れたのは、髪に白いものの混じった中年の男だった。
ヨファがひざまずくと、親衛隊たちは一斉に、それに倣う。
男はそれに目もくれない。
黒光りのする杖を手にナレイの前へつかつかと歩み寄ると、部屋中に響き渡るほどの声で怒鳴りつけた。
「なぜ逃げたか! 何が不満じゃ!」
呆然と見つめるナレイに、男はひたすら罵声を浴びせ続ける。
「あの時、本当ならお前は死んでおったのじゃ。それを助けた余の恩も、その恩も知らずにこのような……!」
怒りがよほど凄まじいのか、脈絡のないことを喚きたてる。
そんな言葉が、長く続くわけがない。
代わりに杖を頭上に掲げると、ナレイの背中めがけて振り下ろした。
その勢いからすると、どうやら杖は徹か何かで出来ているようだった。
こんなもので打たれた日には、身体がいくつあっても足りるまい。
もっとも、明日があるかどうかも定かでないナレイには、そんなことはどうでもいいことかもしれないが。
だが、その杖がナレイの骨を砕くことはなかった。
「お待ちください! お父様!」
開け放たれたままだったとびらの奥から、駆け込んできた者がある。
その姿を見て、ナレイはぽつりとつぶやいた。
「シャハロ……?」
それは、ジュダイヤ王国の姫君、シャハローミであった。
すると、振り上げた杖を下ろせないでいるこの中年男は、他の誰でもない。
「止めるな、娘よ。ヘイリオルデが国王として、この不届きものを打ち懲らそうというのだ」
だが、父王に咎められて聞くようなシャハロではない。
ナレイの背中に覆いかぶさると、ジュダイヤの国王に向かって哀願した。
「お許しください! 全ては私が!」
それでも、ジュダイヤの国王ヘイリオルデの怒りが収まることはない。
鉄の杖を振り上げたまま、足下の娘を叱り飛ばした。
「離れよ、シャハローミ! いかに幼き頃は共に遊び暮らしたとはいえ、此度の過ちは、この、身分の違いを弁えぬ使用人の落度である!」
シャハロは身体の下にナレイを庇ったまま、父王を見据えた。
静かに、しかし、毅然として言い放つ。
「いいえ、それは姫の立場に考えが及ばなかった私の至らなさから起こったこと。お怒りはごもっともです、ですから私をお打ちください」
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