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初めての戦いと、仲間の信頼
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鳴り物や叩き棒を抱えたナレイたちは、夜闇に紛れて、ケイファドキャの陣地の前まで近づくことができた。
何の戦闘訓練も受けていない割には、物音ひとつたてることがなかった。
見つかって殺されても仕方がないという扱いをされたことが、行動を極端なまでに慎重にしたのだった。
自然と、もともと槍担ぎだった若者たちは、ナレイの周りに密集する。
「松明をハシゴの端に括りつけて、お互いに火を点け合うんだ」
ナレイが囁く。
ハシゴというのは、昼間に人数分だけ作った横長の仕掛けのことだ。
ジュダイヤの陣地を出るとき、これを全員が背負って出た。
邪魔ではあったが、ときどき暗闇の中でぶつかり合うので、お互いの位置を知ることができたのだった。
最初の1本に火がつけられると、それが次々に松明の明かりを灯していく。
やがて、そこにはひとりあたり2本の松明を背負った囮部隊ができあがった。
最後の1本には火をつけず、手に持っている。
ナレイが合図する。
「行くぞ!」
思い切り声を張り上げて、若者たちは銅鑼や鉦を打ち鳴らした。
だが、陣地にかがり火が焚かれることはなかった。
おかげで、土塁の前に人がいるかどうかも分からない。
庶民の新兵たちは、鳴り物を叩きながら囁き交わした。
「話が違うぞ」
「どうすりゃいいんだ」
「逃げるか? このまま」
だが、ナレイは全員の背後を歩き回って告げた。
「僕たちを疑ってるんだ……何かの罠じゃないかって」
暗闇の中では、2倍の人数に見えてもおかしくない。
ケイファドキャの陣地でも、警戒していると見ることができた。
そのうち、何かが風を切る音がした。
新兵たちのひとりが悲鳴を上げる。
足下に、矢が突き刺さったのだ。
途端に、大混乱が始まった。
「このままじゃ死ぬぞ!」
「いい的じゃねえか、俺たち!」
「逃げるぞ!」
そこで、ナレイは叫んだ。
「ダメだ! 囮をやめて帰ったら、味方に殺される!
どうすんだよ、という非難の声があちこちから聞こえた。
ナレイはしばし口を閉ざしたが、やがて、全員の前を歩き回って告げた。
「背中を丸めるんだ! 目を伏せろ! 何も見るな!」
新兵たちの混乱は収まっていく。
次々に飛んで来る矢は、松明を狙っているのか、新兵たちをかすめていった。
そのうち、かがり火の前を行き来する人影が見えるようになった。
ナレイが全員に合図する。
「今だ!」
土塁の向こうから、松明を掲げた兵士たちが駆け出してくる。
ナレイたちは、一目散に逃げだした。
ケイファドキャの兵士たちの足は、それほど早くなかった。
いや、武装らしい武装をしていない分、ナレイたちのほうが走りやすかったと言ったほうがいい。
だが、恐怖に駆られた新兵たちに、そんなことが分かるはずもない。
「来るよ! 来るよ!」
「追いつかれる!」
「死んじゃうよ!」
そのうち、ひとりが転んだらしい。
松明が、地面に倒れるのが見えた。
ナレイは、ハシゴを投げ捨てた。
まだ燃えている松明に、手に持っている分を近づける。
火が燃え移ると、再び駆け出した。
「走れ!」
叫ぶまでもなかった。
新兵たちは、ナレイの真似をして、ハシゴを放り出していた。
手にした松明と、ケイファドキャの兵士の間が、また開く。
地面に投げ捨てられたハシゴの松明が、倒れたジュダイヤの兵士と勘違いされたのだ。
それを押さえ込みにかかったケイファドキャの兵士は、すぐに、騙されたことに気付いて立ち上がる。
だが、そのときにはもう、死に物狂いで逃げる新兵たちは、随分と先へ進んでいた。
その向こうで、かがり火の明かりが灯る。
ナレイは新兵たちによびかけた。
「あっちだ!」
ジュダイヤ側の陣地だった。
だが、そのときにはもう、蹄の音が背後まで迫っていた。
新兵たちが叫ぶ。
「騎兵だ!」
ナレイは松明を投げ捨てた。
小剣を抜いて、相手をまっすぐ見据える。
だが、馬はまっしぐらに駆けてきた。
動物と人間の子どもには、ハッタリが利かないのだった。
だが、ナレイの頭上から槍が繰り出されることはなかった。
騎兵が怯えて、馬の手綱を引いたのだ。
すかさず、ナレイは小剣を捨てて、味方の陣地へとまっしぐらに走った。
さっきの、風を切る音がした。
悲鳴と共に、人が馬から落ちる音がする。
そこで初めて、怯えた馬がいななく音がした。
「突撃!」
どこかで、ヨファの叫ぶ声がする。
ケイファドキャの騎兵が落馬していく。
いつのまにか戻ってきていた別動隊が、背後から襲いかかったのだ。
ジュダイヤの陣地から、武装した兵士と騎兵の群れが、一斉に攻撃を仕掛けた。
ナレイは、新兵たちの姿を探しながら呼びかける。
「陣地に入ろう! もう、大丈夫だ!」
夜が明ける前に、ケイファドキャの最前線は蹴散らされた。
生き残った者たちは、流れの速い河を渡って撤退していった。
ヨファたちは、明るくなった頃に戻ってきた。
それまでのことを、ナレイたちは知らない。
地面にひっくり返って寝ていたからだ。
凱旋したヨファたちは、後詰めの兵士たちに歓呼の声で迎えられた。
だが、新兵たちは違う。
「やった!」
「生きてるよ、俺たち!」
「すげえよ、お前! ええと、名前は……」
「俺、知ってる! ナレイバウスだろ!」
だが、ヨファの馬の轡を取った使用人は、照れ笑いと共に答えた。
「ナレイでいいよ」
しばらくの間、新兵たちは高らかに、ナレイの名を呼び続けた。
何の戦闘訓練も受けていない割には、物音ひとつたてることがなかった。
見つかって殺されても仕方がないという扱いをされたことが、行動を極端なまでに慎重にしたのだった。
自然と、もともと槍担ぎだった若者たちは、ナレイの周りに密集する。
「松明をハシゴの端に括りつけて、お互いに火を点け合うんだ」
ナレイが囁く。
ハシゴというのは、昼間に人数分だけ作った横長の仕掛けのことだ。
ジュダイヤの陣地を出るとき、これを全員が背負って出た。
邪魔ではあったが、ときどき暗闇の中でぶつかり合うので、お互いの位置を知ることができたのだった。
最初の1本に火がつけられると、それが次々に松明の明かりを灯していく。
やがて、そこにはひとりあたり2本の松明を背負った囮部隊ができあがった。
最後の1本には火をつけず、手に持っている。
ナレイが合図する。
「行くぞ!」
思い切り声を張り上げて、若者たちは銅鑼や鉦を打ち鳴らした。
だが、陣地にかがり火が焚かれることはなかった。
おかげで、土塁の前に人がいるかどうかも分からない。
庶民の新兵たちは、鳴り物を叩きながら囁き交わした。
「話が違うぞ」
「どうすりゃいいんだ」
「逃げるか? このまま」
だが、ナレイは全員の背後を歩き回って告げた。
「僕たちを疑ってるんだ……何かの罠じゃないかって」
暗闇の中では、2倍の人数に見えてもおかしくない。
ケイファドキャの陣地でも、警戒していると見ることができた。
そのうち、何かが風を切る音がした。
新兵たちのひとりが悲鳴を上げる。
足下に、矢が突き刺さったのだ。
途端に、大混乱が始まった。
「このままじゃ死ぬぞ!」
「いい的じゃねえか、俺たち!」
「逃げるぞ!」
そこで、ナレイは叫んだ。
「ダメだ! 囮をやめて帰ったら、味方に殺される!
どうすんだよ、という非難の声があちこちから聞こえた。
ナレイはしばし口を閉ざしたが、やがて、全員の前を歩き回って告げた。
「背中を丸めるんだ! 目を伏せろ! 何も見るな!」
新兵たちの混乱は収まっていく。
次々に飛んで来る矢は、松明を狙っているのか、新兵たちをかすめていった。
そのうち、かがり火の前を行き来する人影が見えるようになった。
ナレイが全員に合図する。
「今だ!」
土塁の向こうから、松明を掲げた兵士たちが駆け出してくる。
ナレイたちは、一目散に逃げだした。
ケイファドキャの兵士たちの足は、それほど早くなかった。
いや、武装らしい武装をしていない分、ナレイたちのほうが走りやすかったと言ったほうがいい。
だが、恐怖に駆られた新兵たちに、そんなことが分かるはずもない。
「来るよ! 来るよ!」
「追いつかれる!」
「死んじゃうよ!」
そのうち、ひとりが転んだらしい。
松明が、地面に倒れるのが見えた。
ナレイは、ハシゴを投げ捨てた。
まだ燃えている松明に、手に持っている分を近づける。
火が燃え移ると、再び駆け出した。
「走れ!」
叫ぶまでもなかった。
新兵たちは、ナレイの真似をして、ハシゴを放り出していた。
手にした松明と、ケイファドキャの兵士の間が、また開く。
地面に投げ捨てられたハシゴの松明が、倒れたジュダイヤの兵士と勘違いされたのだ。
それを押さえ込みにかかったケイファドキャの兵士は、すぐに、騙されたことに気付いて立ち上がる。
だが、そのときにはもう、死に物狂いで逃げる新兵たちは、随分と先へ進んでいた。
その向こうで、かがり火の明かりが灯る。
ナレイは新兵たちによびかけた。
「あっちだ!」
ジュダイヤ側の陣地だった。
だが、そのときにはもう、蹄の音が背後まで迫っていた。
新兵たちが叫ぶ。
「騎兵だ!」
ナレイは松明を投げ捨てた。
小剣を抜いて、相手をまっすぐ見据える。
だが、馬はまっしぐらに駆けてきた。
動物と人間の子どもには、ハッタリが利かないのだった。
だが、ナレイの頭上から槍が繰り出されることはなかった。
騎兵が怯えて、馬の手綱を引いたのだ。
すかさず、ナレイは小剣を捨てて、味方の陣地へとまっしぐらに走った。
さっきの、風を切る音がした。
悲鳴と共に、人が馬から落ちる音がする。
そこで初めて、怯えた馬がいななく音がした。
「突撃!」
どこかで、ヨファの叫ぶ声がする。
ケイファドキャの騎兵が落馬していく。
いつのまにか戻ってきていた別動隊が、背後から襲いかかったのだ。
ジュダイヤの陣地から、武装した兵士と騎兵の群れが、一斉に攻撃を仕掛けた。
ナレイは、新兵たちの姿を探しながら呼びかける。
「陣地に入ろう! もう、大丈夫だ!」
夜が明ける前に、ケイファドキャの最前線は蹴散らされた。
生き残った者たちは、流れの速い河を渡って撤退していった。
ヨファたちは、明るくなった頃に戻ってきた。
それまでのことを、ナレイたちは知らない。
地面にひっくり返って寝ていたからだ。
凱旋したヨファたちは、後詰めの兵士たちに歓呼の声で迎えられた。
だが、新兵たちは違う。
「やった!」
「生きてるよ、俺たち!」
「すげえよ、お前! ええと、名前は……」
「俺、知ってる! ナレイバウスだろ!」
だが、ヨファの馬の轡を取った使用人は、照れ笑いと共に答えた。
「ナレイでいいよ」
しばらくの間、新兵たちは高らかに、ナレイの名を呼び続けた。
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