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第三章 ルーセット編
ライアを仲間にしますか? はい・いいえ
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「人族のくせに、上級精霊と一度に四体も契約した相手に興味を持ったんだって。でも、実際にその相手を見ることは出来なくて、あれこれ考えてるうちに、なんかこじらせちゃったみたいなのよ」
しかも、だ。モーリンたちが言うには、契約した精霊は土地に縛られることがなくなるってことで、そっちも魅力的だったみたいだ。んで、基本的に考えが子供だから、一回思い込んだらまっしぐら。手当たり次第に人を見たら突撃して、それでもお目当ての私はいなくて――やっとのことで本人を見つけたら、もう我慢できなくて、いきなり攫っちゃった、と。
「おい、それは……もし、お前がここを通りがからなかったらどうするつもりだったんだ?」
「その時は――考えたくないけど、このままずっと……?」
「……あり得ねぇ。どんだけの考えなしなんだよ」
「そもそもの話。そんな扱いを受けて、どうしてレイ殿が自分と契約するなどと思えるのだ?」
「だよねぇ」
その辺が、考え無しな子供な所以だろう。シロの時も、お子ちゃまさに呆れたものだが、今回はその上を行く。ふと気が付いてシロをみるが――あんたが呆れた顔をするんじゃありません。とはいえ、これほどまでにひどくはなかったのも確かだけどね。
「で、どうするんだ? こいつと契約してやるのか?」
「うーん……」
端的に問われて、口ごもる。ロウの台詞は上から目線だけど、この場合は当然だ。
「本音を言えば、ちょっと……」
躊躇う私は悪くないと思う。普通なら、精霊と契約できる滅多にない好機ってことで飛びつくんだろうけど、私にはもうモーリン達がいる。元々、そのモーリン達だって、あっちの方から名前を明かしてきて、何となく契約することになっちゃったわけだから、私が希望してやったんじゃないしね。贅沢だって叱られそうだが、本当の事なんだから仕方ない。ああ、勿論、モーリンたちと契約したことを後悔してるわけじゃないよ。
「きゅあぅ! くぉ……くぅぅんっ」
あー、黒豹君が焦った声を出す。同時に、これもまた大慌てな思念が届く。
今まで黙っていたのはモーリンたちが怖かった所為らしいが、ここに至ってそんなことは言っていられなくなったようだ。
――ごめん、もうしない。謝る! 言うこと聞く、お願い。連れて行くっ。
モーリンに踏まれてなかったら、土下座する勢いの謝罪と懇願の嵐だ。うむむ、こんな姿を見せられると、ちょっと心が揺らいでしまう。しかし、なぁ……。
悩んでいたら、意外なところからフォローが入った。
「なぁ、レイちゃん。俺がこんなこと言うのはお門違いかもしれねぇが……良かったら、此奴、つれていってやらねぇか?」
「ガルドさん?」
「おい、ガルドっ」
「だってよ、考えてみろよ。このまま此奴をここに残したら、ちっとの間はおとなしくしてるかもしれねぇが、また暴れ始めたらどうするよ。ヤケをおこした上級精霊の相手なんざ、俺はまっぴらごめんだぜ」
「あー……それは、確かに……」
私達にはモーリン達がいるけど、他の人はそうじゃない。今でさえ、妙な噂がある森ってことになってきてるのに、これがさらに実害まで起きる、となれば周りの人への迷惑はハンパなかろう。現に、いまだってカーウェンさん達みたいに、わざわざ遠回りして旅をする人がいっぱいいるのだ。
だが……この子のしりぬぐいを私たちがやる、というのもなんか違う気がする。
「クウ?」
「ぎゅあんっ?! きゅぅうんっ」
「……なんといっているのだ、レイ殿?」
「モーリンがね。『なら、封印しようか?』って。で、その子が『それだけはやめてっ』って」
「そう言う手もあんのか……」
「モーリンだけじゃなくて、リ・オたちも協力すればできるみたいだね」
同じ上級精霊同士だが、一対四。しかもモーリン達はそれなりに経験値を積んだベテラン(?)精霊だ。ペーペーの黒豹に勝ち目はないだろう。封印されると、意識はそのままだが、その場所から動けなくなり、周囲への影響力も大幅にそがれてしまう様だ。それを知って、黒豹が涙目になって『やめてください』と叫んでる。
「まぁまぁ、モーリン。少し落ち着こう? そこまでは私も求めてないんだし」
やる気(殺る気?)満々のモーリンたちを宥める。その間にも、必死になった黒豹から、こっちが訊いてもいないのにあれこれと赤裸々な告白が届いていた。契約に至っていないので切れ切れの単語で、想像力を駆使し、モーリンたちの補足などを加えたうえでまとめると、以下のような内容になる。
どうやら、上級精霊になってしっかりとした自我が芽生えたのはいいものの、その変化があまりにも急で、本人も戸惑っていたようだ。本来ならばもっと時間をかけて、成熟した状態で生じるはずの意識がえらく感情に引きずられてしまうらしい。おかげで、噂(?)を聞いて私に興味を持った途端、他の事が考えられなくなってしまった。見てみたい、あってみたい、話をしてみたい――それが、契約したい、一緒に広い世界を巡ってみたい、になるのはあっという間だったそうだ。だが、自分はこの森からあまり離れられないし、何時まで経っても私は来ないし――って、私がこっちに来たのは二年前だぞ。で、モーリン達と契約したのが一年半くらい前だ。精霊は寿命って物がないらしいが、それにしてもちょっと我慢がきかなすぎないかい?
「……まぁ、確かに野放しにしたらマズそうなのは確かだよねぇ。けど、流石に封印って言うのもかわいそうだし……」
「お前なら、そう言うだろうと思ってはいたがな……」
いやいや、一応悩んでの結論ですから。そんな、最初からあきらめてたような言い方は不本意ですよ、ロウさん。それにちゃんと対策だって考えたんだよ?
きっちり話をするためにも、一旦、モーリン達に黒豹の上からどいてもらう。ほっとした様子で起き上り、再度、お座りのポーズになったところで話を再開だ。
「もし君と契約するとして――モーリン達とのは、ほぼ白紙、っていうか制限無しだったけど、今回はそうもいかないからね?」
本来、精霊との契約って言うのは、あちらに受け入れてもらえるだけで御の字。こっちから条件を提示するなんてのは前代未聞なんだけど、今回は話は別だ。選択肢は私にあるんだし、それにこんな子供――というか幼児みたいなのを野放しなんて怖くてできません。
「くぉん?」
「私の許可なく姿を見せない。同じく、許可なく力を使わない。でもって、もし許可を出しても、出来るだけ周囲に迷惑が掛からないようにすること――これが守れる?」
「うみゃっ!」
「……ホントだね? この条件で契約するんだから、後から文句を言ってもダメだよ?」
「うにゃっ」
「……話がまとまったようだな」
ため息を吐かないでってば、ロウ。同情する余地はあったんだしさぁ。
「んじゃ、名前を教えてくれるかな?」
とりあえず、ロウの様子はスルーして、黒豹に問いかける。すると、すぐに返事が戻って来た。
『僕は、ライア』
うむ、そのまんまのお名前ありがとう。
「了解、ライア。私はレイガだよ。これからよろしくね」
お互いの名前を交換すれば、それで契約は成立だ。その瞬間、ライアの体がぱぁっと光った。
「おい、レイちゃん。こいつ、縮んだぞ?」
「……うん」
で、その光が消えた後には、やや小ぶりになったライアが前と同じポーズでお座りしてた。
「なんか、人と契約したことで経験値? みたいなのが増えて、ちょっとだけ魔法の制御が上手くなったみたいだねぇ」
「上手くなると縮むのかよ……」
「そうみたい」
モーリン達サイズになるまでにはまだまだ遠そうだけどね。精霊の育成(教育?)なんてのは荷が重いが、そこはモーリン達も手伝ってくれるだろう。
「まぁ、でもこれで、この辺りもまた穏やかになるんだし。戦力強化にもなったんだから、いいってことにしとこうよ」
「お前は……その能天気さをどうにかしろ」
「そういうなって。これでこそ、レイちゃんだろう?」
「五種の精霊使いなど、聞いたこともない。流石はレイ殿だ」
そんなことを言い合いながら、馬にまたがる。
ちょっと足止めを食っちゃったけど、森を抜けたら、目指すルーセットは目の前だ。
ディルクさんとは久しぶりだけど、私の事を覚えて居てくれるかな?
その後は、森を抜けるまで雨に降られることもなかった。あの大木があったところから道まで戻るのに多少苦労はしたものの、あっという間に森を抜け、今はカーウェンさんのお家があるらしき宿場の少し手前だ。
シロにまたがって、緩やかな速度で進んでいる私に、ちょっと下の方からモーリンが声をかけてくる。
「クウッ」
「うん、そうだよねぇ。なるべく早く教えてやってね」
「土精は、何といっているのだ? レイ殿」
「ああ、あのね――ライアに、姿を消す方法を教えるって言ってくれてるのよ」
「あー……」
「……確かに、早めにやってもらわねばならんな」
三頭の馬の間というか、前というか、後ろというか……とにかく大はしゃぎで私たちの周りを駆け回っているライアと、その背中に乗っかったモーリンを見ながら、一斉にため息を吐く。
他は晴天なのにそこだけ雨が降り、正体不明の魔物も跋扈する怪しい場所――そんな噂のある森だったが、ライアとの契約を済ませたことで、以後はごくごく普通の森に戻るだろう。噂は直ぐには消えないかもしれないけど、怪異が収まれば自然とそれも忘れられていくはずだ。またしても、厄介なお子ちゃまを抱え込む羽目にはなったけど、基本的にライアは悪い子じゃないようだし、きちんと教育(養育?)すれば、立派な精霊になってくれるだろう――なってくれるよね? ってことで、万事丸く収まるはずだった。
しかーし、である。その契約には落とし穴があったのだ。
私の許可なく姿を見せない。許可なく力を使わない。許可を出しても、出来るだけ周囲に迷惑が掛からないようにする。
これが私がライアと契約するにあたって出した条件だ。ライアも素直にそれに応じてくれたので、本来ならばこれで一件落着になるんだが、そうは問屋が卸さなかった。契約してからわかったんだけど、実は、ライアったら『姿を消す』ことが出来ないんだと……。
そのことが判明したのは、すぐ後だった。
無事(?)に新メンバーも加わったことだし、改めて出発しようとして、私はライアに姿を隠してくれるように頼んだ。そしたら、戻って来たのが『隠れる? どうやって?』で、ある。
思わず、頭を抱えたよ。
そして、毎度、モーリンたちの補足説明が入り、ライアは落雷の衝撃で、中級精霊から上級になったんだけど、その時に今の体を得た。それまでは『その手の感覚』を持った人にしかわからなかったのが、誰にでも見える実体を持った、と言う事だ。しかし、上級精霊はそうそう人目につくことは無い。数が少ないというのも勿論あるんだけど、普段は姿を消しているからだ。モーリンたちは普通に出たり消えたりするから、ライアだって当然、それをやれると思うよね。ところが、だ。
『姿、消す? 隠れる? わからない』
「……って、言ってます……」
「なんだとっ?」
何度も言うが、ライアは急に上級精霊になっちゃった。普通はもっと時間をかけて(以下略)。で、その間に自然に実体を消したり、また現したりするのも覚えていく。ところがライアにはその時間が与えられず、したがってそう言う技能を身に着けられなかったようだ。おかげで、今の体になってからはずーっとそのまんま。だから、あっちこっちで目撃されてたんだね。なるほど、納得――してる場合じゃない。
モーリン達サイズならまだしも、ライアは目立ちすぎる。どうすりゃいいのよ。森を抜けてすぐに道から外れて進んではいるから、今は人目にはついてないけど、目撃された時の事を考えると頭が痛い。旅の間は野営で凌ぐにしても、ルーセットの街に入る時はそうもいかんだろうしねぇ。ペットです、で誤魔化せるだろうか……? とにかく、一刻も早くその技術を覚えてくれることを祈ります。
しかも、だ。モーリンたちが言うには、契約した精霊は土地に縛られることがなくなるってことで、そっちも魅力的だったみたいだ。んで、基本的に考えが子供だから、一回思い込んだらまっしぐら。手当たり次第に人を見たら突撃して、それでもお目当ての私はいなくて――やっとのことで本人を見つけたら、もう我慢できなくて、いきなり攫っちゃった、と。
「おい、それは……もし、お前がここを通りがからなかったらどうするつもりだったんだ?」
「その時は――考えたくないけど、このままずっと……?」
「……あり得ねぇ。どんだけの考えなしなんだよ」
「そもそもの話。そんな扱いを受けて、どうしてレイ殿が自分と契約するなどと思えるのだ?」
「だよねぇ」
その辺が、考え無しな子供な所以だろう。シロの時も、お子ちゃまさに呆れたものだが、今回はその上を行く。ふと気が付いてシロをみるが――あんたが呆れた顔をするんじゃありません。とはいえ、これほどまでにひどくはなかったのも確かだけどね。
「で、どうするんだ? こいつと契約してやるのか?」
「うーん……」
端的に問われて、口ごもる。ロウの台詞は上から目線だけど、この場合は当然だ。
「本音を言えば、ちょっと……」
躊躇う私は悪くないと思う。普通なら、精霊と契約できる滅多にない好機ってことで飛びつくんだろうけど、私にはもうモーリン達がいる。元々、そのモーリン達だって、あっちの方から名前を明かしてきて、何となく契約することになっちゃったわけだから、私が希望してやったんじゃないしね。贅沢だって叱られそうだが、本当の事なんだから仕方ない。ああ、勿論、モーリンたちと契約したことを後悔してるわけじゃないよ。
「きゅあぅ! くぉ……くぅぅんっ」
あー、黒豹君が焦った声を出す。同時に、これもまた大慌てな思念が届く。
今まで黙っていたのはモーリンたちが怖かった所為らしいが、ここに至ってそんなことは言っていられなくなったようだ。
――ごめん、もうしない。謝る! 言うこと聞く、お願い。連れて行くっ。
モーリンに踏まれてなかったら、土下座する勢いの謝罪と懇願の嵐だ。うむむ、こんな姿を見せられると、ちょっと心が揺らいでしまう。しかし、なぁ……。
悩んでいたら、意外なところからフォローが入った。
「なぁ、レイちゃん。俺がこんなこと言うのはお門違いかもしれねぇが……良かったら、此奴、つれていってやらねぇか?」
「ガルドさん?」
「おい、ガルドっ」
「だってよ、考えてみろよ。このまま此奴をここに残したら、ちっとの間はおとなしくしてるかもしれねぇが、また暴れ始めたらどうするよ。ヤケをおこした上級精霊の相手なんざ、俺はまっぴらごめんだぜ」
「あー……それは、確かに……」
私達にはモーリン達がいるけど、他の人はそうじゃない。今でさえ、妙な噂がある森ってことになってきてるのに、これがさらに実害まで起きる、となれば周りの人への迷惑はハンパなかろう。現に、いまだってカーウェンさん達みたいに、わざわざ遠回りして旅をする人がいっぱいいるのだ。
だが……この子のしりぬぐいを私たちがやる、というのもなんか違う気がする。
「クウ?」
「ぎゅあんっ?! きゅぅうんっ」
「……なんといっているのだ、レイ殿?」
「モーリンがね。『なら、封印しようか?』って。で、その子が『それだけはやめてっ』って」
「そう言う手もあんのか……」
「モーリンだけじゃなくて、リ・オたちも協力すればできるみたいだね」
同じ上級精霊同士だが、一対四。しかもモーリン達はそれなりに経験値を積んだベテラン(?)精霊だ。ペーペーの黒豹に勝ち目はないだろう。封印されると、意識はそのままだが、その場所から動けなくなり、周囲への影響力も大幅にそがれてしまう様だ。それを知って、黒豹が涙目になって『やめてください』と叫んでる。
「まぁまぁ、モーリン。少し落ち着こう? そこまでは私も求めてないんだし」
やる気(殺る気?)満々のモーリンたちを宥める。その間にも、必死になった黒豹から、こっちが訊いてもいないのにあれこれと赤裸々な告白が届いていた。契約に至っていないので切れ切れの単語で、想像力を駆使し、モーリンたちの補足などを加えたうえでまとめると、以下のような内容になる。
どうやら、上級精霊になってしっかりとした自我が芽生えたのはいいものの、その変化があまりにも急で、本人も戸惑っていたようだ。本来ならばもっと時間をかけて、成熟した状態で生じるはずの意識がえらく感情に引きずられてしまうらしい。おかげで、噂(?)を聞いて私に興味を持った途端、他の事が考えられなくなってしまった。見てみたい、あってみたい、話をしてみたい――それが、契約したい、一緒に広い世界を巡ってみたい、になるのはあっという間だったそうだ。だが、自分はこの森からあまり離れられないし、何時まで経っても私は来ないし――って、私がこっちに来たのは二年前だぞ。で、モーリン達と契約したのが一年半くらい前だ。精霊は寿命って物がないらしいが、それにしてもちょっと我慢がきかなすぎないかい?
「……まぁ、確かに野放しにしたらマズそうなのは確かだよねぇ。けど、流石に封印って言うのもかわいそうだし……」
「お前なら、そう言うだろうと思ってはいたがな……」
いやいや、一応悩んでの結論ですから。そんな、最初からあきらめてたような言い方は不本意ですよ、ロウさん。それにちゃんと対策だって考えたんだよ?
きっちり話をするためにも、一旦、モーリン達に黒豹の上からどいてもらう。ほっとした様子で起き上り、再度、お座りのポーズになったところで話を再開だ。
「もし君と契約するとして――モーリン達とのは、ほぼ白紙、っていうか制限無しだったけど、今回はそうもいかないからね?」
本来、精霊との契約って言うのは、あちらに受け入れてもらえるだけで御の字。こっちから条件を提示するなんてのは前代未聞なんだけど、今回は話は別だ。選択肢は私にあるんだし、それにこんな子供――というか幼児みたいなのを野放しなんて怖くてできません。
「くぉん?」
「私の許可なく姿を見せない。同じく、許可なく力を使わない。でもって、もし許可を出しても、出来るだけ周囲に迷惑が掛からないようにすること――これが守れる?」
「うみゃっ!」
「……ホントだね? この条件で契約するんだから、後から文句を言ってもダメだよ?」
「うにゃっ」
「……話がまとまったようだな」
ため息を吐かないでってば、ロウ。同情する余地はあったんだしさぁ。
「んじゃ、名前を教えてくれるかな?」
とりあえず、ロウの様子はスルーして、黒豹に問いかける。すると、すぐに返事が戻って来た。
『僕は、ライア』
うむ、そのまんまのお名前ありがとう。
「了解、ライア。私はレイガだよ。これからよろしくね」
お互いの名前を交換すれば、それで契約は成立だ。その瞬間、ライアの体がぱぁっと光った。
「おい、レイちゃん。こいつ、縮んだぞ?」
「……うん」
で、その光が消えた後には、やや小ぶりになったライアが前と同じポーズでお座りしてた。
「なんか、人と契約したことで経験値? みたいなのが増えて、ちょっとだけ魔法の制御が上手くなったみたいだねぇ」
「上手くなると縮むのかよ……」
「そうみたい」
モーリン達サイズになるまでにはまだまだ遠そうだけどね。精霊の育成(教育?)なんてのは荷が重いが、そこはモーリン達も手伝ってくれるだろう。
「まぁ、でもこれで、この辺りもまた穏やかになるんだし。戦力強化にもなったんだから、いいってことにしとこうよ」
「お前は……その能天気さをどうにかしろ」
「そういうなって。これでこそ、レイちゃんだろう?」
「五種の精霊使いなど、聞いたこともない。流石はレイ殿だ」
そんなことを言い合いながら、馬にまたがる。
ちょっと足止めを食っちゃったけど、森を抜けたら、目指すルーセットは目の前だ。
ディルクさんとは久しぶりだけど、私の事を覚えて居てくれるかな?
その後は、森を抜けるまで雨に降られることもなかった。あの大木があったところから道まで戻るのに多少苦労はしたものの、あっという間に森を抜け、今はカーウェンさんのお家があるらしき宿場の少し手前だ。
シロにまたがって、緩やかな速度で進んでいる私に、ちょっと下の方からモーリンが声をかけてくる。
「クウッ」
「うん、そうだよねぇ。なるべく早く教えてやってね」
「土精は、何といっているのだ? レイ殿」
「ああ、あのね――ライアに、姿を消す方法を教えるって言ってくれてるのよ」
「あー……」
「……確かに、早めにやってもらわねばならんな」
三頭の馬の間というか、前というか、後ろというか……とにかく大はしゃぎで私たちの周りを駆け回っているライアと、その背中に乗っかったモーリンを見ながら、一斉にため息を吐く。
他は晴天なのにそこだけ雨が降り、正体不明の魔物も跋扈する怪しい場所――そんな噂のある森だったが、ライアとの契約を済ませたことで、以後はごくごく普通の森に戻るだろう。噂は直ぐには消えないかもしれないけど、怪異が収まれば自然とそれも忘れられていくはずだ。またしても、厄介なお子ちゃまを抱え込む羽目にはなったけど、基本的にライアは悪い子じゃないようだし、きちんと教育(養育?)すれば、立派な精霊になってくれるだろう――なってくれるよね? ってことで、万事丸く収まるはずだった。
しかーし、である。その契約には落とし穴があったのだ。
私の許可なく姿を見せない。許可なく力を使わない。許可を出しても、出来るだけ周囲に迷惑が掛からないようにする。
これが私がライアと契約するにあたって出した条件だ。ライアも素直にそれに応じてくれたので、本来ならばこれで一件落着になるんだが、そうは問屋が卸さなかった。契約してからわかったんだけど、実は、ライアったら『姿を消す』ことが出来ないんだと……。
そのことが判明したのは、すぐ後だった。
無事(?)に新メンバーも加わったことだし、改めて出発しようとして、私はライアに姿を隠してくれるように頼んだ。そしたら、戻って来たのが『隠れる? どうやって?』で、ある。
思わず、頭を抱えたよ。
そして、毎度、モーリンたちの補足説明が入り、ライアは落雷の衝撃で、中級精霊から上級になったんだけど、その時に今の体を得た。それまでは『その手の感覚』を持った人にしかわからなかったのが、誰にでも見える実体を持った、と言う事だ。しかし、上級精霊はそうそう人目につくことは無い。数が少ないというのも勿論あるんだけど、普段は姿を消しているからだ。モーリンたちは普通に出たり消えたりするから、ライアだって当然、それをやれると思うよね。ところが、だ。
『姿、消す? 隠れる? わからない』
「……って、言ってます……」
「なんだとっ?」
何度も言うが、ライアは急に上級精霊になっちゃった。普通はもっと時間をかけて(以下略)。で、その間に自然に実体を消したり、また現したりするのも覚えていく。ところがライアにはその時間が与えられず、したがってそう言う技能を身に着けられなかったようだ。おかげで、今の体になってからはずーっとそのまんま。だから、あっちこっちで目撃されてたんだね。なるほど、納得――してる場合じゃない。
モーリン達サイズならまだしも、ライアは目立ちすぎる。どうすりゃいいのよ。森を抜けてすぐに道から外れて進んではいるから、今は人目にはついてないけど、目撃された時の事を考えると頭が痛い。旅の間は野営で凌ぐにしても、ルーセットの街に入る時はそうもいかんだろうしねぇ。ペットです、で誤魔化せるだろうか……? とにかく、一刻も早くその技術を覚えてくれることを祈ります。
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