元OLの異世界逆ハーライフ

砂城

文字の大きさ
65 / 74
第三章 ルーセット編

ライアを仲間にしますか? はい・いいえ

しおりを挟む
「人族のくせに、上級精霊と一度に四体も契約した相手に興味を持ったんだって。でも、実際にその相手を見ることは出来なくて、あれこれ考えてるうちに、なんかこじらせちゃったみたいなのよ」

 しかも、だ。モーリンたちが言うには、契約した精霊は土地に縛られることがなくなるってことで、そっちも魅力的だったみたいだ。んで、基本的に考えが子供だから、一回思い込んだらまっしぐら。手当たり次第に人を見たら突撃して、それでもお目当ての私はいなくて――やっとのことで本人を見つけたら、もう我慢できなくて、いきなり攫っちゃった、と。

「おい、それは……もし、お前がここを通りがからなかったらどうするつもりだったんだ?」
「その時は――考えたくないけど、このままずっと……?」
「……あり得ねぇ。どんだけの考えなしなんだよ」
「そもそもの話。そんな扱いを受けて、どうしてレイ殿が自分と契約するなどと思えるのだ?」
「だよねぇ」

 その辺が、考え無しな子供な所以だろう。シロの時も、お子ちゃまさに呆れたものだが、今回はその上を行く。ふと気が付いてシロをみるが――あんたが呆れた顔をするんじゃありません。とはいえ、これほどまでにひどくはなかったのも確かだけどね。

「で、どうするんだ? こいつと契約してやるのか?」
「うーん……」

 端的に問われて、口ごもる。ロウの台詞は上から目線だけど、この場合は当然だ。

「本音を言えば、ちょっと……」

 躊躇う私は悪くないと思う。普通なら、精霊と契約できる滅多にない好機ってことで飛びつくんだろうけど、私にはもうモーリン達がいる。元々、そのモーリン達だって、あっちの方から名前を明かしてきて、何となく契約することになっちゃったわけだから、私が希望してやったんじゃないしね。贅沢だって叱られそうだが、本当の事なんだから仕方ない。ああ、勿論、モーリンたちと契約したことを後悔してるわけじゃないよ。

「きゅあぅ! くぉ……くぅぅんっ」

 あー、黒豹君が焦った声を出す。同時に、これもまた大慌てな思念が届く。
 今まで黙っていたのはモーリンたちが怖かった所為らしいが、ここに至ってそんなことは言っていられなくなったようだ。

 ――ごめん、もうしない。謝る! 言うこと聞く、お願い。連れて行くっ。
 
 モーリンに踏まれてなかったら、土下座する勢いの謝罪と懇願の嵐だ。うむむ、こんな姿を見せられると、ちょっと心が揺らいでしまう。しかし、なぁ……。
 悩んでいたら、意外なところからフォローが入った。

「なぁ、レイちゃん。俺がこんなこと言うのはお門違いかもしれねぇが……良かったら、此奴、つれていってやらねぇか?」
「ガルドさん?」
「おい、ガルドっ」
「だってよ、考えてみろよ。このまま此奴をここに残したら、ちっとの間はおとなしくしてるかもしれねぇが、また暴れ始めたらどうするよ。ヤケをおこした上級精霊の相手なんざ、俺はまっぴらごめんだぜ」
「あー……それは、確かに……」

 私達にはモーリン達がいるけど、他の人はそうじゃない。今でさえ、妙な噂がある森ってことになってきてるのに、これがさらに実害まで起きる、となれば周りの人への迷惑はハンパなかろう。現に、いまだってカーウェンさん達みたいに、わざわざ遠回りして旅をする人がいっぱいいるのだ。
 だが……この子のしりぬぐいを私たちがやる、というのもなんか違う気がする。

「クウ?」
「ぎゅあんっ?! きゅぅうんっ」
「……なんといっているのだ、レイ殿?」
「モーリンがね。『なら、封印しようか?』って。で、その子が『それだけはやめてっ』って」
「そう言う手もあんのか……」
「モーリンだけじゃなくて、リ・オたちも協力すればできるみたいだね」

 同じ上級精霊同士だが、一対四。しかもモーリン達はそれなりに経験値を積んだベテラン(?)精霊だ。ペーペーの黒豹に勝ち目はないだろう。封印されると、意識はそのままだが、その場所から動けなくなり、周囲への影響力も大幅にそがれてしまう様だ。それを知って、黒豹が涙目になって『やめてください』と叫んでる。

「まぁまぁ、モーリン。少し落ち着こう? そこまでは私も求めてないんだし」

 やる気(殺る気?)満々のモーリンたちを宥める。その間にも、必死になった黒豹から、こっちが訊いてもいないのにあれこれと赤裸々な告白が届いていた。契約に至っていないので切れ切れの単語で、想像力を駆使し、モーリンたちの補足などを加えたうえでまとめると、以下のような内容になる。

 どうやら、上級精霊になってしっかりとした自我が芽生えたのはいいものの、その変化があまりにも急で、本人も戸惑っていたようだ。本来ならばもっと時間をかけて、成熟した状態で生じるはずの意識がえらく感情に引きずられてしまうらしい。おかげで、噂(?)を聞いて私に興味を持った途端、他の事が考えられなくなってしまった。見てみたい、あってみたい、話をしてみたい――それが、契約したい、一緒に広い世界を巡ってみたい、になるのはあっという間だったそうだ。だが、自分はこの森からあまり離れられないし、何時まで経っても私は来ないし――って、私がこっちに来たのは二年前だぞ。で、モーリン達と契約したのが一年半くらい前だ。精霊は寿命って物がないらしいが、それにしてもちょっと我慢がきかなすぎないかい?

「……まぁ、確かに野放しにしたらマズそうなのは確かだよねぇ。けど、流石に封印って言うのもかわいそうだし……」
「お前なら、そう言うだろうと思ってはいたがな……」

 いやいや、一応悩んでの結論ですから。そんな、最初からあきらめてたような言い方は不本意ですよ、ロウさん。それにちゃんと対策だって考えたんだよ?
 きっちり話をするためにも、一旦、モーリン達に黒豹の上からどいてもらう。ほっとした様子で起き上り、再度、お座りのポーズになったところで話を再開だ。

「もし君と契約するとして――モーリン達とのは、ほぼ白紙、っていうか制限無しだったけど、今回はそうもいかないからね?」

 本来、精霊との契約って言うのは、あちらに受け入れてもらえるだけで御の字。こっちから条件を提示するなんてのは前代未聞なんだけど、今回は話は別だ。選択肢は私にあるんだし、それにこんな子供――というか幼児みたいなのを野放しなんて怖くてできません。

「くぉん?」
「私の許可なく姿を見せない。同じく、許可なく力を使わない。でもって、もし許可を出しても、出来るだけ周囲に迷惑が掛からないようにすること――これが守れる?」

「うみゃっ!」
「……ホントだね? この条件で契約するんだから、後から文句を言ってもダメだよ?」
「うにゃっ」
「……話がまとまったようだな」

 ため息を吐かないでってば、ロウ。同情する余地はあったんだしさぁ。

「んじゃ、名前を教えてくれるかな?」

 とりあえず、ロウの様子はスルーして、黒豹に問いかける。すると、すぐに返事が戻って来た。

『僕は、ライア』

 うむ、そのまんまのお名前ありがとう。

「了解、ライア。私はレイガだよ。これからよろしくね」

 お互いの名前を交換すれば、それで契約は成立だ。その瞬間、ライアの体がぱぁっと光った。

「おい、レイちゃん。こいつ、縮んだぞ?」
「……うん」

 で、その光が消えた後には、やや小ぶりになったライアが前と同じポーズでお座りしてた。

「なんか、人と契約したことで経験値? みたいなのが増えて、ちょっとだけ魔法の制御が上手くなったみたいだねぇ」
「上手くなると縮むのかよ……」
「そうみたい」

 モーリン達サイズになるまでにはまだまだ遠そうだけどね。精霊の育成(教育?)なんてのは荷が重いが、そこはモーリン達も手伝ってくれるだろう。

「まぁ、でもこれで、この辺りもまた穏やかになるんだし。戦力強化にもなったんだから、いいってことにしとこうよ」
「お前は……その能天気さをどうにかしろ」
「そういうなって。これでこそ、レイちゃんだろう?」
「五種の精霊使いなど、聞いたこともない。流石はレイ殿だ」

 そんなことを言い合いながら、馬にまたがる。
 ちょっと足止めを食っちゃったけど、森を抜けたら、目指すルーセットは目の前だ。
 ディルクさんとは久しぶりだけど、私の事を覚えて居てくれるかな?
 

 その後は、森を抜けるまで雨に降られることもなかった。あの大木があったところから道まで戻るのに多少苦労はしたものの、あっという間に森を抜け、今はカーウェンさんのお家があるらしき宿場の少し手前だ。
 シロにまたがって、緩やかな速度で進んでいる私に、ちょっと下の方からモーリンが声をかけてくる。

「クウッ」
「うん、そうだよねぇ。なるべく早く教えてやってね」
「土精は、何といっているのだ? レイ殿」
「ああ、あのね――ライアに、姿を消す方法を教えるって言ってくれてるのよ」
「あー……」
「……確かに、早めにやってもらわねばならんな」

 三頭の馬の間というか、前というか、後ろというか……とにかく大はしゃぎで私たちの周りを駆け回っているライアと、その背中に乗っかったモーリンを見ながら、一斉にため息を吐く。

 他は晴天なのにそこだけ雨が降り、正体不明の魔物も跋扈する怪しい場所――そんな噂のある森だったが、ライアとの契約を済ませたことで、以後はごくごく普通の森に戻るだろう。噂は直ぐには消えないかもしれないけど、怪異が収まれば自然とそれも忘れられていくはずだ。またしても、厄介なお子ちゃまを抱え込む羽目にはなったけど、基本的にライアは悪い子じゃないようだし、きちんと教育(養育?)すれば、立派な精霊になってくれるだろう――なってくれるよね? ってことで、万事丸く収まるはずだった。
 しかーし、である。その契約には落とし穴があったのだ。

 私の許可なく姿を見せない。許可なく力を使わない。許可を出しても、出来るだけ周囲に迷惑が掛からないようにする。

 これが私がライアと契約するにあたって出した条件だ。ライアも素直にそれに応じてくれたので、本来ならばこれで一件落着になるんだが、そうは問屋が卸さなかった。契約してからわかったんだけど、実は、ライアったら『姿を消す』ことが出来ないんだと……。

 そのことが判明したのは、すぐ後だった。
 無事(?)に新メンバーも加わったことだし、改めて出発しようとして、私はライアに姿を隠してくれるように頼んだ。そしたら、戻って来たのが『隠れる? どうやって?』で、ある。
 思わず、頭を抱えたよ。
 そして、毎度、モーリンたちの補足説明が入り、ライアは落雷の衝撃で、中級精霊から上級になったんだけど、その時に今の体を得た。それまでは『その手の感覚』を持った人にしかわからなかったのが、誰にでも見える実体を持った、と言う事だ。しかし、上級精霊はそうそう人目につくことは無い。数が少ないというのも勿論あるんだけど、普段は姿を消しているからだ。モーリンたちは普通に出たり消えたりするから、ライアだって当然、それをやれると思うよね。ところが、だ。

『姿、消す? 隠れる? わからない』
「……って、言ってます……」
「なんだとっ?」

 何度も言うが、ライアは急に上級精霊になっちゃった。普通はもっと時間をかけて(以下略)。で、その間に自然に実体を消したり、また現したりするのも覚えていく。ところがライアにはその時間が与えられず、したがってそう言う技能を身に着けられなかったようだ。おかげで、今の体になってからはずーっとそのまんま。だから、あっちこっちで目撃されてたんだね。なるほど、納得――してる場合じゃない。
 モーリン達サイズならまだしも、ライアは目立ちすぎる。どうすりゃいいのよ。森を抜けてすぐに道から外れて進んではいるから、今は人目にはついてないけど、目撃された時の事を考えると頭が痛い。旅の間は野営で凌ぐにしても、ルーセットの街に入る時はそうもいかんだろうしねぇ。ペットです、で誤魔化せるだろうか……? とにかく、一刻も早くその技術を覚えてくれることを祈ります。




しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。