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二度目のご対面
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神殿の朝は早い。
夜明けと共に起きだし、身を清め、神に祈りをささげる。
簡素な朝食を摂った後は、各々に定められた奉仕の作業を行い、或いは神殿を訪ねてくる信者らの相手をする者もいる。
そのため、日が昇ってしばらくすれば、騒々しくはないもののそれなりの活気が満ちるのであるが、奥のとある一角だけはシンと静まり返った静寂に支配されていた。
――ひどく明るいわ。どうしてなのかしら? もしかして、うっかり『宵闇にそよぐ小さな海蛍』が、光貝を多く放ちすぎたのかしら?
そんなことを思いながら、件の一角にある『せせらぎの間』で、コラールが目覚めたのは、フレイが部屋でロベールと話をしていた最中のことだ。
心地よい微睡の底から、次第に意識が上昇していく。
無意識に動かした手に感じるのは、極上の寝具の柔らかな手触りだ。予想と違うその感触に、一気に覚醒が進む。
ぱちり、と開いた目に映るのは、真っ白な竜宮のそれではなく、灘妃のために用意された部屋の精緻な絵画が描かれた美しい天井だった。
――知らない天井、ではないわね。そうよ、わたくしはとうとう陸に来たんだったわ。
ゆっくりと半身を起こし、周囲を見回す。昨日半日でやや見慣れた室内に、人の気配はない。代わりに枕元に、小さな玻璃でつくられた呼び鈴が置かれている。
それを目にしたことで、昨夜の就寝前、オリエから目覚めた際にはこれを用いて知らせるように、と教えられていたのを思い出した。
チリチリ、チリン、と、澄んだ音を立てて鈴が鳴ると、すぐさま扉がノックされる。
「どうぞ、お入りになられて?」
「失礼いたします――おはようございます、コラール様。よくお休みになられましたか?」
「おはよう、オリエ。ええ、とてもよく眠れました。けれど、そのおかげで随分と寝坊をしてしまったようです」
おそらくは、自分が目覚めて鈴を鳴らすまで、扉の前で待機していたのだろう。確か陸では、太陽の光でおよその時間を知ることができると聞いたが……ちらりと、窓の外に目をやるが、あいにくとこの位置からは空が見えなかった。まぁ、もし見えたとしても、熱の雨季の空は雲に覆われており、太陽の位置は判断できなかったであろうが。
「それほどにお疲れになられていた、ということでございます。どうか、お気になさいますな。それに、陸では貴婦人方の多くは、朝は遅くにお目覚めになられるものでございます」
「そうと聞いて安堵しました……陸に来て初めて迎える朝ですのに、粗相をしでかしたのではないかと不安に思っておりました」
ほっとして微笑むと、オリエの顔がわずかに赤らむ。まだ丸一日も経っていないが、陸に来てコラールの表情が、海にいる時よりも格段に動くようになっていることをオリエは勿論、当のコラールも気が付いてはいなかった。これは灘人が感情を表現する場合、表情筋よりも頭ヒレや尾ビレの動きに頼ることが多いせいなのだが、陸人の姿になったことにより何らかの補正がかかったものと思われる。
「そのようなご懸念は無用になさってくださいませ。コラール様が夫君とともにお暮しになられるまでは、畏れながらこの神殿を我が家とお思いいただければ幸いに存じます――ところで、お腹がお空きではあられませんか? 御手水を済まされた後に、食事をお運びしたいと思います」
「ありがとう。そのようにしてもらえると嬉しく思います」
――よかった、もうおなかがペコペコだったの!
意味としては同じだが、コラールの心の声と、口に出した陸の言葉には少々乖離がある。昨日のフレイの希望もあるので、早急に学習の必要がある事案だが、海の王女としてもいささか破天荒なところがあったコラールであるから、一つ間違えると大変なことになる可能性がある。このあたりのさじ加減を見誤らないように、オリエは十分に注意すべきだろう。
「本日の朝食には、搾りたての果汁とミルクを添えさせていただいております。お好みでお召し上がりくださいませ」
「清水とも、昨夜、供してもらったスープとも違うものなのですね」
「はい。果汁は少々酸味がございますが、目覚めて直ぐの思考と体をすっきりとさせてくれます。ミルクは牛と申します動物の乳にございます。大変に滋養のあるもので、一日の活力の元になってくれるものです」
「陸には、飲み物だけでもほんに色々とあるのですね。一つずつ、試していきたく思います」
ちなみにその献立は、柑橘系の果汁。ミルク。スープにパン、加熱した卵は昨夜とほぼ同じだ。異なるのは、温野菜が一口大に切られた果実に変わっている点だ。
幸いなことに、果汁もミルクもコラールの口に合った。というよりも、現時点で不味いと感じるものには、まだお目にかかっていない。この先、少しずつ供されるものが増えていけばその限りではないかもしれないが、神殿が厳選している品々であるから、安心していいだろう。
「……そういえば、背の君もこれらと同じものを召し上がられているのでしょうか?」
「灘公殿下には、もう少し量と数が多いものをお届けしたと思います」
女性であり、まだ陸の食べ物に慣れていないということで、コラールの食事は質はともかく量と数に関しては簡素なものとなっている。これと全く同じでは、成人男性であるフレイには足りないのは明白なので、そのあたりは配慮がなされている(それでもやや足りなかったのではあるが)。
「そうなのですね。わたくしもいつか背の君と共に、同じものを食することができますかしら?」
「今はまだ、少しずつお慣れになっていただくのがよろしいかと存じます。ですが、コラール様がそうお望みと聞かれれば、灘公殿下もさぞやお喜びでしょう」
「そうであればうれしいこと」
「コラール様は、灘公殿下を大切にお思いになられていらっしゃるのですね」
「我が背の君でいらっしゃいますもの」
会ったのは昨日が初だ。それでも、一目見た(或いは見られた)だけで、『この人だ』という天啓とでもいえる思いが沸き上がった。
フレイにしても同じで――要するに双方一目惚れである。尤も、コラールに関しては彼女が知らないだけで、一方的な一目惚れは他にもあったと思われるが、当の本人が気が付いていない上に、既に気持ちが固まっているのであるからそれ以上の進展はあり得ない。強く、生きろ。
「本日も、お目にかかれましょうか?」
「それにつきましては、灘公殿下よりも、面会の希望をいただいております。お食事と、お身支度ができましたら、おいでいただく手はずとなっております」
「まぁ。ならば、急かねばなりません」
フレイを待たせていると聞いたとたんに、食する速度の上がったコラールに、慌ててオリエが待ったをかける。
「ああ、そのようにお急ぎになられますと、またむせられてしまわれます。殿下からは、女性の身支度は時間がかかると心得ている、とのお言伝もございます。ご安心くださいませ」
「……恥ずかしいところを見せました」
「いえ。コラール様と殿下のお仲がよろしくていらっしゃるのは、わたくし共にとりましてもうれしいことにございます」
灘妃は、女神の遣わされた奇跡に近い存在であるが、こういった面を見るといたって普通(?)の娘のように思われる。娘というには年が近すぎるが、年の離れた妹のようにも思えて、(そろそろ三十路に手が届く)オリエも、思わず温かい眼差しになる。
それはさておき。
無事に朝食を終え、衣装も取り換える。着替える際に、昨日よりも、立つだけならばかなりの安定感が出てきたことに、コラールもオリエ以下の巫女たちもほっと胸をなでおろしす一幕を経て。
いよいよ、婿殿の登場だ。
「失礼いたします。灘公殿下のお越しにございます」
「どうぞ、お通りいただいて」
ノックの音が室内に響き、昨日と同じ寝椅子に、今朝はきちんと座ったコラールがそれに応じると扉がゆっくりと開いていく。
「おはようございます、コラール。ご機嫌はいかがですか?」
その向こうから姿を現したフレイが、軽い礼とともに朝の挨拶をしてくる。
「我が背の君、フレイ様っ」
その姿を認めた途端、コラールの口からうれし気な声が発せられる。歩行に困難がなければ、抱き着きそうな勢いだ。うっかり、フレイに対する挨拶をすっ飛ばしているのだが、そんな些細なことをとがめだてる者はこの場にはいない。
「それに対するのは『吾妹子』で正しかったでしょうか? ご機嫌麗しい様子で安心しました」
「まぁ、わたくしを吾妹と……あ、いえ。失礼をいたしました。おはようございます、フレイ様」
古語(というかコラールが学んだ時代の陸の言葉)で、『私の愛しい妻』との呼びかけをされ、コラールの頬が美しく紅潮する。ついで、ようやく自分の失態に気が付き、別の意味でもほほを赤らめながら、遅ればせながら朝の挨拶を口にした。
「申し訳ありません。無作法をいたしました」
「お気になさらず。それよりも、先ほどの言い方で間違ってはおりませんでしたか?」
「はい。とてもうれしゅうございます――ですが、確か昨日のお話では、陸ではもう使われぬ言葉であると伺った覚えがございますが……?」
「幼いころに習い覚えました古典を、記憶の中から引きずりだしてきました。が、やはりどうにも私には雅すぎて面はゆいですね」
この男、意外とできる。とは、オリエの心の中の声である。
フレイは灘公と定められはしたが、現状ではまだ騎士だった時と全く変わらない。手足のように使える家臣がいるわけでもないから、昨日から神殿に留め置かれた状態では、この訪問に気の利いた手土産を持参するのは不可能だ。
花束くらいなら、神殿のものに言いつけてくれれば手配はするが、おそらく遠慮したのだろう。
手土産がないことをコラールが気にするとは思いにくいが、フレイとしても何もなし、というのはいかがなものかと考えたに違いない。
その結果が、これということならば……コラールの様子を見れば、無難な花束などよりもよほど効果があったようだ。
「口に出すと、どうにも照れます。私の柄ではないようで……」
「ご無理はなさらないでくださいまし。わたくしをそうお思いいただいているだけで、うれしく存じます」
夫婦となることが決まってはいても、出会ってまだ二日目。しかも、顔を合わせていた時間は一刻にも満たない。ぎこちない会話になるのが当然なのだが、すっかり打ち解けた様子の二人である。
その様子を見ながら、さりげなく位置を移動する。その動きにコラールが気が付くと、目線で寝椅子の向かいに置かれている椅子を示す。
「まぁ、わたくし、また粗相を……背の君。どうぞ、お座りになってくださいませ」
「ありがとうございます。ですが、挨拶を済ませた後に、着席を勧められるのはきちんと礼儀にかなっています。謝罪には及びません。それに、せめて私くらいとはあまり気負わずに接していただけると嬉しいです」
「……我が背の君のなんとお優しい……」
またも頬を染めるコラールである。そして、それを見るフレイの眼も、あからさまではないが、愛しいものを見つめるそれだ。
「縁あって夫婦に――妹背というのでしたか? なるのですから、気を使いまくるのもおかしな話でしょう」
「それは……ですが、それでございましたら、フレイ様も同様にしていただかなくては、片手落ちになりましょう?」
「勝手ながら、私も少なくとも昨日よりは気を抜いておりますよ。ですから、ご挨拶の時の礼も、昨日のとは違いましたでしょう? それに、言葉遣いも少し崩させてもらっています」
語尾を変えたくらいだが、それでもかなり柔らかく聞こえるものである。
「急がず、ゆっくりと。貴女とは心の通い合った夫婦になりたいと思っています。これは、私の勝手な思いかもしれませんが……」
「いいえ、いいえ。わたくしも同じでございます。フレイ様と、仲睦まじき妹背になりとう存じます」
「ありがとうございます」
そう言って笑うフレイは、決して絶世の美男子というわけではないが、不思議な魅力にあふれている。
コラールの選択に異議を唱えるつもりはないが、なぜに彼を……という思いもわずかにあったオリエだが、フレイという人間は、彼を知れば知るほど、その魅力が理解できるタイプのようだ。
元から一目惚れであったコラールが、二度惚れしても無理はない。
「ずっとあこがれておりました陸に来られただけでなく、フレイ様のようなお方とお会いすることができるなぞ……ほんにわたくしは、幸せ者でございます」
「私の方こそ、貴女と出会えたこと、灘の女神にいくら感謝をしてもしたりません――ところで、昨日、私が失礼した後は、何をして過ごされていたのか教えていただけますか?」
オリエの前であることを憚ってか、そこそこのところで話題を転換するのも好感が持てる。
「わたくしでございますか? それでございましたら――」
ゆっくりとした速度で語るコラールの言葉をうけて、フレイは時に頷き、時に小さな笑い声をあげる。
「……それで、昨日はなかった薔薇の花が、今日は飾られているのですね」
「ええ。とても美しく香しい花にございますね」
「コラールは薔薇がお気に入りですか?」
「はい。ですが、この房の外に咲くものも愛らしく思いますし、陸にはまだまだ数多の花があると聞き及びました。それに、仰ぎ見ねばならぬほどの巨大な木というものも、見てみとうございます」
『せせらぎの間』に備えられた小川の流れる坪庭には、何種類もの花や木が植えられているが、さすがに見上げるほどの巨木はない。ちなみに、昨日は湯浴みの話が出たときに、一度見てすっかり気に入った様子のコラールであった。
「花はともかく、木を切り倒してもってくるわけにもいきませんね……高司祭殿?」
「何事でございましょう、殿下?」
「灘妃様は、外出することは可能ですか?」
いきなり名前を呼ばれ、次に質問されて、一瞬驚くオリエだったが、その問いはあらかじめ予想されていることだった。
「ご婚儀までは、基本的に神殿にてご滞滞在いただくことになっております。ですが、警護を固めたうえでの外出は、前例として残っております」
「ということは、可能、ということですね」
「はい。ただ、その折は神殿が用意いたしました馬車にて御移動いただくことになりますが、最低限、ご自分のおみ足でお歩きいただくことが大前提かと」
婚儀は、灘妃のお披露目も兼ねている。なので、歩けない状態で輿を使っての移動となると、目立ちすぎるために却下、ということになる。婚儀前は、あくまでもお忍び扱いなのだ。
「わ、わたくし、励ませていただきますっ」
フレイが何かを言うよりも早く、そう叫んだのはコラールである。この話の流れからして、自分に花、或いは木を見せてくれるつもりなのは明白だ。そう思ったとたん、居てもたってもいられなくなったのだろう。
「あ……わたくしとしたことが……」
無作法を、と。消え入りそうな声でつぶやくのに、フレイがやさしくささやく。
「それほどまでに楽しみに思ってくださるのですね。これは私も気合を入れて、よい景色の場所を選ばねばなりませんね」
「フレイ様……」
「さすがに泊りは無理でしょうから、日帰りで行けるところになりますが……生憎と私もあまり王都の周辺には詳しくないのです。高司祭殿はどこかご存知でしょうか?」
「わたくしのことは、どうぞオリエとお呼びください、殿下――都人の評判に挙がる場所はいくつか存じてはおりますが、そのようなところですと、どうしても人目も多くなると存じます」
何日もかけての物見遊山は平民には無理だが、日帰りできる程度の距離であればその限りではない。王都の人口を考えれば、どこもそこそこの人出とみるべきだろう。
オリエの返事を聞いて、コラールの目が悲し気に伏せられる。だが、それにはまだ続きがあった。
「――で、ございますので、ここはいっそ、神殿領へお出かけになられるのはいかがでしょうか? いささか遠くはございますが、領には館もございますので、一晩、そちらでお過ごしになられればよろしいかと」
神殿領と名が付く場所はいくつもあるが、オリエが提案したのは王都に最も近いもので、精々が村二つ分ほどの面積のところだ。神殿で用いる野菜や果物、家畜を育てる他、神職たちの保養や療養のために利用されることもある。何気に、オリエも他の女性神職らと利用したことがあったりする。
「オリエ殿……よいのですか?」
「無論、今すぐではございません。上に話を通して許可を取り、警備の手配もせねばなりません。何より灘妃様のおみ足が十全に動くようになられてからの話となりますれば、少なくとも一旬は必要かと存じます」
アンジールの一年が熱、寒の二期に分けられ、その各々が乾と雨の二つの季節を持つことは先に述べた。そして乾と雨の季節もまた、それぞれが初旬、二旬、三旬の三つに分けられている。一旬は三十日であるので、逆算すれば一年は三百六十日ということになる。
「一旬後、ですか……ちなみに、その神殿領はどのようなところでしょうか?」
「風光明媚、とまでは申せませんが、それなりに美しいところで、大きな木もあったと記憶しております。ただ、熱雨の二旬のことになりますので、晴天は期待できないやもしれません」
「確かにその通りですね……如何しましょう、コラール?」
「わたくし、雨は好きですわ」
先ほど、うっかり叫んでしまったためか、おとなしく二人の会話を聞いていたコラールだが、フレイに問われて急いで答える。
「灘におりました頃、何度か海の表にて行き合いました。一度など、落ち来る雫で、灘と空の境があやふやになるほどで、わたくし、その雨の粒を泳いで天へ登れはしないかと試した覚えがございます――残念なことに、身の丈の倍ほどのところで落ち戻ってしまいましたが」
どれだけの雨量であったか、想像するのが怖い話だ。大きな嵐だったのだろうから、風も強かったはずだ。それに怖気るどころか、嬉々として跳ね上がるなど、コラールがかなりのお転婆だったことがばれる発言である。
「何より、雨は媛神様の恩寵。それを厭うはずがございません」
「……でしたら、そのように手配をお願いいたしましょう」
とりあえず、深くは尋ねないことにしたフレイである。要は、コラールは雨を嫌がらない、ということが分かればいいのだ。
「ただ、先ほどもオリエ殿が言われたように、まずは歩けるようにならねばなりませんが……」
「灘妃様は、まだ陸に来られて二日でいらっしゃいますので、歩行の訓練についてはもう少し後と考えておりました。ですが、歴代の灘妃様方はほぼ一旬、長くとも二旬あれば、ご不自由なく歩めるようになられたと聞き及びます」
つまりは一旬以上、二旬以下、ということだ。
尚、怪我や障害で歩けない者がそのような短期間で歩行可能になるのは、普通ではありえない。が、コラール(灘妃)の場合は、体に何か障りがあるのではなく、単に『歩く』という技術を覚えていないだけなので、それを会得しさえすればいいのだ。
「わたくし、励ませていただきます」
先ほどと同じ言葉を口にするコラールの顔は決意にあふれている。これは、下手をすると最短記録で歩けるようになるかもしれない。
夜明けと共に起きだし、身を清め、神に祈りをささげる。
簡素な朝食を摂った後は、各々に定められた奉仕の作業を行い、或いは神殿を訪ねてくる信者らの相手をする者もいる。
そのため、日が昇ってしばらくすれば、騒々しくはないもののそれなりの活気が満ちるのであるが、奥のとある一角だけはシンと静まり返った静寂に支配されていた。
――ひどく明るいわ。どうしてなのかしら? もしかして、うっかり『宵闇にそよぐ小さな海蛍』が、光貝を多く放ちすぎたのかしら?
そんなことを思いながら、件の一角にある『せせらぎの間』で、コラールが目覚めたのは、フレイが部屋でロベールと話をしていた最中のことだ。
心地よい微睡の底から、次第に意識が上昇していく。
無意識に動かした手に感じるのは、極上の寝具の柔らかな手触りだ。予想と違うその感触に、一気に覚醒が進む。
ぱちり、と開いた目に映るのは、真っ白な竜宮のそれではなく、灘妃のために用意された部屋の精緻な絵画が描かれた美しい天井だった。
――知らない天井、ではないわね。そうよ、わたくしはとうとう陸に来たんだったわ。
ゆっくりと半身を起こし、周囲を見回す。昨日半日でやや見慣れた室内に、人の気配はない。代わりに枕元に、小さな玻璃でつくられた呼び鈴が置かれている。
それを目にしたことで、昨夜の就寝前、オリエから目覚めた際にはこれを用いて知らせるように、と教えられていたのを思い出した。
チリチリ、チリン、と、澄んだ音を立てて鈴が鳴ると、すぐさま扉がノックされる。
「どうぞ、お入りになられて?」
「失礼いたします――おはようございます、コラール様。よくお休みになられましたか?」
「おはよう、オリエ。ええ、とてもよく眠れました。けれど、そのおかげで随分と寝坊をしてしまったようです」
おそらくは、自分が目覚めて鈴を鳴らすまで、扉の前で待機していたのだろう。確か陸では、太陽の光でおよその時間を知ることができると聞いたが……ちらりと、窓の外に目をやるが、あいにくとこの位置からは空が見えなかった。まぁ、もし見えたとしても、熱の雨季の空は雲に覆われており、太陽の位置は判断できなかったであろうが。
「それほどにお疲れになられていた、ということでございます。どうか、お気になさいますな。それに、陸では貴婦人方の多くは、朝は遅くにお目覚めになられるものでございます」
「そうと聞いて安堵しました……陸に来て初めて迎える朝ですのに、粗相をしでかしたのではないかと不安に思っておりました」
ほっとして微笑むと、オリエの顔がわずかに赤らむ。まだ丸一日も経っていないが、陸に来てコラールの表情が、海にいる時よりも格段に動くようになっていることをオリエは勿論、当のコラールも気が付いてはいなかった。これは灘人が感情を表現する場合、表情筋よりも頭ヒレや尾ビレの動きに頼ることが多いせいなのだが、陸人の姿になったことにより何らかの補正がかかったものと思われる。
「そのようなご懸念は無用になさってくださいませ。コラール様が夫君とともにお暮しになられるまでは、畏れながらこの神殿を我が家とお思いいただければ幸いに存じます――ところで、お腹がお空きではあられませんか? 御手水を済まされた後に、食事をお運びしたいと思います」
「ありがとう。そのようにしてもらえると嬉しく思います」
――よかった、もうおなかがペコペコだったの!
意味としては同じだが、コラールの心の声と、口に出した陸の言葉には少々乖離がある。昨日のフレイの希望もあるので、早急に学習の必要がある事案だが、海の王女としてもいささか破天荒なところがあったコラールであるから、一つ間違えると大変なことになる可能性がある。このあたりのさじ加減を見誤らないように、オリエは十分に注意すべきだろう。
「本日の朝食には、搾りたての果汁とミルクを添えさせていただいております。お好みでお召し上がりくださいませ」
「清水とも、昨夜、供してもらったスープとも違うものなのですね」
「はい。果汁は少々酸味がございますが、目覚めて直ぐの思考と体をすっきりとさせてくれます。ミルクは牛と申します動物の乳にございます。大変に滋養のあるもので、一日の活力の元になってくれるものです」
「陸には、飲み物だけでもほんに色々とあるのですね。一つずつ、試していきたく思います」
ちなみにその献立は、柑橘系の果汁。ミルク。スープにパン、加熱した卵は昨夜とほぼ同じだ。異なるのは、温野菜が一口大に切られた果実に変わっている点だ。
幸いなことに、果汁もミルクもコラールの口に合った。というよりも、現時点で不味いと感じるものには、まだお目にかかっていない。この先、少しずつ供されるものが増えていけばその限りではないかもしれないが、神殿が厳選している品々であるから、安心していいだろう。
「……そういえば、背の君もこれらと同じものを召し上がられているのでしょうか?」
「灘公殿下には、もう少し量と数が多いものをお届けしたと思います」
女性であり、まだ陸の食べ物に慣れていないということで、コラールの食事は質はともかく量と数に関しては簡素なものとなっている。これと全く同じでは、成人男性であるフレイには足りないのは明白なので、そのあたりは配慮がなされている(それでもやや足りなかったのではあるが)。
「そうなのですね。わたくしもいつか背の君と共に、同じものを食することができますかしら?」
「今はまだ、少しずつお慣れになっていただくのがよろしいかと存じます。ですが、コラール様がそうお望みと聞かれれば、灘公殿下もさぞやお喜びでしょう」
「そうであればうれしいこと」
「コラール様は、灘公殿下を大切にお思いになられていらっしゃるのですね」
「我が背の君でいらっしゃいますもの」
会ったのは昨日が初だ。それでも、一目見た(或いは見られた)だけで、『この人だ』という天啓とでもいえる思いが沸き上がった。
フレイにしても同じで――要するに双方一目惚れである。尤も、コラールに関しては彼女が知らないだけで、一方的な一目惚れは他にもあったと思われるが、当の本人が気が付いていない上に、既に気持ちが固まっているのであるからそれ以上の進展はあり得ない。強く、生きろ。
「本日も、お目にかかれましょうか?」
「それにつきましては、灘公殿下よりも、面会の希望をいただいております。お食事と、お身支度ができましたら、おいでいただく手はずとなっております」
「まぁ。ならば、急かねばなりません」
フレイを待たせていると聞いたとたんに、食する速度の上がったコラールに、慌ててオリエが待ったをかける。
「ああ、そのようにお急ぎになられますと、またむせられてしまわれます。殿下からは、女性の身支度は時間がかかると心得ている、とのお言伝もございます。ご安心くださいませ」
「……恥ずかしいところを見せました」
「いえ。コラール様と殿下のお仲がよろしくていらっしゃるのは、わたくし共にとりましてもうれしいことにございます」
灘妃は、女神の遣わされた奇跡に近い存在であるが、こういった面を見るといたって普通(?)の娘のように思われる。娘というには年が近すぎるが、年の離れた妹のようにも思えて、(そろそろ三十路に手が届く)オリエも、思わず温かい眼差しになる。
それはさておき。
無事に朝食を終え、衣装も取り換える。着替える際に、昨日よりも、立つだけならばかなりの安定感が出てきたことに、コラールもオリエ以下の巫女たちもほっと胸をなでおろしす一幕を経て。
いよいよ、婿殿の登場だ。
「失礼いたします。灘公殿下のお越しにございます」
「どうぞ、お通りいただいて」
ノックの音が室内に響き、昨日と同じ寝椅子に、今朝はきちんと座ったコラールがそれに応じると扉がゆっくりと開いていく。
「おはようございます、コラール。ご機嫌はいかがですか?」
その向こうから姿を現したフレイが、軽い礼とともに朝の挨拶をしてくる。
「我が背の君、フレイ様っ」
その姿を認めた途端、コラールの口からうれし気な声が発せられる。歩行に困難がなければ、抱き着きそうな勢いだ。うっかり、フレイに対する挨拶をすっ飛ばしているのだが、そんな些細なことをとがめだてる者はこの場にはいない。
「それに対するのは『吾妹子』で正しかったでしょうか? ご機嫌麗しい様子で安心しました」
「まぁ、わたくしを吾妹と……あ、いえ。失礼をいたしました。おはようございます、フレイ様」
古語(というかコラールが学んだ時代の陸の言葉)で、『私の愛しい妻』との呼びかけをされ、コラールの頬が美しく紅潮する。ついで、ようやく自分の失態に気が付き、別の意味でもほほを赤らめながら、遅ればせながら朝の挨拶を口にした。
「申し訳ありません。無作法をいたしました」
「お気になさらず。それよりも、先ほどの言い方で間違ってはおりませんでしたか?」
「はい。とてもうれしゅうございます――ですが、確か昨日のお話では、陸ではもう使われぬ言葉であると伺った覚えがございますが……?」
「幼いころに習い覚えました古典を、記憶の中から引きずりだしてきました。が、やはりどうにも私には雅すぎて面はゆいですね」
この男、意外とできる。とは、オリエの心の中の声である。
フレイは灘公と定められはしたが、現状ではまだ騎士だった時と全く変わらない。手足のように使える家臣がいるわけでもないから、昨日から神殿に留め置かれた状態では、この訪問に気の利いた手土産を持参するのは不可能だ。
花束くらいなら、神殿のものに言いつけてくれれば手配はするが、おそらく遠慮したのだろう。
手土産がないことをコラールが気にするとは思いにくいが、フレイとしても何もなし、というのはいかがなものかと考えたに違いない。
その結果が、これということならば……コラールの様子を見れば、無難な花束などよりもよほど効果があったようだ。
「口に出すと、どうにも照れます。私の柄ではないようで……」
「ご無理はなさらないでくださいまし。わたくしをそうお思いいただいているだけで、うれしく存じます」
夫婦となることが決まってはいても、出会ってまだ二日目。しかも、顔を合わせていた時間は一刻にも満たない。ぎこちない会話になるのが当然なのだが、すっかり打ち解けた様子の二人である。
その様子を見ながら、さりげなく位置を移動する。その動きにコラールが気が付くと、目線で寝椅子の向かいに置かれている椅子を示す。
「まぁ、わたくし、また粗相を……背の君。どうぞ、お座りになってくださいませ」
「ありがとうございます。ですが、挨拶を済ませた後に、着席を勧められるのはきちんと礼儀にかなっています。謝罪には及びません。それに、せめて私くらいとはあまり気負わずに接していただけると嬉しいです」
「……我が背の君のなんとお優しい……」
またも頬を染めるコラールである。そして、それを見るフレイの眼も、あからさまではないが、愛しいものを見つめるそれだ。
「縁あって夫婦に――妹背というのでしたか? なるのですから、気を使いまくるのもおかしな話でしょう」
「それは……ですが、それでございましたら、フレイ様も同様にしていただかなくては、片手落ちになりましょう?」
「勝手ながら、私も少なくとも昨日よりは気を抜いておりますよ。ですから、ご挨拶の時の礼も、昨日のとは違いましたでしょう? それに、言葉遣いも少し崩させてもらっています」
語尾を変えたくらいだが、それでもかなり柔らかく聞こえるものである。
「急がず、ゆっくりと。貴女とは心の通い合った夫婦になりたいと思っています。これは、私の勝手な思いかもしれませんが……」
「いいえ、いいえ。わたくしも同じでございます。フレイ様と、仲睦まじき妹背になりとう存じます」
「ありがとうございます」
そう言って笑うフレイは、決して絶世の美男子というわけではないが、不思議な魅力にあふれている。
コラールの選択に異議を唱えるつもりはないが、なぜに彼を……という思いもわずかにあったオリエだが、フレイという人間は、彼を知れば知るほど、その魅力が理解できるタイプのようだ。
元から一目惚れであったコラールが、二度惚れしても無理はない。
「ずっとあこがれておりました陸に来られただけでなく、フレイ様のようなお方とお会いすることができるなぞ……ほんにわたくしは、幸せ者でございます」
「私の方こそ、貴女と出会えたこと、灘の女神にいくら感謝をしてもしたりません――ところで、昨日、私が失礼した後は、何をして過ごされていたのか教えていただけますか?」
オリエの前であることを憚ってか、そこそこのところで話題を転換するのも好感が持てる。
「わたくしでございますか? それでございましたら――」
ゆっくりとした速度で語るコラールの言葉をうけて、フレイは時に頷き、時に小さな笑い声をあげる。
「……それで、昨日はなかった薔薇の花が、今日は飾られているのですね」
「ええ。とても美しく香しい花にございますね」
「コラールは薔薇がお気に入りですか?」
「はい。ですが、この房の外に咲くものも愛らしく思いますし、陸にはまだまだ数多の花があると聞き及びました。それに、仰ぎ見ねばならぬほどの巨大な木というものも、見てみとうございます」
『せせらぎの間』に備えられた小川の流れる坪庭には、何種類もの花や木が植えられているが、さすがに見上げるほどの巨木はない。ちなみに、昨日は湯浴みの話が出たときに、一度見てすっかり気に入った様子のコラールであった。
「花はともかく、木を切り倒してもってくるわけにもいきませんね……高司祭殿?」
「何事でございましょう、殿下?」
「灘妃様は、外出することは可能ですか?」
いきなり名前を呼ばれ、次に質問されて、一瞬驚くオリエだったが、その問いはあらかじめ予想されていることだった。
「ご婚儀までは、基本的に神殿にてご滞滞在いただくことになっております。ですが、警護を固めたうえでの外出は、前例として残っております」
「ということは、可能、ということですね」
「はい。ただ、その折は神殿が用意いたしました馬車にて御移動いただくことになりますが、最低限、ご自分のおみ足でお歩きいただくことが大前提かと」
婚儀は、灘妃のお披露目も兼ねている。なので、歩けない状態で輿を使っての移動となると、目立ちすぎるために却下、ということになる。婚儀前は、あくまでもお忍び扱いなのだ。
「わ、わたくし、励ませていただきますっ」
フレイが何かを言うよりも早く、そう叫んだのはコラールである。この話の流れからして、自分に花、或いは木を見せてくれるつもりなのは明白だ。そう思ったとたん、居てもたってもいられなくなったのだろう。
「あ……わたくしとしたことが……」
無作法を、と。消え入りそうな声でつぶやくのに、フレイがやさしくささやく。
「それほどまでに楽しみに思ってくださるのですね。これは私も気合を入れて、よい景色の場所を選ばねばなりませんね」
「フレイ様……」
「さすがに泊りは無理でしょうから、日帰りで行けるところになりますが……生憎と私もあまり王都の周辺には詳しくないのです。高司祭殿はどこかご存知でしょうか?」
「わたくしのことは、どうぞオリエとお呼びください、殿下――都人の評判に挙がる場所はいくつか存じてはおりますが、そのようなところですと、どうしても人目も多くなると存じます」
何日もかけての物見遊山は平民には無理だが、日帰りできる程度の距離であればその限りではない。王都の人口を考えれば、どこもそこそこの人出とみるべきだろう。
オリエの返事を聞いて、コラールの目が悲し気に伏せられる。だが、それにはまだ続きがあった。
「――で、ございますので、ここはいっそ、神殿領へお出かけになられるのはいかがでしょうか? いささか遠くはございますが、領には館もございますので、一晩、そちらでお過ごしになられればよろしいかと」
神殿領と名が付く場所はいくつもあるが、オリエが提案したのは王都に最も近いもので、精々が村二つ分ほどの面積のところだ。神殿で用いる野菜や果物、家畜を育てる他、神職たちの保養や療養のために利用されることもある。何気に、オリエも他の女性神職らと利用したことがあったりする。
「オリエ殿……よいのですか?」
「無論、今すぐではございません。上に話を通して許可を取り、警備の手配もせねばなりません。何より灘妃様のおみ足が十全に動くようになられてからの話となりますれば、少なくとも一旬は必要かと存じます」
アンジールの一年が熱、寒の二期に分けられ、その各々が乾と雨の二つの季節を持つことは先に述べた。そして乾と雨の季節もまた、それぞれが初旬、二旬、三旬の三つに分けられている。一旬は三十日であるので、逆算すれば一年は三百六十日ということになる。
「一旬後、ですか……ちなみに、その神殿領はどのようなところでしょうか?」
「風光明媚、とまでは申せませんが、それなりに美しいところで、大きな木もあったと記憶しております。ただ、熱雨の二旬のことになりますので、晴天は期待できないやもしれません」
「確かにその通りですね……如何しましょう、コラール?」
「わたくし、雨は好きですわ」
先ほど、うっかり叫んでしまったためか、おとなしく二人の会話を聞いていたコラールだが、フレイに問われて急いで答える。
「灘におりました頃、何度か海の表にて行き合いました。一度など、落ち来る雫で、灘と空の境があやふやになるほどで、わたくし、その雨の粒を泳いで天へ登れはしないかと試した覚えがございます――残念なことに、身の丈の倍ほどのところで落ち戻ってしまいましたが」
どれだけの雨量であったか、想像するのが怖い話だ。大きな嵐だったのだろうから、風も強かったはずだ。それに怖気るどころか、嬉々として跳ね上がるなど、コラールがかなりのお転婆だったことがばれる発言である。
「何より、雨は媛神様の恩寵。それを厭うはずがございません」
「……でしたら、そのように手配をお願いいたしましょう」
とりあえず、深くは尋ねないことにしたフレイである。要は、コラールは雨を嫌がらない、ということが分かればいいのだ。
「ただ、先ほどもオリエ殿が言われたように、まずは歩けるようにならねばなりませんが……」
「灘妃様は、まだ陸に来られて二日でいらっしゃいますので、歩行の訓練についてはもう少し後と考えておりました。ですが、歴代の灘妃様方はほぼ一旬、長くとも二旬あれば、ご不自由なく歩めるようになられたと聞き及びます」
つまりは一旬以上、二旬以下、ということだ。
尚、怪我や障害で歩けない者がそのような短期間で歩行可能になるのは、普通ではありえない。が、コラール(灘妃)の場合は、体に何か障りがあるのではなく、単に『歩く』という技術を覚えていないだけなので、それを会得しさえすればいいのだ。
「わたくし、励ませていただきます」
先ほどと同じ言葉を口にするコラールの顔は決意にあふれている。これは、下手をすると最短記録で歩けるようになるかもしれない。
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