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第十一話 共和国にて
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この世界には魔物がいて、その心臓は魔石と呼ばれる魔力を蓄えた結晶になっている。
人間の心臓は魔石になっていないので魔物のように魔法を使ったりは出来ないけれど、魔石と魔力を帯びた鉱物を組み合わせることで魔法と同じ効果を生み出す魔道具を創り出すことは出来る。
前世の記憶が蘇った私は、モデストの商会に協力してもらって前世の家電と同じことの出来る魔道具を作っている。
これまでは発火しか出来なかった魔道具を発展させて電子レンジのようなものにしたり、小さな風を起こすことしか出来なかった魔道具にプロペラを組み合わせることで扇風機のようなものにしたりしたのだ。
今は電話のようなものを作成中だ。
私の仕事は基本的なアイデアを出すだけで実際の製品化はモデストの商会の優秀な職人がしてくれるのだけれど、前世の記憶で完成品を知っている私でなければ思いつけないことが多く、それなりに大変だ。
言葉だけで職人が理解してくれることもあるし、簡単な試作品なしでは伝わらないこともある。電話は後者だ。
というか、私自身どの属性の魔石をどんな形の鉱物と組み合わせたら良いのか思いつけないでいる。
電話線の存在こそ知っているものの、携帯・スマホ世代なんだよ。
糸電話ならわかる。まずは糸電話から作ってみようか。
通信機器は軍事利用も出来るから、アイデアを話したら絶対作れって言われちゃったんだよね。
この世界は魔物がいる反面、人間同士の戦争はほとんどないし(暗殺や裏工作はあるよ)、魔物の討伐戦に役立つのならロペス辺境伯家の祖父や伯父の役にも立つかなって……
アイデアを書き連ねていた紙から顔を上げ、私は窓から吹き込んでくる潮風を頬に受けた。
ここは海に面した共和国。
死んだ振りをして王国を離れた私はモデストの商会で雇われの身だ。
王太子妃のフランシスカお義姉様が用意してくれた迎えは、彼の商会の息がかかった人間だったのである。前世の記憶が戻ったときモデストにヒメネス侯爵家を出たいと話していたので、彼が王都でフランシスカお義姉様に私の進退について相談してくれていたのだ。……密告したとも言う。
もちろん私がこちらへ来ていることは、フランシスカお義姉様もご承知だ。
王都へ戻って女王になっても良いし、逃げて自由になっても良いと……言ってくださったのである。
むしろ私がいなくなったほうがフランシスカお義姉様は良い思いが出来るから、逃げたいなら気にせず逃げなさい、とまで言ってくれた。直接話したんじゃなくて、伝書鳥で交換した手紙でだけどね。
私はそのお言葉に甘えて、切った髪に腕を切って流した血をつけることで死んだ振りをした。
切った髪を血塗れにしたのは、血で本人確認が出来る魔道具があるからである。
父王に遺言を遺したのは、ちょっとした意趣返しのようなものだ。まあ溺愛している振りをしていただけの娘になにを言われたって、どうせ気にしやしなかったんだろうけれど。
「……ドロレスさん、良いですか?」
扉を叩く音と私を呼ぶ声に背筋を伸ばす。モデストだ。
人間の心臓は魔石になっていないので魔物のように魔法を使ったりは出来ないけれど、魔石と魔力を帯びた鉱物を組み合わせることで魔法と同じ効果を生み出す魔道具を創り出すことは出来る。
前世の記憶が蘇った私は、モデストの商会に協力してもらって前世の家電と同じことの出来る魔道具を作っている。
これまでは発火しか出来なかった魔道具を発展させて電子レンジのようなものにしたり、小さな風を起こすことしか出来なかった魔道具にプロペラを組み合わせることで扇風機のようなものにしたりしたのだ。
今は電話のようなものを作成中だ。
私の仕事は基本的なアイデアを出すだけで実際の製品化はモデストの商会の優秀な職人がしてくれるのだけれど、前世の記憶で完成品を知っている私でなければ思いつけないことが多く、それなりに大変だ。
言葉だけで職人が理解してくれることもあるし、簡単な試作品なしでは伝わらないこともある。電話は後者だ。
というか、私自身どの属性の魔石をどんな形の鉱物と組み合わせたら良いのか思いつけないでいる。
電話線の存在こそ知っているものの、携帯・スマホ世代なんだよ。
糸電話ならわかる。まずは糸電話から作ってみようか。
通信機器は軍事利用も出来るから、アイデアを話したら絶対作れって言われちゃったんだよね。
この世界は魔物がいる反面、人間同士の戦争はほとんどないし(暗殺や裏工作はあるよ)、魔物の討伐戦に役立つのならロペス辺境伯家の祖父や伯父の役にも立つかなって……
アイデアを書き連ねていた紙から顔を上げ、私は窓から吹き込んでくる潮風を頬に受けた。
ここは海に面した共和国。
死んだ振りをして王国を離れた私はモデストの商会で雇われの身だ。
王太子妃のフランシスカお義姉様が用意してくれた迎えは、彼の商会の息がかかった人間だったのである。前世の記憶が戻ったときモデストにヒメネス侯爵家を出たいと話していたので、彼が王都でフランシスカお義姉様に私の進退について相談してくれていたのだ。……密告したとも言う。
もちろん私がこちらへ来ていることは、フランシスカお義姉様もご承知だ。
王都へ戻って女王になっても良いし、逃げて自由になっても良いと……言ってくださったのである。
むしろ私がいなくなったほうがフランシスカお義姉様は良い思いが出来るから、逃げたいなら気にせず逃げなさい、とまで言ってくれた。直接話したんじゃなくて、伝書鳥で交換した手紙でだけどね。
私はそのお言葉に甘えて、切った髪に腕を切って流した血をつけることで死んだ振りをした。
切った髪を血塗れにしたのは、血で本人確認が出来る魔道具があるからである。
父王に遺言を遺したのは、ちょっとした意趣返しのようなものだ。まあ溺愛している振りをしていただけの娘になにを言われたって、どうせ気にしやしなかったんだろうけれど。
「……ドロレスさん、良いですか?」
扉を叩く音と私を呼ぶ声に背筋を伸ばす。モデストだ。
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