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11・梅ちゃんが一晩で作ってくれました。
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去年の漫研部員連続襲撃事件で、わたしはカラスの怖さを学んだ。
なのに弟の楽は、噴水公園のカラスにちょっかいを出そうとしていた。
原因の舞夏ちゃんは友達の春歌ちゃんの妹だからわたしにとっても大事な存在だけど、矢上家連続襲撃事件は引き起こされたくない。
──なので、わたしはスマホを取り出した。
「今、調査中だからね」
スマホの中身について説明した後で、わたしたち三人は公園中央の噴水近くにあるベンチに並んで座っていた。
舞夏ちゃんがペンダントを落としたのは、ちょうどこの辺りなのだという。
ベンチは、彼女の家がある方向へと抜ける東口へ続く道沿いに設置されている。
わたしの手の中のスマホを楽が覗き込む。
「本当にそれ、カラスに取られた光り物を確認するためのアプリなの?」
「そうだよ。昨日楽に話を聞いた後で、ネット検索して見つけ出したの。さっき舞夏ちゃんに聞いて、ペンダントの形や材質、重さなんかを入力したから今探してくれてるよ」
疑わしそうな顔で見つめてくる弟に、さらりとウソをつく。
ウソをつくのは苦手で心臓バクバクなんだけど、カラスの恨みを買わないためには頑張るしかない。
梅ちゃんだって協力してくれている。
楽とは逆側の隣に座っている舞夏ちゃんがスマホを覗き込み、感嘆の声を上げた。
「スゴイ、そんなのがあるんですね。知りませんでした」
……ありません。
いや、一所懸命ネットで検索したら見つかるかもしれないけど、とりあえずこれはニセモノです。
占いやゲームを作れるサイトで、昨夜一晩かけて梅ちゃんが作ってくれたのだ。
灰色のネズミの姿をした幽霊は眠らなくてもいいらしい。
そもそもわたしがつかんだときは姿を消したのに、自分が触りたいときには触れるってズルいと思う。
このアプリ、というかゲーム? は画面の色や流れる音楽を調整して探知機っぽく見せかけている。
スマホ画面の中央で点滅している丸はクリック待ちのボタンで、それを囲んでいる円はただのセリフ枠なんだけどね。
「公園中のカラスの巣を確認してるから、ちょっと待っててね」
この言葉自体はウソじゃない。
梅ちゃんがカラスの巣を調べに行ってくれている。
食べられても復活するから大丈夫、と言ってくれたが心配でならない。
自分の未練を見つけるための時間が減ってしまうのに、いいんだろうか。
公園にあるカラスの巣の数は膨大だし、本当は舞夏ちゃんが落としたペンダントをカラスが取っていたかどうかですら定かではないのに。
昨日もそう話したんだけど、梅ちゃん的にはわたしと一緒に行動するだけで間違いなく未練に近づけるからいいのだと言ってくれた。
それに甘えちゃったわけである。
わたしはスマホを膝に置き、持ってきたバッグから出した財布を弟に向けて差し出した。
「えーっと……楽」
「なに?」
「近くに自販機あったよね。これでお茶買って来て。探査結果を待ってる間、お茶飲みながら三人でパウンドケーキ食べよう」
「パウンドケーキですか?」
舞夏ちゃんの瞳が輝いた。
以前くれた美味しいの言葉はお世辞じゃなかったみたいでひと安心。
バッグから、今度はタッパーを取り出す。
中には2センチ幅に切り分けたパウンドケーキを入れていた。
「この前のと同じレシピなんだけど、良かったら一緒に食べない?」
「ありがとうございます!……いいんですか?」
「もちろん! そんなに喜んでくれるなんて、こっちのほうこそ感謝だよ。お菓子作るの好きなんだけど、同じものばかり作り過ぎて家族や友達には飽きられちゃったから」
「そうなんですか? 私は和奏さんのパウンドケーキ大好きだし、お姉ちゃんも食べたら大喜びだと思うんですけど」
「じゃあ今度学校にも持って行ってみようかな」
この前のときに振る舞ったのは舞夏ちゃんと冬花さんにだけで、春歌ちゃんにはご馳走したことなかったっけ。
わたしと舞夏ちゃんの会話を眺めていた楽が、ぼそりと呟く。
「……一度ハマるとそればっかりなのが悪いんだろ……」
うん、まあ、それは自分でもわかってる。
材料のホットケーキの素をお小遣いで買うことになったから、今後は違うものも作るようになると思うよ。
とはいえ調子に乗って使ってたら、小麦粉や卵まで自費で買う羽目になりそう。
「楽、わたしはミルクティね。……舞夏ちゃんは?」
「お茶まで? 私、自分のぶんは自分で払います!」
「小学生が遠慮しないでいいよ。ね? 楽」
「そうそう! 舞夏ちゃんもミルクティだろ? 俺、買ってくるから!……俺はコーヒーにしようかな?」
楽は大人の男アピールをして、ちらちらと舞夏ちゃんを見る。
しかし残念ながら彼女は、わたしが蓋を開けたタッパーの中身に夢中だった。
ペンダントをなくしたことでずっと悩んでたみたいだし、この時間が気晴らしになるといいな。どんなに梅ちゃんが頑張ってくれても、ペンダントが見つかる保証はないし。
と、思ったときだった。
『きゃあっ!』
どこからか梅ちゃんの叫び声が響いてきた。
目で確認できるような位置にはいない。
おにぎりのことで絆ができてるから聞こえたのかな。
わたしは立ち上がり、叫んだ。
「梅ちゃん、どこ?」
「「だれ?」」
楽と舞夏ちゃんの声が重なった。
最初からいたんだけど、ふたりには梅ちゃんは見えてなかったものね。
なのに弟の楽は、噴水公園のカラスにちょっかいを出そうとしていた。
原因の舞夏ちゃんは友達の春歌ちゃんの妹だからわたしにとっても大事な存在だけど、矢上家連続襲撃事件は引き起こされたくない。
──なので、わたしはスマホを取り出した。
「今、調査中だからね」
スマホの中身について説明した後で、わたしたち三人は公園中央の噴水近くにあるベンチに並んで座っていた。
舞夏ちゃんがペンダントを落としたのは、ちょうどこの辺りなのだという。
ベンチは、彼女の家がある方向へと抜ける東口へ続く道沿いに設置されている。
わたしの手の中のスマホを楽が覗き込む。
「本当にそれ、カラスに取られた光り物を確認するためのアプリなの?」
「そうだよ。昨日楽に話を聞いた後で、ネット検索して見つけ出したの。さっき舞夏ちゃんに聞いて、ペンダントの形や材質、重さなんかを入力したから今探してくれてるよ」
疑わしそうな顔で見つめてくる弟に、さらりとウソをつく。
ウソをつくのは苦手で心臓バクバクなんだけど、カラスの恨みを買わないためには頑張るしかない。
梅ちゃんだって協力してくれている。
楽とは逆側の隣に座っている舞夏ちゃんがスマホを覗き込み、感嘆の声を上げた。
「スゴイ、そんなのがあるんですね。知りませんでした」
……ありません。
いや、一所懸命ネットで検索したら見つかるかもしれないけど、とりあえずこれはニセモノです。
占いやゲームを作れるサイトで、昨夜一晩かけて梅ちゃんが作ってくれたのだ。
灰色のネズミの姿をした幽霊は眠らなくてもいいらしい。
そもそもわたしがつかんだときは姿を消したのに、自分が触りたいときには触れるってズルいと思う。
このアプリ、というかゲーム? は画面の色や流れる音楽を調整して探知機っぽく見せかけている。
スマホ画面の中央で点滅している丸はクリック待ちのボタンで、それを囲んでいる円はただのセリフ枠なんだけどね。
「公園中のカラスの巣を確認してるから、ちょっと待っててね」
この言葉自体はウソじゃない。
梅ちゃんがカラスの巣を調べに行ってくれている。
食べられても復活するから大丈夫、と言ってくれたが心配でならない。
自分の未練を見つけるための時間が減ってしまうのに、いいんだろうか。
公園にあるカラスの巣の数は膨大だし、本当は舞夏ちゃんが落としたペンダントをカラスが取っていたかどうかですら定かではないのに。
昨日もそう話したんだけど、梅ちゃん的にはわたしと一緒に行動するだけで間違いなく未練に近づけるからいいのだと言ってくれた。
それに甘えちゃったわけである。
わたしはスマホを膝に置き、持ってきたバッグから出した財布を弟に向けて差し出した。
「えーっと……楽」
「なに?」
「近くに自販機あったよね。これでお茶買って来て。探査結果を待ってる間、お茶飲みながら三人でパウンドケーキ食べよう」
「パウンドケーキですか?」
舞夏ちゃんの瞳が輝いた。
以前くれた美味しいの言葉はお世辞じゃなかったみたいでひと安心。
バッグから、今度はタッパーを取り出す。
中には2センチ幅に切り分けたパウンドケーキを入れていた。
「この前のと同じレシピなんだけど、良かったら一緒に食べない?」
「ありがとうございます!……いいんですか?」
「もちろん! そんなに喜んでくれるなんて、こっちのほうこそ感謝だよ。お菓子作るの好きなんだけど、同じものばかり作り過ぎて家族や友達には飽きられちゃったから」
「そうなんですか? 私は和奏さんのパウンドケーキ大好きだし、お姉ちゃんも食べたら大喜びだと思うんですけど」
「じゃあ今度学校にも持って行ってみようかな」
この前のときに振る舞ったのは舞夏ちゃんと冬花さんにだけで、春歌ちゃんにはご馳走したことなかったっけ。
わたしと舞夏ちゃんの会話を眺めていた楽が、ぼそりと呟く。
「……一度ハマるとそればっかりなのが悪いんだろ……」
うん、まあ、それは自分でもわかってる。
材料のホットケーキの素をお小遣いで買うことになったから、今後は違うものも作るようになると思うよ。
とはいえ調子に乗って使ってたら、小麦粉や卵まで自費で買う羽目になりそう。
「楽、わたしはミルクティね。……舞夏ちゃんは?」
「お茶まで? 私、自分のぶんは自分で払います!」
「小学生が遠慮しないでいいよ。ね? 楽」
「そうそう! 舞夏ちゃんもミルクティだろ? 俺、買ってくるから!……俺はコーヒーにしようかな?」
楽は大人の男アピールをして、ちらちらと舞夏ちゃんを見る。
しかし残念ながら彼女は、わたしが蓋を開けたタッパーの中身に夢中だった。
ペンダントをなくしたことでずっと悩んでたみたいだし、この時間が気晴らしになるといいな。どんなに梅ちゃんが頑張ってくれても、ペンダントが見つかる保証はないし。
と、思ったときだった。
『きゃあっ!』
どこからか梅ちゃんの叫び声が響いてきた。
目で確認できるような位置にはいない。
おにぎりのことで絆ができてるから聞こえたのかな。
わたしは立ち上がり、叫んだ。
「梅ちゃん、どこ?」
「「だれ?」」
楽と舞夏ちゃんの声が重なった。
最初からいたんだけど、ふたりには梅ちゃんは見えてなかったものね。
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