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10・ノーモア! 漫研部員連続襲撃事件!
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友達の琴乃ちゃんに関わるなと言われていたのに、弟の楽は自分からカラスにちょっかいをかけるつもりだった。
同級生の舞夏ちゃんに頼まれたかららしい。
……わたしにふたりを止められるかな?
昨夜作ったパウンドケーキで説得できるといいんだけど。
朝ご飯のパンケーキ用のそれを使うなら、次からホットケーキの素は自分のお小遣いで買いなさいとお母さんに言われてまで作ったんだから、効果がありますように。
「……」
──土曜日の公園で、わたしは絶句していた。
市内で一番広い公園の真ん中には、大きな石造りの噴水がある。
この噴水は夜間やイベント時にはライトアップされる観光スポットでもあった。
噴水から放射線状に遊歩道が走り、道の周りには立ち入り自由の芝生。
芝生の中にはほど良い感覚で木が植えられている。
いつもはその木の根もとで家族連れがくつろいでいたりするのだけれど、今日は違った。
春4月。
天気予報通りの快晴だし、花粉症もピークを過ぎている。
桜はもう散っちゃってるものの、公園にいる人自体は多い。
多いのだけど──
「……人間よりカラスのほうが多いんじゃね?」
弟の楽が呟いたように、芝生に影を落とす木々の樹上にはカラスがいた。
とんでもない数だ。
並んだ黒い影が、じっと人間を見つめている。
ホラー映画のようで背筋が寒くなった。
そもそも最初から禁止されている上に、この状態で木に登ろうなんて……初恋に夢中のうちの弟くらいしかいないだろう。
ネット情報によると、数日前に巣を撤去するための調査が行われていた。
頭の良いカラスたちはいずれ撤去が実行されると察して緊張状態にあるようだ。
巡回している警備員さんたちもカラスの巣がある木を気にしているのが見て取れる。
市民の憩いの場だから人の集まる週末には作業しないと思うし、実際今日もしてないんだけどね。
「……楽くん」
舞夏ちゃんが不安そうな顔で、隣に立つ楽を見上げる。
姉妹だけあって、わたしの同級生の春歌ちゃんとよく似た長い黒髪の美少女だ。
楽は鼻の下を伸ばしてニヤケると、自分の胸を叩いて見せた。
「大丈夫大丈夫! 俺木登り上手いからさ、カラスが何羽いても大丈夫だよ!」
……いや全然大丈夫じゃないでしょう。
というか、舞夏ちゃんのペンダントが見つかった後が怖いんだよ?
ノーモア! 漫研部員連続襲撃事件!
矢上家連続襲撃事件は発生させないぞ!
「……舞夏ちゃん」
「は、はい。……変なことに巻き込んでごめんなさい、和奏さん」
「ううん、いいの。でもその前に確認させて? 舞夏ちゃんのペンダントだっけ? カラスに取られたのは間違いないの?」
「姉ちゃん、舞夏ちゃんを疑うのかよ!」
疑うとかいう問題じゃなくて、確認です。
舞夏ちゃんは悩むような表情を見せた。
「……本当はよくわからないんです。壊れたペンダントを友達の家で直して、公園を抜けて帰る途中でバッグから出して見てたら、風が吹いてきて落としちゃって」
この公園には三つの大きな入口がある。
駅前の大通りにつながる北口、我が矢上家のある住宅地につながる西口、そして舞夏ちゃんや春歌ちゃん、うちのおばあちゃんと香鈴ちゃんが住んでるほうの住宅地につながる東口だ。
春歌ちゃんとは高校からの帰り道だと方向が違うけど、駅前に遊びに行った後は一緒に公園を通ることになる。
夜は昼よりも短い周期で警備員さんたちが巡回してくれているから、ほかの道を通るよりも安全なのだ。
ライトアップされた噴水が明るいしね。
大きな瞳を潤ませて、舞夏ちゃんが言葉を続けた。
「風で目に砂が入ったから探し始めるまでに時間がかかっちゃって、探し出しても全然見つからなくて……探してるうちに暗くなって、お姉ちゃんやお母さんが早く帰って来なさいって電話してきて……」
結局春歌ちゃんたちが迎えに来て、三人一緒にお母さんの車で家へ戻ったのだという。
「去年の漫研部長さんみたいに、カラスが奪って行くのを見たわけじゃないのね」
「……はい」
ちゃんと落とし物として、公園の管理事務所にも報告済みだそうだ。
楽が頭から湯気を拭き出しそうな雰囲気で、わたしを睨んで地団駄を踏む。
「もー、姉ちゃんはもー! なんでそんなこと言うんだよ! カラスに決まってんじゃん! アイツら光り物好きなんだろ? ヤツらがペンダント取ったに決まってるよ!」
「……わかった」
「え?」
「へ?」
わたしがペンダントの捜索を反対し続けると思っていたのだろう、楽と舞夏ちゃんが意外そうな顔をする。
昨夜ベッドで梅ちゃんと話し合った計画を思い出しながら、わたしはふたりの小学五年生に自分のスマホを取り出して見せた。
灰色ネズミは肩にはいない。
彼女はすでに動き出している。
わたしは楽が木登りする姿を隠すために、これからゲームを始める──わけではない。
同級生の舞夏ちゃんに頼まれたかららしい。
……わたしにふたりを止められるかな?
昨夜作ったパウンドケーキで説得できるといいんだけど。
朝ご飯のパンケーキ用のそれを使うなら、次からホットケーキの素は自分のお小遣いで買いなさいとお母さんに言われてまで作ったんだから、効果がありますように。
「……」
──土曜日の公園で、わたしは絶句していた。
市内で一番広い公園の真ん中には、大きな石造りの噴水がある。
この噴水は夜間やイベント時にはライトアップされる観光スポットでもあった。
噴水から放射線状に遊歩道が走り、道の周りには立ち入り自由の芝生。
芝生の中にはほど良い感覚で木が植えられている。
いつもはその木の根もとで家族連れがくつろいでいたりするのだけれど、今日は違った。
春4月。
天気予報通りの快晴だし、花粉症もピークを過ぎている。
桜はもう散っちゃってるものの、公園にいる人自体は多い。
多いのだけど──
「……人間よりカラスのほうが多いんじゃね?」
弟の楽が呟いたように、芝生に影を落とす木々の樹上にはカラスがいた。
とんでもない数だ。
並んだ黒い影が、じっと人間を見つめている。
ホラー映画のようで背筋が寒くなった。
そもそも最初から禁止されている上に、この状態で木に登ろうなんて……初恋に夢中のうちの弟くらいしかいないだろう。
ネット情報によると、数日前に巣を撤去するための調査が行われていた。
頭の良いカラスたちはいずれ撤去が実行されると察して緊張状態にあるようだ。
巡回している警備員さんたちもカラスの巣がある木を気にしているのが見て取れる。
市民の憩いの場だから人の集まる週末には作業しないと思うし、実際今日もしてないんだけどね。
「……楽くん」
舞夏ちゃんが不安そうな顔で、隣に立つ楽を見上げる。
姉妹だけあって、わたしの同級生の春歌ちゃんとよく似た長い黒髪の美少女だ。
楽は鼻の下を伸ばしてニヤケると、自分の胸を叩いて見せた。
「大丈夫大丈夫! 俺木登り上手いからさ、カラスが何羽いても大丈夫だよ!」
……いや全然大丈夫じゃないでしょう。
というか、舞夏ちゃんのペンダントが見つかった後が怖いんだよ?
ノーモア! 漫研部員連続襲撃事件!
矢上家連続襲撃事件は発生させないぞ!
「……舞夏ちゃん」
「は、はい。……変なことに巻き込んでごめんなさい、和奏さん」
「ううん、いいの。でもその前に確認させて? 舞夏ちゃんのペンダントだっけ? カラスに取られたのは間違いないの?」
「姉ちゃん、舞夏ちゃんを疑うのかよ!」
疑うとかいう問題じゃなくて、確認です。
舞夏ちゃんは悩むような表情を見せた。
「……本当はよくわからないんです。壊れたペンダントを友達の家で直して、公園を抜けて帰る途中でバッグから出して見てたら、風が吹いてきて落としちゃって」
この公園には三つの大きな入口がある。
駅前の大通りにつながる北口、我が矢上家のある住宅地につながる西口、そして舞夏ちゃんや春歌ちゃん、うちのおばあちゃんと香鈴ちゃんが住んでるほうの住宅地につながる東口だ。
春歌ちゃんとは高校からの帰り道だと方向が違うけど、駅前に遊びに行った後は一緒に公園を通ることになる。
夜は昼よりも短い周期で警備員さんたちが巡回してくれているから、ほかの道を通るよりも安全なのだ。
ライトアップされた噴水が明るいしね。
大きな瞳を潤ませて、舞夏ちゃんが言葉を続けた。
「風で目に砂が入ったから探し始めるまでに時間がかかっちゃって、探し出しても全然見つからなくて……探してるうちに暗くなって、お姉ちゃんやお母さんが早く帰って来なさいって電話してきて……」
結局春歌ちゃんたちが迎えに来て、三人一緒にお母さんの車で家へ戻ったのだという。
「去年の漫研部長さんみたいに、カラスが奪って行くのを見たわけじゃないのね」
「……はい」
ちゃんと落とし物として、公園の管理事務所にも報告済みだそうだ。
楽が頭から湯気を拭き出しそうな雰囲気で、わたしを睨んで地団駄を踏む。
「もー、姉ちゃんはもー! なんでそんなこと言うんだよ! カラスに決まってんじゃん! アイツら光り物好きなんだろ? ヤツらがペンダント取ったに決まってるよ!」
「……わかった」
「え?」
「へ?」
わたしがペンダントの捜索を反対し続けると思っていたのだろう、楽と舞夏ちゃんが意外そうな顔をする。
昨夜ベッドで梅ちゃんと話し合った計画を思い出しながら、わたしはふたりの小学五年生に自分のスマホを取り出して見せた。
灰色ネズミは肩にはいない。
彼女はすでに動き出している。
わたしは楽が木登りする姿を隠すために、これからゲームを始める──わけではない。
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