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9-2・恩返しです! 【居候賢者END】
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「うん、確信できた」
ゴーちゃんを見つめて、ヴァランタンさんが力強く頷きます。
わたしは首を傾げました。
「なにがですか?」
「リュシー様を飲み込んだドラゴンがゴーレムだってことだよ」
「……なにかあったんですか?」
「教えるから、一緒に迷宮へ行ってくれない?」
「はい、わたしで良ければ!」
「ゴー!」
大神殿へと歩きながら、ヴァランタンさんが事情を話してくれました。
一年前リュシーさんが迷宮で倒したドラゴンの心臓を手にした途端、辺りに散らばっていた肉や皮ごと巻き込まれてドラゴンが再生したこと。
同行していたガスパールさんはリュシーさんが呪いでドラゴンになったのだと思い、リュシーさんが冒険者さんを襲わないよう、冒険者さんがリュシーさんを襲わないよう眠らせて霧の魔法で隠していたこと。
「リュシー様はガスパール君の呼びかけに応えなかったから、契約して従魔にすることもできなかったんだ。大神殿の聖域じゃないと呪いは解けないからねー」
呪いが解けなければ血に飢えたドラゴンの姿のリュシーさんは討伐されてしまう。
それを怖れたガスパールさんは、魔法が切れないよう迷宮へ通い続けました。
外では使えませんが、流れる魔力の強い迷宮でなら目印を置いて転移魔法を使うことができます。
ガスパールさんはドラゴンを眠らせて隠すためだけに迷宮へと通いました。
不安と疲労で、内臓に腫瘍ができるほどお酒に溺れながら──
「路地で倒れてるガスパール君を見つけて事情を聞いたとき、あれ? って思ったんだよね。それ呪いじゃなくて錬金術じゃないかって。ここでいろいろ見て考えたけど、やっぱり錬金術だと思うんだよねー。解決方法も頭に浮かんでる」
ヴァランタンさんは、以前迷宮内で研究のため旅暮らしをしていたそうです。
そのときいくつかの場所に設置した目印はそのまま残っているはずだと言います。
「迷宮の変化や冒険者の介入で壊れてても、転移魔法が発動できないだけだからね。試してみる価値はあると思うよー」
大神殿に着いたわたし達は、聖騎士団の副団長に許可を得て迷宮に潜りました。
本来は立ち入り禁止ですが、ヴァランタンさんは特例が認められる立場のようです。
そういえばヴァランタンさんはリュシーさんのこと様付けしてるけど、なにかあるのでしょうか。
わたし達は転移魔法で、ドラゴンがいるというマルディの第十層へ向かいました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「切り落とせ、【疾風】!」
ヴァランタンさんの使う風の攻撃魔法が、真っ赤なドラゴンから肉をそぎ落とします。
「ゴー!」
落ちた肉片をゴーちゃんが拾って、距離を開けます。
肉や皮が近いところにあると、ドラゴンに吸い寄せられてしまうのです。
どんなに体を切り裂いてもドラゴンからは血が滴りませんし苦しむ様子もありません。
「ぐおおぉぉぉぉっ!」
ただ怒りに燃える感情だけはあるようです。
暴走状態で固定されているのかもしれません。
「ガスパール君は水魔法を使うから、攻撃に使った水が肉や魔力で濁ったのを血液と勘違いしたのかもねー。それか氷を作って足止めして、リュシー様が首を飛ばしたのかな? あ、でも首だと動きは止まらないはずだから、心臓を一突きして停止させた?」
「ヴァランタンさん!」
「あはは、考え込んでる場合じゃなかったよね、ごめんごめん。……胴体のところにリュシー様の頭が見えて来たから、手足がなくなっても問題なさそうだね。切り落とせ、【疾風】!」
「ゴー!」
ときどき夢中で思考し始めるのは問題ですが、魔法自体はとんでもない腕です。
手足を失ったドラゴンゴーレムは、力なく体を横たえました。
集められた肉の中、リュシーさんは赤ん坊のように丸まって真っ赤な心臓を抱いています。
「ガスパールさんがリュシーさんを眠らせていて良かったですね。ドラゴンゴーレムが作動したままだったら、消化吸収されていたんじゃないでしょうか」
「そうだね、制作者はそうなっちゃったんだろうねー」
「制作者ですか?」
確かにゴーレムには制作者がいるはずです。ドラゴンは建物の残骸の中にいて、そこから出てこようとしませんでした。
この場所に錬金術師の研究所があったのでしょう。
「中からゴーレムを操るつもりだったんじゃないかな。でもエメちゃんが言ってたみたいに消化吸収されちゃって、お肉になっちゃったんだろうねー」
わたしは戦い前に指示された通りリュシーさんの手から真っ赤な心臓を奪い、刻まれた呪文を書き換えました。
ヴァランタンさんならひとりで解決できたような気もしますが、少しでもお役に立てたのなら嬉しいです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ねえエメちゃん」
リュシーさんを治療院へ預けて、わたし達は『赤の止まり木』へ戻りました。
転移魔法を使って時間を省略していても、ドラゴンゴーレムとの戦いで時は過ぎ、迷宮から出たときは辺りが真っ暗だったのです。
お店の前まで送ってくれたところで、ヴァランタンさんがわたしの名前を呼びました。
「なんですか、ヴァランタンさん」
「ゴ?」
「良かったらキミ、ボクの弟子にならない? キミ、魔法の才能もあると思うな」
ヴァランタンさんの口から出たのは、思いもかけない言葉でした。
わたしは──
【はい】/【いいえ】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【セーブしますか?】
【はい】/【いいえ】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【はい】/【いいえ】
【セーブしました】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【はい】/【いいえ】
元々冒険者さんに憧れていたわたしは、反射的に頷いていました。
お師匠様のお兄さんなら信頼できますしね。
「それじゃ、これからよろしくね」
「よろしくお願いします」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『赤の止まり木』の扉が開きました。
「すいません、今日はもう……ローランさん」
「今日も閉店後に研究するんだろ? 差し入れ買ってきたから、俺も混ぜてくれ」
「いらっしゃい、ローラン君」
「ゴー♪」
ヴァランタンさんは、ローランさんのお師匠様でもありました。
つまりわたしの兄弟子です。
兄弟子はヴァランタンさんに押しつけられて、ご領主様付きの魔法使いをしています。
そう、ヴァランタンさんはご領主様付きの魔法使いだったのです。
今はわたしのお店に転がり込んできて、毎晩錬金術と魔法の実験をしています。新しい弟子になったわたしに修行をつけてくれているのです。
おかげでお店の商品が増えました。
「それじゃエメちゃん、差し入れ食べて実験しよう!」
「お店の掃除と片付けが終わってからですよ」
「……はーい」
「エメが師匠の弟子になってくれて良かったよ。この人、俺の言うことなんか聞いたことないんだから」
「そんなことナイヨー。ローラン君はボクの大事な弟子デスヨー?」
「はいはい」
「ゴーゴゴ!」
ゴーちゃんに箒を渡されて、ヴァランタンさんは床を掃き始めました。
わたしも研究バカなところがあるので、楽しい毎日を送っているのです。
【居候賢者END】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【セーブしたところから再開しますか?】
【はい】/【いいえ】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【はい】/【いいえ】
【セーブしたところから再開します】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【はい】/【いいえ】←
冒険者さんへの憧れはありますが、わたしは首を横に振りました。
「ごめんなさい。わたしのお師匠様はイレーヌさんだけなんです」
ヴァランタンさんは優しく微笑みます。
「そうか。これからもイレーヌをよろしくね!」
「はい! ここまで送ってくださってありがとうございました」
「どういたしまして。ボクはこの町の領主付き魔法使いをしてるから、困ったことがあったらなんでも相談してね」
だから聖騎士団の副団長が立ち入り禁止の迷宮に特例で入れてくれたんですね。
「それじゃあまたねー」
「ゴゴー」
「おやすみなさーい」
わたしとゴーちゃんは、去っていくヴァランタンさんの背中を見送ったのでした。
ゴーちゃんを見つめて、ヴァランタンさんが力強く頷きます。
わたしは首を傾げました。
「なにがですか?」
「リュシー様を飲み込んだドラゴンがゴーレムだってことだよ」
「……なにかあったんですか?」
「教えるから、一緒に迷宮へ行ってくれない?」
「はい、わたしで良ければ!」
「ゴー!」
大神殿へと歩きながら、ヴァランタンさんが事情を話してくれました。
一年前リュシーさんが迷宮で倒したドラゴンの心臓を手にした途端、辺りに散らばっていた肉や皮ごと巻き込まれてドラゴンが再生したこと。
同行していたガスパールさんはリュシーさんが呪いでドラゴンになったのだと思い、リュシーさんが冒険者さんを襲わないよう、冒険者さんがリュシーさんを襲わないよう眠らせて霧の魔法で隠していたこと。
「リュシー様はガスパール君の呼びかけに応えなかったから、契約して従魔にすることもできなかったんだ。大神殿の聖域じゃないと呪いは解けないからねー」
呪いが解けなければ血に飢えたドラゴンの姿のリュシーさんは討伐されてしまう。
それを怖れたガスパールさんは、魔法が切れないよう迷宮へ通い続けました。
外では使えませんが、流れる魔力の強い迷宮でなら目印を置いて転移魔法を使うことができます。
ガスパールさんはドラゴンを眠らせて隠すためだけに迷宮へと通いました。
不安と疲労で、内臓に腫瘍ができるほどお酒に溺れながら──
「路地で倒れてるガスパール君を見つけて事情を聞いたとき、あれ? って思ったんだよね。それ呪いじゃなくて錬金術じゃないかって。ここでいろいろ見て考えたけど、やっぱり錬金術だと思うんだよねー。解決方法も頭に浮かんでる」
ヴァランタンさんは、以前迷宮内で研究のため旅暮らしをしていたそうです。
そのときいくつかの場所に設置した目印はそのまま残っているはずだと言います。
「迷宮の変化や冒険者の介入で壊れてても、転移魔法が発動できないだけだからね。試してみる価値はあると思うよー」
大神殿に着いたわたし達は、聖騎士団の副団長に許可を得て迷宮に潜りました。
本来は立ち入り禁止ですが、ヴァランタンさんは特例が認められる立場のようです。
そういえばヴァランタンさんはリュシーさんのこと様付けしてるけど、なにかあるのでしょうか。
わたし達は転移魔法で、ドラゴンがいるというマルディの第十層へ向かいました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「切り落とせ、【疾風】!」
ヴァランタンさんの使う風の攻撃魔法が、真っ赤なドラゴンから肉をそぎ落とします。
「ゴー!」
落ちた肉片をゴーちゃんが拾って、距離を開けます。
肉や皮が近いところにあると、ドラゴンに吸い寄せられてしまうのです。
どんなに体を切り裂いてもドラゴンからは血が滴りませんし苦しむ様子もありません。
「ぐおおぉぉぉぉっ!」
ただ怒りに燃える感情だけはあるようです。
暴走状態で固定されているのかもしれません。
「ガスパール君は水魔法を使うから、攻撃に使った水が肉や魔力で濁ったのを血液と勘違いしたのかもねー。それか氷を作って足止めして、リュシー様が首を飛ばしたのかな? あ、でも首だと動きは止まらないはずだから、心臓を一突きして停止させた?」
「ヴァランタンさん!」
「あはは、考え込んでる場合じゃなかったよね、ごめんごめん。……胴体のところにリュシー様の頭が見えて来たから、手足がなくなっても問題なさそうだね。切り落とせ、【疾風】!」
「ゴー!」
ときどき夢中で思考し始めるのは問題ですが、魔法自体はとんでもない腕です。
手足を失ったドラゴンゴーレムは、力なく体を横たえました。
集められた肉の中、リュシーさんは赤ん坊のように丸まって真っ赤な心臓を抱いています。
「ガスパールさんがリュシーさんを眠らせていて良かったですね。ドラゴンゴーレムが作動したままだったら、消化吸収されていたんじゃないでしょうか」
「そうだね、制作者はそうなっちゃったんだろうねー」
「制作者ですか?」
確かにゴーレムには制作者がいるはずです。ドラゴンは建物の残骸の中にいて、そこから出てこようとしませんでした。
この場所に錬金術師の研究所があったのでしょう。
「中からゴーレムを操るつもりだったんじゃないかな。でもエメちゃんが言ってたみたいに消化吸収されちゃって、お肉になっちゃったんだろうねー」
わたしは戦い前に指示された通りリュシーさんの手から真っ赤な心臓を奪い、刻まれた呪文を書き換えました。
ヴァランタンさんならひとりで解決できたような気もしますが、少しでもお役に立てたのなら嬉しいです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ねえエメちゃん」
リュシーさんを治療院へ預けて、わたし達は『赤の止まり木』へ戻りました。
転移魔法を使って時間を省略していても、ドラゴンゴーレムとの戦いで時は過ぎ、迷宮から出たときは辺りが真っ暗だったのです。
お店の前まで送ってくれたところで、ヴァランタンさんがわたしの名前を呼びました。
「なんですか、ヴァランタンさん」
「ゴ?」
「良かったらキミ、ボクの弟子にならない? キミ、魔法の才能もあると思うな」
ヴァランタンさんの口から出たのは、思いもかけない言葉でした。
わたしは──
【はい】/【いいえ】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【セーブしますか?】
【はい】/【いいえ】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【はい】/【いいえ】
【セーブしました】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【はい】/【いいえ】
元々冒険者さんに憧れていたわたしは、反射的に頷いていました。
お師匠様のお兄さんなら信頼できますしね。
「それじゃ、これからよろしくね」
「よろしくお願いします」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『赤の止まり木』の扉が開きました。
「すいません、今日はもう……ローランさん」
「今日も閉店後に研究するんだろ? 差し入れ買ってきたから、俺も混ぜてくれ」
「いらっしゃい、ローラン君」
「ゴー♪」
ヴァランタンさんは、ローランさんのお師匠様でもありました。
つまりわたしの兄弟子です。
兄弟子はヴァランタンさんに押しつけられて、ご領主様付きの魔法使いをしています。
そう、ヴァランタンさんはご領主様付きの魔法使いだったのです。
今はわたしのお店に転がり込んできて、毎晩錬金術と魔法の実験をしています。新しい弟子になったわたしに修行をつけてくれているのです。
おかげでお店の商品が増えました。
「それじゃエメちゃん、差し入れ食べて実験しよう!」
「お店の掃除と片付けが終わってからですよ」
「……はーい」
「エメが師匠の弟子になってくれて良かったよ。この人、俺の言うことなんか聞いたことないんだから」
「そんなことナイヨー。ローラン君はボクの大事な弟子デスヨー?」
「はいはい」
「ゴーゴゴ!」
ゴーちゃんに箒を渡されて、ヴァランタンさんは床を掃き始めました。
わたしも研究バカなところがあるので、楽しい毎日を送っているのです。
【居候賢者END】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【セーブしたところから再開しますか?】
【はい】/【いいえ】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【はい】/【いいえ】
【セーブしたところから再開します】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【はい】/【いいえ】←
冒険者さんへの憧れはありますが、わたしは首を横に振りました。
「ごめんなさい。わたしのお師匠様はイレーヌさんだけなんです」
ヴァランタンさんは優しく微笑みます。
「そうか。これからもイレーヌをよろしくね!」
「はい! ここまで送ってくださってありがとうございました」
「どういたしまして。ボクはこの町の領主付き魔法使いをしてるから、困ったことがあったらなんでも相談してね」
だから聖騎士団の副団長が立ち入り禁止の迷宮に特例で入れてくれたんですね。
「それじゃあまたねー」
「ゴゴー」
「おやすみなさーい」
わたしとゴーちゃんは、去っていくヴァランタンさんの背中を見送ったのでした。
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