転生魔王NOT悪役令嬢

豆狸

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8・ドワーフの動向

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「こんなのどう?」

 私がモンスターを素手で殴り殺したと言ったからか、フラムが拳に嵌めるタイプの武器を指差した。
 うちの四天王のひとりで私の父方の従兄でもあるバルは、これに鋭い爪がついたものを使っている。
 バルは炎属性の魔力を持つので、私やフラムと被っている。

 そう、私は炎属性なのだ。竜に変化したときは赤い竜で、色が濃いから黒く見えるけど髪も赤色だ。
 もしかしてフラムがなんか気を配ってくれてるのって、髪色が同じだからなのかしらん。
 乙女ゲーム『綺羅星のエクラ』では初期設定で聖女ゲーム主人公の髪色が変えられて、それによって攻略対象の初期好感度が違ったんだよね。

 ゲームと同じなら聖女は全属性の魔法が使える。
 水属性の極大魔法を使ったらゲーム内の魔王のHPが一気に半減してたっけ。
 うん、ゲームでも魔王は炎属性だったんだ。主人公じゃないから設定変更は不可能。火に水をかけると消えるのは前世も今世も変わらない。

「それはちょっと。従兄が体術系の武器を使ってるので、ほかのほうがいいですね」
「従兄がいるの? 王都は人が多くて悪い人間もいるから、その人と来れば良かったのに」
「あんまり仲良くないんです。ただでさえ魔力属性が被ってるのに、同じ系統の武器まで使い出したら真似してるってバカにされそうで」
「ははっ。そういうものなんだ。俺は兄ちゃんの真似ばっかりしてたけどね」
「兄弟がいるっていいですよね」

 ふたつ年上の従兄バルは、人間のお母様の血を引いて純粋の魔人よりも魔力が弱い私をバカにして、会うたびに自分が代わりに魔王になってやる、なんて言って来た。
 従兄じゃなくて兄弟だったら譲っても良かったけど、そうでない以上お父様が守って来たニュイ魔王国をバルに任せることはできない。
 生肉大好きバルが魔王国の食文化を改善してくれるとは思えないもん!

「……お待たせ」

 商品棚を見て、フラムとあーでもないこーでもないと話をしていたら、作業場からアッシュさんが顔を出した。
 いつの間にか時間が経っていたらしい。
 アッシュさんの手にはフラムの大剣がある。

「フラム。次は最初っから俺んとこへ研ぎに持って来い」
「自分の武器だから自分で整備できるようになりたいんですが」
「てめぇに教えながら研いでやるよ」
「ありがとうございます!」
「……で、そこの嬢ちゃんはなんだ? フラムの彼女か?」
「ち、違いますよ。アッシュさんもシャルジュさんも俺のことからかって!」
「シャルジュのところにも行ってたのか」
「初めまして。今日冒険者になったソワレと言います」
「そうか。俺はアッシュだ。接客すんの面倒だから、今日良いのを買ってあんまり店に来ないようにしろ」
「……フラムさんと商品棚を見てたんですが、魔鍛冶アイテムが並んでないんですね」
「あー、そうだな。ここ数年魔鍛冶アイテムは入ってきてない」

 ゲームでもそうだったからおかしいことではないんだけど、

「ジュルネ王国とマタン山脈のドワーフって仲が悪いんでしたっけ?」
「んなこたぁないんだがなあ? ドワーフのところでなにか起こってるのかもしれねぇ。いつも北を見れば聳えてるといっても、人間が大魔林を抜けてマタン山脈に行くのは難しいしなあ」

 王都の人混みにもエルフはいてもドワーフはいなかったんだよね。
 考えてみると、ニュイ魔王国でドワーフを見ることもない。
 お母様がお亡くなりになって、お父様がドワーフからものを買わなくなったからだと思ってたんだけど。

 ……とはいえドワーフって基本的に職人肌の引き籠り民族だからなあ。
 なにか珍しい魔法金属でも見つけて研究しているだけかもしれない。
 その性質に前世日本人の魂が激しく共感してしまう。体験版で魔鍛冶のミニゲームに嵌ったから『綺羅星のエクラ』買ったんだよね、前世の私。

 希少性からか、ゲーム内で聖女が作る魔鍛冶アイテムは高く売れた。
 まあ、そのお金で合成用の金属製装備アイテムを買ってたから、いくらあっても足りなかったんだけどさ。
 特性を複数付けるためには希少価値の高い魔法金属製の武器がベストだったし、そういうのはやっぱり高いし。

「また来ます」
「いや、接客すんの面倒だから来るなよ」
「俺もまた来ますね」
「フラムは仕方ねぇから来い。聖騎士の武器が傷んでたんじゃジュルネ王国を護れねぇからな」

 気がつくと店の外が暗くなっていたので、今日はなにも買わずに武器屋を出た。
 帰りにモンスターと会ったら殴り倒して素材を剥ぎ、魔鍛冶が使えるかどうか試してみよう。モンスターは魔王が操ってるわけではありません。魔王とモンスター、魔人とモンスターは食うか食われるかの捕食関係です。
 特性を付け替えるための金属製の装備アイテムを買うのはそれからでもいい。

 心配して宿まで送るというフラムを振り切って、私は聖女の実家の食堂へと走った。
 お肉以外のものを買って食べながら帰るのだ!
 買い食いで頭をいっぱいにしてゲームの魔王が侵攻した理由について深く考えない辺り、なんだかんだいって私も脳筋魔人のひとりなんだと思う。でも美味しいは正義だよね!
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