オオカミさんといっしょ!

豆狸

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第一話 オオカミさんに助けられ

1・村を追われて殺されかけて

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 村を出て半日歩き、気がつくと空は赤く染まっていた。

「ミーヌ村なら、このまま街道を行けばすぐですよ」

 馬に乗っていくのなら、日が沈みきる前に村まで到着できるかもしれない。
 徒歩のわたしは夜になっても月の神殿に着けるかどうか怪しいところだけれど。
 乗っていた馬から降りて道を尋ねてきた司祭さまに背を向けて東を指差した途端、後ろから頭を殴られた。
 激しい痛みと衝撃に、思わず地面に倒れ込む。

「し……司祭さま?」

 必死で体を曲げて彼を見ようとして、自分の右手の甲が煌めいていることに気づく。
 生まれたときから持っていた回復魔法の紋章だ。
 振り向いて道を示したとき、ローブの袖が落ちたせいで見えてしまったのだろう。
 もっと早い時間なら、陽光の眩しさで気づかれなかったのに。
 星の神さまは、三柱の神々の中で一番魔法使いに厳しい。

 ……でも、だからってこんな。

 緑地に金縁の服を着た星の司祭さまは、手に持っていた星球武器を振った。
 鉄球のトゲには血と、わたしと同じ飴色の髪がこびりついている。
 頭を殴ったのもあの武器だったのだろう。
 絹糸のような銀髪に白い肌、真っ青な瞳。
 髪から覗く形の良い耳で揺れる銀の飾りが、夕暮れの光を反射している。
 十九歳のわたしよりも幼く見える小柄で美しい少年が、鎖の先についた星の形の鉄球をわたしの右手に振り下ろす。

「……っ!」

 痛すぎて呻くことしかできない。
 わたしは地面を這って逃げようとしたが、司祭さまに髪をつかまれた。
 ぐいっと頭を引き寄せられて、耳元で囁かれる。

「……お前も転生者か?」
「……て、てん……?」

 『テンセーシャ』? 聞き覚えのない言葉だった。
 首を横に振ろうとするが、意識が朦朧として体が上手く動かない。
 司祭さまは乱暴に手を離し、わたしの頭を地面に落とした。
 さっき殴られたときに傷ついていたらしく、うつ伏せになると顔まで血が垂れてくる。
 視界が赤く染まった。
 骨を砕かれたのか、手の指が動かない。
 意識を集中してもぷらぷらと揺れているだけだ。

「ミーヌ村に女の魔法使いはいないはずだ。前世を思い出していないのか覚えていてとぼけているのか……クリアデータで作成したNPCの可能性もあるな」

 司祭さまがなにを呟いているのかわからない。
 わからないけれど、逃げるしかない。
 この人が、わたしを殺そうとしていることは明らかなのだから。
 星の神さまが魔法使いに厳しいことは噂に聞いていたけれど、気づくなり殺そうとして来るほどだなんて知らなかった。
 頭や右手の傷から流れる血とともに、どんどん失われていく気力と体力を振り絞って、肘を使って体を動かす。

「……ぐふっ!」

 また頭を殴られた。

 ……痛い痛い痛い。

 痛みを通り越して全身が熱かった。
 殴られてボロボロになった右手の甲で、魔法の紋章が光る。
 わたしが使えるたったひとつの回復魔法。
 モンスター討伐に出た村の自警団の頭が負傷して腕が千切れそうだったときも、わたしの魔法で治すことができた。
 使うことさえできれば、今の状態も治療できるに違いない。
 ただ、この魔法は発動に時間がかかる。
 攻撃されながら発動するのも無理だ。
 精神を落ち着かせて、右腕に魔法力を満たさなければいけないのだ。
 とにかく、司祭さまから──

「バッカだねえ。そんな体で僕から逃げられるわけないじゃん」

 声が遠い。
 さっきより少し高いところから響いてくる。
 お互い街道を進んでいて鉢合わせしたとき乗っていた白馬に乗り直したようだ。
 くすくすと含み笑いを漏らして、司祭さまは言う。

「転生者じゃなかったとしてもバグの原因になりそうだから、今のうちにここで踏み潰しておいてあげるよ」

 その言葉が実行されることを想像すると、全身が硬直した。
 せめて街道を囲む森に入って、馬が通れない狭い隙間にでも隠れたいのに、体が動かない。
 痛みのあまり燃えるようだった体が、恐怖で冷たく凍りついていく。

 ……このまま殺されてしまうの? どうしてわたしがこんな目に?

 攻撃魔法を使えたおばあちゃんのお葬式が終わった途端、銀貨十枚で家を買い叩いて、わたしを村から追い出した村長のニヤニヤ笑いが頭に蘇る。
 一瞬怒りで体に熱が戻ったけれど、それは本当に一瞬だけだった。
 手足は恐怖に震えるばかりで動こうとしない。

「おい?」

 まだ甲高い少年の声が、怪訝そうに白馬へと呼びかけている。

「どうした、なにを怯えてるんだよ?」

 馬は臆病な生き物だと聞く。
 泥道を進むのも嫌がることがあるらしい。
 わたしのような人間を踏み潰すこともイヤなのかもしれない。
 だったら……今が好機だ、逃げなくちゃ。
 肘で地面を擦ったとき──

 ……ウオォォォ、ウオオォォ。

 街道を囲む森の奥から、狼の遠吠えが聞こえてきた。
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