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第三話 オオカミさんとキスをして
※15・だれにも譲れない。(狼のルー視点③)
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ノワの飴色の瞳が丸くなる。
そこに映っている俺は夢で見たロークンと同じ姿になっていた。
黄金色の瞳だけが違う。
彼女とキスすることを考えるだけで獣化が解除されるなんて、我ながら重症だ。
「オオカミさん? えっと……どうしてですか?」
ノワの声色に嫌悪感はないように思う。
もっともそれは俺の願望だろうか。
「見ていたところ、魔法力吸収魔法の術式自体は発動している。君が咆哮や歌を合わせられていないだけだ。しかしちょっとしたコツなだけに、焦った状態で制御できるようになるのは難しいだろう。……魔法力吸収魔法を発動させた舌で直接触れれば、俺から魔法力を吸収できるのではないだろうか」
自分で話しながら、なんだか詐欺師のようだと感じた。
滅びゆく狼の獣化族であるとか、彼女に尻尾のある赤ん坊を産ませてはいけないとか、そんな自分自身への言い訳は、もう頭から消えている。
俺は、ずっと嫉妬に狂っていたのだ。
ノワに素直な求婚ができるジョゼやレオンに、彼女の頬を舐める黒犬に。
というか、ノワが俺に好意的なのはあの黒犬と重ねているからじゃないのか、なんてわけのわからない不安にまで苛まれている。
「……わかりました」
ノワは柔らかそうな頬を真っ赤に染めて、こくん、と頷いた。
「……そうか」
本当にいいのだろうか。
彼女に嫌われたりしないだろうか。
思いながら肩をつかんで抱き寄せてミントの香りでも隠しきれない甘い香りを感じた途端、俺の理性は崩壊した。
目を閉じたノワの瑞々しい唇に、俺の唇を重ねる。
それだけで離して、彼女が驚いて目を開けた瞬間にもう一度。
今度は自分の舌で唇をこじ開けて、彼女の濡れた舌に絡ませる。
深い意味はないのだろうが、ノワの腕が俺の背中に回された。
彼女の舌が熱い。
なにかが吸い取られていく。
ほんのり脱力を感じたが、不快には感じなかった。
むしろ心地良い。
吸収される魔法力の代わりに甘い幸せを与えられて、頭が蕩けていく。
……好きだ、愛している。
唇が塞がれてさえいなければ、きっとそんな言葉を口走っていた。
魔法力だけでなく体力も、この血肉のすべてさえ、ノワが望むのなら捧げたかった。
彼女を抱いた手が、勝手に飴色の髪を梳く。
サラサラで、いつまでも触れていたくなる髪だ。
ふと触れる首筋の感触が愛しい。
もっと彼女に触れたかった。
自分自身も服を脱いで、素肌と素肌で重なりたい。
そんな気持ちを覚られたのか、ノワの両手が俺の胸を押した。
「……ノワ」
しつこい俺に怒ったのか。
気持ち悪いと思われたのか。
燃え上がりそうだった体が冷えて、黒い毛皮に覆われていく。
「オオカミ、さん……」
飴色の瞳が俺を映している。
「魔法力、回復しました。なんだか、いつも朝起きて全快してるときよりもたくさん魔法力があります。三回くらい、クロ村全体を解毒できそうです」
「そうか……」
正直なところ、俺はノワから離れたくなかった。
ずっと抱きしめて、キスを繰り返していたい。
彼女の香りに包まれて、彼女を俺の匂いで染め上げたかった。
「えっと……」
ノワはなんだかイタズラな表情を浮かべて、顔を近づけてきた。
獣化した俺の狼の顔に、そっと彼女の唇が重なる。
「魔法力を吸収させてくださって、ありがとうございました」
「いや……」
言葉が口から出てこない。
嬉しくて嬉しくて、心臓が口から飛び出しそうなのに。
今のキスはなんなんだろう。
本当にお礼なのか?
自分の欲望のままにキスしていた俺への?
わからない。
なんだかひどく上機嫌で笑みを浮かべている彼女の気持ちがわからない。
わかっているのはただひとつ、ノワを愛しているということだけだ。
愛しくて愛しくて、だれにも譲れない。
俺が思春期にも獣化を解除できないでいたのは、きっと幼いころ出会ったときから彼女に心を奪われていたからだ。ノワ以外いらない。
狼の獣化族が滅びゆく種族だというのなら、前に彼女が言っていた流星狼の女王が持っている狼の獣化魔法の封印のかけらを奪って、封印を解いてみせる。
ノワの側にいるためなら、どんなことでする。
ひとまず今は──
ノワと一緒に調合室を出ながら俺は、クロ村に禍根を残さず闇バチを退治する方法を考えていた。
彼女が回復魔法の応用で魔具を直してくれたように、俺もせっかく習得した魔法を上手く使ってみることにしよう。
そこに映っている俺は夢で見たロークンと同じ姿になっていた。
黄金色の瞳だけが違う。
彼女とキスすることを考えるだけで獣化が解除されるなんて、我ながら重症だ。
「オオカミさん? えっと……どうしてですか?」
ノワの声色に嫌悪感はないように思う。
もっともそれは俺の願望だろうか。
「見ていたところ、魔法力吸収魔法の術式自体は発動している。君が咆哮や歌を合わせられていないだけだ。しかしちょっとしたコツなだけに、焦った状態で制御できるようになるのは難しいだろう。……魔法力吸収魔法を発動させた舌で直接触れれば、俺から魔法力を吸収できるのではないだろうか」
自分で話しながら、なんだか詐欺師のようだと感じた。
滅びゆく狼の獣化族であるとか、彼女に尻尾のある赤ん坊を産ませてはいけないとか、そんな自分自身への言い訳は、もう頭から消えている。
俺は、ずっと嫉妬に狂っていたのだ。
ノワに素直な求婚ができるジョゼやレオンに、彼女の頬を舐める黒犬に。
というか、ノワが俺に好意的なのはあの黒犬と重ねているからじゃないのか、なんてわけのわからない不安にまで苛まれている。
「……わかりました」
ノワは柔らかそうな頬を真っ赤に染めて、こくん、と頷いた。
「……そうか」
本当にいいのだろうか。
彼女に嫌われたりしないだろうか。
思いながら肩をつかんで抱き寄せてミントの香りでも隠しきれない甘い香りを感じた途端、俺の理性は崩壊した。
目を閉じたノワの瑞々しい唇に、俺の唇を重ねる。
それだけで離して、彼女が驚いて目を開けた瞬間にもう一度。
今度は自分の舌で唇をこじ開けて、彼女の濡れた舌に絡ませる。
深い意味はないのだろうが、ノワの腕が俺の背中に回された。
彼女の舌が熱い。
なにかが吸い取られていく。
ほんのり脱力を感じたが、不快には感じなかった。
むしろ心地良い。
吸収される魔法力の代わりに甘い幸せを与えられて、頭が蕩けていく。
……好きだ、愛している。
唇が塞がれてさえいなければ、きっとそんな言葉を口走っていた。
魔法力だけでなく体力も、この血肉のすべてさえ、ノワが望むのなら捧げたかった。
彼女を抱いた手が、勝手に飴色の髪を梳く。
サラサラで、いつまでも触れていたくなる髪だ。
ふと触れる首筋の感触が愛しい。
もっと彼女に触れたかった。
自分自身も服を脱いで、素肌と素肌で重なりたい。
そんな気持ちを覚られたのか、ノワの両手が俺の胸を押した。
「……ノワ」
しつこい俺に怒ったのか。
気持ち悪いと思われたのか。
燃え上がりそうだった体が冷えて、黒い毛皮に覆われていく。
「オオカミ、さん……」
飴色の瞳が俺を映している。
「魔法力、回復しました。なんだか、いつも朝起きて全快してるときよりもたくさん魔法力があります。三回くらい、クロ村全体を解毒できそうです」
「そうか……」
正直なところ、俺はノワから離れたくなかった。
ずっと抱きしめて、キスを繰り返していたい。
彼女の香りに包まれて、彼女を俺の匂いで染め上げたかった。
「えっと……」
ノワはなんだかイタズラな表情を浮かべて、顔を近づけてきた。
獣化した俺の狼の顔に、そっと彼女の唇が重なる。
「魔法力を吸収させてくださって、ありがとうございました」
「いや……」
言葉が口から出てこない。
嬉しくて嬉しくて、心臓が口から飛び出しそうなのに。
今のキスはなんなんだろう。
本当にお礼なのか?
自分の欲望のままにキスしていた俺への?
わからない。
なんだかひどく上機嫌で笑みを浮かべている彼女の気持ちがわからない。
わかっているのはただひとつ、ノワを愛しているということだけだ。
愛しくて愛しくて、だれにも譲れない。
俺が思春期にも獣化を解除できないでいたのは、きっと幼いころ出会ったときから彼女に心を奪われていたからだ。ノワ以外いらない。
狼の獣化族が滅びゆく種族だというのなら、前に彼女が言っていた流星狼の女王が持っている狼の獣化魔法の封印のかけらを奪って、封印を解いてみせる。
ノワの側にいるためなら、どんなことでする。
ひとまず今は──
ノワと一緒に調合室を出ながら俺は、クロ村に禍根を残さず闇バチを退治する方法を考えていた。
彼女が回復魔法の応用で魔具を直してくれたように、俺もせっかく習得した魔法を上手く使ってみることにしよう。
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