この朝に辿り着く

豆狸

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 僕は、初めて会ったときからカロリーヌが嫌いだった。
 悪い子じゃないのはわかっている。僕を慕っていることにも気付いている。
 それでも王子として生まれ、未来の王となる僕が、彼女の実家である公爵家に逆らえないことを思うと憎しみが湧いた。

 悪いのは父上だ。
 現公爵の姉だった婚約者との婚約を破棄して、僕の母上である男爵令嬢と結ばれたのだから。国王の後ろ盾にはなり得ない小さな男爵家は、母上の死に前後して滅びていた。
 公爵家の仕業ではない。

 この国の貴族は、カロリーヌの実家の公爵家とそれ以外に別れる。
 公爵家以外は烏合の衆で、公爵家に嫌がらせをするときは一致団結するものの、自分達だけになると足の引っ張り合いを始める莫迦どもだった。
 男爵家は王妃の実家として出すべき金を賄いきれなかったのだ。公爵家が力を貸してくれるはずもない。

 そもそも父上が母上を愛していたのかどうかもわからない。
 今、ふたり目の王妃を狙って弱小貴族家が送り込んでくる令嬢達を摘まみ食いしているように、適当に遊んで捨てるつもりだったんじゃないかな。
 ただ、父上に見切りをつけていた公爵令嬢に婚約破棄へと誘導されて、後へ引けなくなっただけなんじゃないかと思う。カロリーヌの伯母上は隣国の王族に嫁いだ。

 カロリーヌは嫌いだったけど、公爵家の機嫌を損ねて後ろ盾を失うほど莫迦じゃない。
 僕は表向きは優しく思いやりのある態度を崩さなかった。
 こちらからは『愛』という言葉を絶対に出さないように気をつけて、カロリーヌを不安にさせながら。父親の公爵は不快に思っていただろうが、彼女が僕を慕っている以上どうしようも出来ないでいた。

 ひとつ年下のカロリーヌより一年早く学園に入学して、僕はミュゲと出会った。
 彼女は明るく華やかで社交的な──要するに口の上手い少女だった。
 媚びを売ってすり寄ってくるくせに、ほかの男に対する恋愛相談をしてくるのが面白くて相手をしていたら、やがて噂が流れ始めた。ミュゲの言う許されない恋の相手は婚約者のいる王太子の僕ではないかと。

 僕に対する恋愛相談を僕にするなんて面白い。
 僕はますますミュゲを気に入った。
 もちろんカロリーヌから乗り換えるつもりはないけど。ミュゲは子爵令嬢だったからね。まあ一度くらいなら遊んでも良かったかな。

 ミュゲはむしろ、一年後に入学してきたカロリーヌを煽るのに役立った。
 僕はカロリーヌになにか失敗をさせたかった。
 公爵家のほうから頭を下げて、カロリーヌをもらってくださいと言わせたかったのだ。やがてミュゲは死んだんだけど、ただの自殺でカロリーヌによる殺人ではなかった。役に立たないなあ、ミュゲは。

 いつでも公爵家の足を引っ張ろうと狙っている烏合の衆が、カロリーヌがミュゲを殺したと、すぐわかる嘘をばら撒いたせいで、彼女の卒業から二年間結婚を待つことになった。
 公爵はその間に、べつの男をカロリーヌに宛がいたかったんだと思う。
 でもカロリーヌは僕を慕い続けた。

 結婚しても、僕はカロリーヌを抱かなかった。
 このまま子どもを作ったら公爵家に暗殺されそうだから、その前に公爵家の弱点を握るか、徹底的に彼女を支配下に置いておきたかったのだ。
 公爵は娘のカロリーヌに甘いんだ。

 欲望の発散は、父上と同じように弱小貴族家のご令嬢がしてくれた。
 愛妾になりたいと言われたときは、公爵家に関係を気づかれて釘を刺されたと告げて断った。
 君のことを大切に思っているからこそ、って見せかけるのがコツだ。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 カロリーヌの反応を待っていたら、ついに一年目の夜彼女が言った。

「白い結婚ももう一年になりますね。このままではお世継ぎが出来ません」

 どうか私を抱いてください、とでも言われるのかと思っていたら、意外な言葉を告げられた。

「私と離縁なさって、べつの方をお妃に迎えられてはいかがでしょうか?」

 意味がわからない。
 カロリーヌは僕を慕っている。離縁したがるわけがない。
 それに、公爵家の後ろ盾が無くなったら僕が困る。
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