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16・コリンナの計画
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気がつけば、いつの間にか季節は冬に変わっていました。
お父様はクラウス殿下を公爵領へ招くことを認めてくださいましたし、夜会も開いてくださるそうです。
恥ずかしながら三年ぶりに新しいドレスも作ることになりました。夜会用です。
魔術の研究も進んでいます。
昨日はハイポーションを作りました。エリクサーほどではありませんが、かなり重い病気まで治すことのできる魔法薬です。
神獣ガルム様にご協力いただいて、召喚魔術も何度か成功させています。
「うむ。コリンナの魔術はエミリア並みじゃ。これなら竜も呼べるじゃろう。夜会の前に試してみたらどうじゃ?」
ガルム様に言っていただけましたけど、予行練習をするつもりはありません。
悪霊に気づかれてしまうかもしれませんからね。
竜を召喚するのは夜会のときのみ、一回限りのぶっつけ本番です。その際にクラウス殿下に憑いている悪霊も退治するつもりだからです。
もちろんせっかく開催していただく夜会を台無しにするつもりはありません。
竜を召喚するのは夜会の後、クラウス殿下をわたしの寝室に招いておこないます。
悪霊に警戒されてはいけませんので、そのときはガルム様には離れていていただきます。家族は一緒が一番良いと思いますから、マーナと仔犬達ともしばらくお別れです。
それからクラウス殿下に悪霊のことを話し、ご自身の意思で体から追い出していただきます。
ガルム様の咆哮で無理矢理弾き出すだけでは、殿下と悪霊の絆が切れないのです。
もっとも、もしそれが無理でも希望はあります。
西の大陸に住む竜というのは、ガルム様と同じ神獣なのです。
ガルム様と違うのは、彼らが冥界にいらっしゃる闇の神様の眷属ではなく、天界にいらっしゃる光の神様の眷属だということです。
天の神様の使いとして地上に来た竜達は、ここが気に入って住みつくことにしたのだそうです。
冥界で体の無い亡者を相手にするガルム様達と違い、竜は元から使いとして地上で活動することが多いと言います。
そのため彼らは生身の人間に宿った悪霊を、宿主を傷つけることなく浄化することができるのです。
クラウス殿下がご自身で悪霊を追い出せればガルム様に、それが無理なら召喚した竜に悪霊を退治してもらうことができます。どちらの道を辿るとしても、最終的にわたしは召喚した竜に乗ってガルム様一家とともに旅立つ予定です。
……だってわたしのせいで悪霊に憑かれたクラウス殿下のお側に、このままいるなんて恥知らずな真似できません。
わたしが竜の国へ行ったら悪霊が殿下から離れるかもしれない、なんてあやふやな策ではなく、ちゃんと悪霊を退治できそうな手段が見つけられたことが、せめてもの償いになるでしょうか。
日記には何も書いてありませんでしたが、ヨハンナ様が竜を呼び出す召喚魔術を生み出したのはゲオルグ帝のためかもしれません。
神獣ガルム様のお話だと、初代皇帝の血筋の悪霊は、これまでにも出現していたようですからね。
不味いとおっしゃっていたから、食べたこともあるのかも……深く考えるのはやめておきましょう。
アンスル公爵家のみんなには手紙を残して行きますし、実はガルム様は竜のように飛べない代わりに召喚魔術のような魔力の痕跡を利用して転移ができるそうなのです。
それで森にも遊びに来ていらしたのですしね。
クラウス殿下にだけ二度と帰らないと告げるものの、わたしはヨハンナ様と違って、家族には会いに帰ろうと思っています。家族は一緒が一番です。
そして今日は、クラウス殿下に護衛していただいて、森の小屋からヘルブスト王国の村へとハイポーションを納品しに行きます。
作ったものは使ってもらいたいですからね。
アンスル公爵領は優秀な魔術師を雇っているので必要ないと思いますが、風邪が流行ってポーションが足りなくなったら、わたしが作りますよ。小屋に近い村では流行っていないのですけれど、ヘルブスト王国の中心部では悪性の風邪が流行っているみたいですしね。
「……コリンナの護衛はわしでよかろう」
神獣ガルム様はご不満のようですが、今回はクラウス殿下に護衛していただきますのでご家族水入らずでのお留守番をお願いいたします。
悪霊に、ゲオルグ帝に引きずられているのだとわかっていても、もう少しだけ殿下の優しさを味わっていたいのです。……ガルム様にお聞きしても、優しいクラウス殿下と浮気ばかりしていた冷たい彼のどちらに悪霊が影響しているのかはわからないそうです。
でも、本当はお優しいクラウス殿下は幻だったのでしょう。だって──
「このハイポーションをドロテア様に、ですか?」
「ああ、譲ってやってもらえないか? 彼女の夫がキュアポーションでは治らない悪性の風邪で苦しんでいるんだ」
殿下が本当に愛しているのはドロテア様に違いありません。
裏切られ、ほかの男性の妻となった彼女にさえこんなにもお優しいのですから。そもそも婚約を破棄してまで結ばれようとなさっていたのですもの。
幻の優しさを貪っていた浅ましいわたしは、喜んでハイポーションをお譲りするとお答えしました。……そんな資格などないのに、胸が痛いです。
お父様はクラウス殿下を公爵領へ招くことを認めてくださいましたし、夜会も開いてくださるそうです。
恥ずかしながら三年ぶりに新しいドレスも作ることになりました。夜会用です。
魔術の研究も進んでいます。
昨日はハイポーションを作りました。エリクサーほどではありませんが、かなり重い病気まで治すことのできる魔法薬です。
神獣ガルム様にご協力いただいて、召喚魔術も何度か成功させています。
「うむ。コリンナの魔術はエミリア並みじゃ。これなら竜も呼べるじゃろう。夜会の前に試してみたらどうじゃ?」
ガルム様に言っていただけましたけど、予行練習をするつもりはありません。
悪霊に気づかれてしまうかもしれませんからね。
竜を召喚するのは夜会のときのみ、一回限りのぶっつけ本番です。その際にクラウス殿下に憑いている悪霊も退治するつもりだからです。
もちろんせっかく開催していただく夜会を台無しにするつもりはありません。
竜を召喚するのは夜会の後、クラウス殿下をわたしの寝室に招いておこないます。
悪霊に警戒されてはいけませんので、そのときはガルム様には離れていていただきます。家族は一緒が一番良いと思いますから、マーナと仔犬達ともしばらくお別れです。
それからクラウス殿下に悪霊のことを話し、ご自身の意思で体から追い出していただきます。
ガルム様の咆哮で無理矢理弾き出すだけでは、殿下と悪霊の絆が切れないのです。
もっとも、もしそれが無理でも希望はあります。
西の大陸に住む竜というのは、ガルム様と同じ神獣なのです。
ガルム様と違うのは、彼らが冥界にいらっしゃる闇の神様の眷属ではなく、天界にいらっしゃる光の神様の眷属だということです。
天の神様の使いとして地上に来た竜達は、ここが気に入って住みつくことにしたのだそうです。
冥界で体の無い亡者を相手にするガルム様達と違い、竜は元から使いとして地上で活動することが多いと言います。
そのため彼らは生身の人間に宿った悪霊を、宿主を傷つけることなく浄化することができるのです。
クラウス殿下がご自身で悪霊を追い出せればガルム様に、それが無理なら召喚した竜に悪霊を退治してもらうことができます。どちらの道を辿るとしても、最終的にわたしは召喚した竜に乗ってガルム様一家とともに旅立つ予定です。
……だってわたしのせいで悪霊に憑かれたクラウス殿下のお側に、このままいるなんて恥知らずな真似できません。
わたしが竜の国へ行ったら悪霊が殿下から離れるかもしれない、なんてあやふやな策ではなく、ちゃんと悪霊を退治できそうな手段が見つけられたことが、せめてもの償いになるでしょうか。
日記には何も書いてありませんでしたが、ヨハンナ様が竜を呼び出す召喚魔術を生み出したのはゲオルグ帝のためかもしれません。
神獣ガルム様のお話だと、初代皇帝の血筋の悪霊は、これまでにも出現していたようですからね。
不味いとおっしゃっていたから、食べたこともあるのかも……深く考えるのはやめておきましょう。
アンスル公爵家のみんなには手紙を残して行きますし、実はガルム様は竜のように飛べない代わりに召喚魔術のような魔力の痕跡を利用して転移ができるそうなのです。
それで森にも遊びに来ていらしたのですしね。
クラウス殿下にだけ二度と帰らないと告げるものの、わたしはヨハンナ様と違って、家族には会いに帰ろうと思っています。家族は一緒が一番です。
そして今日は、クラウス殿下に護衛していただいて、森の小屋からヘルブスト王国の村へとハイポーションを納品しに行きます。
作ったものは使ってもらいたいですからね。
アンスル公爵領は優秀な魔術師を雇っているので必要ないと思いますが、風邪が流行ってポーションが足りなくなったら、わたしが作りますよ。小屋に近い村では流行っていないのですけれど、ヘルブスト王国の中心部では悪性の風邪が流行っているみたいですしね。
「……コリンナの護衛はわしでよかろう」
神獣ガルム様はご不満のようですが、今回はクラウス殿下に護衛していただきますのでご家族水入らずでのお留守番をお願いいたします。
悪霊に、ゲオルグ帝に引きずられているのだとわかっていても、もう少しだけ殿下の優しさを味わっていたいのです。……ガルム様にお聞きしても、優しいクラウス殿下と浮気ばかりしていた冷たい彼のどちらに悪霊が影響しているのかはわからないそうです。
でも、本当はお優しいクラウス殿下は幻だったのでしょう。だって──
「このハイポーションをドロテア様に、ですか?」
「ああ、譲ってやってもらえないか? 彼女の夫がキュアポーションでは治らない悪性の風邪で苦しんでいるんだ」
殿下が本当に愛しているのはドロテア様に違いありません。
裏切られ、ほかの男性の妻となった彼女にさえこんなにもお優しいのですから。そもそも婚約を破棄してまで結ばれようとなさっていたのですもの。
幻の優しさを貪っていた浅ましいわたしは、喜んでハイポーションをお譲りするとお答えしました。……そんな資格などないのに、胸が痛いです。
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