12 / 15
第十二話 皇帝陛下は思い悩む。
しおりを挟む
「よお、エルトン王太子殿下。ご機嫌麗しゅう」
「遅くなって申し訳ありませんでした、皇帝陛下」
「なぁに、構わぬさ。協力を約束していたわけではなかろう。魔の森が、どちらの国にとっても大事な場所だというだけだ」
ドラゴンの体力削りを部下に任せて、余が別の部下に補助魔導をかけさせているときにフィーニス王国のエルトン王太子がやって来た。
銀の髪に青い瞳、白馬に乗った王子様だ。
この大陸では、こやつのような外見こそが貴族らしいと喜ばれる。我が国の口先だけの貴族どもは、余の外見がこんな風なら受け入れたのだろうか。
森の中には、ゴロゴロと死体が転がっている。
フィーニス王国の警備隊のものではない。もちろん我が帝国軍の兵士でもない。
滅亡の日教団という邪教の狂信者どもの死体だ。我が帝国では彼らの危険性に気づき、以前から取り締まりを続けてきた。この森から起こる大暴走の元凶の多くは、彼らの儀式によって呼び出されたものだったのだ。今回はフィーニス王国からも排斥され始めていた分、元凶召喚の儀式に使われた生贄が多かったのだろう。
仲間を斥候に行かせ、王太子は余と同じように残った仲間に補助魔導をかけさせる。
最初は足を引っ張るしか能のない莫迦だったのに、この数ヶ月で成長したものだ。
余も王太子も、補助魔導は攻撃力増幅に特化したものをかけさせている。防御力を高める必要はない。お互い国の上部に立つものとして最高の防具を装備しているのもある。しかしそれ以上に余と王太子は、強い力によって守られていた。神涙獣の加護だ。
……ああ、胸糞悪いっ!
彼女──フィーニス王国の伯爵令嬢シャーリーだということは、調査するとすぐにわかった。神涙獣が北の王国から来ているということは、前から知っていたしな。
シャーリーが自国の王太子と婚約をしていて、最近解消したこともわかった。
未来の国王と王妃だというのに、ふたりが婚約をしているという事実は国外には知らされていなかった。シャーリーが神涙獣の愛し子だったからだろう。それを知っていれば余だって会ったことがなかったとしても求婚する。神涙獣が邪獣になればなったで利用価値はあるからな。
シャーリーと会ってしばらくしての小規模な大暴走で、余は自分がなにかに守られていることを悟った。
その後一匹だけで訪ねて来た神涙獣に聞くと、彼女が余を案じているからだろうと言われた。その言葉を耳にした途端、全身が燃え上がった。今すぐにでも王国に押し入ってシャーリーを奪い去りたいと思った。
たった一度会って軽く会話を交わしただけなのに、余は彼女に恋していたのだ。悔しいけれど認めざるを得なかった。
喜びに浸れたのは数日だけだった。
次の大暴走で顔を合わせたフィーニスの王太子も加護を受けたままだと気づいたからだ。婚約を解消したというのに、どうして今もシャーリーはあの男を守り続けているのだろう。
名前は調べるまで知らなかったが、神涙獣は自分の愛し子の話をよく余に愚痴っていた。……あの子は優し過ぎる、と。いきなり戦場に放り込まれた幼なじみの元婚約者を案じているだけだろうか。わからない。わからないから不安が余を苛む。
「皇帝陛下、直に囮がこちらへ弱らせたドラゴンを誘き寄せます!」
「エルトン王太子殿下、ご準備を!」
うちの部下と王太子の仲間が同時に戻ってきて告げる。
まあドラゴンの体力を削ったのは帝国軍だけどな。
ドラゴンは強い。神に等しい力を持つが、邪獣と違って神の助けは期待出来ない。神は人間にドラゴンを倒す力を与えているのだ。
ついに来た。シャーリーが言っていたドラゴン、余を殺す運命が。
余は愛用の大剣を握り締めた。大剣は補助魔導で光を纏っている。
ドラゴンに止めを刺すのは余だ。シャーリーが言った不吉な予言など覆してやる。
フィーニスの王太子も馬から降り、槍を握り締めていた。賢い判断だ。魔獣の大暴走に慣れた馬でもドラゴン相手ではどうなるかわからない。王太子の槍先も仲間の補助魔導で輝きを放っていた。
ドラゴンを倒したら、余はシャーリーに求婚しようと思っている。
ただ問題は、神涙獣目当てだと思われないかということだ。
そう思われるのは当たり前なのに、シャーリーにだけはそう思われたくない。彼女が余の地位や権力目当てでも構わないけれど、余がこの胸の想い以外で彼女を求めているのだとは思われたくなかった。どうしたら良いのだろう。自分がこんなことで思い悩む男だなんて知らなかった。
──やがて現れたドラゴンとの戦いは昼前に始まって夕暮れ時、昼と夜の狭間のときまで続いた。
「遅くなって申し訳ありませんでした、皇帝陛下」
「なぁに、構わぬさ。協力を約束していたわけではなかろう。魔の森が、どちらの国にとっても大事な場所だというだけだ」
ドラゴンの体力削りを部下に任せて、余が別の部下に補助魔導をかけさせているときにフィーニス王国のエルトン王太子がやって来た。
銀の髪に青い瞳、白馬に乗った王子様だ。
この大陸では、こやつのような外見こそが貴族らしいと喜ばれる。我が国の口先だけの貴族どもは、余の外見がこんな風なら受け入れたのだろうか。
森の中には、ゴロゴロと死体が転がっている。
フィーニス王国の警備隊のものではない。もちろん我が帝国軍の兵士でもない。
滅亡の日教団という邪教の狂信者どもの死体だ。我が帝国では彼らの危険性に気づき、以前から取り締まりを続けてきた。この森から起こる大暴走の元凶の多くは、彼らの儀式によって呼び出されたものだったのだ。今回はフィーニス王国からも排斥され始めていた分、元凶召喚の儀式に使われた生贄が多かったのだろう。
仲間を斥候に行かせ、王太子は余と同じように残った仲間に補助魔導をかけさせる。
最初は足を引っ張るしか能のない莫迦だったのに、この数ヶ月で成長したものだ。
余も王太子も、補助魔導は攻撃力増幅に特化したものをかけさせている。防御力を高める必要はない。お互い国の上部に立つものとして最高の防具を装備しているのもある。しかしそれ以上に余と王太子は、強い力によって守られていた。神涙獣の加護だ。
……ああ、胸糞悪いっ!
彼女──フィーニス王国の伯爵令嬢シャーリーだということは、調査するとすぐにわかった。神涙獣が北の王国から来ているということは、前から知っていたしな。
シャーリーが自国の王太子と婚約をしていて、最近解消したこともわかった。
未来の国王と王妃だというのに、ふたりが婚約をしているという事実は国外には知らされていなかった。シャーリーが神涙獣の愛し子だったからだろう。それを知っていれば余だって会ったことがなかったとしても求婚する。神涙獣が邪獣になればなったで利用価値はあるからな。
シャーリーと会ってしばらくしての小規模な大暴走で、余は自分がなにかに守られていることを悟った。
その後一匹だけで訪ねて来た神涙獣に聞くと、彼女が余を案じているからだろうと言われた。その言葉を耳にした途端、全身が燃え上がった。今すぐにでも王国に押し入ってシャーリーを奪い去りたいと思った。
たった一度会って軽く会話を交わしただけなのに、余は彼女に恋していたのだ。悔しいけれど認めざるを得なかった。
喜びに浸れたのは数日だけだった。
次の大暴走で顔を合わせたフィーニスの王太子も加護を受けたままだと気づいたからだ。婚約を解消したというのに、どうして今もシャーリーはあの男を守り続けているのだろう。
名前は調べるまで知らなかったが、神涙獣は自分の愛し子の話をよく余に愚痴っていた。……あの子は優し過ぎる、と。いきなり戦場に放り込まれた幼なじみの元婚約者を案じているだけだろうか。わからない。わからないから不安が余を苛む。
「皇帝陛下、直に囮がこちらへ弱らせたドラゴンを誘き寄せます!」
「エルトン王太子殿下、ご準備を!」
うちの部下と王太子の仲間が同時に戻ってきて告げる。
まあドラゴンの体力を削ったのは帝国軍だけどな。
ドラゴンは強い。神に等しい力を持つが、邪獣と違って神の助けは期待出来ない。神は人間にドラゴンを倒す力を与えているのだ。
ついに来た。シャーリーが言っていたドラゴン、余を殺す運命が。
余は愛用の大剣を握り締めた。大剣は補助魔導で光を纏っている。
ドラゴンに止めを刺すのは余だ。シャーリーが言った不吉な予言など覆してやる。
フィーニスの王太子も馬から降り、槍を握り締めていた。賢い判断だ。魔獣の大暴走に慣れた馬でもドラゴン相手ではどうなるかわからない。王太子の槍先も仲間の補助魔導で輝きを放っていた。
ドラゴンを倒したら、余はシャーリーに求婚しようと思っている。
ただ問題は、神涙獣目当てだと思われないかということだ。
そう思われるのは当たり前なのに、シャーリーにだけはそう思われたくない。彼女が余の地位や権力目当てでも構わないけれど、余がこの胸の想い以外で彼女を求めているのだとは思われたくなかった。どうしたら良いのだろう。自分がこんなことで思い悩む男だなんて知らなかった。
──やがて現れたドラゴンとの戦いは昼前に始まって夕暮れ時、昼と夜の狭間のときまで続いた。
871
あなたにおすすめの小説
勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……
罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。
【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。
真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?
わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。
分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。
真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる