素顔の俺に推し変しろよ!

豆狸

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第一話 恋敵は『俺』

2・突然のキス

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 忍野くんは口の中のサラダを飲み込んで、皿の端にフォークを置いた。
 じっとわたしを見つめてくる。
 どうしたんだろう。
 二十代後半なんだから、サラダに入れたセロリとピーマンには文句をつけないでほしい。
 ああでも忍野くんは誕生日が遅いから、同じ学年なのにまだ二十八歳なんだよね。
 わたしはもう二十九歳なのに。……来年は三十歳だ。

「なぁに?」
「俺、連ドラ決まった」
「……ホント?」
「うん、休日の朝に放送してるヒーロードラマの悪役だ。途中で死ぬ予定だから半年だけなんだけど」

 食事中に行儀悪いけど、わたしは立ち上がらずにいられなかった。
 テーブルの上で手を伸ばし、忍野くんの両手をつかむ。

「そんなの! 俳優忍野薫だったら人気が出て続投になるよ、決まってる! わあ、楽しみ。放映はいつから? もう撮影は始まってるの? ヒーロードラマって公式がやってる会員制のネット配信あったよね。早速登録して昔の作品もチェックしなくっちゃ! 俳優忍野薫の魅力を引き出してくれる監督さんや脚本家さんがいるといいなあ」

 忍野くんも立ち上がって、わたしの手を握り返してくる。

「……裏川。本当に、これまでありがとう。五年前スキャンダルで干されてからも、お前はずっと応援してくれたよな。Vシネの『キラーナイト』シリーズが当たったのも、お前のおかげだ」

 ああ、嬉しいなあ。
 頭と体がふわふわして、空も飛べそうな気分だ。
 わたしはずっと役者としての忍野くん、俳優忍野薫を応援してきた。
 高校一年のころからだから、もうかれこれ十三年になる。
 なんだか瞳が潤んでいくのを感じながら、わたしは彼の言葉に首を横に振った。

「俳優忍野薫の実力だよ。ほら、三年前に勤めてた会社の人、忍野くんのこと本当に反社会勢力所属の人間だって信じてたもん」
「あー……あのときは悪かったな。結局会社も転職したんだろ?」
「前の会社は有給取りにくかったから、ちょうど良かったよ。そろそろ俳優忍野薫が復活する時期だったしね!」

 とは言うものの、あれは不思議な事件だった。
 クリスマス(二十五歳)を過ぎたわたしが、そろそろ結婚を意識して当時の会社の同僚とデートしていたら、反社会勢力所属の人間風の格好をした忍野くんが押しかけてきたのよね。
 言動も裏社会系だった。
 なんだって、わたしの関係者を装って同僚に詰め寄ったりしたんだろう。
 Vシネ『キラーナイト』のオーディションを前にして練習してたのかしら。
 まあ見事に主役の殺し屋ナイトの役を射止めたんだから、わたしと同僚のつき合いが終わって、会社も替わることになったことなんか些末なことだ。
 『キラーナイト』は人気が出てシリーズ化したし、もうすぐ映画も公開される。
 今週の土曜日が初日だ。
 もちろん前売り券はゲット済み。
 映画は舞台と違って内容に変化はないけれど、それでも何度か観に行こうと思う。
 DVDも早く出るといいのに。
 応援上映っていうのはアニメだけなのかな。
 ペンライトを振って、俳優忍野薫を応援したいよ。
 なんて考えていたら──

「裏川……」

 忍野くんは、いきなりわたしを引き寄せてキスをした。
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