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第一話 恋敵は『俺』
6・素顔が邪魔をする。
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驚愕に瞳を見開いて、土下座していた忍野くんが顔を上げた。
「おまっ! 高校の同級生だぞ? 十三年もつき合ってきて友達ですらねぇのかよ!」
「……腐れ縁? さっきも言ったように俳優忍野薫を殺さないために忍野くんを支えてただけだし……まあ、雑誌やネットよりも早く俳優忍野薫の情報が手に入るのはありがたかったけど」
「俺の扱い酷くね?」
そう言われても。
わたしは俳優忍野薫のファンで、俳優忍野薫と忍野くんはべつなんだと、どれだけ説明したら理解してもらえるのやら。
忍野くんを無視して、タクシー会社をマンションのエントランスに呼ぶ。
「……じゃあね。俳優忍野薫を毎週テレビで観られるの、楽しみにしてる。頑張ってね」
スマホを片付けて玄関へ向かうわたしの背中に、忍野くんが悲痛な叫びを投げかけてくる。
「裏川っ!」
……もちろん、わたしは振り返ったりしなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ひとり暮らしのアパートに帰ったわたしは、タクシーでマナーモードにしていた間に届いていた忍野くんからの数十通のメールを無視して、彼のアドレスを着信拒否にした。
忍野くんから情報を聞けなくなるのは残念だけど、これからは俳優忍野薫がテレビで観られるんだものね。
それからアドレス帳を開いて、ある人に当ててメールを綴る。
もう夜遅いから、仕事を終えて帰っているかもしれない。
でも送信しておけば明日の朝見てもらえるだろう。
「送信、っと」
すべきことを終えて、わたしはアパートの畳に仰向けになった。
窓の外は暗い。
忍野くんに言われた通り、住宅地のこの辺りは真っ暗だった。
東京に通える位置にある田舎町、いわゆるベッドタウンだ。
わたしと忍野くんの実家はさらに田舎にある。
忍野くんは大学進学を機に、わたしは就職を機に上京(でいいのかな?)してきた。
溜息がこぼれる。
「……はあ」
せっかく俳優忍野薫にテレビの連続ドラマの仕事が入ったのに、忍野くんはなにをとち狂ってるんだろう。
わたしを好きだの結婚したいだの、正気の沙汰とは思えない。
五年前のスキャンダルとその後の乱行を反省しての禁欲生活の果てに、連続ドラマ出演というとてつもない吉報が飛び込んできて錯乱してるのかしらね。
……俳優忍野薫から、忍野くんの成分を取り除けたらいいのに。
ぼんやりと考えながら、わたしは自分の部屋を見回した。
仕事から帰ってすぐに忍野くんの電話があってアパートを出たから、明日の用意はなにもしていない。
夕飯は食べたからいいとして、お風呂に入らなくちゃな。
ああ、そうだ。
角のスーパーが特売日だったから卵買うつもりだったのに、忍野くんのマンションに行ったから買えなかったんだ。
スーパーの閉店時間はとっくの昔に過ぎている。
俳優忍野薫の新作情報聞けたからいいんだけど……明日のお弁当どうしよう。
というか、もしかして明日の朝ご飯の材料もない?
わたしは体を起こした。
狭い台所で冷蔵庫を開けてみる。……本気でなにもない。
スーパーの向こうにあるコンビニに行くのもめんどくさいなあ。
今日はすごく疲れてる。ホント、疲れた。
「夕飯の作り賃として、忍野くん家の冷蔵庫からなにかもらってくれば良かった」
消費の激しい卵や普段忍野くんが食べないセロリやピーマンはマンションへ行く途中の高級スーパーで買ったけど、お肉や海産物はたっぷり冷凍されてたのよねえ。
海老……海老とアボカドと食パンさえあれば。
いや海老だけでもいい。
空っぽの冷蔵庫を見つめていると、不意にスマホが着信音を奏でた。
着信相手はさっきメールを送信したばかりの相手、忍野くんのマネージャーの招木さんだった。
「おまっ! 高校の同級生だぞ? 十三年もつき合ってきて友達ですらねぇのかよ!」
「……腐れ縁? さっきも言ったように俳優忍野薫を殺さないために忍野くんを支えてただけだし……まあ、雑誌やネットよりも早く俳優忍野薫の情報が手に入るのはありがたかったけど」
「俺の扱い酷くね?」
そう言われても。
わたしは俳優忍野薫のファンで、俳優忍野薫と忍野くんはべつなんだと、どれだけ説明したら理解してもらえるのやら。
忍野くんを無視して、タクシー会社をマンションのエントランスに呼ぶ。
「……じゃあね。俳優忍野薫を毎週テレビで観られるの、楽しみにしてる。頑張ってね」
スマホを片付けて玄関へ向かうわたしの背中に、忍野くんが悲痛な叫びを投げかけてくる。
「裏川っ!」
……もちろん、わたしは振り返ったりしなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ひとり暮らしのアパートに帰ったわたしは、タクシーでマナーモードにしていた間に届いていた忍野くんからの数十通のメールを無視して、彼のアドレスを着信拒否にした。
忍野くんから情報を聞けなくなるのは残念だけど、これからは俳優忍野薫がテレビで観られるんだものね。
それからアドレス帳を開いて、ある人に当ててメールを綴る。
もう夜遅いから、仕事を終えて帰っているかもしれない。
でも送信しておけば明日の朝見てもらえるだろう。
「送信、っと」
すべきことを終えて、わたしはアパートの畳に仰向けになった。
窓の外は暗い。
忍野くんに言われた通り、住宅地のこの辺りは真っ暗だった。
東京に通える位置にある田舎町、いわゆるベッドタウンだ。
わたしと忍野くんの実家はさらに田舎にある。
忍野くんは大学進学を機に、わたしは就職を機に上京(でいいのかな?)してきた。
溜息がこぼれる。
「……はあ」
せっかく俳優忍野薫にテレビの連続ドラマの仕事が入ったのに、忍野くんはなにをとち狂ってるんだろう。
わたしを好きだの結婚したいだの、正気の沙汰とは思えない。
五年前のスキャンダルとその後の乱行を反省しての禁欲生活の果てに、連続ドラマ出演というとてつもない吉報が飛び込んできて錯乱してるのかしらね。
……俳優忍野薫から、忍野くんの成分を取り除けたらいいのに。
ぼんやりと考えながら、わたしは自分の部屋を見回した。
仕事から帰ってすぐに忍野くんの電話があってアパートを出たから、明日の用意はなにもしていない。
夕飯は食べたからいいとして、お風呂に入らなくちゃな。
ああ、そうだ。
角のスーパーが特売日だったから卵買うつもりだったのに、忍野くんのマンションに行ったから買えなかったんだ。
スーパーの閉店時間はとっくの昔に過ぎている。
俳優忍野薫の新作情報聞けたからいいんだけど……明日のお弁当どうしよう。
というか、もしかして明日の朝ご飯の材料もない?
わたしは体を起こした。
狭い台所で冷蔵庫を開けてみる。……本気でなにもない。
スーパーの向こうにあるコンビニに行くのもめんどくさいなあ。
今日はすごく疲れてる。ホント、疲れた。
「夕飯の作り賃として、忍野くん家の冷蔵庫からなにかもらってくれば良かった」
消費の激しい卵や普段忍野くんが食べないセロリやピーマンはマンションへ行く途中の高級スーパーで買ったけど、お肉や海産物はたっぷり冷凍されてたのよねえ。
海老……海老とアボカドと食パンさえあれば。
いや海老だけでもいい。
空っぽの冷蔵庫を見つめていると、不意にスマホが着信音を奏でた。
着信相手はさっきメールを送信したばかりの相手、忍野くんのマネージャーの招木さんだった。
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