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第一話 恋敵は『俺』
10・推しの引退だなんて考えるだけで涙が出ます。
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スマホから聞こえてくる招木さんの言葉に、向こうに見えないとわかりながらも首を横に振る。
招木さんは忍野くんがわたしを好きだと思ってるみたいだけれど、好きな相手にほかの女の子が来る前の部屋を掃除させるとかないですから。
「俳優忍野薫のファンなのをいいことに、こき使われてただけですよ」
「どうでしょうかね、ふふ。……話を戻しましょうか。忍野くんにとって俳優忍野薫は演技という形で露わにした本当の自分なんだと思います。人間にはいろいろな面がある。それを役を演じるという建前で見せているんですよ。彼がどんな役を演じても、どんな自分を見せても、すべて受け入れて認めてくれているのは裏川さんだけなんです」
「全部の演技を褒め称えてるわけじゃないですよ。それに、招木さんだって俳優忍野薫の才能には惚れ込んでるんでしょう?」
「惚れ込んではいますが、どんなに見守っても芽が出ないとなったら見捨てますよ。商売ですからね。でも裏川さんは、いつまでも見守り続けるんでしょう?」
「……」
わたしは言葉に詰まった。
俳優忍野薫は絶対に役者を辞めないと、どんなにわたしが言ったって意味はない。
決めるのは忍野くんだ。
もしかしたら本当に辞めてしまうかもしれない。
わたしがプロポーズを断ったくらいでそんなことありえないと思うけど、ほかの悩みから逃げるためにプロポーズしてきたのかもしれないし。
俳優忍野薫の演技が見られなくなるなんて……イヤだ。
「裏川さん」
招木さんが静かに言葉を紡ぐ。
「土曜日の映画鑑賞の後で、少々お時間をいただけませんか? 結婚というのは論外ですが忍野くんにはあなたが必要です。彼にとってなにが一番いいのか、一緒に考えてもらえないでしょうか」
「……はい」
わたしたちは映画の後で招木さんの事務所の近くにあるショッピングモールのオープンカフェで会う約束をして、電話を切った。
ショッピングモールは東京に近いけれど、ギリギリこの田舎町の範疇にある。
──去年の『ムーンドール』の舞台は五年前ほどの評価は受けられなかった。
ちなみにわたしは、去年は初日と千秋楽、五年前は全上演を観ている。
俳優忍野薫を締め出した舞台監督の名前は最近聞かない。
当事者である件の女優は数年前に、忍野くんでも舞台監督でもない男性と結婚していた。
その際、舞台監督と恋人だったことはないとも宣言していたっけ。
忍野くんは、とばっちりを食っただけだったのかもしれない。
といってもスケベな本人が悪いのに変わりはないのだけど。
あのときは烈火のように彼を怒鳴りつけたものだが、それでも心のどこかで俳優忍野薫は消えないと信じて安心していた。
本人も、干されようとどうしようと自分は役者を辞めないと言っていた。
……なんで今回は辞めるなんて言ったの。
わたしは押し入れから布団を出して敷き、頭までかぶって泣いた。
招木さんは忍野くんがわたしを好きだと思ってるみたいだけれど、好きな相手にほかの女の子が来る前の部屋を掃除させるとかないですから。
「俳優忍野薫のファンなのをいいことに、こき使われてただけですよ」
「どうでしょうかね、ふふ。……話を戻しましょうか。忍野くんにとって俳優忍野薫は演技という形で露わにした本当の自分なんだと思います。人間にはいろいろな面がある。それを役を演じるという建前で見せているんですよ。彼がどんな役を演じても、どんな自分を見せても、すべて受け入れて認めてくれているのは裏川さんだけなんです」
「全部の演技を褒め称えてるわけじゃないですよ。それに、招木さんだって俳優忍野薫の才能には惚れ込んでるんでしょう?」
「惚れ込んではいますが、どんなに見守っても芽が出ないとなったら見捨てますよ。商売ですからね。でも裏川さんは、いつまでも見守り続けるんでしょう?」
「……」
わたしは言葉に詰まった。
俳優忍野薫は絶対に役者を辞めないと、どんなにわたしが言ったって意味はない。
決めるのは忍野くんだ。
もしかしたら本当に辞めてしまうかもしれない。
わたしがプロポーズを断ったくらいでそんなことありえないと思うけど、ほかの悩みから逃げるためにプロポーズしてきたのかもしれないし。
俳優忍野薫の演技が見られなくなるなんて……イヤだ。
「裏川さん」
招木さんが静かに言葉を紡ぐ。
「土曜日の映画鑑賞の後で、少々お時間をいただけませんか? 結婚というのは論外ですが忍野くんにはあなたが必要です。彼にとってなにが一番いいのか、一緒に考えてもらえないでしょうか」
「……はい」
わたしたちは映画の後で招木さんの事務所の近くにあるショッピングモールのオープンカフェで会う約束をして、電話を切った。
ショッピングモールは東京に近いけれど、ギリギリこの田舎町の範疇にある。
──去年の『ムーンドール』の舞台は五年前ほどの評価は受けられなかった。
ちなみにわたしは、去年は初日と千秋楽、五年前は全上演を観ている。
俳優忍野薫を締め出した舞台監督の名前は最近聞かない。
当事者である件の女優は数年前に、忍野くんでも舞台監督でもない男性と結婚していた。
その際、舞台監督と恋人だったことはないとも宣言していたっけ。
忍野くんは、とばっちりを食っただけだったのかもしれない。
といってもスケベな本人が悪いのに変わりはないのだけど。
あのときは烈火のように彼を怒鳴りつけたものだが、それでも心のどこかで俳優忍野薫は消えないと信じて安心していた。
本人も、干されようとどうしようと自分は役者を辞めないと言っていた。
……なんで今回は辞めるなんて言ったの。
わたしは押し入れから布団を出して敷き、頭までかぶって泣いた。
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