素顔の俺に推し変しろよ!

豆狸

文字の大きさ
11 / 45
第一話 恋敵は『俺』

11・たばかられた!

しおりを挟む
 ──そして土曜日。
 招木さんの事務所近くのショッピングモールで、オープンカフェへ向かう。
 このカフェはテーブルに番号が振ってある。
 映画を観終わってから確認したメールで、招木さんが待っているテーブルの番号が指定されていた。

 ……十五、十四、十三、ここだ。

 パラソルで覆われたテーブルから椅子を引く。
 辺りは高齢者や子ども連れの家族でいっぱいだ。
 ベッドタウンならではの住民層のせいか、さっきいた『キラーナイト』の上映会場はガラガラだった。
 殺し屋の話だからR指定だしね。
 ヤング(笑)は東京まで行くんだろうなあ。
 わたしも明日はそうしようか。

「お待たせしました! 物販が混んでて……でも招木さんがおっしゃっていた通り、すごく良かったです。俳優忍野薫のクラスがワンランク上がったっていうか……わたし、この後でもう一回観に行くつもりなんですけど、招木さんも……忍野くん?」

 前に座っていたのは忍野くんだった。
 招木さんの姿は見えない。

「あー、これ。マネから裏川へのメール」

 忍野くんは自分のスマホを差し出してきた。
 裏川さんに見せてくださいと件名がつけられた、招木さんのメールが表示されている。

 ──おふたりで話したほうがいいでしょう。
 人前なら忍野も見苦しく泣き叫んだりできません。
 裏川さんのお望みの関係を伝えてください。
 どうしても忍野が食い下がるようなら、ご連絡ください。
 こちらで黙らせます。

「お……おう」

 思わず唸ってしまう。
 確かに忍野くんのマンションのような密室で会話するよりも、こういう場のほうが客観的になれていいか。
 この前はいきなりキスされちゃったしね。

「裏川、これ……」
「あ、言ってた高校時代の演劇部の公演DVD? 貸してくれるの?」
「貸すっていうか、やる」
「でもこれマスターDVDでしょ? 内容を記入しているペンが掠れてる。コピーのほうを自分のところに置いているの?」
「いや、俺はひとりじゃ観ないから。……お前が横で、褒めたり腐したり、泣いたり笑ったりしながら観ててくれるんじゃなきゃ自分の演技なんか見返さねぇよ。ナルシストじゃないんだから」

 その言葉に呆然とする。

「忍野くん、ナルシストじゃなかったの?」
「違うよ。鏡見る時間が多いのは観客にどう見えてるか確認してるからだ。……あー、この前はいきなり悪かった。それ、お詫びだ」

 キスのことを謝っているのだろう。
 あの夜届いた数十通のメールでも謝罪してくれていた。

「……うん。あの……」

 見つめると、忍野くんは慌てて言葉を続けた。

「交換条件とか出さないから安心しろ。お前に縁を切られても、今度の連ドラがアップするまでは役者も頑張るよ」
「……クランクアップしたら?」
「……わかんねぇ。お前が俺の演技を見て感想を言ってくれるのがなによりの楽しみだったから、それがなくなったらやる気なくなるかもな。って、悪い。脅しとかじゃないから気にしないでくれ。俺にはほかになにもないから、これからも頑張りたいとは思ってる」
「忍野くん……」

 やっぱりわたしが想像していたように、ほかの悩みを誤魔化すためにわたしを好きだと思い込もうとしているのかもしれない。
 ブログは続けろと言われたことがあるけれど、十三年間のつき合いで、わたしの感想が楽しみだと言われたのはこれが初めてだ。

「それより、さ、『キラーナイト』の感想聞かせてくれよ。言いかけてただろ? 今回の映画が好評ならVシネも第二シーズンに入るから、まだまだ俺は引退できないよ」
「……」

 寂しげに笑う忍野くんに、わたしは意を決して口を開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました

鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」 そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。 王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。 私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。 けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。 華やかな王宮。 厳しい王妃許育。 揺らぐ王家の威信。 そして――王子の重大な過ち。 王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。 離縁を望んでも叶わない義妹。 肩書きを失ってなお歩き直す王子。 そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。 ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。 婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。

処理中です...