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第一話 恋敵は『俺』
※15・心にお前がいればいい(忍野視点後編)
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俺のロミオを観た後の裏川の満面の笑み、そして──
すっごく面白かった。……でも、あのロミオってジュリエットのこと好きじゃないよね?
首を傾げて発した言葉が頭に蘇り、俺は頷いた。
そうだ、このロミオに愛はない。
舞台を降りたときの高校一年生と同じように、寄ってくる女にいい顔していたら相手のペースに押し切られただけだ。本当は死ぬ気なんかなかった。
裏川は昔から妙に鋭い。
自分でも薄々感じてたことを言い当てられちまうから、称賛以外の言葉も素直に受け入れられる。
称賛も否定も、上っ面だけの適当な言葉は聞いても耳をすり抜けて記憶に残らない。
それでいて裏川は、教室で隣の席の俺が裏庭で稽古していた演劇部員と同一人物だと、こっちから言い出すまで気づいてなかった。
女子人気のある俺と人前で接したくなかったのかとも考えたが……いや、あれは本気で気づいてなかったよな。目がまん丸になってたもんな。
「つうか今も、か」
裏川の中では、俳優忍野薫と高校の同級生の俺は別人らしい。
そういや二年のとき、アイツが観たっていうハムレット舞台の主演と年度と劇場を教えてもらうために、メール交換したんだよな。
アイツからメールが来たのは、あの情報を送って来たときだけだったっけ。
俺のメールには滅茶苦茶そっけない返事しか送ってこない。
考えていると悲しくなって、ついつい溜息を漏らしてしまう。
「はあ……いきなりプロポーズなんかするんじゃなかった」
これまでがこれまでなんで、結婚を口にすることで誠実さを見せたつもりだったんだが。
……裏川は二十九歳になっても結婚願望見せないんだよな。
うん、俺が裏川と結婚したかっただけだ。
俺の連ドラ出演を喜んでくれる裏川が可愛すぎて、キスしちまったのも良くなかった。
「でも……っ」
俺の手をつかむ小さな手は柔らかくて温かいし、澄んだ目は潤んでるし。
そもそも恋心を自覚してからの俺は、裏川が可愛くて可愛くて。
あの顔を思い出しただけで心臓が止まりそうになる。
なのに、メールは今も着拒されたままだ。
「はあ……」
溜息をついて、俺はDVDの再生を止めた。
昔の映像を観たところで、裏川のことを思い出して辛くなるだけだ。
「今なら、もっといい演技ができるのにな」
簡単に女を乗り換える最低のロミオが、ジュリエットを本気で愛して死をも厭わなくなる姿を演じてみせる。
俺は役者だから、二十八歳になってたって十六歳の少年の演技くらいお手のものだ。
「つってもな……」
裏川はもう、俺の演技なんか見てくれないかもしれない。
俺はプレーヤーからDVDを取り出してケースに片付けた。
招木マネのおかげで、明日は裏川と会える。
『キラーナイト』の映画を観た後なら、多少は機嫌もいいだろう。
このDVD三枚を渡して、この前のことを謝ったら元の友達に──って、俺、最初から友達とも思われてなかった。
「あーあ……」
DVDをソファー横の小机の上に置き、俺はソファーで体を伸ばした。
酔いが回ってきたのだ。
このままここで眠って風邪ひいたら、裏川看病しに来てくれないかなあ。
いや、連ドラ撮影前に風邪ひいたりしたら怒られるだけだな。
……会えるなら、怒られるだけでもいいけど。
とにかく明日は裏川に会える。
そう思うだけで俺は幸せな気分になって、安らかな眠りに落ちていった。
飲みかけのカクテルの缶が転がって、リビングのカーペットが台無しになっていくのに気づきもせずに。
すっごく面白かった。……でも、あのロミオってジュリエットのこと好きじゃないよね?
首を傾げて発した言葉が頭に蘇り、俺は頷いた。
そうだ、このロミオに愛はない。
舞台を降りたときの高校一年生と同じように、寄ってくる女にいい顔していたら相手のペースに押し切られただけだ。本当は死ぬ気なんかなかった。
裏川は昔から妙に鋭い。
自分でも薄々感じてたことを言い当てられちまうから、称賛以外の言葉も素直に受け入れられる。
称賛も否定も、上っ面だけの適当な言葉は聞いても耳をすり抜けて記憶に残らない。
それでいて裏川は、教室で隣の席の俺が裏庭で稽古していた演劇部員と同一人物だと、こっちから言い出すまで気づいてなかった。
女子人気のある俺と人前で接したくなかったのかとも考えたが……いや、あれは本気で気づいてなかったよな。目がまん丸になってたもんな。
「つうか今も、か」
裏川の中では、俳優忍野薫と高校の同級生の俺は別人らしい。
そういや二年のとき、アイツが観たっていうハムレット舞台の主演と年度と劇場を教えてもらうために、メール交換したんだよな。
アイツからメールが来たのは、あの情報を送って来たときだけだったっけ。
俺のメールには滅茶苦茶そっけない返事しか送ってこない。
考えていると悲しくなって、ついつい溜息を漏らしてしまう。
「はあ……いきなりプロポーズなんかするんじゃなかった」
これまでがこれまでなんで、結婚を口にすることで誠実さを見せたつもりだったんだが。
……裏川は二十九歳になっても結婚願望見せないんだよな。
うん、俺が裏川と結婚したかっただけだ。
俺の連ドラ出演を喜んでくれる裏川が可愛すぎて、キスしちまったのも良くなかった。
「でも……っ」
俺の手をつかむ小さな手は柔らかくて温かいし、澄んだ目は潤んでるし。
そもそも恋心を自覚してからの俺は、裏川が可愛くて可愛くて。
あの顔を思い出しただけで心臓が止まりそうになる。
なのに、メールは今も着拒されたままだ。
「はあ……」
溜息をついて、俺はDVDの再生を止めた。
昔の映像を観たところで、裏川のことを思い出して辛くなるだけだ。
「今なら、もっといい演技ができるのにな」
簡単に女を乗り換える最低のロミオが、ジュリエットを本気で愛して死をも厭わなくなる姿を演じてみせる。
俺は役者だから、二十八歳になってたって十六歳の少年の演技くらいお手のものだ。
「つってもな……」
裏川はもう、俺の演技なんか見てくれないかもしれない。
俺はプレーヤーからDVDを取り出してケースに片付けた。
招木マネのおかげで、明日は裏川と会える。
『キラーナイト』の映画を観た後なら、多少は機嫌もいいだろう。
このDVD三枚を渡して、この前のことを謝ったら元の友達に──って、俺、最初から友達とも思われてなかった。
「あーあ……」
DVDをソファー横の小机の上に置き、俺はソファーで体を伸ばした。
酔いが回ってきたのだ。
このままここで眠って風邪ひいたら、裏川看病しに来てくれないかなあ。
いや、連ドラ撮影前に風邪ひいたりしたら怒られるだけだな。
……会えるなら、怒られるだけでもいいけど。
とにかく明日は裏川に会える。
そう思うだけで俺は幸せな気分になって、安らかな眠りに落ちていった。
飲みかけのカクテルの缶が転がって、リビングのカーペットが台無しになっていくのに気づきもせずに。
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