素顔の俺に推し変しろよ!

豆狸

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第三話 かっぱっぱ

4・男子三日会わざれば

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 共演者に手を出すなというわたしの忠告に、忍野くんは不機嫌そうに答えた。

「……つうか、これからはお前だけだって言ったじゃん。俺はちゃんとお前とのつき合いは『恋人になるかもしれない』友達だってことも、強引に口説かれたくないって思ってることも理解してるのに、そっちは俺の発言全無視かよ」

 あー……確かにいろいろ言ってた気がする。
 なんだかんだで、わたしが俳優忍野薫の出演作を観に行くときに精いっぱいのオシャレをしてたことにも気づいてくれてたし。
 高校の同級生の忍野くんにも、いいところはあるんだよね。
 俳優忍野薫の素晴らしさが桁違いなだけで。

「ゴ、ゴメン」

 忍野くんは、ふっと笑みを漏らした。

「冗談。これまでがこれまでなんだから、信用されなくて当たり前だよな。信用してもらえるよう頑張るよ」

 そこまで引いてもらえると、こっちだって譲歩しなくてはいけない気分になる。
 友達としてできるだけのことをしたいと思っているのをアピールすることにした。

「……忍野くん、撮影現場ってお弁当が出るんだっけ」
「出るぞ。マネージャーのぶんは出ないかもしれないから、そのときは一緒に外へ食べに行くか?」
「いや……実はお弁当を作って来ちゃったんだよね、卵サンド」

 車の進行方向を向いたまま、忍野くんは目を見開いた。

「マジで? 俺、それ食う! なんなら裏川が撮影現場の弁当食えよ」
「そうしよっか」
「やったー、裏川の弁当だー。卵サンド卵サンド」

 忍野くんは本当に卵料理が好きだなあ。
 鼻歌を歌いながら車を走らせる彼を見ていると、わたしもなんだか楽しい気持ちになってきた。後は……時間が間に合って、俳優忍野薫が遅刻しませんように。

 ほどなくして撮影現場についたわたしたちは、招木さんから忍野くんに伝えられていた入り時間が一時間以上早かったことを知った。
 俳優忍野薫を遅刻させたくないわたしが、会話中に焦って判断力を失うことまでが計算のうちだったのだろう。
 そんなにわたしにマネージャー役をさせたかったのか。
 ……うーん。忍野くんがわたしを好きだっていうのにはなにかわけがあると思うし、仮に本当だったとしても、結婚したからって落ち着くとは限らないと思うんですけど。
 ということを、今度招木さんに会ったら言おうと思う。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「初めまして、忍野のマネージャーの裏川沙英です。まだ見習いで至らぬところもありますが、忍野ともどもよろしくお願いいたします」

 撮影現場は森の中だった。
 ロケバスで着替えた忍野くんと一緒に、スタッフさんに挨拶しながら歩く。
 お辞儀するわたしの隣には白い軍服姿の忍野くん。
 銀のマントを翻し、片メガネモノクルを光らせて、手には指示棒を持っている。
 彼は苦しむ学生を文具の力を借りて助ける戦士ペンケースVに対抗する、悪の組織『リフ・ジーン』の幹部役だ。
 複数の答えを持つ問題や難解な数式を武器にして攻撃するという。
 上手くCGを使って迫力のある攻撃を見せるんだろうけど、学生時代勉強が得意とは言い難かったわたしは、問題や数式という言葉だけで背筋が凍りつく。
 ……そういえば一度数学で追試になったとき、忍野くんが勉強を教えてくれたことがあったっけ。

「よろしくお願いします」

 わたしの隣で忍野くんも頭を下げる。
 ひと通り挨拶が終わったところで、わたしたちは並んで椅子に腰かけた。
 目の前ではこの『文具戦士ペンケースV』の主役、ペンケースレッド役の片桐仁王くんの撮影が行われている。

「片桐くんが戦ってるのが、忍野くんの怪人姿?」
「違う、あれは俺の部下。幹部があのデザインじゃ威厳がないだろ」
「ゴメン。あんまり情報出てなかったからチェックできなくて」

 チェックできたのは、片桐くんがレッド役だということくらいだった。
 俳優忍野薫が敵幹部役だということも、まだ報道されていない。
 ……ふうん。
 敵と戦うアクションシーンとはいえ、去年の『ムーンドール』とはまるで違う演技を見せる片桐くんに、わたしは心の中で感嘆した。

「変身前の姿で戦うのって素顔アクションって言うんだっけ?」
「特に決まってないんじゃねぇか?」

 なんてことを話している間に撮影が終わったらしく、カット! の声が辺りに響いた。
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