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第三話 かっぱっぱ
5・暴かれたブロガー
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ペンケースレッドの撮影が終わって、敵幹部役の俳優忍野薫の撮影が始まった。
時間軸を無視して撮って後から編集することが多い映像系では珍しく、俳優忍野薫のシーンはさっきのレッドのシーンの続きだ。
ペンケースVの変身アイテムを奪って素顔のレッドを襲撃した部下を『リフ・ジーン』幹部マセマティが叱責し、消滅させるのだという。
もちろん消滅するシーンはCGだろう。
俳優忍野薫演じるマセマティのイメージが決まる大切なシーンだ。
いくら俳優忍野薫でも、一回でOKが出ることはないと思う。
監督さんの頭の中にあるイメージと俳優忍野薫の引き出しは、大切に擦り合わせていかなくてはならない。
わたしはただの見学者に過ぎないのに、緊張して息ができなくなる。
これから俳優忍野薫の底のない引き出しからあふれる無限の演技が見られるかと思うと、期待で心臓の動悸が速まっていく。
本番の演技はもちろん最高だけど、高校の裏庭で見せてくれたように、俳優忍野薫がひとつの役柄をいろいろな解釈で彩ってくれるのだ。
俳優忍野薫沼の裏川沙英河童が嬉しくないはずがない。
「……裏川さん」
「ぴゃっ?」
河童の自覚を感じていたせいか、なんだか嘴から漏れたような声が出てしまった。
「は、はい。なんでしょう、片桐く……片桐さん」
自分のシーンの撮影の後でモニターチェックを済ませてから、忍野くんと入れ替わるようにわたしの隣に座っていた片桐仁王さんに微笑んでみせる。
招木さんの事務所の見習いマネージャーという設定なので、ヨソの俳優さんをくん付けしてはいけない。
でもあどけない顔してるんだよなあ。
忍野くんも言ってたけど、わたしたちが高校生のときに小学生だよ?
お肌ツヤツヤ。
もちろん挨拶と自己紹介は、彼が隣に座る前に済ませている。
片桐さんが笑う。
去年の『ムーンドール』の暗殺者役ともさっきまでのヒーローとも違う、無邪気で屈託のない、二十代前半の年相応の笑みだ。
「仁王でいいですよ」
「そういうわけにはいきませんよ」
言いながら、わたしは横目でチラチラと俳優忍野薫を追いかけていた。
ううん、自分でもわかってるの。
マネージャーを名乗った以上、ヨソの俳優さんに話しかけられたら、俳優忍野薫の撮影見学よりもそちらを優先しなくちゃいけないって。
……でも眼球が勝手に!
ふふっと、片桐さんが声を漏らした。
「ゴメンなさい。忍野さんの演技を見ているときに話しかけたりして」
「い、いえ、その……すいません、お話し中に」
「かまいませんよ。僕も忍野さんのファンなので、一緒に演技を見ながらお話ししませんか?」
「ありがとうございます」
わたしは視線を俳優忍野薫に戻した。
先ほど彼が演じた慇懃無礼なマセマティにはOKが出なかったようだ。
今度は嫌味っぽいキャラクターを演じている。
嫌味というか……この前会ったわたしの元同僚をモデルにしてそうな感じ。
「同じキャラクターでセリフも変えていないのに、表情と声の抑揚だけでべつのキャラクターを演じて見せるなんて、さすが忍野さんですね」
「ありがとうございます」
せっかく片桐さんが褒めてくれているのに、同じ言葉しか繰り返せない。
申し訳ないと思うと同時に、俳優忍野薫に集中したいから話しかけないでほしいと願っているわたしがいた。
……本当に我ながら全方位に酷いな。
俳優忍野薫は引き出しが多い。
嫌味の次はワガママで理想主義的なお坊ちゃん。
ちょっと愛嬌もあるので、このお坊ちゃんキャラでOKが出たら人気になるかも。
なんて思っていたら、隣の片桐さんが声を潜めて言った。
「……ねえ。裏川さんって『俳優忍野薫を裏から支えたいササエルのブログ』のササエルさんじゃないですか?」
時間軸を無視して撮って後から編集することが多い映像系では珍しく、俳優忍野薫のシーンはさっきのレッドのシーンの続きだ。
ペンケースVの変身アイテムを奪って素顔のレッドを襲撃した部下を『リフ・ジーン』幹部マセマティが叱責し、消滅させるのだという。
もちろん消滅するシーンはCGだろう。
俳優忍野薫演じるマセマティのイメージが決まる大切なシーンだ。
いくら俳優忍野薫でも、一回でOKが出ることはないと思う。
監督さんの頭の中にあるイメージと俳優忍野薫の引き出しは、大切に擦り合わせていかなくてはならない。
わたしはただの見学者に過ぎないのに、緊張して息ができなくなる。
これから俳優忍野薫の底のない引き出しからあふれる無限の演技が見られるかと思うと、期待で心臓の動悸が速まっていく。
本番の演技はもちろん最高だけど、高校の裏庭で見せてくれたように、俳優忍野薫がひとつの役柄をいろいろな解釈で彩ってくれるのだ。
俳優忍野薫沼の裏川沙英河童が嬉しくないはずがない。
「……裏川さん」
「ぴゃっ?」
河童の自覚を感じていたせいか、なんだか嘴から漏れたような声が出てしまった。
「は、はい。なんでしょう、片桐く……片桐さん」
自分のシーンの撮影の後でモニターチェックを済ませてから、忍野くんと入れ替わるようにわたしの隣に座っていた片桐仁王さんに微笑んでみせる。
招木さんの事務所の見習いマネージャーという設定なので、ヨソの俳優さんをくん付けしてはいけない。
でもあどけない顔してるんだよなあ。
忍野くんも言ってたけど、わたしたちが高校生のときに小学生だよ?
お肌ツヤツヤ。
もちろん挨拶と自己紹介は、彼が隣に座る前に済ませている。
片桐さんが笑う。
去年の『ムーンドール』の暗殺者役ともさっきまでのヒーローとも違う、無邪気で屈託のない、二十代前半の年相応の笑みだ。
「仁王でいいですよ」
「そういうわけにはいきませんよ」
言いながら、わたしは横目でチラチラと俳優忍野薫を追いかけていた。
ううん、自分でもわかってるの。
マネージャーを名乗った以上、ヨソの俳優さんに話しかけられたら、俳優忍野薫の撮影見学よりもそちらを優先しなくちゃいけないって。
……でも眼球が勝手に!
ふふっと、片桐さんが声を漏らした。
「ゴメンなさい。忍野さんの演技を見ているときに話しかけたりして」
「い、いえ、その……すいません、お話し中に」
「かまいませんよ。僕も忍野さんのファンなので、一緒に演技を見ながらお話ししませんか?」
「ありがとうございます」
わたしは視線を俳優忍野薫に戻した。
先ほど彼が演じた慇懃無礼なマセマティにはOKが出なかったようだ。
今度は嫌味っぽいキャラクターを演じている。
嫌味というか……この前会ったわたしの元同僚をモデルにしてそうな感じ。
「同じキャラクターでセリフも変えていないのに、表情と声の抑揚だけでべつのキャラクターを演じて見せるなんて、さすが忍野さんですね」
「ありがとうございます」
せっかく片桐さんが褒めてくれているのに、同じ言葉しか繰り返せない。
申し訳ないと思うと同時に、俳優忍野薫に集中したいから話しかけないでほしいと願っているわたしがいた。
……本当に我ながら全方位に酷いな。
俳優忍野薫は引き出しが多い。
嫌味の次はワガママで理想主義的なお坊ちゃん。
ちょっと愛嬌もあるので、このお坊ちゃんキャラでOKが出たら人気になるかも。
なんて思っていたら、隣の片桐さんが声を潜めて言った。
「……ねえ。裏川さんって『俳優忍野薫を裏から支えたいササエルのブログ』のササエルさんじゃないですか?」
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