転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~

豆狸

文字の大きさ
48 / 64
葉菜花、帰ってきました編

47・白馬と王子様と子犬とわたし

 ワームがワイアームに進化するのを見た翌日の朝、わたしは食事を終えて『黄金のケルベロス亭』を出た。
 本館は出たけれど敷地からは出ない。

「わふわふ!」
「こっち?」

 ラケルに先導されて、宿の厩舎へ向かう。
 そこには純白の全身鎧を纏ったシオン君がいた。

「シオン君、おはよう」
「おはよう」
「わふ!」
「わざわざごめんね」
「俺のほうから頼んだ依頼だ。それに今回のダンジョンはできたばかりだったので、まだ街道が整備されていない。馬か徒歩で行くしかないのなら、俺が迎えに来るのが最善だろう」

 ベルちゃんはいない。
 シオン君とベルちゃんのお仕事はとっくの昔に始まっていて、勤務時間の短いわたしだけ彼が迎えに来てくれたのだ。
 今日からいよいよ、ダンジョンアントに制圧されたダンジョンに『聖域』を張るベルちゃんとそれを警護する騎士団員達の食事係が始まる。

「本当に今日からでいいのか? 昨日も採取の依頼を受けて休んでいないんじゃないのか?」
「うん、大丈夫。採取の依頼はラケルのおかげで楽勝だったし」
「わふ♪」
「面白いこともあったから」

 目の前でワームがワイアームに進化するのを目撃したことは、昨夜の食事のときに話している。

「これから行くダンジョンの王獣で間違いないな。人間や家畜を襲わないか心配していたのだが、その様子では安心しても良さそうだ」
「わふわふ!」

 シオン君の言葉にラケルが頷く。
 『鑑定』を持つシオン君は、ダンジョンから追い出されたワームが人間や家畜を襲うはぐれモンスターにならないか心配して、よく様子を見に行っていたそうだ。

「倒しても良かったが、そうするとダンジョンアントを倒したあとでコアが新しい王獣を生み出さなくてはならないからな。ダンジョンを守るモンスターが生まれたばかりで弱ければ、またダンジョンアントにつけ込まれる」

 ……あの子、早くお家ダンジョンに帰れるといいな。

「メレナ、葉菜花だ。この前会ったのを覚えているな」

 長いまつ毛を伏せて、輝くような白馬が頷く。

「たまに貴様に与えていた魔石ごはんを作ったのが葉菜花だ」
「ひひんっ?」
「わふー」

 驚いたような顔をする白馬を見て、ラケルがドヤ顔をする。

「葉菜花、俺の馬メレナだ」
「よろしくね、メレナ」

 牝馬なのだという。
 だからか牡馬だったツォッコロよりひと回り小さい。
 脚もすらりとして見える。品種自体違うのかも。

 わたしは彼女の雪色の鬣を撫でた。
 サラサラだ。
 つぶらな目を細めているのは気持ちいいからだといいな。

「それでは出発しようか。ラケル殿はどうする? 葉菜花の膝に乗るか?」
「わふう!」
「ラケルはメレナと並走したいんだって」

 昨夜馬で送り迎えをしてくれるという話を聞いたあとで、本犬が言っていた。

「そうか。だが走るとしたら門を出てからだぞ、ラケル殿」
「わふ!」
「失礼するぞ、葉菜花」
「あ、うん」

 シオン君がわたしを抱き上げて、メレナの背の鞍に座らせてくれる。
 馬に乗るのも馬にふたり乗りするのも初めてだから、ちょっとドキドキするな。
 後ろに座ったシオン君が、わたしの体を支えてくれた。

「俺は鎧だが……痛くはないか?」
「うん、大丈夫。金属の鎧なのに、あんまり硬さを感じないよ」
「これはミスリル銀だからな。貴様のローブと一緒で、着用者が心地良いよう勝手に整えてくれる」
「へーえ」
「ひひーん」
「わふふ♪」

 そんなことを話しながら、わたし達は出発した。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 冒険者ギルドで手続きを済ませたあと、王都サトゥルノの正門をシオン君の顔パス(兜パス?)で出て、森の中の道を進む。

「こんなにゆっくりで大丈夫?」
「俺が抜けた程度で業務が滞るようでは困る。俺の補佐も副団長もいるから問題はない」

 そう言いつつも彼は毎日休みなく仕事をしている。
 『黄金のケルベロス亭』で魔石ごはんを食べたあとも、王宮へ戻る前にダンジョンを覗きに行くこともあるそうだ。
 副団長は複数いて、交代で業務に当たってくれているという。

「わふー……」
「ひひんひん」

 のんびり進んでいることに不満げなラケルに、メレナが諭すように声をかける。
 かなり頭の良いお馬さんのようだ。
 子犬のラケルと違って、もう大人なんだろうな。

 そういえば、この世界ではわたしの誕生日っていつになるんだろう。
 王都へ帰って来た日の夜に見た、前世の夢を思い出す。
 ……誕生日プレゼント、か。

「沈んだ顔をして、どうした?」
「わふう……?」

 シオン君とラケルが心配そうな顔をする。
 解放されていないダンジョンへ向かう人はいないので、この辺りにはわたし達しかいない。
 でも急に騎士団員がシオン君を探しに来たりする可能性もあるため、おしゃべりの許可は出していなかった。

「ごめん、なんでもないの。というか実はわたし春生まれなんだけど、この世界と前世は暦が違うから、どうやって年を数えたらいいかなーと思って」

 前世で死んでからこちらに転生するまでの間に、どれくらい経っていたのかはわからないままだ。
 ラケルに聞いたこともあるのだが、神獣ダンジョンのケルベロス様の間はほかと時間の流れが違うので、はっきり言えないとのことだった。
 わたしが過ぎ去った時間にショックを受けないように、わかっていても話さないでいてくれているのかもしれない。

「貴様の世界の暦は月の満ち欠けとは関係ないんだったな」

 この世界では太陰暦、前世でも昔使われていた月を基準とした暦が使われている。
 月の形で判断するからわかりやすいものの、少しずつ季節がずれていくので数年に一回閏月が必要だ。
 つまりそれは、この世界の月もひとつしかないということでもあった。

「うん。今年はもう十五歳で押し通して、来年の初めで十六歳になろうかな」
「それでいいんじゃないか?」

 この世界の人間は、そうやって年齢を数えている。
 前世も昔はお正月にみんな揃って年を取っていたのよね。
 数え年ってヤツです。

 ……そう考えるとシオン君の十七歳って数え年だから、実年齢はわたしと同じだったりするのかな。
 とても同い年とは思えない落ち着きだよね。
 あれ? そうすると十六歳のベルちゃんは年下だったりする?

 メレナの背で首を傾げているうちに、わたし達はダンジョンに着いた。
 それほどの距離ではないけれど、王都の鐘の音が聞こえるほど近くはない。

あなたにおすすめの小説

【完結】カノン・クライスラーはリンカネーション・ハイである。~回数制限付きでこの世界にある魔法なら何でも使えるという転生特典を貰いました

Debby
ファンタジー
【最終話まで予約投稿済み】 カノン・クライスラーは、辺境に近い領地を持つ子爵家の令嬢である。 頑張ってはいるけれど、家庭教師が泣いて謝るくらいには勉強は苦手で、運動はそれ以上に苦手だ。大半の貴族子女が16才になれば『発現』するという魔法も使えない。 そんなカノンは、王立学園の入学試験を受けるために王都へ向かっている途中で、乗っていた馬車が盗賊に襲われ大けがを負ってしまう。危うく天に召されるかと思ったその時、こういう物語ではお約束──前世の記憶?と転生特典の魔法が使えることを思い出したのだ! 例えそれがこの世界の常識から逸脱していても、魔法が使えるのであれば色々試してみたいと思うのが転生者の常。 リンカネーション(転生者)・ハイとなった、カノンの冒険がはじまった! ★ 覗いてくださりありがとうございます(*´▽`人) このお話は「異世界転生の特典として回数制限付きの魔法をもらいました」を(反省点を踏まえ)かなり設定を変えて加筆修正したものになります。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった