転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~

豆狸

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葉菜花、帰ってきました編

47・白馬と王子様と子犬とわたし

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 ワームがワイアームに進化するのを見た翌日の朝、わたしは食事を終えて『黄金のケルベロス亭』を出た。
 本館は出たけれど敷地からは出ない。

「わふわふ!」
「こっち?」

 ラケルに先導されて、宿の厩舎へ向かう。
 そこには純白の全身鎧を纏ったシオン君がいた。

「シオン君、おはよう」
「おはよう」
「わふ!」
「わざわざごめんね」
「俺のほうから頼んだ依頼だ。それに今回のダンジョンはできたばかりだったので、まだ街道が整備されていない。馬か徒歩で行くしかないのなら、俺が迎えに来るのが最善だろう」

 ベルちゃんはいない。
 シオン君とベルちゃんのお仕事はとっくの昔に始まっていて、勤務時間の短いわたしだけ彼が迎えに来てくれたのだ。
 今日からいよいよ、ダンジョンアントに制圧されたダンジョンに『聖域』を張るベルちゃんとそれを警護する騎士団員達の食事係が始まる。

「本当に今日からでいいのか? 昨日も採取の依頼を受けて休んでいないんじゃないのか?」
「うん、大丈夫。採取の依頼はラケルのおかげで楽勝だったし」
「わふ♪」
「面白いこともあったから」

 目の前でワームがワイアームに進化するのを目撃したことは、昨夜の食事のときに話している。

「これから行くダンジョンの王獣で間違いないな。人間や家畜を襲わないか心配していたのだが、その様子では安心しても良さそうだ」
「わふわふ!」

 シオン君の言葉にラケルが頷く。
 『鑑定』を持つシオン君は、ダンジョンから追い出されたワームが人間や家畜を襲うはぐれモンスターにならないか心配して、よく様子を見に行っていたそうだ。

「倒しても良かったが、そうするとダンジョンアントを倒したあとでコアが新しい王獣を生み出さなくてはならないからな。ダンジョンを守るモンスターが生まれたばかりで弱ければ、またダンジョンアントにつけ込まれる」

 ……あの子、早くお家ダンジョンに帰れるといいな。

「メレナ、葉菜花だ。この前会ったのを覚えているな」

 長いまつ毛を伏せて、輝くような白馬が頷く。

「たまに貴様に与えていた魔石ごはんを作ったのが葉菜花だ」
「ひひんっ?」
「わふー」

 驚いたような顔をする白馬を見て、ラケルがドヤ顔をする。

「葉菜花、俺の馬メレナだ」
「よろしくね、メレナ」

 牝馬なのだという。
 だからか牡馬だったツォッコロよりひと回り小さい。
 脚もすらりとして見える。品種自体違うのかも。

 わたしは彼女の雪色の鬣を撫でた。
 サラサラだ。
 つぶらな目を細めているのは気持ちいいからだといいな。

「それでは出発しようか。ラケル殿はどうする? 葉菜花の膝に乗るか?」
「わふう!」
「ラケルはメレナと並走したいんだって」

 昨夜馬で送り迎えをしてくれるという話を聞いたあとで、本犬が言っていた。

「そうか。だが走るとしたら門を出てからだぞ、ラケル殿」
「わふ!」
「失礼するぞ、葉菜花」
「あ、うん」

 シオン君がわたしを抱き上げて、メレナの背の鞍に座らせてくれる。
 馬に乗るのも馬にふたり乗りするのも初めてだから、ちょっとドキドキするな。
 後ろに座ったシオン君が、わたしの体を支えてくれた。

「俺は鎧だが……痛くはないか?」
「うん、大丈夫。金属の鎧なのに、あんまり硬さを感じないよ」
「これはミスリル銀だからな。貴様のローブと一緒で、着用者が心地良いよう勝手に整えてくれる」
「へーえ」
「ひひーん」
「わふふ♪」

 そんなことを話しながら、わたし達は出発した。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 冒険者ギルドで手続きを済ませたあと、王都サトゥルノの正門をシオン君の顔パス(兜パス?)で出て、森の中の道を進む。

「こんなにゆっくりで大丈夫?」
「俺が抜けた程度で業務が滞るようでは困る。俺の補佐も副団長もいるから問題はない」

 そう言いつつも彼は毎日休みなく仕事をしている。
 『黄金のケルベロス亭』で魔石ごはんを食べたあとも、王宮へ戻る前にダンジョンを覗きに行くこともあるそうだ。
 副団長は複数いて、交代で業務に当たってくれているという。

「わふー……」
「ひひんひん」

 のんびり進んでいることに不満げなラケルに、メレナが諭すように声をかける。
 かなり頭の良いお馬さんのようだ。
 子犬のラケルと違って、もう大人なんだろうな。

 そういえば、この世界ではわたしの誕生日っていつになるんだろう。
 王都へ帰って来た日の夜に見た、前世の夢を思い出す。
 ……誕生日プレゼント、か。

「沈んだ顔をして、どうした?」
「わふう……?」

 シオン君とラケルが心配そうな顔をする。
 解放されていないダンジョンへ向かう人はいないので、この辺りにはわたし達しかいない。
 でも急に騎士団員がシオン君を探しに来たりする可能性もあるため、おしゃべりの許可は出していなかった。

「ごめん、なんでもないの。というか実はわたし春生まれなんだけど、この世界と前世は暦が違うから、どうやって年を数えたらいいかなーと思って」

 前世で死んでからこちらに転生するまでの間に、どれくらい経っていたのかはわからないままだ。
 ラケルに聞いたこともあるのだが、神獣ダンジョンのケルベロス様の間はほかと時間の流れが違うので、はっきり言えないとのことだった。
 わたしが過ぎ去った時間にショックを受けないように、わかっていても話さないでいてくれているのかもしれない。

「貴様の世界の暦は月の満ち欠けとは関係ないんだったな」

 この世界では太陰暦、前世でも昔使われていた月を基準とした暦が使われている。
 月の形で判断するからわかりやすいものの、少しずつ季節がずれていくので数年に一回閏月が必要だ。
 つまりそれは、この世界の月もひとつしかないということでもあった。

「うん。今年はもう十五歳で押し通して、来年の初めで十六歳になろうかな」
「それでいいんじゃないか?」

 この世界の人間は、そうやって年齢を数えている。
 前世も昔はお正月にみんな揃って年を取っていたのよね。
 数え年ってヤツです。

 ……そう考えるとシオン君の十七歳って数え年だから、実年齢はわたしと同じだったりするのかな。
 とても同い年とは思えない落ち着きだよね。
 あれ? そうすると十六歳のベルちゃんは年下だったりする?

 メレナの背で首を傾げているうちに、わたし達はダンジョンに着いた。
 それほどの距離ではないけれど、王都の鐘の音が聞こえるほど近くはない。
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