転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~

豆狸

文字の大きさ
56 / 64
アリの巣殲滅編

55・スキルアップは難しい。

しおりを挟む
 アリの巣殲滅初日を終えて、わたし達は『黄金のケルベロス亭』に帰っていた。
 ……ううん。ベルちゃんとシオン君はここで寝泊まりしてるわけじゃないんだけどね。
 そう勘違いしそうなくらい、ふたりと一緒にいるなあ。

「今日の夕食は冷やしうどんです」

 ふたりのお鍋とわたしとラケルのお皿に、冷やしうどんを作って出す。
 具はネギにツナ、茹でたキャベツにブロッコリー、アボカドとエビの天ぷら。味付けはマヨネーズと出汁じょう油です。
 あ、削ったカツオ節もかけてます。

「パスタより太いな。まるで違う食感で、これも美味い」
「……うん、美味しい」
「コシがあるぞ♪」

 冷やしうどんだけだとふたりは足りないだろうから、稲荷寿司も作ろうか。
 お昼にも食べたから、もういらないかな?
 とか考えていたら、シオン君の視線に気づいた。

「シオン君?」
「シオン、なんでごしゅじん見てるんだ?」
「不躾に見つめてしまってすまない。今日はあれだけの魔石ごはんを用意してもらったというのに相変わらずMPが減っていないし、スキルのレベルも上がっていないので不思議に思ってしまったんだ」

 彼はわたしのことを『鑑定』してたみたい。

「レベルアップってどうやってするの?」
「スキルのレベルアップは難しい。同じことを何度も何度も繰り返すか、今の自分では成功するかわからないような高難易度のことをおこなわなくてはならないんだ」
「ふたりもそうやってレベルアップしたの?」

 ベルちゃんは首を傾げた。

「……『アイテムボックス』は黄金の腕輪ドラウプニル付随だから。私がどうしようとも経年劣化していく。魔術は術式だし」
「シオン君の『鑑定』も聖剣カリバーンからだっけ?」
「俺の場合は聖女とは違うな。与えられたものだから聖剣カリバーンを持っていなくても発動できる」

 そういえば、そうでした。

「じゃあレベルが上がったりもするの?」
「ああ。十五で成人したとき聖剣カリバーンに選ばれて、最初1だったレベルが今では3になっている」
「一年経てば上がるってこと?」
「使わなければダメだ。使用回数によるレベルアップは、これ以上は難しそうだな。なにしろ俺以外に『鑑定』を普段使用できるものがいないから、だれも『鑑定』避けなどしていない。高難易度のことができないからレベルアップするほど経験を積めないんだ」

 床に神聖系魔術強化陣が刻まれた神殿で『鑑定』を受けるときは、最初からその気で行くんだろうしね。

「……葉菜花、お代わり」
「ベルちゃん、稲荷寿司でいい?」
「……ん」
「俺もー!」

 冷やしうどんを食べ終えたベルちゃんとラケルに稲荷寿司を作りながら、シオン君に聞いてみる。

「わたしもなにか難しいことをしてみたらレベルアップできるのかな?」

 『異世界料理再現錬金術』のレベルが上がったら、炊き立てごはんが変成できるようになるといいな。

「理屈ではそうなるが、貴様の場合難しいのではないか?……俺も稲荷寿司。あと巻き寿司を一本切らずにくれ」
「……私も」
「俺はごしゅじんが食べるときに端っこが欲しいぞ」

 ラケル以外は恵方巻きみたいな食べ方をする気らしい。
 今は節分の時期じゃないけれど、節分って元々は季節が変わる前のことだから春と夏の境目のころならおかしくないかもね。
 ふたりにはアナゴ、自分とラケルにはエビとツナの入ったサラダ巻きを変成した。

 今日だけで相当数の魔石ごはんを作ったはずなのに、ダンジョンアントの魔石が減ってる気がしないのはなぜだろう。

「それも美味そうだな。葉菜花のと同じものもくれ」
「……私も食べる」

 シオン君とベルちゃんにサラダ巻きを追加して、さっきの話を蒸し返す。

「わたしの場合は難しいってどういうこと?」
「なにが難しいかわからない」

 シオン君は相変わらず、巻き寿司を一本頬張っても一幅の絵のように整った姿です。

「先日聖女が持ち込んだバッドドラゴンのS級魔石も軽々と変成していただろう? 魔石のランクが高くても大丈夫で、今日のように大量に違うものを変成するのも平気。これまで『異世界料理再現錬金術』を使っていて手こずった経験はあるのか?」
「初めてダンジョンアントの魔石を変成したときは、その前のスライムの魔石との違いに驚いたけど、変成するのが難しいとは思わなかったかな」
「さすが俺のごしゅじんなんだぞ!」
「……葉菜花はすごい」
「ありがとう」

 大事なスキルだし気に入っているけれど、手放しで褒められると照れくさい。
 変成するたびMPの減少を実感するとかなら素直に喜べる気がする。
 でもそんな状態だと、大量の魔石ごはんは作れないかな。

「レベルが1のままだと困ることでもあるのか?」
「そんなことはないよ」

 炊き立てごはんは食べたいが、美味しいものが作れて食べられるんだから現状に不満はない。

「魔石はこの世界の文明の基盤となるものだからな。大量のダンジョンアントのF級魔石で鍋いっぱいのラーメンを作ってくれたように、貴様の力で新しい可能性を見せてもらえるとありがたい」
「……魔石ごはんを作れるだけで素晴らしい」
「えっと、えっと……ごしゅじんはすごいんだぞ!」
「う、うん、ありがとう」

 やっぱりみんなで示し合わせてわたしを褒め殺しにするつもりなんじゃ、と訝しみながらもお礼を言う。

「わたしのほうこそ、いつも助けてもらって感謝してる。シオン君もベルちゃんもラケルもありがとう」
「気にするな」
「……友達、だから」
「俺はごしゅじんの使い魔だからな!」

 頼りになる仲間と一緒に、明日のアリの巣殲滅の食事係も頑張ろうと思います。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!

ariya
ファンタジー
誰にも食べられずゴミ箱に捨てられた「おからクッキー」は、異世界で150kgの絶望令嬢・ロザリンドと出会う。 転生チートを武器に、88kgの減量を導く! 婚約破棄され「豚令嬢」と罵られたロザリンドは、 クッキーの叱咤と分裂で空腹を乗り越え、 薔薇のように美しく咲き変わる。 舞踏会での王太子へのスカッとする一撃、 父との涙の再会、 そして最後の別れ―― 「僕を食べてくれて、ありがとう」 捨てられた一枚が紡いだ、奇跡のダイエット革命! ※カクヨム・小説家になろうでも同時掲載中 ※表紙イラストはAIに作成していただきました。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい

しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。 婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。 「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」 「「「は?」」」 「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」 前代未聞の出来事。 王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。 これでハッピーエンド。 一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。 その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。 対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。 タイトル変更しました。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...