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アリの巣殲滅編
56・元気みたいです。
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アリの巣殲滅が始まって早三日──
すべては順調に、予想をはるかに上回る順調さで進んでいます。
予定は十日で、一日一層終われば大満足なくらいだったのに、もう七層目です。
説明があるから一層は無理だろうと思われていた初日も、二層の半分以上殲滅が終わった状態で幕を下ろしました。
このままだと五日で終わるんじゃないかと、シオン君が複雑そうな顔で言う。
「貴様に言わせたのは俺だが、まさかラーメンをエサにするだけで、マルコがあんなに気合いを入れてくるとは思わなかった」
ここはシオン君専用のテントの中、彼は兜を外している。
「マルコはラーメンが好きなんだぞ。ごしゅじんの魔石ごはんは美味しいからな!」
ほかに人がいないのでおしゃべりを許しているラケルがドヤ顔になる。
ベルちゃんは今当番で、救護テントで負傷者の治療に当たっていた。
シオン君の昼食が終わったら、ベルちゃんと休憩用テントに戻ってわたしもお昼。
今のところ神官少女達がベルちゃんを勧誘することはないんだけど、やっぱり心配だからね。
シオン君のところで三人+一匹で、とも思うものの、ふたりのどちらかは参加者の視界にいたほうがいいんだって。
ガルグイユ騎士団団長と聖女様だもんね。
「そういえばお別れのとき、マルコさんにラーメン目当てのプロポーズされたよ」
「はあっ? 俺は聞いてないぞ」
シオン君の形の良い眉が吊り上がった。
あまりの迫力に、ちょっと怖くなる。
「う、うん。ごめん。言ってなかったかも」
「いや、すまない。驚いて声が大きくなった」
「そうだよね、わたしに結婚なんてまだ早いよね」
「早いぞ」「早いな」
なぜかシオン君とラケルの声が重なった。
「冗談みたいなものだと思うよ。ニコロ君にも叱られてたし」
「ああ、そうだろうな。俺からもマルコに話をしておく。そういう冗談は悪趣味だ」
「ごしゅじんに結婚を申し込むなんてダメなんだぞ」
シオン君の言葉に、ラケルは重々しく頷いている。
「早く進んでるならいいことなんだし、とりあえずシオン君はお昼をどうぞ」
「いただこう」
準備のときから休みなしだというのに、シオン君の食欲が衰えることはない。
ううん、だからこそ、なのかな?
今日のメニューは彼のリクエストで、餅明太子ピザ明太子パスタ、明太子バゲットとチリドッグ、カレーパン激辛カレーパン、カレーまんと我が家のおばあちゃん特製のホットドッグである。
ほとんどが味の濃いものなのは、やっぱり疲れが溜まっているからなのかもしれない。
激辛カレーパン(HP自然回復率上昇)と特製ホットドッグ(精神力上昇)以外は攻撃力上昇の付与効果がある。
「本当はラーメンも食いたいのだが、匂いがするとマルコが来そうだからな」
ダンジョンの側に設置されたテントには匂いを遮断する機能はない。
初日にパフェを作ったときも、チョコレートを溶かす匂いに引かれて休憩用テントの前に人が集まってきた。
ふと見たら人影で入り口のところが真っ暗になっていて、すごく怖かった。
飲み物は炭酸水。シオン君はレモンサイダーが好きみたい。
「なにかデザート作ろうか?」
「デザート?」
「うん。そのまま『異世界料理再現錬金術』で変成するんじゃなくて、いろいろ出して組み合わせて」
『異世界料理再現錬金術』は良いスキルなのだけど、達成感がない。
自己満足に過ぎないものの、頑張ってるシオン君のためにわたしも頑張りたいな、なんて思ったのだ。
「この前聖女達と作っていたパフェのようなものか」
「そうだよ。今度はプリンアラモードにしようかと思って。プリンを真ん中にしてフルーツ、は変成できないからドライフルーツやアイスを飾るの」
「美味そうだな、頼む」
「シオン、いーなー」
「ラケル殿もこちらで食べていったらどうだ?」
「ベルがひとりだと可哀相だから、俺は戻ってから食べるぞ」
「俺はひとりでも可哀相じゃないのか」
「シオンは絡んでくるヤツいないだろ」
ラケルの言葉に、シオン君がわたしを見た。
「やはり聖神殿から来た救護係は聖女に絡んでいるのか?」
「ううん。これまでは勧誘するような発言はなかったと思うよ。でもベルちゃんがすごく緊張してるから」
「聖女が緊張しているのは……まあ、いい。葉菜花とラケル殿と昼食が摂れて、聖女は幸せものだ」
「派閥とかなければいいのにね。ドロレスさんもパウリーナさんも根は良い人だと思う」
「貴様が懐柔されるなよ」
「わかってる。ベルちゃんのためにも気をつけるよ」
言いながら、ラケルに出してもらった大皿にプリンアラモードの具を載せる。
ドライフルーツに焼き菓子、アイスクリームだ。
炊き立てごはんと同じで、生クリーム単品は作れない。
プリンはべつに出してもらったお皿の中央にみっつ変成して、スプーンでほかの具を周りに飾っていく。
カラメルソースのかかった部分が顔で、ドライフルーツを耳と目にして、チョコアイスが体、砕いたクッキーを毛皮みたいに散りばめて……お箸が欲しい。
「ごしゅじん、これ父上か?」
「うん。シオン君へのお土産がケルベロス様の像だったから、今回もケルベロス様にしようかな、と思って」
シオン君が微笑む。
「面白いことを考えるな、貴様は。……そうだ。言おうと思っていたことがある」
「なぁに?」
「この前話していたワイアームだが、ときどきこのダンジョンに戻って来ているようだぞ。三層五層にある露出した地下水脈の側で休憩しているときダンジョンアントに襲われた参加者達が、水中から現れたワイアームに救われたという情報を上げてきている」
「元気でやってるんだな」
「アリの巣殲滅が終わったらダンジョンに帰れるの?」
「それは向こうの気持ち次第だな。そのほうがダンジョンの成長が早いから、俺としては帰ってきてダンジョンの王獣になって欲しいと思っている」
「そうかー」
シオン君のプリンアラモードをちょっぴりつまみ食いさせてもらったあとで、わたしとラケルは彼のテントを出た。
ワイアームが元気そうで良かったです。
すべては順調に、予想をはるかに上回る順調さで進んでいます。
予定は十日で、一日一層終われば大満足なくらいだったのに、もう七層目です。
説明があるから一層は無理だろうと思われていた初日も、二層の半分以上殲滅が終わった状態で幕を下ろしました。
このままだと五日で終わるんじゃないかと、シオン君が複雑そうな顔で言う。
「貴様に言わせたのは俺だが、まさかラーメンをエサにするだけで、マルコがあんなに気合いを入れてくるとは思わなかった」
ここはシオン君専用のテントの中、彼は兜を外している。
「マルコはラーメンが好きなんだぞ。ごしゅじんの魔石ごはんは美味しいからな!」
ほかに人がいないのでおしゃべりを許しているラケルがドヤ顔になる。
ベルちゃんは今当番で、救護テントで負傷者の治療に当たっていた。
シオン君の昼食が終わったら、ベルちゃんと休憩用テントに戻ってわたしもお昼。
今のところ神官少女達がベルちゃんを勧誘することはないんだけど、やっぱり心配だからね。
シオン君のところで三人+一匹で、とも思うものの、ふたりのどちらかは参加者の視界にいたほうがいいんだって。
ガルグイユ騎士団団長と聖女様だもんね。
「そういえばお別れのとき、マルコさんにラーメン目当てのプロポーズされたよ」
「はあっ? 俺は聞いてないぞ」
シオン君の形の良い眉が吊り上がった。
あまりの迫力に、ちょっと怖くなる。
「う、うん。ごめん。言ってなかったかも」
「いや、すまない。驚いて声が大きくなった」
「そうだよね、わたしに結婚なんてまだ早いよね」
「早いぞ」「早いな」
なぜかシオン君とラケルの声が重なった。
「冗談みたいなものだと思うよ。ニコロ君にも叱られてたし」
「ああ、そうだろうな。俺からもマルコに話をしておく。そういう冗談は悪趣味だ」
「ごしゅじんに結婚を申し込むなんてダメなんだぞ」
シオン君の言葉に、ラケルは重々しく頷いている。
「早く進んでるならいいことなんだし、とりあえずシオン君はお昼をどうぞ」
「いただこう」
準備のときから休みなしだというのに、シオン君の食欲が衰えることはない。
ううん、だからこそ、なのかな?
今日のメニューは彼のリクエストで、餅明太子ピザ明太子パスタ、明太子バゲットとチリドッグ、カレーパン激辛カレーパン、カレーまんと我が家のおばあちゃん特製のホットドッグである。
ほとんどが味の濃いものなのは、やっぱり疲れが溜まっているからなのかもしれない。
激辛カレーパン(HP自然回復率上昇)と特製ホットドッグ(精神力上昇)以外は攻撃力上昇の付与効果がある。
「本当はラーメンも食いたいのだが、匂いがするとマルコが来そうだからな」
ダンジョンの側に設置されたテントには匂いを遮断する機能はない。
初日にパフェを作ったときも、チョコレートを溶かす匂いに引かれて休憩用テントの前に人が集まってきた。
ふと見たら人影で入り口のところが真っ暗になっていて、すごく怖かった。
飲み物は炭酸水。シオン君はレモンサイダーが好きみたい。
「なにかデザート作ろうか?」
「デザート?」
「うん。そのまま『異世界料理再現錬金術』で変成するんじゃなくて、いろいろ出して組み合わせて」
『異世界料理再現錬金術』は良いスキルなのだけど、達成感がない。
自己満足に過ぎないものの、頑張ってるシオン君のためにわたしも頑張りたいな、なんて思ったのだ。
「この前聖女達と作っていたパフェのようなものか」
「そうだよ。今度はプリンアラモードにしようかと思って。プリンを真ん中にしてフルーツ、は変成できないからドライフルーツやアイスを飾るの」
「美味そうだな、頼む」
「シオン、いーなー」
「ラケル殿もこちらで食べていったらどうだ?」
「ベルがひとりだと可哀相だから、俺は戻ってから食べるぞ」
「俺はひとりでも可哀相じゃないのか」
「シオンは絡んでくるヤツいないだろ」
ラケルの言葉に、シオン君がわたしを見た。
「やはり聖神殿から来た救護係は聖女に絡んでいるのか?」
「ううん。これまでは勧誘するような発言はなかったと思うよ。でもベルちゃんがすごく緊張してるから」
「聖女が緊張しているのは……まあ、いい。葉菜花とラケル殿と昼食が摂れて、聖女は幸せものだ」
「派閥とかなければいいのにね。ドロレスさんもパウリーナさんも根は良い人だと思う」
「貴様が懐柔されるなよ」
「わかってる。ベルちゃんのためにも気をつけるよ」
言いながら、ラケルに出してもらった大皿にプリンアラモードの具を載せる。
ドライフルーツに焼き菓子、アイスクリームだ。
炊き立てごはんと同じで、生クリーム単品は作れない。
プリンはべつに出してもらったお皿の中央にみっつ変成して、スプーンでほかの具を周りに飾っていく。
カラメルソースのかかった部分が顔で、ドライフルーツを耳と目にして、チョコアイスが体、砕いたクッキーを毛皮みたいに散りばめて……お箸が欲しい。
「ごしゅじん、これ父上か?」
「うん。シオン君へのお土産がケルベロス様の像だったから、今回もケルベロス様にしようかな、と思って」
シオン君が微笑む。
「面白いことを考えるな、貴様は。……そうだ。言おうと思っていたことがある」
「なぁに?」
「この前話していたワイアームだが、ときどきこのダンジョンに戻って来ているようだぞ。三層五層にある露出した地下水脈の側で休憩しているときダンジョンアントに襲われた参加者達が、水中から現れたワイアームに救われたという情報を上げてきている」
「元気でやってるんだな」
「アリの巣殲滅が終わったらダンジョンに帰れるの?」
「それは向こうの気持ち次第だな。そのほうがダンジョンの成長が早いから、俺としては帰ってきてダンジョンの王獣になって欲しいと思っている」
「そうかー」
シオン君のプリンアラモードをちょっぴりつまみ食いさせてもらったあとで、わたしとラケルは彼のテントを出た。
ワイアームが元気そうで良かったです。
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