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19・賢者な家庭教師はいりません!④
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……反則だ。
銀の賢者アルジェントを前にして、わたしは思った。
前世のわたしが乙女ゲームを買ったきっかけは、攻略対象をデザインしている絵師のファンだったからだ。
ネットでSNSに投稿されるイラストを楽しみにしていた。
賢者のページを見ないよう気をつけながら攻略本を捲って、それでもついつい目に入ってしまう彼のイラストに前世のわたしはいつも、好きになれたら良かったのに、と溜息をついていた。
彼はゲーム中一番の美形という設定だった。
今の世界でも前世の世界でも、エルフは美しいというのが世界の常識だ。
どちらの世界でも美しいエルフを目にしてきた。
この世界では実在しているものだから、絵や彫刻も山ほどある。
……なのに。
目の前のエルフは、これまで見てきたどんなエルフよりも、乙女ゲームの中の最大限に美化されたグラフィックよりもはるかに美しかった。
そりゃエルフの森の女の子が、みんな彼に初恋するわ。
「……君がラヴァンダかい?」
銀の髪、光り輝く銀の瞳。
肌は白く雪のようでミルクのようで。
大きな木の陰に腰かけていた彼は、しなやかな手足を伸ばして立ち上がった。
エルフなんて耳が尖っている以外は人間と変わらないと言っていたウルラートでさえ、その美貌に言葉を失っている。
今、ここにいるのはわたしとリート、そしてわたしたちの専属護衛ふたり。
父さまと母さまはお爺さまの家に保管されている、ドライアドの灰についての書類を漁っている。
お爺さまはわたしから離れたくなかったみたいなんだけど、賢者のいるところまでは集落から一本道でモンスターが少ない地域なのと、自分がいなければ書類の山から目当てのものを見つけ出すのは無理なことがわかっていたからか、涙目で見送ってくれた。
食べなさいとお手製のオヤツもくれたけど、あれは……うーん。
軽く首を傾げて、賢者が掠れた声を放つ。
「……銀髪のラディーチェと黒髪のアルベロの娘なのに、金髪なのかい? 魔力が強いときは体の色が変わってしまうこともあると聞くけど、それほど魔力は強くないよね? 緑色の瞳に魔光も見えないし……」
「賢者……さま? ラヴァンダはこちらなのですが」
「え? うわっ!」
ずっとリートを見つめていた賢者は、となりに立っていたわたしの存在に気づいて跳び上がり、後ろに落ちていた酒瓶を踏んで転がった。
地面に打ちつけた頭を撫でながら、初めてわたしに視線を向ける。
「なに君、全然気づかなかったよ。うわあ、確かにアルベロそっくりで目つき悪っ!」
……この人、本当に賢者なのかしら。
単に顔が良いだけの酔っ払いだったりして。
でも声に聞き覚えがあるのよね。
話している言語は全く違うんだけど──
『君は、生まれてこないほうが良かったね』
あのときと同じ、掠れた声。
わたしは胸が締めつけられるような気持ちになって、きゅーちゃんを抱きしめた。
「ああ、そうか。トロンコに相談されたラディーチェの手紙に書いてあったっけ。妖魔を使い魔にしてるんだよね。うん、それでだね。エルフの血筋なら聞かされてると思うけど、魔神の核は俺の体に封印されている。魔神のかけらから生まれた妖魔に守護された君のことは、感知しにくいんだ」
「守護……?」
わたしは胸の中のきゅーちゃんを見下ろした。
「きゅー!」
「ああ、命じたわけじゃないんだね。うん、その子は君を守護している。使い魔が自主的に契約者を守護するなんて珍しいよ。よほどのことがない限り、勝手に契約を結ばされて使役されているものだからね。物語に出てくる友情でつながった契約者と使い魔なんて幻さ……皆無というわけではないけれどね。ソイツも案外、将来魔神の入れ物にするために守っているのかもしれないよ」
「きゅーっ!」
怒りに満ちた叫びを上げるきゅーちゃんを、わたしはそっと抱きしめた。
「そうかもしれません。でも今はそれでも構いません。……守ってくれてありがとう、きゅーちゃん」
「きゅー……」
「……ふうん……」
地面に肘を突いて、賢者がわたしときゅーちゃんを見つめる。
彼の年齢は不詳。
十代後半から三十代までなら、いくつでもおかしくない感じがした。
「ラヴァンダ、君は……」
どくんっ!
心臓が跳ね上がった。
彼の言葉の続きを聞くのが怖い。
両親のことやリモーネのこと、未来を変えたつもりでいたけれど、賢者の目から見たら悪役令嬢ラヴァンダの運命はなにも変わっていないのかもしれない。
あの言葉を言われてしまうのだろうか。
「君は、巨乳になる予定はあるのかい? 俺は十八歳以上の巨乳美少女しか相手にしない主義なんだ」
「……交際を申し込みに来たんじゃありません。ドライアドの灰の中毒を治療する方法を聞きに来たんです。長であるお爺さまがお願いしていた家庭教師の件については断っていただいても結構ですが、治療法は教えてください。これはヴェルデ王家からの要請でもあります」
国の威信を借りてみる。
巨乳になる予定はあるが、それを明かす気はなかった。
未来は変わる、変えてみせるつもりだし、どうしても彼の生徒になりたいわけではない。
「まあ君は期待薄だよね。ラディーチェも貧乳だったし」
ん? 母さまは結構胸が大きいと思うのだけど。
あ、でも前に父さまも交えて中庭で昼寝していたとき、わたしを身籠るまでは全然胸がなかったと話していたっけ。
賢者はリートに視線を移す。
「そちらの君は? 母君は巨乳かい? 将来に期待は持てるのかな?」
「……僕は男です。名前はクリゾリート、伯爵家の嫡男です」
「そうなのかい? いや、ゴメン。魔神の核を封じているせいか俺は魔力が強過ぎて、逆に他者の微量な魔力を感知することができないんだよ。……昨日の酒がまだ残っているのかもしれない」
声が掠れているのはお酒のせいかもね。
賢者は後ろの木の幹に手を突いて、ヨロヨロと立ち上がった。
情けない言動なのに、見た目だけは儚げで美しい。
「あー……クリゾリート、君にお姉さんか十八歳以上の従姉はいるかい?」
「いません。いても紹介しません」
リートの声音が冷たかった。
これまでの会話で、銀の賢者に抱いていた憧れが消し飛んでしまったようだわ。
賢者は頬を膨らませた。
「ちえー。ま、しょうがないか。トロンコには世話になってるし、ヴェルデ王家とは仲良くやっていきたいもんね。いいよ、ドライアドの灰の中毒を治療する方法を思い出してあげる」
「……思い出す?」
「そうだよ?」
からかうような笑みを浮かべてわたしの髪をつつこうとした賢者は、ウルラートが放った拳を避けて、再び地面に転がった。
「千年も生きてたら、記憶なんてグッチャグチャになるもんなんだ。若い君たちには想像もできないだろうけどね。『彼女』と話しながら思い出しておくから、その間君たちは禁猟区で狩りをしてきてくれないかな」
「『彼女』?」
賢者が指差す大木をよく見ると、それはコブだらけのドライアドの木だった。
普通のものよりかなり大きい。
遠目で見てもエルフの女性とは見間違えないだろう。
「うん。俺がいれば彼女はほかの生きものを呼び寄せないし、俺は彼女に魔神の魔力を吸ってもらえて楽になる」
「でも……」
その木からは、なんだかとてつもない圧力を感じた。
これまでは、銀の賢者から漂ってくるのだと思っていたのだけれど。
「少し魔力を与え過ぎて普通のモンスターの領域を越えちゃってるけど、俺がいるから大丈夫。いざとなったら……これまで通りちゃんと止めを刺すよ」
『これまで通り』という言葉の意味は、聞かなくてもわかる気がした。
魔神の核を体内に封じた彼は、そこにいるだけで魔力を放出し、周囲の存在を変化させてしまうのだろう。
とはいえ、どうしても仕方がないことだ。
魔力の放出がなければ、魔神の核は弱体化しない。
危険もあるけれど基本的に、放出した魔力はゆっくりと浄化されていく。
特に、エルフがたくさんいれば浄化は早くなる。
「わかりました。狩りって、獲物はなんですか?」
「一角獣じゃないですか? お嬢さまがいれば寄って来るでしょう。おとなしいモンスターだから狩ってしまうのは忍びないですけど」
「賢者さま、俺たち護衛も協力してもいいんですよね?」
わたしたちの問いに、賢者が笑みを漏らす。
「いっぺんに聞かないでよ。ラヴァンダ、狩りの獲物は『人形』。だから男その一の発言は不正解。男その二、ラヴァンダに協力してもいいけど、君の主人は森で歩き回れる体じゃないんじゃないかな?」
「クリゾリートさま?」
「……うん。僕が行っても足手纏いになるだけだと思います。でもテーディオはラヴァンダを手伝ってあげてください」
「いいえ!」
わたしはリートの言葉を遮った。
「リートはお留守番、テーディオはリートについていて。飲み物や食べ物は持って来ているわよね。しばらくお休みさせてあげて」
長時間馬車に揺られ、エルフの集落からの整備されていない道を歩き続けて平気だったのは、賢者に対する憧れがリートに力を与えていたからだ。
本性を知った今、疲れが一気に来てるのは間違いない。
わたしは賢者を睨みつけた。
実は心の中では、このまま家庭教師の話は消えちゃいそうね、なんて喜んでたりする。
「こちらのドライアドはリートたちを襲ったりしませんね?」
「俺がさせないよ」
「ではお願いします。わたしは言われた通り『人形』を……『人形』っ?」
「そうだよ。君と同じくらいの大きさの『人形』。人間でも動物でもない特殊なモンスターが、一年くらい前から禁猟区に隠れ住んでるんだ。素早いから、俺以外は存在に気づいていないけどね。ソイツを捕まえて、連れてきて」
もしかして、父さまが見たと言っていた猿のことかしら。
ううん、それ以前に『人形』ってゴーレムとは違う──あ!
わたしは、ようやく思い出した。
エルフの森、禁猟区に隠れ住む『人形』の正体は隣国の王子。
わたしが悪役令嬢ラヴァンダとなる乙女ゲームのメインヒーローだ。
銀の賢者アルジェントを前にして、わたしは思った。
前世のわたしが乙女ゲームを買ったきっかけは、攻略対象をデザインしている絵師のファンだったからだ。
ネットでSNSに投稿されるイラストを楽しみにしていた。
賢者のページを見ないよう気をつけながら攻略本を捲って、それでもついつい目に入ってしまう彼のイラストに前世のわたしはいつも、好きになれたら良かったのに、と溜息をついていた。
彼はゲーム中一番の美形という設定だった。
今の世界でも前世の世界でも、エルフは美しいというのが世界の常識だ。
どちらの世界でも美しいエルフを目にしてきた。
この世界では実在しているものだから、絵や彫刻も山ほどある。
……なのに。
目の前のエルフは、これまで見てきたどんなエルフよりも、乙女ゲームの中の最大限に美化されたグラフィックよりもはるかに美しかった。
そりゃエルフの森の女の子が、みんな彼に初恋するわ。
「……君がラヴァンダかい?」
銀の髪、光り輝く銀の瞳。
肌は白く雪のようでミルクのようで。
大きな木の陰に腰かけていた彼は、しなやかな手足を伸ばして立ち上がった。
エルフなんて耳が尖っている以外は人間と変わらないと言っていたウルラートでさえ、その美貌に言葉を失っている。
今、ここにいるのはわたしとリート、そしてわたしたちの専属護衛ふたり。
父さまと母さまはお爺さまの家に保管されている、ドライアドの灰についての書類を漁っている。
お爺さまはわたしから離れたくなかったみたいなんだけど、賢者のいるところまでは集落から一本道でモンスターが少ない地域なのと、自分がいなければ書類の山から目当てのものを見つけ出すのは無理なことがわかっていたからか、涙目で見送ってくれた。
食べなさいとお手製のオヤツもくれたけど、あれは……うーん。
軽く首を傾げて、賢者が掠れた声を放つ。
「……銀髪のラディーチェと黒髪のアルベロの娘なのに、金髪なのかい? 魔力が強いときは体の色が変わってしまうこともあると聞くけど、それほど魔力は強くないよね? 緑色の瞳に魔光も見えないし……」
「賢者……さま? ラヴァンダはこちらなのですが」
「え? うわっ!」
ずっとリートを見つめていた賢者は、となりに立っていたわたしの存在に気づいて跳び上がり、後ろに落ちていた酒瓶を踏んで転がった。
地面に打ちつけた頭を撫でながら、初めてわたしに視線を向ける。
「なに君、全然気づかなかったよ。うわあ、確かにアルベロそっくりで目つき悪っ!」
……この人、本当に賢者なのかしら。
単に顔が良いだけの酔っ払いだったりして。
でも声に聞き覚えがあるのよね。
話している言語は全く違うんだけど──
『君は、生まれてこないほうが良かったね』
あのときと同じ、掠れた声。
わたしは胸が締めつけられるような気持ちになって、きゅーちゃんを抱きしめた。
「ああ、そうか。トロンコに相談されたラディーチェの手紙に書いてあったっけ。妖魔を使い魔にしてるんだよね。うん、それでだね。エルフの血筋なら聞かされてると思うけど、魔神の核は俺の体に封印されている。魔神のかけらから生まれた妖魔に守護された君のことは、感知しにくいんだ」
「守護……?」
わたしは胸の中のきゅーちゃんを見下ろした。
「きゅー!」
「ああ、命じたわけじゃないんだね。うん、その子は君を守護している。使い魔が自主的に契約者を守護するなんて珍しいよ。よほどのことがない限り、勝手に契約を結ばされて使役されているものだからね。物語に出てくる友情でつながった契約者と使い魔なんて幻さ……皆無というわけではないけれどね。ソイツも案外、将来魔神の入れ物にするために守っているのかもしれないよ」
「きゅーっ!」
怒りに満ちた叫びを上げるきゅーちゃんを、わたしはそっと抱きしめた。
「そうかもしれません。でも今はそれでも構いません。……守ってくれてありがとう、きゅーちゃん」
「きゅー……」
「……ふうん……」
地面に肘を突いて、賢者がわたしときゅーちゃんを見つめる。
彼の年齢は不詳。
十代後半から三十代までなら、いくつでもおかしくない感じがした。
「ラヴァンダ、君は……」
どくんっ!
心臓が跳ね上がった。
彼の言葉の続きを聞くのが怖い。
両親のことやリモーネのこと、未来を変えたつもりでいたけれど、賢者の目から見たら悪役令嬢ラヴァンダの運命はなにも変わっていないのかもしれない。
あの言葉を言われてしまうのだろうか。
「君は、巨乳になる予定はあるのかい? 俺は十八歳以上の巨乳美少女しか相手にしない主義なんだ」
「……交際を申し込みに来たんじゃありません。ドライアドの灰の中毒を治療する方法を聞きに来たんです。長であるお爺さまがお願いしていた家庭教師の件については断っていただいても結構ですが、治療法は教えてください。これはヴェルデ王家からの要請でもあります」
国の威信を借りてみる。
巨乳になる予定はあるが、それを明かす気はなかった。
未来は変わる、変えてみせるつもりだし、どうしても彼の生徒になりたいわけではない。
「まあ君は期待薄だよね。ラディーチェも貧乳だったし」
ん? 母さまは結構胸が大きいと思うのだけど。
あ、でも前に父さまも交えて中庭で昼寝していたとき、わたしを身籠るまでは全然胸がなかったと話していたっけ。
賢者はリートに視線を移す。
「そちらの君は? 母君は巨乳かい? 将来に期待は持てるのかな?」
「……僕は男です。名前はクリゾリート、伯爵家の嫡男です」
「そうなのかい? いや、ゴメン。魔神の核を封じているせいか俺は魔力が強過ぎて、逆に他者の微量な魔力を感知することができないんだよ。……昨日の酒がまだ残っているのかもしれない」
声が掠れているのはお酒のせいかもね。
賢者は後ろの木の幹に手を突いて、ヨロヨロと立ち上がった。
情けない言動なのに、見た目だけは儚げで美しい。
「あー……クリゾリート、君にお姉さんか十八歳以上の従姉はいるかい?」
「いません。いても紹介しません」
リートの声音が冷たかった。
これまでの会話で、銀の賢者に抱いていた憧れが消し飛んでしまったようだわ。
賢者は頬を膨らませた。
「ちえー。ま、しょうがないか。トロンコには世話になってるし、ヴェルデ王家とは仲良くやっていきたいもんね。いいよ、ドライアドの灰の中毒を治療する方法を思い出してあげる」
「……思い出す?」
「そうだよ?」
からかうような笑みを浮かべてわたしの髪をつつこうとした賢者は、ウルラートが放った拳を避けて、再び地面に転がった。
「千年も生きてたら、記憶なんてグッチャグチャになるもんなんだ。若い君たちには想像もできないだろうけどね。『彼女』と話しながら思い出しておくから、その間君たちは禁猟区で狩りをしてきてくれないかな」
「『彼女』?」
賢者が指差す大木をよく見ると、それはコブだらけのドライアドの木だった。
普通のものよりかなり大きい。
遠目で見てもエルフの女性とは見間違えないだろう。
「うん。俺がいれば彼女はほかの生きものを呼び寄せないし、俺は彼女に魔神の魔力を吸ってもらえて楽になる」
「でも……」
その木からは、なんだかとてつもない圧力を感じた。
これまでは、銀の賢者から漂ってくるのだと思っていたのだけれど。
「少し魔力を与え過ぎて普通のモンスターの領域を越えちゃってるけど、俺がいるから大丈夫。いざとなったら……これまで通りちゃんと止めを刺すよ」
『これまで通り』という言葉の意味は、聞かなくてもわかる気がした。
魔神の核を体内に封じた彼は、そこにいるだけで魔力を放出し、周囲の存在を変化させてしまうのだろう。
とはいえ、どうしても仕方がないことだ。
魔力の放出がなければ、魔神の核は弱体化しない。
危険もあるけれど基本的に、放出した魔力はゆっくりと浄化されていく。
特に、エルフがたくさんいれば浄化は早くなる。
「わかりました。狩りって、獲物はなんですか?」
「一角獣じゃないですか? お嬢さまがいれば寄って来るでしょう。おとなしいモンスターだから狩ってしまうのは忍びないですけど」
「賢者さま、俺たち護衛も協力してもいいんですよね?」
わたしたちの問いに、賢者が笑みを漏らす。
「いっぺんに聞かないでよ。ラヴァンダ、狩りの獲物は『人形』。だから男その一の発言は不正解。男その二、ラヴァンダに協力してもいいけど、君の主人は森で歩き回れる体じゃないんじゃないかな?」
「クリゾリートさま?」
「……うん。僕が行っても足手纏いになるだけだと思います。でもテーディオはラヴァンダを手伝ってあげてください」
「いいえ!」
わたしはリートの言葉を遮った。
「リートはお留守番、テーディオはリートについていて。飲み物や食べ物は持って来ているわよね。しばらくお休みさせてあげて」
長時間馬車に揺られ、エルフの集落からの整備されていない道を歩き続けて平気だったのは、賢者に対する憧れがリートに力を与えていたからだ。
本性を知った今、疲れが一気に来てるのは間違いない。
わたしは賢者を睨みつけた。
実は心の中では、このまま家庭教師の話は消えちゃいそうね、なんて喜んでたりする。
「こちらのドライアドはリートたちを襲ったりしませんね?」
「俺がさせないよ」
「ではお願いします。わたしは言われた通り『人形』を……『人形』っ?」
「そうだよ。君と同じくらいの大きさの『人形』。人間でも動物でもない特殊なモンスターが、一年くらい前から禁猟区に隠れ住んでるんだ。素早いから、俺以外は存在に気づいていないけどね。ソイツを捕まえて、連れてきて」
もしかして、父さまが見たと言っていた猿のことかしら。
ううん、それ以前に『人形』ってゴーレムとは違う──あ!
わたしは、ようやく思い出した。
エルフの森、禁猟区に隠れ住む『人形』の正体は隣国の王子。
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