傲慢令嬢にはなにも出来ませんわ!

豆狸

文字の大きさ
3 / 7

第三話 バルデス辺境伯との結婚

「……サンドラ嬢」

 アルバロ様、バルデス辺境伯閣下が私の前に跪きました。
 野趣に満ちたお顔が私を見上げ、獣のような琥珀の瞳が私を映します。
 低くて艶やかな声が言葉を続けます。

「これは政略結婚だ。だが貴女が俺を愛してくれるのなら、俺は命懸けで貴女を守り幸せにすると誓おう」
「……アルバロ様は私を愛してくださいませんの?」
「ああ、それなんだが……」

 彼は少年のような笑みを浮かべて、恥ずかしそうにご自分の頭をかきました。

「貴女があんまり別嬪さんだったんで、年甲斐もなくときめいてるんだ。たぶんもう惚れかけてる」
「わ、私は傲慢令嬢と呼ばれているのですけれど、それでもよろしいのですか?」
「貴女が傲慢令嬢だから、俺は求婚する気になったんだ。なにしろ、うちの辺境伯領にはヤベェのばっかりだからな。優しいだけの女じゃ食い殺されちまう」

 そんなわけで、傲慢令嬢は辺境伯閣下に嫁ぐことになりましたの。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 旦那アルバロ様がお見合いのときにおっしゃっていた、食い殺された優しいだけの女性とは前の奥様のことでしたの。
 彼女は中央貴族派との政略結婚で嫁いで来た方で、美しい容姿と優しい性格が魅力だったそうです。
 ……旦那様の好みとは違っていたそうですけれどね!

 美しい容姿はともかく優しい性格のその方は、魔の森から響いてくる魔獣の咆哮に怯え、魔獣の血を浴びたバルデス辺境伯領の騎士団に怯え、最後には騎士団が訓練する剣戟の音にも怯えるようになっていたそうです。
 都会育ちの彼女には魔石目当てに甘い言葉で近寄ってくる悪徳商人どものほうが心休まる存在で、優しい性格のために彼らが明らかに悪事をおこなっていても窘めることも出来ず──魔獣と荒くれ騎士と傭兵が集まっているだけでもヤベェのに、辺境伯領にヤベェ悪徳商人の巣まで作ってしまったわけですわ。
 結局心労でお亡くなりになっているわけですが……この過去を旦那様のせいにするのは酷というものでしょう。旦那様は魔獣の大暴走スタンピードを制圧して、騎士団を鍛えて、領地の村や町を回って、山賊や盗賊を見つけたら退治して、と大変な毎日を送ってらっしゃるのですもの。

 彼女の性格や辺境伯領の状況も考えずにゴリ押しした、中央貴族派の仲人が一番罪深いと思いますわ。
 悪徳商人どもの裏にいるのも彼らではないかしら。
 敵対する派閥の辺境伯領を食いものにするつもりだったに違いありませんわ。

 旦那様がこの結婚を断れなかったのは、魔獣の大暴走スタンピードの規模が大きかった年に中央貴族派から食糧の援助を受けたからですの。
 魔獣に畑を台無しにされたからといって、領民を飢えさせるわけにはいきませんものね。
 前の奥様のことを教えていただいても私の心は変わらず、お見合いから一ヶ月もしない内にバルデス辺境伯領へと嫁ぐことになったのですわ。

 ちなみに初夜は最高でしたわ!
 二度目のときにフラカソ王太子殿下に嫁いだ記憶が残っているので、アルバロ様に淫らな女だと思われるのではないかと心配していましたけれど、そんな心配無用のものでしたわ。
 殿下は本当に貧弱な坊やで……いえ、夫でもない方の体の一部や技巧に言及するのは失礼なことですわね。とにかくアルバロ様が最高ということですわ。

あなたにおすすめの小説

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、推しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

【完結】白い結婚をした悪役令嬢は田舎暮らしと陰謀を満喫する

ツカノ
恋愛
「こんな形での君との婚姻は望んでなかった」と、私は初夜の夜に旦那様になる方に告げられた。 卒業パーティーで婚約者の最愛を虐げた悪役令嬢として予定通り断罪された挙げ句に、その罰としてなぜか元婚約者と目と髪の色以外はそっくりな男と『白い結婚』をさせられてしまった私は思う。 それにしても、旦那様。あなたはいったいどこの誰ですか? 陰謀と事件混みのご都合主義なふんわり設定です。

公爵令嬢は結婚前日に親友を捨てた男を許せない

有川カナデ
恋愛
シェーラ国公爵令嬢であるエルヴィーラは、隣国の親友であるフェリシアナの結婚式にやってきた。だけれどエルヴィーラが見たのは、恋人に捨てられ酷く傷ついた友の姿で。彼女を捨てたという恋人の話を聞き、エルヴィーラの脳裏にある出来事の思い出が浮かぶ。 魅了魔法は、かけた側だけでなくかけられた側にも責任があった。 「お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。」に出てくるエルヴィーラのお話。

乙女ゲームの世界だと知っていても

竹本 芳生
恋愛
悪役令嬢に生まれましたがそれが何だと言うのです。

この国に聖女はいない

豆狸
恋愛
いるのは、愛に狂った女だけ── なろう様でも公開中です。

あなたの明日に寄り添いたくて

豆狸
恋愛
「リューグナ? おい、リューグナ、どうした?……リューグナーっ!」 ──私の持っていた赤葡萄酒を浴びて、男爵令嬢は死んだ。

さようなら、私の王子様

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
「ビアンカ・アデライド、お前との婚約を破棄する!」 王太子リチャードの言葉に対し、侯爵令嬢ビアンカが抱いたのは怒りでも哀しみでもなく、「ついにこの時が来たか」という感慨だった。ビアンカにしてみれば、いずれこうなることは避けられない運命だったから。 これは二度の婚約破棄を経験した令嬢が、真実の愛を見つけるまでのお話。

婚約破棄の裏側で

豆狸
恋愛
こうして、いつまでも心配と称して執着していてはいけないとわかっています。 だけど私の心には今でも、襲い来る蜂から私を守ってくれた幼い騎士の姿が輝いているのです。