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第一話 貴方はいつも私を殺すのですね。
私は悪魔と契約をしました。
いつか再び悪魔と出会ったときは、約束に従ってこの身を捧げなくてはいけません。
ですが、それでも、それまでの間だけでも良いのです。
惨めに死んでいくしかなかった私に、悪魔はやり直す機会をくれたのです。
ほんの一瞬でも良いから、彼と話がしたかったのです。
もちろん、出来ることなら……
──北のドゥモン王国から南のデュピュイ王国へと嫁いだ私は、国王ロドルフ陛下との初夜の床にいました。
悪魔の言った通りです。
王宮の片隅で死んでから数ヶ月霊としてさ迷っていたときはどうしようかと思ったのですけれど、悪魔はちゃんと約束を守ってくれたようです。一時はただの夢だったのかと思っていました。だって悪魔の美貌はどこか懐かしくて、そのくせどれだけ記憶を掘り起こしても該当する人はいなかったのですもの。
ああ、懐かしい。何年前になるのでしょう。
三年は経っていないはずです。
白い結婚のまま三年経っていたら、私は子を生せぬ王妃として離縁されていたはずです。
ロドルフ陛下は寝台に座る私を冷たい瞳で見つめています。
陛下は私のことなど愛していないのです。
政略結婚の相手でしかない私よりも愛する方がいらっしゃるのです。でも──
「レア王女。余がそなたを愛することはない。私には……」
「陛下っ!」
私は必死の思いで陛下のお言葉を遮りました。これから言われることは知っています。
陛下は自国の伯爵令嬢、私の母の実家ドゥモン王国のラブレー大公家に隣接したデュピュイ王国のリッシュ伯爵家のデスティネ様を愛していらっしゃるのです。
ですから私を愛することはありません。
明日の私のお披露目夜会でデスティネ様を私の侍女にして、実質ご自身の愛人として慈しむおつもりなのです。
それを邪魔するつもりはありません。ロドルフ陛下がデスティネ様を愛していらっしゃる気持ちを変えることなど出来ません。ですが……
それでも、どうしても知っておいていただきたいことがあるのです。
前のときは言えなかったことです。
死ぬまで知らなかったこともあります。
私はそっと隠し持っていた髪飾りを陛下に差し出しました。
ラブレー大公家に代々伝わるもので、私は母が亡くなったときに受け継ぎました。
母はラブレー大公家の現当主の妹だったのです。
精霊に守護されたラブレー大公領でしか咲かない白い花がよっつ並んだ髪飾りを見て、陛下は口角を上げました。
十年前のことを思い出してくださったのでしょうか。
陛下の大きな手が伸ばされて、私の手から髪飾りを掴み取りました。
「……どこで知った?」
「はい?」
「余の初恋が白い花の髪飾りをつけた少女だと知って慌てて作ったのだろう? 実の父にも愛されていないそなたが余に愛されようなどとは烏滸がましいにもほどがあるぞ。余の初恋の少女はデスティネだ。……そなたではない」
陛下は髪飾りを握り締めて、粉々に壊してしまいました。私の心と一緒に。
前のときも私の心は壊されました。
殺されてしまったのです。
初恋の少年の面影を胸に嫁いで来た私が陛下の愛人の存在を知らされたときに、翌日の夜会で侍女にすると言われた彼女のほうが私よりも敬われて王妃のように扱われていたときに、病を得た私が放置されて死を感じていたときに──
いつか再び悪魔と出会ったときは、約束に従ってこの身を捧げなくてはいけません。
ですが、それでも、それまでの間だけでも良いのです。
惨めに死んでいくしかなかった私に、悪魔はやり直す機会をくれたのです。
ほんの一瞬でも良いから、彼と話がしたかったのです。
もちろん、出来ることなら……
──北のドゥモン王国から南のデュピュイ王国へと嫁いだ私は、国王ロドルフ陛下との初夜の床にいました。
悪魔の言った通りです。
王宮の片隅で死んでから数ヶ月霊としてさ迷っていたときはどうしようかと思ったのですけれど、悪魔はちゃんと約束を守ってくれたようです。一時はただの夢だったのかと思っていました。だって悪魔の美貌はどこか懐かしくて、そのくせどれだけ記憶を掘り起こしても該当する人はいなかったのですもの。
ああ、懐かしい。何年前になるのでしょう。
三年は経っていないはずです。
白い結婚のまま三年経っていたら、私は子を生せぬ王妃として離縁されていたはずです。
ロドルフ陛下は寝台に座る私を冷たい瞳で見つめています。
陛下は私のことなど愛していないのです。
政略結婚の相手でしかない私よりも愛する方がいらっしゃるのです。でも──
「レア王女。余がそなたを愛することはない。私には……」
「陛下っ!」
私は必死の思いで陛下のお言葉を遮りました。これから言われることは知っています。
陛下は自国の伯爵令嬢、私の母の実家ドゥモン王国のラブレー大公家に隣接したデュピュイ王国のリッシュ伯爵家のデスティネ様を愛していらっしゃるのです。
ですから私を愛することはありません。
明日の私のお披露目夜会でデスティネ様を私の侍女にして、実質ご自身の愛人として慈しむおつもりなのです。
それを邪魔するつもりはありません。ロドルフ陛下がデスティネ様を愛していらっしゃる気持ちを変えることなど出来ません。ですが……
それでも、どうしても知っておいていただきたいことがあるのです。
前のときは言えなかったことです。
死ぬまで知らなかったこともあります。
私はそっと隠し持っていた髪飾りを陛下に差し出しました。
ラブレー大公家に代々伝わるもので、私は母が亡くなったときに受け継ぎました。
母はラブレー大公家の現当主の妹だったのです。
精霊に守護されたラブレー大公領でしか咲かない白い花がよっつ並んだ髪飾りを見て、陛下は口角を上げました。
十年前のことを思い出してくださったのでしょうか。
陛下の大きな手が伸ばされて、私の手から髪飾りを掴み取りました。
「……どこで知った?」
「はい?」
「余の初恋が白い花の髪飾りをつけた少女だと知って慌てて作ったのだろう? 実の父にも愛されていないそなたが余に愛されようなどとは烏滸がましいにもほどがあるぞ。余の初恋の少女はデスティネだ。……そなたではない」
陛下は髪飾りを握り締めて、粉々に壊してしまいました。私の心と一緒に。
前のときも私の心は壊されました。
殺されてしまったのです。
初恋の少年の面影を胸に嫁いで来た私が陛下の愛人の存在を知らされたときに、翌日の夜会で侍女にすると言われた彼女のほうが私よりも敬われて王妃のように扱われていたときに、病を得た私が放置されて死を感じていたときに──
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