10 / 15
第十話 彼の訪れ
東の帝国からアザール公爵がデュピュイ王国を訪れることになった。
元ヴィダル侯爵の処刑を見届けるためだ。
はっきりと言葉には出さないが、先に処刑された元リッシュ伯爵がニセモノではないかと疑っているようだ。ロドルフがデスティネに泣きつかれて、顔を潰した男を身代わりにしたのではないかと思っているのだろう。
(どうして次から次に……!)
ロドルフは苛立っていた。
元ヴィダル侯爵一派の件の後始末で疲労困憊なせいもある。王妃レアがいつまでも死人の目をしていることが苦しいからでもある。
しかし一番の理由は、アザール公爵がレアに求婚をしたことのある男だからだ。
レアはアザール公爵の顔も知らないと言った。
実際彼は愛情からレアに求婚したのではないかもしれない。
それでもロドルフは自分の意思でレアに求婚をしたアザール公爵に嫉妬をしていた。
彼女の死人の目を悲しく思い、婚礼のときの初夜の床の、遠い記憶の中の光り輝くレアの瞳を思い出しているうちに、ロドルフの心には初恋が蘇っていたのだ。
いや、病弱な王のただひとりの子どもとして幼いころから王太子として厳しい教育を受けてきたロドルフが、心の拠りどころとして縋りついていた初恋の少女への想いとは違う。
自分と同じように悲しみ傷つくひとりの人間として、レアを愛するようになっていたのである。悲しみ傷つくひとりの人間だとわかったからこそ、自分の愚行が許せなかった。デスティネに騙されていたとはいえ、あの髪飾りを握り潰す必要などどこにもなかった。
──今の状況でアザール公爵の訪問を拒むことなど出来ない。
悪いのはデュピュイ王国のほうなのだ。
罪人を処刑したことを広く知らしめ、新しくなった王国を見せなければならない。帝国の皇帝の従兄でもあるアザール公爵を迎えるのだから、いくら向こうが処刑の見学だけで良いと言っても、それなりのもてなしをする必要もあった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「レア」
「……はい、陛下」
今夜はアザール公爵の訪問を歓迎する夜会の夜だ。
明日の早朝に元ヴィダル侯爵の処刑がおこなわれる。
もう爵位をはく奪されている彼は、長く死体を晒すための絞首刑に処されることになっていた。
アザール公爵の訪問で、ロドルフを喜ばせたものがあった。
レアが夜会のためのドレスを新調したのだ。
死人の目は相変わらずだが、賓客にやつれた姿を見せてはいけないと、侍女に世話を焼かれることを受け入れるようになった。元ヴィダル侯爵一派以外の派閥貴族から選ばれた侍女達はレアに誠心誠意尽くしているようだ。
ロドルフは自分の手でレアの手を支え、夜会の会場でアザール公爵を待った。
デスティネの姿はない。
実の父親を殺した彼女は、さすがにこのまま野放しにしておけないと、王家の罪人を収容する北の塔に軟禁されている。レアもそれには納得せざるを得なかった。
アザール公爵の訪れが告げられて、会場の扉が開く。
東の帝国からの賓客を歓迎するために、楽団が演奏を始める。
こちらへと歩いてくるアザール公爵はいつもとは違った。そして──
(レアの瞳に光が戻った?)
なぜかアザール公爵はいつもの仮面を外していた。
仮面を外すと帝国風の整った美貌の持ち主だ。
何度か聞いたことのあるくぐもった声ではなく、低くてもよく響く澄んだ声で彼はロドルフ達に挨拶をした。
元ヴィダル侯爵の処刑を見届けるためだ。
はっきりと言葉には出さないが、先に処刑された元リッシュ伯爵がニセモノではないかと疑っているようだ。ロドルフがデスティネに泣きつかれて、顔を潰した男を身代わりにしたのではないかと思っているのだろう。
(どうして次から次に……!)
ロドルフは苛立っていた。
元ヴィダル侯爵一派の件の後始末で疲労困憊なせいもある。王妃レアがいつまでも死人の目をしていることが苦しいからでもある。
しかし一番の理由は、アザール公爵がレアに求婚をしたことのある男だからだ。
レアはアザール公爵の顔も知らないと言った。
実際彼は愛情からレアに求婚したのではないかもしれない。
それでもロドルフは自分の意思でレアに求婚をしたアザール公爵に嫉妬をしていた。
彼女の死人の目を悲しく思い、婚礼のときの初夜の床の、遠い記憶の中の光り輝くレアの瞳を思い出しているうちに、ロドルフの心には初恋が蘇っていたのだ。
いや、病弱な王のただひとりの子どもとして幼いころから王太子として厳しい教育を受けてきたロドルフが、心の拠りどころとして縋りついていた初恋の少女への想いとは違う。
自分と同じように悲しみ傷つくひとりの人間として、レアを愛するようになっていたのである。悲しみ傷つくひとりの人間だとわかったからこそ、自分の愚行が許せなかった。デスティネに騙されていたとはいえ、あの髪飾りを握り潰す必要などどこにもなかった。
──今の状況でアザール公爵の訪問を拒むことなど出来ない。
悪いのはデュピュイ王国のほうなのだ。
罪人を処刑したことを広く知らしめ、新しくなった王国を見せなければならない。帝国の皇帝の従兄でもあるアザール公爵を迎えるのだから、いくら向こうが処刑の見学だけで良いと言っても、それなりのもてなしをする必要もあった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「レア」
「……はい、陛下」
今夜はアザール公爵の訪問を歓迎する夜会の夜だ。
明日の早朝に元ヴィダル侯爵の処刑がおこなわれる。
もう爵位をはく奪されている彼は、長く死体を晒すための絞首刑に処されることになっていた。
アザール公爵の訪問で、ロドルフを喜ばせたものがあった。
レアが夜会のためのドレスを新調したのだ。
死人の目は相変わらずだが、賓客にやつれた姿を見せてはいけないと、侍女に世話を焼かれることを受け入れるようになった。元ヴィダル侯爵一派以外の派閥貴族から選ばれた侍女達はレアに誠心誠意尽くしているようだ。
ロドルフは自分の手でレアの手を支え、夜会の会場でアザール公爵を待った。
デスティネの姿はない。
実の父親を殺した彼女は、さすがにこのまま野放しにしておけないと、王家の罪人を収容する北の塔に軟禁されている。レアもそれには納得せざるを得なかった。
アザール公爵の訪れが告げられて、会場の扉が開く。
東の帝国からの賓客を歓迎するために、楽団が演奏を始める。
こちらへと歩いてくるアザール公爵はいつもとは違った。そして──
(レアの瞳に光が戻った?)
なぜかアザール公爵はいつもの仮面を外していた。
仮面を外すと帝国風の整った美貌の持ち主だ。
何度か聞いたことのあるくぐもった声ではなく、低くてもよく響く澄んだ声で彼はロドルフ達に挨拶をした。
あなたにおすすめの小説
王太子の愚行
よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。
彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。
婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。
さて、男爵令嬢をどうするか。
王太子の判断は?
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
これは一周目です。二周目はありません。
基本二度寝
恋愛
壇上から王太子と側近子息達、伯爵令嬢がこちらを見下した。
もう必要ないのにイベントは達成したいようだった。
そこまでストーリーに沿わなくてももう結果は出ているのに。
次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛
Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。
全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)
婿入り条件はちゃんと確認してください。
もふっとしたクリームパン
恋愛
<あらすじ>ある高位貴族の婚約関係に問題が起きた。両家の話し合いの場で、貴族令嬢は選択を迫ることになり、貴族令息は愛と未来を天秤に懸けられ悩む。答えは出ないまま、時間だけが過ぎていく……そんな話です。*令嬢視点で始まります。*すっきりざまぁではないです。ざまぁになるかは相手の選択次第なのでそこまで話はいきません。その手前で終わります。*突発的に思いついたのを書いたので設定はふんわりです。*カクヨム様にも投稿しています。*本編二話+登場人物紹介+おまけ、で完結。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。