どうぶつ村のエリカと妖艶なデーモン

あめ野コッキー

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2.平穏な村のプロローグ

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とびらを開けると、ぶわっと風がエリカをでて家の中へと入ってきました。

突然とつぜんの風に顔をしかめたエリカでしたが、目の前に広がる光景こうけいをみると、みるみるうちに、まるで花が開くように笑顔えがおになっていったのです。

「わーっ!」

青い空は高く、白い雲はどこまでも遠くまでおよいでいます。

花々は風にられておどっています。

草原くさはらや木々は歌っています。

川のせせらぎはやさしい伴奏ばんそうかなでています。

見慣みなれたはずの景色けしきはとてもうつくしくいろどられ、青やみどりではおさまりきらない色彩しきさいたっぷりの景色が、エリカの目の前に広がっていました。

エリカの視界しかいいっぱいに広がるそれは、まぎれもない美しい本物の大自然だいしぜんだったのです。

今までとは形は同じでもまるで違っているどうぶつ村の光景。

でも間違いなくそこは、エリカの大好きなどうぶつ村なのです。

「あっは! なにこれー!」

あはははっと笑いながら、エリカはおかけ下りてゆきます。

赤いリボンがねます。それはそれは踊るように跳ねます。いいえ、リボンだけではありません。エリカの心も体もとにかく跳ね回っています。

スキップ、側転そくてん、でんぐりがえし。

エリカが自身の体で表現できることは全部やりました。

跳んで駆ければヒュンヒュンとすずしい風の感触かんしょくが、転がり回ればカサカサとはだ心地ここちよい草原の感触が、全身で感じられました。

エリカは今感じているなにもかも全部がうれしくて、とにかくはしゃぎまわっているのです。

──

「おまえらー!」

エリカはそうさけびながら村の中央ちゅうおうにある広場ひろばに駆けてゆきました。そこにはクマさんもふくめて3人の住民じゅうみんが集まっていました。

「あっエリカ」

広場に着いたエリカは駆けていたいきおいをゆるめずに、いちばんちかくにいたクマさんのおなかびつきました。

「うぐっ!」

もふっ

「おわっ! なによこれ!」

クマさんのお腹はもふもふとしていました。エリカは気持ちよさそうに、こすり付けるようにしてクマさんのお腹に顔をうずめます。

「んっー!」

心配しんぱいしたよエリカ、突然いなくなるから」

「ぷはっ…….こっちも心配したわよ! それより! なんだかすごいことになっているわ!」

エリカはクマさんのお腹から顔を上げて言いました。

「うん。エリカもなんかすごいね」

「でしょうね!」

エリカは「これが本当のわたしよ!」と自分の体を見せつけるように、えっへんとむねって言いました。

「ちょっとエリカ! どうなってんのよこれ!」

次に近づいて来たのは、全身が白くほそ体毛たいもうおおわれ、耳が桃色ももいろで目が真っ赤まっかなウサギさんでした。

エリカはまよわずウサギさんにきつきました。

「おっと……! ちゃんと説明せつめいしてもらえる? エリカ」

ウサギさんはそう言いながらエリカの頭をでてやります。

「知らん!」

「知らん?!」

エリカはあっけらかんとして言いました。ウサギさんはあきれたように「はぁ~」とためいきを付きました。

「なんかねー、お手紙が来たのよ。クマさんに読んでもらってたらーこうなったの」

「なるほど、全然ぜんぜんわからないわ……クマさん? 説明してもらえる?」

「さぁ、エリカの言った通りなんだよ」

「その手紙とはいったいどんな手紙だったのでしょう?」

そばでみんなの話を聞いていたネコさんが話に入ってきました。ネコさんは、チクチクとする青とグレーの体毛にするどけんのある目、そして、丸い眼鏡めがねをつけたネコさんでした。

エリカは手紙をみせようとポシェットに手を入れましたが、すぐに自分は持っていないことに気づきます。

「クマさん持ってる?」

「うん、持ってきたよ」

そう言ってクマさんはモフモフとした体毛の中から手紙を取り出して、ネコさんにわたしました。

「──ふむっ。招待状しょうたいじょう……つまり、ワタシたちはSTELLAステラというところに来てしまったということなのでしょうか?」

ネコさんは手紙を読み終えると、みんなにいかけました。

「ここはどうぶつ村よ?」

エリカは「当たり前でしょ」といったふうに言いました。

「そうですが、ついさっきまでのどうぶつ村はこんなではなかったですよ?」

「そうね、こんなではなかったわ。でもとっても素敵すてきよ」

「そうですね、とても素敵ですね」

「それに、ちょっとすごいことになってるけど……」

そう言ってエリカはあたりを見渡みわたすと、ネコさんにき直って言いました。

「やっぱりどうぶつ村よ」

エリカに言われてネコさんも辺りを見渡します。

「そうですね……ちょっとすごいことになっていますけど、形はそのまま、どうぶつ村ですね」

「そうよ」

エリカは自信たっぷりに言いました。そして「ちょっとこっちに来なさい!」と言って広場から突然と駆けてゆきました。

「ちょっと待ちなさいよ!」

どうぶつさんたちは、駆け出したエリカのあとをあせった様子でついて行きました。

──

「見なさい!」

そうしてたどり着いたのは花壇かだんでした。色とりどりのお花がたくさん咲いています。

「これは今日わたしが水をあげた花よ!」

エリカは一輪いちりんの花をして言いました。

「どうして同じ花だとわかるのですか?」

「これだけくろい花だからよ! レアなやつよ! エリちゃんが作ったのよ!」

えっへんと、エリカは自分で作ったものでもないのにえらそうにして言いました。

どうぶつ村の花は、交配こうはいするとたまにちがった色の花をかすことがあります。エリカはよく分からなかったので、おもにエリちゃんが花の交配をしていました。

「なるほど、花の色ですか……ほかの花もすべて前と同じ色ですか?」

「そんなことおぼえてるはずがないでしょう」

エリカはあっけらかんとして言いました。

ネコさんは「そうですか……」とあきらめたように返します。

「でも、どうやら本当にどうぶつ村のようだね」

クマさんはエリカの主張しゅちょう納得なっとくした様子です。それは、程度ていどはあれど他のどうぶつさんたちも同じでした。

「そのようね」

「そうですね……」

ウサギさんもネコさんもうなずき返します。

「そうでしょうとも!」

エリカは自信満々じしんまんまんに胸を張って言いました。そして……。

「わたしが隊長たいちょうよ!」

突然、エリカは先程張った胸をさらに大きく張ってそう宣言せんげんします。

「隊長?」

「みんなで探検たんけんするのよ! こんなことになっているんだから色々みてまわりましょう!」

「うーん……ん! そうか! そうだね! 探検しよう!」

クマさんはなにか思いついたように、キラキラと目を光らせてエリカに賛同さんどうしました。

「じゃあボクは商店しょうてんに行ってみるよ!」

そう言ってクマさんは足早あしばやに、村の西側にしがわにある商店へと駆け出しました。

「ちょっと!」

エリカはあわててクマさんをび止めます。

「なるほど……! アタシも仕立したて屋さんに行ってくるわ!」

ウサギさんも、クマさんが駆けて行ったのを見てなにかに気づいたように、村の南西なんせいにある仕立て屋さんに駆けてゆきます。

「待ちなさい!」

「ではワタシは博物館はくぶつかんへ行ってきますね」

ネコさんはふたりのあとに続くように、そそくさと村の北西ほくせいにある博物館へと向かいました。

「みんな待ちなさい! なんでバラバラなのよ!」

エリカは思ったのと違ったかたちに物事ものごとが進んでしまい、戸惑とまどったように叫びました。すると、唯一ゆいいつエリカの声がとどいていたネコさんがり返りました。

「今は緊急事態きんきゅうじたいなので効率的こうりつてきに行いましょう! 各員かくいんりに調査ちょうさして、なにか異変いへんを見つけ次第しだい広場に集まって報告ほうこくです!」

「何言ってるか全然ぜんぜんわかんないわ!」

ネコさんは時々ときどき難しい言葉遣ことばづかいをします。そういうとき、エリカはこまってしまうのでした。なんせ、エリカはまだ6才なのですから。

「とにかくなにか変わったことがあったら広場に集まって報告しますので!」

そう言い残してネコさんは手を振って行ってしまいました。

「もうっ!」

エリカの気まぐれに付き合うのは確かにとても楽しいことです。でも、実はどうぶつさんたちもエリカと同じくらいワクワクしていたのです。

クマさんは模様替もようがえが大好きでした。なので商店に売っている家具かぐたちがどんなに素敵になっているのか気になったのでしょう。

ウサギさんはオシャレが大好きでした。なので仕立て屋さんにならんでいる服たちがどんなに素敵になっているのか気になったのでしょう。

ネコさんは村に生息せいそくする虫や魚、そして、村で出土しゅつどされた化石かせきにも興味きょうみがありました。博物館に展示てんじされているそれらがどんなことになっているのか、気になったのでしょう。

どうぶつさんたちはそれぞれ、自分の好きなものがどんな素敵なことになっているのか気になって、ワクワクしていたのです。

「あいつらときたら!」

エリカはむくれてしまいました。でも、エリカは隊長なのです。だったら目一杯めいっぱい、楽をしてやろうと考えました。なんたって、小さなエリカにとってどうぶつ村は十分じゅうぶんに広いのです。エリカの足で全部ぜんぶまわるのはやはりつかれてしまいます。

なので、どうぶつさんたちがもどってくるのを椅子いすにでもすわってひとり優雅ゆうがに待ってやろう。そうして、みんなの話を聞いたあとにアイツらの背中せなかに飛び乗って、わたしをおんぶさせて案内あんないさせてやるのだ。エリカはそうたくらみました。

「ふんっ! それがいいわ!」
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