どうぶつ村のエリカと妖艶なデーモン

あめ野コッキー

文字の大きさ
21 / 26
5.ふれあい

3

しおりを挟む
「ごはんを食べてくる」。エリカはそう言い残してベッドの上で眠ってしまった。

デーモンは悪魔であり食事と睡眠を必要としない、しかしながら、睡眠が食事に結びつかないことは理解していた。

そのため、「ごはんを食べる」と言ってベッドで寝転がり眠り始めたエリカに、彼女はひどく戸惑とまどったものであった。

しかしながら、ベッドの上で眠るエリカの愛らしい姿を見て、彼女はそんなことどうでもよく思えてしまっていた。再び起きたときに聞けばよいだけのことだと。

彼女はベッド脇に置いたラブリーなチェアに座って、ぐっすりと眠るエリカをずっと隣で見守っていた。

彼女がエリカのお腹におもむろに手をのせると、エリカのお腹はゆっくりと上下して、呼吸していることがわかった。

彼女は椅子から腰を上げて、エリカの胸に耳を寄せる。すると、ドクンドクンと一定のリズムを刻んでいる心臓の音が聴こえてきた。胸から耳を離し、エリカの細い腕を軽く握ると、トクントクンと、心臓より控えめな血管の律動を感じた。

どうやら生きているようだ。眠った人間を見たことがない彼女は、エリカが死んでしまってはいないだろうかと確認したのだ。

眠っているエリカはまるで抜け殻のようで、彼女はそこに魂の所在を感じることができず、不安になってしまっていた。

だから、エリカの寝ている間、彼女は度々そのような行動を取っていた。

エリカは大の字に足を広げて無防備な姿で眠っている。腕はバンザイをするように投げ出され、頭の横で軽く握られた両手は、今にも花弁を広げそうなネモフィラのつぼみのようであった。

彼女は、そんなエリカの手に触れようと手を伸ばした。エリカの手は彼女の手の半分ほどの大きさしかない。
彼女がぷにぷにとしたエリカの手のひらの感触を確かめていると、エリカの指がゆっくりと閉じて、彼女の人差し指と中指が握り込まれた。

温かかった。二本の指が握られているだけであるはずなのに、彼女は握られた二本の指から全身に熱が巡るのを感じた。

彼女はエリカの顔に自分の顔を近づけていく。

ぷっくりと赤みを帯びたほほ、暖かい春のそよ風のような睫毛まつげ

少しだけ開いた小さな口からは、スヤスヤと安らかな寝息が聞こえてきた。

その時、エリカのまぶたがぱっと開いた。

「「うわっ!」」

エリカが目を覚ましたのだ。
二人は同時に驚きの声を上げて飛び上がった。

「びっくりした~、心臓が止まるかと思ったわよ」

エリカはベッドの上で後ずさりをして、胸に手を当て驚いた表情をしている。

「すまない、ちゃんと息をしているのか気になって……」

彼女も自身の胸を手で抑えて、バクバクと大きく脈打つ心臓の音を感じていた。

「なによそれ、心配しなくても元気いっぱいよ! まだ若いんだから! それに、ごはんも食べてきたもの!」

エリカはえっへんと両手を腰に当てて答えた。

「その……つかぬことを聞くが、人間は眠って食事をるのか?」

彼女はエリカの起きぬけに、疑問に思っていたことを聞いてみることにした。

「そんなわけないじゃない」

エリカは「そんなことも知らないの?」と続けて呆れた顔をした。

「私は眠ったことがないんだ。悪魔は食事も睡眠も必要としないからな」

「ふーん、眠らなくても明日は来るの?」

「来ないのか?」

「さあ? わからないから聞いてるの」

お互いに疑問符ぎもんふを投げかけた二人の間に沈黙ちんもくが流れる。

しばしの沈黙の後、口を開いて語りだしたエリカの話によると、エリカはいまだに夜と朝の境を経験したことがないとのことらしい。エリカにとっての明日とは、時計が0時を指した時ではなく、夜が明けて朝が来たときのことであった。つまり、エリカは物心ついてから今の今まで、空が暗いうちに眠り、夜が明けて太陽が上ってからしか目を覚ましたことがないのだ。だから、「眠らなくても明日は来るのか?」それはロマンチストな哲学でもなんでもなく、エリカの純粋な疑問でしかなかった。

「……それが本当なのだとしたら、私には一度も明日が訪れていないことになる」

「そうね」

「でも、明日が訪れているお前と明日が訪れていない私が、今同じ時間を過ごしているのはおかしくないか?」

「難しいことを言わないでちょうだい。そもそもあなたはゲームの人なんだから、明日なんて来てなくても不思議じゃないわ」

エリカの発言に彼女は首をかしげる。

「ゲーム……?」

「ああ……ごめんなさい」

エリカはまずいことを言ったような顔をして口を手でおさえた。そして、「なんでもないのよ、気にしないで」と手を振って話をはぐらかせる。

「私も明日がほしい……」

彼女は神妙しんみょう面持おももちをしてそんなことをひとりごちる。

「あらそう、眠ればいいじゃない」

エリカはそれにあっけらかんとして答えた。

「眠り方がわからない」

「目を閉じればいいのよ」

エリカにそう言われた彼女は、試しに目を閉じてみることにした。そして、数秒も経たないうちに目を開いた。

「眠れない……」

「わたしと話してるときに眠らないでちょうだい」

「はい、ごめんなさい」

エリカに怒られた彼女は小気味こぎみよい返事とともに謝罪した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...