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だから今夜は眠れない
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Ⅲ
並木道を通り抜け、近くの駐車禁止区域に悪びれもせず堂々と止めてあるBMWのそばまで来ると、前を歩いていた祐介が突然すっとんきょうな奇声を発した。
「コーヘイ、コーヘイ」
「なんだ?」
「お、おまえの車が…」
しかし、浩平は慣れた様子で肩を竦めた。
「ミニパトか? 駐車禁止が怖くて路上駐車ができるか」
「バカ、そんなんじゃねえ。見ろ、おまえの車が―――」
言いながら指し示す祐介の指の先を見た次の瞬間、浩平は思わず感嘆を洩らした。
「……ハーレムになってる……」
幌を開け放ったコンバーチブルのBMWには、ふるいつきたくなるような美女が二人、しなだれかかっていた。
彼女たちは、呆気にとられて立ち尽くしている祐介と浩平に気付くと、くびれたラインをしならせてキュートな仕草で驚きを表した。
「あっ! やだ、ごめんなさい、勝手に…」
むっちりとした、たわわな胸の前で腕を寄せてみせたほうが先に口を開いた。ボンネットに寄り添っていたほうは、可愛らしい唇に手を当てて大きな目を見開いている。
「いや、いいんだけどさ。…何? グラビアの撮影かなんか?」
祐介のくだけた言葉に、顔を見合わせた二人は吹き出した。
「えー、私たちモデルに見えますぅ?」
「見える、見える、じゅーぶん」
「きゃーうれしー♡」
彼女たちは無邪気に歓声をあげた。
「私たちィ、ただ、こーいうカッコイイ車でドライブしたら気持ちいいだろーねって話してただけなんですけどぉ…」
「これ、あなたのですか?」
「あー…、いや、これは…こいつの」
決まり悪そうに苦笑しながら、祐介は傍らの浩平を指した。
「なぁ、どーする? 姫君たちはドライブがご所望のようだけど」
「どうするも何も、おまえは薬局に寄って、援助交際にはげむんだろう? 妙なビョーキうつされないようにな」
「バカヤロ、こんなチャンス逃してたまるか」
鼻息を荒くした祐介は、素早く美女たちに向き直った。
「よかったら、どう? ドライブでも」
「えー、いいんですかぁ」
「乗って、乗って」
「じゃあ…お言葉に甘えて」
祐介は助手席のドアを開け、シートを倒すと、美女たちを一人ずつそれぞれ席にエスコートした。
「で、リクエスト、どこ行きたい?」
すると、彼女たちはまた視線を交え、そして今度はきれいな顔に妖艶な笑みを浮かべて小悪魔的な表情を見せた。
「ホテルなんか、どうですか?」
浩平と祐介は互いに顔を見合わせた。
(幸先いいじゃないか)
(モトは取ったるッ‼)
打算と下心を胸に、二人がいそいそと車に乗り込むと、助手席の後ろから美女が言った。
「ナビは私がしますから」
浩平は煙草に火をつけ、空き箱を握り潰した。
「近場か?」
「ええ、まあ」
彼女が目を細めて、ふふっと笑ったのを合図に、BMWはエンジンを吹かした。
Ⅳ
目的地にはものの15分とかからなかった。
美女のナビゲートでたどり着いた建物の前で、車から身を乗り出した祐介が朦朧と呟いた。
「ホ……ホテルって……ここ?」
「グランドセンチュリー・ハイアット…都内でも屈指の最高級ホテルだな」
「なに呑気に解説しちゃってんだよ! おれは、ホテルってゆーからラブホかと…」
「ユースケ、声が裏返ってるぞ」
無理もない。目の前にそびえる建物は広々とした一等地に立つ、瀟洒で近代的な外観の高層ホテルである。
先に降り立った二人の美女は、ドアマンの待ち構える回転扉の前で極上の微笑みを湛えながら、ひらひらとこちらに向かって手を振っている。
「こんなとこ、休憩だけでいくらすんだよ…ラブホとヒトケタ違うんじゃねーのか?」
せっかくの甘いマスクも血の気が失せている祐介を見て、浩平は溜め息をついた。
「往生際の悪いヤツ。相手はナマモノだぞ、ビビるのは勝手だがお預けはごめんだ。行く気がないなら、おまえはここで留守番でもしてろ」
「…そーやって、自分だけいー思いしようったって、そうはいかねーかんな」
「なんとでも言え。おれは、ナマモノはおいしいうちにいただく主義だ」
ニヤリと笑った浩平は、祐介を尻目に車を降りた。
「どうする、見物してくか?」
「ジョーダンじゃねえ」
祐介がぶすっと膨れて顔を背けると、浩平は喉の奥をクッと鳴らして言った。
「安心しろ、誘ったのは向こうだ。ホテル代は当然、向こう持ちだろう」
彼は意地悪く顎をしゃくった。すると、それまでしょぼくれていた祐介の顔がぱっと明るくなった。
「そうだよな! おまえ、なんでそれを早く言わねーんだよ」
にわかに復活した祐介は、目を輝かせて車のドアをひらりと飛び越えた。
「ゲンキンなヤツ」
呆れたように薄く笑った浩平は、近づいてきたベルボーイに車のキーを投げ渡した。
並木道を通り抜け、近くの駐車禁止区域に悪びれもせず堂々と止めてあるBMWのそばまで来ると、前を歩いていた祐介が突然すっとんきょうな奇声を発した。
「コーヘイ、コーヘイ」
「なんだ?」
「お、おまえの車が…」
しかし、浩平は慣れた様子で肩を竦めた。
「ミニパトか? 駐車禁止が怖くて路上駐車ができるか」
「バカ、そんなんじゃねえ。見ろ、おまえの車が―――」
言いながら指し示す祐介の指の先を見た次の瞬間、浩平は思わず感嘆を洩らした。
「……ハーレムになってる……」
幌を開け放ったコンバーチブルのBMWには、ふるいつきたくなるような美女が二人、しなだれかかっていた。
彼女たちは、呆気にとられて立ち尽くしている祐介と浩平に気付くと、くびれたラインをしならせてキュートな仕草で驚きを表した。
「あっ! やだ、ごめんなさい、勝手に…」
むっちりとした、たわわな胸の前で腕を寄せてみせたほうが先に口を開いた。ボンネットに寄り添っていたほうは、可愛らしい唇に手を当てて大きな目を見開いている。
「いや、いいんだけどさ。…何? グラビアの撮影かなんか?」
祐介のくだけた言葉に、顔を見合わせた二人は吹き出した。
「えー、私たちモデルに見えますぅ?」
「見える、見える、じゅーぶん」
「きゃーうれしー♡」
彼女たちは無邪気に歓声をあげた。
「私たちィ、ただ、こーいうカッコイイ車でドライブしたら気持ちいいだろーねって話してただけなんですけどぉ…」
「これ、あなたのですか?」
「あー…、いや、これは…こいつの」
決まり悪そうに苦笑しながら、祐介は傍らの浩平を指した。
「なぁ、どーする? 姫君たちはドライブがご所望のようだけど」
「どうするも何も、おまえは薬局に寄って、援助交際にはげむんだろう? 妙なビョーキうつされないようにな」
「バカヤロ、こんなチャンス逃してたまるか」
鼻息を荒くした祐介は、素早く美女たちに向き直った。
「よかったら、どう? ドライブでも」
「えー、いいんですかぁ」
「乗って、乗って」
「じゃあ…お言葉に甘えて」
祐介は助手席のドアを開け、シートを倒すと、美女たちを一人ずつそれぞれ席にエスコートした。
「で、リクエスト、どこ行きたい?」
すると、彼女たちはまた視線を交え、そして今度はきれいな顔に妖艶な笑みを浮かべて小悪魔的な表情を見せた。
「ホテルなんか、どうですか?」
浩平と祐介は互いに顔を見合わせた。
(幸先いいじゃないか)
(モトは取ったるッ‼)
打算と下心を胸に、二人がいそいそと車に乗り込むと、助手席の後ろから美女が言った。
「ナビは私がしますから」
浩平は煙草に火をつけ、空き箱を握り潰した。
「近場か?」
「ええ、まあ」
彼女が目を細めて、ふふっと笑ったのを合図に、BMWはエンジンを吹かした。
Ⅳ
目的地にはものの15分とかからなかった。
美女のナビゲートでたどり着いた建物の前で、車から身を乗り出した祐介が朦朧と呟いた。
「ホ……ホテルって……ここ?」
「グランドセンチュリー・ハイアット…都内でも屈指の最高級ホテルだな」
「なに呑気に解説しちゃってんだよ! おれは、ホテルってゆーからラブホかと…」
「ユースケ、声が裏返ってるぞ」
無理もない。目の前にそびえる建物は広々とした一等地に立つ、瀟洒で近代的な外観の高層ホテルである。
先に降り立った二人の美女は、ドアマンの待ち構える回転扉の前で極上の微笑みを湛えながら、ひらひらとこちらに向かって手を振っている。
「こんなとこ、休憩だけでいくらすんだよ…ラブホとヒトケタ違うんじゃねーのか?」
せっかくの甘いマスクも血の気が失せている祐介を見て、浩平は溜め息をついた。
「往生際の悪いヤツ。相手はナマモノだぞ、ビビるのは勝手だがお預けはごめんだ。行く気がないなら、おまえはここで留守番でもしてろ」
「…そーやって、自分だけいー思いしようったって、そうはいかねーかんな」
「なんとでも言え。おれは、ナマモノはおいしいうちにいただく主義だ」
ニヤリと笑った浩平は、祐介を尻目に車を降りた。
「どうする、見物してくか?」
「ジョーダンじゃねえ」
祐介がぶすっと膨れて顔を背けると、浩平は喉の奥をクッと鳴らして言った。
「安心しろ、誘ったのは向こうだ。ホテル代は当然、向こう持ちだろう」
彼は意地悪く顎をしゃくった。すると、それまでしょぼくれていた祐介の顔がぱっと明るくなった。
「そうだよな! おまえ、なんでそれを早く言わねーんだよ」
にわかに復活した祐介は、目を輝かせて車のドアをひらりと飛び越えた。
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