少女は淑女で最強不死者

きーぱー

文字の大きさ
25 / 68
北ダンジョン編

25話 念には念を

しおりを挟む
 俺達一行は、ゼスの家で寝起きを共にする事になった。今日は、自由行動で昼にギルド支部で落ち合う事になっている。朝食は、各自が中央広場の露店や飯屋で済ます。俺と風音とゼスは、支部長に会いにギルドに来ていた。

 俺達は、ギルドに入ると直接2階の応接室に通された。すぐに、支部長のブライトが現れる。

 「ゼス おはよう 早く会えてよかった」
 「おはよう 何かあったのか? 」
 「早ければ、今日の昼過ぎにギルド本部の学者が来るぞ」
 「そりゃまた早いな… 」

 ブライトは、ギルド本部と数回に渡り鳩を使った伝達を行ったという。
 本部側の学者が、居ても立っても居られない状態になり、早馬でこちらに向かったと連絡が入ったのだ。残りの雑兵も、すでに現地に向かって北ダンジョンを立ち入り禁止にするようだ。メイドスに寄るのは、王都の学者1名と雑兵5名、追加で手足れ2名が早ければ明日の夜に到着するようだ。

 「手足れねえ… まあ早いにこした事はない 準備しておかないとな」
 「ああ 失敗は勘弁だぞ ゼス」
 「当たり前だろ 支部長」
 「これでやっとメイドスも… 」

 支部長が何か、思いに耽るように呟く。

 「支部長」
 「あ… なんだい? かざねくん」
 「呼び出しといて お茶も出んのか? 」
 「あ! すまない」

 支部長は、応接室のドアを開けてお茶を頼み隣の部屋から灰皿を持ってきて風音の前に差し出し椅子に戻る。

 「うむ… ゼスよ こことダンジョンの往復をする警護というのはわかったが、ここから王都までの警護はやらんでいいんじゃな? 」
 「ああ そういう依頼だよ かざねさん」
 「ふむ… なあ支部長 例えばメイドスから王都までの間で、荷が何者かに奪われた場合その責任は何処に求めれば良いのじゃ? 」
 「あ… 」
 「なあ ゼスよ わしらも同行せぬか? どうせ支払いは王都のギルド本部なんじゃろ? 」
 「ああ… 確かに、かざねさんの言う通りだ… もし、王都の連中が荷を奪われた事にしてしまえば 俺達にビタ一文と金は入ってこない… 」
 「ゼス まだ甘いのう… この件は、お前の功績じゃ ちょっとした油断でその功績を全て失うかもしれんのだぞ わかってるのか? 」

 ゼスは、帽子を深く被り下を向いた。ブライトも、事の重要さに気付き考える。途轍もなく、価値ある物が目の前に… 自分の手に届くところにある場合、全ての人間が理性を保っていられるのか… 

 「ゼス… 思った以上に神経が磨り減る案件だった 頼む!! 王都まで無事に届けてはくれないか? 依頼額は金貨500枚で受けてくれ これが今、うちが出せる最高金額だ」
 「おっけー 俺も甘かったよ そして、気を付けなきゃならないのは追加で足された 手足れって、やつら2名か」
 「託也 お前も、しっかりとそやつらを見張っておけ」
 「了解」
 「まあ わしも見とるから安心せえ」
 …… …

 こうして、王都までの護衛に変更となった依頼は金貨400枚の内容から500枚になった。どっちにしろ、王都で金を受け取る事になるのだから問題無いと言えば問題無かった。
 お茶を啜りながら風音はブライトに質問を始めた。

 「ところで支部長 何故そこまで今回の件に執着しておるのじゃ? わしからしてみれば 他人事じゃろ? 」
 
 ブライトは笑みを溢しながら風音の問いに答える。

 「簡単に言ってしまえば、このギルド支部が活性化する。北ダンジョンを求めて、各地の冒険者が集まり街には大きな利益を生む事になるはずだ。まあ、それが半分と残り半分がメイドス・ギルド支部への報酬かな はっはは」
 「ぶっちゃけたな 支部長」
 「そう言うな ゼス この人に嘘は駄目だ 見抜かれてしまうよ」
 「中々の、狸じゃのう 支部長は」
 「はっはは で、君がたくやくんでいいのかな? 」
 「あ はい」
 「支部長 こんな感じだが託也はキングタイガーを1発で仕留める強者だぞ」
 「わかった… 3人には昨日の件、了承した」

 昨日の件とは、冒険者SSランク確約のことだった。

 「かざねさん そろそろ昼だ みんな集まっているだろ」
 「うむ… 先にいっておれ」
 
 俺とゼスは、1階へ降りると表で待っていたカリナ達と合流する。

 ▽▽▽

 「のう 支部長 ちと相談なんじゃが、今回の件で金が入ったらメイドスに家を買おうと思っておるんじゃが いくらくらいするのかのう? 」
 「家を? 定住すると? 」
 「この街を拠点にするつもりじゃ 支部長はゼスの家を知っているか? あれの5倍はある広さで、2階建ての建物 風呂は2つ欲しいかのう」
 「うーん…」

 「隣に立派な建物があるじゃろ あれはいくらする? 」
 「普通に出せば3000… 3000はするだろうね」
 「ふむ… なんとかなるかのう 実はまだ誰にも話しておらんのじゃが やつらに内緒で動いて欲しいんじゃ もちろんただじゃない 交渉して値引いた分をそっくり支部長にくれてやる どうじゃ? 」
 「いいのかい? かざねくん」
 「王都から戻ったら金は前払いじゃ やるか? 」
 「い… いいのか? 本当に」
 「かまわん そのかわりゼス達には内緒じゃ 驚かせてやるつもりじゃからな クックク 約束できるか? 」
 「は… はっは もちろんだ! 」
 「これも縁というものじゃ… それとな、どんな形になるのか一度見せてくれぬか 紙に書いて」
 「図面のことだね わかった 打ち合わせは王都から戻ってから」

 俺達が知らないところで、風音と支部長がこんな話を進めていたとは… 
 『屋敷』を見るまで知る由もなかった。

 ▽▽▽

 2階の応接室から降りてきた風音が合流する。

 「ゼス 皆に説明はしたのか? 」
 「ああ 何の話をしてたんだ? かざねさん」
 「いやな… 剣獣殺の話は託也に聞いたんじゃろ? 」
 「あ… ああ 細かくは聞いてないが もう現れないだろうとは聞いている」
 「うむ それで、何であんな辺鄙なところで追い剥ぎをしていたと思う? おかしいと思わんか」
 「言われてみれば… 確かに」
 「まあ 少し話を聞いただけじゃ この話は内緒じゃ支部長に聞くのは駄目じゃぞ? いいな? ゼス」
 「ああ 了解だ かざねさん」

 風音は後ろを向き舌を出す。

 「カリナ」
 「はい 風音様」
 「お前達もちゃんと準備しておけよ 回復する薬とやらを必ず持て 今回は人を相手にするかもしれんからのう…」
 「えっ!? 」
 「なんじゃ ゼスは話しておらんのか… 」
 「その辺はまだ… すまない」
 「ふむ… ちと人がいない方へ移動するかのう」

 俺達は、人気の無い場所に移動すると改めてゼスが説明を始めた。
 …… …

 「わかりました」
 「要は、追加の手足れ2名に気を付けていれば良い 途中変更あれば伝える」
 「はい! 」
 「それとゼス 今回は黒蓮に荷は引かせん わしが単独で馬を使う ゼスと託也はアルマ達と一緒に1台の馬車に乗り込めいいな? 」
 「わかった」
 「了解だ」
 この後も、風音の指示でカリナは今から透明化してゼスの家に戻り何時でも戦闘出来る状態で待機。カーベル達も必要な回復アイテム等を買ってゼスの家で待機するよう言われた。

 俺は、これらの準備が全て無駄になって欲しいと切に願った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...