少女は淑女で最強不死者

きーぱー

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北ダンジョン編

26話 学者と副本部長

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 ギルド本部のダンジョン・遺跡部門からの学者1名と冒険者だろうか、もう1名がメイドス・ギルド支部の玄関に馬を横付けにし到着した。学者の方は、肩から提げた黒い大き目のカバンが目立つ痩せ型の中背男性だった。学者は足早にギルドの中に入って行く。冒険者の方も、学者に続く。

 すぐに、学者の声が聞こえてきた。

 「おおぉぉ! これは凄い!」

 1階の長椅子に座り待機していた俺達も、後を追う様に応接室に入る。

 「来たか ゼス こっちに座ってくれ」

 支部長が、俺達を迎い入れ1階のオフィスにお茶を頼むと灰皿をテーブルの上に置いた。椅子に座った支部長が互いの紹介をはじめる。

 「今回、北ダンジョンの攻略したパーティー リーダーのゼスと、その隣がたくやくん、そしてかざねくんだ」

 まずは、俺達の紹介から始まった。続けてギルド本部側の紹介となった。

 「本部のダンジョン・遺跡部門の責任者 トーマスだ 彼は以前、一緒にパーティーを組んでいた時期もあった 古い友人でもある」
 「よせ ブライト そんな大昔の話」
 「はっはは そうだな お互い歳を食ったなあ そして、急遽トーマスに同行してくれた ギルド本部副本部長 カテリーナだ… 」

 ブライトの表情が僅かに曇ったかの様に見えた。
 
 副本部長カテリーナ… きっちり肩まで伸ばした黒髪に、細長い身体は175cmはありそうだ。白い肌に軽装重視なのか黒いシャツにパンツを着こなす。
 第一印象は、何事にも動じない冷たい女だった。

 「で、どうなんだ? トーマス ゼスが持ってきた古代通貨の価値は? 」
 「ああ 素晴らしいよ! ゼス 挨拶が遅れた わたしはトーマスだ 今回は本当におめでとう! 少し見させてもらったが、まだ発見されていない時代の古代通貨が多く含まれていた、これは希少価値も高くなるだろう 査定を楽しみに待ってて欲しい そして、これからも頑張ってくれ」
 「ありがとうございます! 」

 ゼスは、少し緊張気味にトーマスと言葉を交わした。この時、横目でゼスを睨み付けているカテリーナがいた。視線に気付くゼスの顔色が変わる。

 「何か言いたげだな… 」
 「信じられん どんな細工をした! お前の戦闘力では8階層すらクリアー不可能! まして、9階層なんて… 」
 「おいおい… 何時の話してんだ? 9年前と同じだと思っているのか? 」
 「変わらんさ 戦闘職でもないお前なんぞ どう足掻いても8階層は無理だ」
 「仲間が片付けてくれたよ 俺の新しい仲間が」
 「仲間? この餓鬼二人がか? 大丈夫か ゼス? 」

 ゼスに向かって、カテリーナは半分馬鹿にした笑みを溢し俺と風音を餓鬼扱いする。ブライトが頭を抱えている。

 「黙ってりゃいいものを… 知りもしない相手に、上から見下してるから足元掬われるんだよ 9年前みたくな 仲間を餓鬼呼ばわりした謝罪をしてもらおうか カテリーナ」

 どうやら、ゼスとカテリーナ10年来の知り合いらしい。カッとなったカテリーナが腰に装備した剣を握る。

 「図に乗るなよ! ゼス!! 」

 カテリーナが一歩踏み込んだ瞬間、床に倒され身動き出来なくなっているカテリーナの姿があった。髪の毛を掴まれ、うつ伏せにされ喉元には風音の手刀があてがわれていた。ほんの一瞬の出来事だった…
 カテリーナの背に、馬乗りになっている風音が言い放つ。

 「いい加減にしとけよ 小娘が 行儀が悪いにもほどがあるのう… 親の顔が見てみたいわ」
 
 カテリーナは、何が起こったのか判らなかったのだろう。言葉も出せず、じっとしているだけだった。

 「かざねくん… すまない カテリーナは私の娘だ… 」
 
 それを聞いた風音は、突然笑い出す。

 「クッククク そうであったか クックク 今回は見逃してやる これからは場を弁えてから剣を握ることじゃな クックク」

 風音は馬乗りになったカテリーナから離れると煙草を吸いはじめた。
 カテリーナは、その様子を床に倒れたまま眺めている。すると、ブライトがカテリーナに問い掛ける。

 「カテリーナ… かざねくんを見て本当に ただの餓鬼に見えるのか? よく見てみろ… 」

 カテリーナは、身体を起こし風音を見つめる… 

 「もうよい 支部長 若い時には多々あることじゃ それよりお茶… んー… ゼス! 昨日の夜、託也に作っておった飲み物 冷たいやつが欲しいのう」
 「わかった 近くに売っているから買ってくる」

  ゼスは、飲み物を買いに応接室を出た。すると、風音がカテリーナに話しかけた。

 「のう カテリーナといったか 北ダンジョンで何があった? 」
 「… 」
 「答えられんのか? 」
 「かざねくん… 私から説明しよう」

 支部長が話をはじめた…

 9年前、カテリーナは30名の冒険者仲間と北ダンジョンを攻略する依頼を受けた。その頃の、カテリーナは商団警護や要人宅の夜間警備など、売り出し中の冒険者パーティーのリーダーだったという。今のギルド本部長も、その頃に知り合って王都にこないかと引抜を受けていたという。

 北ダンジョンの7階層までの魔物討伐は、倒し方が確立されていた為スムーズに進めた。問題は8階層で、並みの冒険者が束になってかかっても倒せる魔獣ではなかった。ほとんどの冒険者がAクラスで当時のSクラスはカテリーナただ一人だった。キングタイガーに立ち向かえば負傷するループを続け、絶望的な力の差を知りながらも挑み続けた結果… 半数が命を落とした。

 倒せないのならと、人一人しか通れない8階層の出口を目指して囮班が引きつけている間に次々と、出口へ侵入していった。

 通路の、突き当たりに現れた魔法陣に乗り込むパーティー。
3つの班分けをして魔法陣に乗り9階層に降り立つ。最初のパーティーの一人が壁に設置されてる魔法陣を触ってしまったのだろう。
 床から、超巨大魔獣が現れ冒険者達は次々と飲み込まれていった。

 カテリーナは、囮班が来るのを待ってから魔法陣に乗り9階層へ向かうと、地獄絵図と化していた… フロアーを逃げまくる冒険者、禍々しい姿をした巨大魔獣が飲み込んでいく。ある者は、果敢に立ち向かうも魔獣の尾を叩きつけられ体中から内臓が飛び出し息絶えていく…

 その光景を目にした、最後のカテリーナ班は即座に離脱する。僅か、4名の帰還となったカテリーナの北ダンジョン攻略は惨敗の結果で終わった。

 さすがに、自分で話そうにも話せない内容だろう。全てを当時のカテリーナ本人から聞いた父親、ブライトの話であった。カテリーナは、その場で泣き崩れていた。さすがの風音も、今の話を聞き情けの一つもかけた言葉を投げかけるのかと思いきや、さらに追い込む。

 「わしからすれば お前達の行動は、ただの無為無策 引き時も判らぬ将と、力無き滑稽な配下とは… お粗末じゃのう 身の丈に合う依頼だけしとけばよかったのじゃ 」

 何も言い返せないカテリーナ。その話をただ黙って聞くだけのトーマスとブライトだった。そこにゼスが戻ってきた。
 
 「な… なんかあったのか? 」
 「遅いわ! 」
 「えぇ… 」
 「まあ良い 飯にいくぞ ゼス 託也」

 俺達はゼスの家に戻って飯にする事にした。

 「戻ったぞ みんな飯にするか」

 ゼスが言うと、部屋から武装したカーベル達が出てきた。

 「なんじゃ お前達 家の中で装備なんかして」
 「えっ!? だって、準備しとけって… 」
 「そうは言ったが クック 武器なんぞ家の中では装備するな」
 「は… はい」
 「まさかと思うが… カリナは家の中でも透明化してるのかのう… 」

 風音は、透明化しているカリナを追いつつそう言うとダムの後ろに隠れたカリナが透明化を解除して返事をする。

 「か… 風音様 おかえりなさい まさか家の中で透明化したりしませんよ」
 「クックク そうか お前達は本当に素直じゃのう」

 風音は、そう言うと皆の頭を撫で回していた。
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