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王都編
35話 カテリーナの不安
しおりを挟む「おいおい! ゼス!? 冗談だろ… 辞めてくれ… 」
驚きと落胆の声を漏らすカテリーナ。
ゼスとカテリーナは、ギルド本部の近くにある静かな喫茶店でお茶を飲んでいたはずだった。しかし、今年度開催される『税杯』の詳細を聞きはじめたゼスにカテリーナが問い質す。
「ちょっと待て… なんで なんでゼスは『税杯』の話を聞くのだ? 父さんは今回も不参加と言っていたぞ!? 」
「ああ 俺もそう思っていた だが、昨日の若い冒険者が『税杯』の話を言っちまったんだよ。かざねさんのいる前でな… 」
「何て事を… 」
「俺も、てっきり不参加と思っていたし『税杯』の話なんてした事なかったんだが… どうやら興味を持ってしまったらしい」
「どうしたらいいんだ… 」
カテリーナが顔を歪め頭を抱え出す。ゼスは、そんな様子を気の毒そうに見るだけであった。カテリーナとは、幼い頃から知っている仲だけに今どんな気持ちなのか手に取るように判ってしまった。
カテリーナが、心配しているのは自身の事ではなく王都の冒険者達がガラクタにされてしまうんじゃないかと恐怖に似た不安を募らせる…
「無理だ… 勝てるわけが無い」
風音の戦闘を、目の当たりで見たカテリーナだから判る。理屈が通じない破壊力… 指を鳴らしただけで、キングタイガーの頭が吹き飛ぶ光景。
もし、冒険者達にあの技を放ったら… 極めつけが、託也の依代。カテリーナ自身は、ただの魔獣契約と思っているだろう。
古代魔獣バジリスクを召喚されたら全てが終わる… カテリーナは、結論を出す。
「不参加… もう、それしかない… 」
ぽつりと呟いた。
「待てよ カテリーナ… かざねさんが魔獣相手に使ったスキルで冒険者達の頭を吹き飛ばすなんて事は無い ちゃんと即死攻撃の禁止は伝えといたし、死に直結する攻撃なんかしないと思うぞ 多分だけど… 俺からもそれとなく言っておくから そんなに悩むな」
「あ… ああ… 」
カテリーナに、ゼスのフォローは届いていないようだった。弱々しい返事をしただけ…
ゼスは、金をテーブルに置くとその場を後にした。
▽▽▽
宿屋に風音達、女性陣が買い物から帰ってきた。開口一番、風音がゼスは何処だと俺に聞く。
「むむぅ ゼスはどうした? 」
「ん? ギルド本部行ったけど 定時連絡」
「ふむ そうか… 」
「あ あと『税杯』の詳細をカテリーナさんに聞いてくるって言ってたよ」
「わかった クックク ところで託也 どうじゃ! 似合うであろう!! 」
買い物から帰った俺達は、宿屋に戻り寛いでいた。ゼスも一緒に帰ってきたが風音達と入れ違いなタイミングで出かけたのだった。
風音は、くるりと後ろを向いて袖口からゴソゴソと何かを取り出し顔に身に付けると、再び俺達の方に向かって身を捩る。
…
風音がサングラスを付けていた…
ぶっちゃけ全然似合っていなかったのだ。カーベルもダムもポカーンとした表情で風音を見つめる。
「ほら あれじゃろ? 海! 海に行ったら必要じゃろ? 日焼け止めのクリームとやらとかを買ってきたんじゃ! わしは肌が焼けると真っ赤になってしまうからのう どうじゃ? 似合うじゃろ! 」
なんだ? この、はしゃぎっ振りは… テンション高いのは良いが全然似合ってないんだよね。
「う… うん いいんじゃないかな」
「は はい… よろしいかと」
「そうか!? そうであろう! わしもサングラスというのは、はじめてなんじゃが そうか! 似合うか? 」
風音も喜んでいる事だし似合っている事にしておこう。それより、カリナ達が何を買ってきたのか気になった。昨日は服や靴を、買いまくっていたのに今日も買い物袋を背負って帰ってきたのだ。
「カリナ達は何を買ってきたの? 」
気になり、聞いてみると風音がゲスい顔で答える。
「クックク 託也 それは後日のお楽しみじゃ 物凄いから驚くでないぞ クックク」
「風… 風音様! 辞めて下さい… 」
カリナ、アルマ、マリーの3人は真っ赤な顔をしてモジモジしだした。
よく判らなかったので、聞くのを辞め自分達の買い物を話した。
「こっちはコップや食器、料理道具を買ってきたよ 銅のコップ買ったから馬車でも飲めるよ ガラスだと移動する馬車に載せられないしね」
「おお 銅か 熱いのも冷たいのも注げるし 良いのう」
「でしょ で、ゼスさん戻ったら話そうと思ったんだけど 今の馬車一台で移動って狭くない? 出来ればもっと大きな馬車でも買わない?」
「うむ それもそうじゃのう カリナ達はどうじゃ? 別々の方が良いのか? 別々が良ければ今まで通りでもかまわんが」
「いえ 私は風音様と一緒がいいです」
カリナが少し照れながら風音に言う。余程、風音と一緒に居たいのだろう。
「わ… わたしも」
今度は、アルマが照れながらボソッと賛同する。何を照れているのかサッパリ判らなかった。
「私も一緒に乗せて下さい」
マリーも賛同する。うんうん、皆一緒の方が楽しいからね。
「風… 風音様 釣り道具も置けるようにして欲しいんですけど… 」
ダムが要望を出すと風音が即答。
「当然じゃ! 海に行って寿司だからのう もちろん、釣竿や魚篭もぶら下げて良い 許可しよう」
「やった! 」
海に行って寿司だから、釣竿も魚篭も許可するって… 何か、噛み合っていない気がしたが… まあいいか。カーベルは、特に問題ないっスと何時も通りの返答だった。
「ただいま 戻ったぞ」
ゼスが戻ってきた。少し疲れたような顔をしている。
「おかえり ゼスさん」
「ご苦労じゃった ゼス 話はどうじゃった? 」
「査定の方は、昼間に聞いた通り 変更無しだね 明日、王城に行って報酬を受け取る予定」
「そうか 『税杯』の詳細は、カテリーナに聞けたのか? 」
「ああ… それなんだが」
ゼスの話では、参加期限は開催日の前日までに参加費と参加メンバーの用紙に名前とランクを記入し持っていけば問題無いらしい。
続けて、カテリーナと会って喫茶店での話をしだした。
「あやつは、わしを何だと思っているんじゃ… いきなり頭なんぞふっ飛ばさないわ! 」
「俺もそう言ったんだけど… どうやら8階層のキングタイガー討伐が頭に妬き付いているのか、託也の依代がトラウマなのか… 終いには『不参加しかない… 』とか言い出してたよ… 」
「ふむ… まぁ問題無いじゃろう わしも鬼じゃないのでのう 少しだけ戦法を修正じゃな 安心しろゼス 頭を吹き飛ばしたりはせんから」
「ああ 手加減してやってくれ かざねさん」
ゼスも、これ以上は何も言わなかった。
所詮、実力が無い者は淘汰されるのだから摂理と言ってしまえばそれまでの話。自己申告で戦闘から退場も出来るのだから見極めさえ間違わなければ問題無い。
「ところでゼス 大型の馬車を買おうという話が出ているのだが」
「確かに… 皆も賛成なのか? 」
「全員賛成だよ ゼスさん」
「そうか なら大型の馬車にするか 馬も2頭ほど手に入ったしな 4頭引きにしたら問題無いし」
「今度は、下に折り畳みを付けるだけじゃなく中段にも折り畳み長椅子を付けて2段ベッドみたくしたら? 」
「いいな それ採用! 」
俺達は、今日も2部屋を無駄にした…
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