少女は淑女で最強不死者

きーぱー

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王都編

36話 王都オディールとディオルド王国

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 今日は、北ダンジョン攻略の総括。財宝の査定も決まり代表としてゼスが王城に出向く日だった。ここまで来るのに長かったような短かったような…
 
 北ダンジョンに、行く事を決めてから風穴の特訓、バーデン一味との駆け引き、カリナ達のパーティー加入と様々な出来事があった。1つだけ気になる問題が残ってはいたが、どうするかは風音とゼスで決めるであろう。

 ゼスが、王城に向かうまで時間があるので俺達は王都の工房に足を運んで馬車を選ぶ事にした。どうやら、大型の馬車はメイドスの工房では受注発注になるので時間がかかってしまうとゼスは言っていた。

 工房には、すでに仕上がっている大型馬車が5台横並びに展示されていた。俺達は気に入った馬車の中を覗き込む。旅の道中、ほとんどを過ごす事になる馬車の中は大事だ。近くに宿屋があれば問題無いが、否応無しに馬車で寝泊りする場合も考える。
 風音とゼスは、店の人間と追加オプションの話をしていた。

 「両サイドに折りたたみ式の長椅子を付けてくれ すぐに付けれるか? 」
 「はい 1時間もあれば仕上がりますね」
 「よし 頼んだ」
 「ありがとうございます! 」

 どうやら、どの馬車にするか決まってしまったらしい。

 「どれにしたの? 」
 
 俺達は、自分達の馬車はどれなのかゼスに確認する。

 「これだよ! いいだろ? 上にも荷物を置けるし出来るだけ中を広く使いたかったからな」

  黒を、基調にした外装は形こそシンプルだが重量感が漂う落ち着いた雰囲気を醸し出す大型馬車だった。内張りには風通しを良くするための横スライドするサッシも付いていた。

 「いいね これ! 内装も綺麗だよ」
 「だろ 軽量素材で仕上げたらしいから馬の負担も少ないはずだ」
 「うん いいっスね! 中も広い」
 「うんうん! 綺麗です」
 「中にカーペット引いてテーブルも置きたいくらいね」

 ここで、ゼスがカリナ達に今までの馬車はどうすると尋ねた。ゼスの話ではいらなくなった馬車を買い取りしてくれるのだという。カリナ達は自分達が今まで使ってきた馬車を眺めながら答えた。

 「この馬車には思い出もあるので、出来ればメイドスに持って帰りたいと思います」
 「そうね… 悪い思い出の方が多いけど あたし達とずっと一緒だったしね」
 「うんうん… 」
 「よし わかった メイドスに持って帰るぞ とりあえずはギルドの馬繋場にでも放置しておけ 支部長には、ゼスかわしが断りを入れておく」
 「はい そうしてくれるとありがたいです」

 俺達の新しい大型馬車… 皆で揺られながら馬車の旅、今から楽しみでならない俺だった。

 帰りは、ダムの操縦する馬車を黒蓮に引かせて残りの4頭に大型馬車を引かせる事にした。今後はダムが大型馬車の操縦になるだろう。
 俺達は、追加オプションの長椅子が仕上がるまで食事にする事にした。ギルド本部には昨日、揉めた事もあり顔を出すのは止めとく事にした。

 …… …

 「そろそろ時間だ 行ってくるよ かざねさん… 」
 「うむ しっかりな」
 「ああ… って、実は昨日から緊張しているんだよ」
 「まったく… 気をしっかり持て 大丈夫じゃ 何ならわしも一緒に… 」
 「嫌! それだけは駄目だ かざねさんも納得したろ? 」
 「うむ… そうじゃったのう」
 「い… いってくる」
 「ゼスさん いってらっしゃいー」

 俺達は、王城へ向かうゼスを励まし見送った。気になったのは、今の会話で風音とゼスが何やら話し合っていた事だ。

 「ねえ 風音 ゼスさんと何があったの? 」
 「ん?… うーん… 実はのう 報酬を受け取る時に、この国の王とやらと謁見するかもしれんという話だったんじゃ」
 「えっ!? 王様と? 凄いじゃんそれ!! 」
 「凄い事なのかもしれんのう わしは興味も無いんじゃが ゼスが言うには謁見する際、王の前では跪かなければならんらしい… 」
 「あ… そりゃ無理だね 風音には」
 「うむ… わしより下の人間に跪くとかありえんわ 心配したゼスが謁見は自分だけにして欲しいと嘆願したそうじゃ」
 「さすがゼスさんだね」
 「託也… 」

 風音が俺を睨む。だが、強ち外れた事ではないので変に納得している様子の風音だった。袖口から煙管を取り出し煙草を吸い出す。

 ふぅー

 「しかし、あれじゃな 金貨何万と貰っても運ぶのに苦労するではないか」
 「確かに 結構重たいんだよね お金 お札とか無いのかな? 」
 「わしが見たところ金貨までじゃが 他にもあるのかのう… 」
 「風音様 あります」

 カリナが硬貨について話し出した。

 「金貨10,000枚と等しい硬貨が存在します。『ディオルド硬貨』といいまして、少し大き目の硬貨と聞いています」
 「なんと!? そんな硬貨が存在するのか」
 「はい 現物は見た事無いんですが ゼスさんなら知っていると思います」
 「なるほどのう… 」
 「通常、庶民には縁の無い硬貨ですので… そして、『ディオルド』とは国の名称でもあります」
 「ディオルド国で良いのか? 」
 「正式には ディオルド王国です」
 「王政なのか… この国は ついでに王都はなんというのじゃ? 」
 「オディールです」

 ここにきて、この国が『ディオルド王国』であり、王都が『オディール』と判明した。少し、遅すぎる情報だったが今後の為に覚えておこう。

 ―― ゼスが王城に出かけて1時間後

 俺達は、ギルド本部の馬繋場から馬車と馬を出し南門の入り口でゼスを待っていた。すでに、大型馬車を引き取り荷物の乗せ変えも済んでいた俺達は乗り心地を確かめるように馬車の荷台で足を伸ばす。

 「戻ってきたようじゃな」

 指輪で、ゼスの位置は確認できるため王城を出たのは判ったが、そのままギルド本部へ向かったようだ。恐らく、メイドスギルド支部へ連絡を入れるため鳩を頼んだのだろう。すぐに、ゼスがこちらに向かってきた。

 「おーい 戻ったぞ! 」

 ゼスは、手を振り走ってきた。その表情からは、何とも言えない高揚感が沸いていた。思っていた通りの査定報酬だったのだろう。
 息を切らしてゼスが馬車にの乗り込んだ。

 「ハァハァ… か かざねさん 受け取ったよ! 想像以上だった」
 「ご苦労じゃったな ゼス 想像以上になんじゃ? 」
 「報酬額だよ! 30,000を見込んでいたが50,000!! 」
 「おおっ! やったではないか でかしたぞゼス! 」
 「良かったね ゼスさん! おめでとう」
 「いや、託也もいたから攻略できたんだ 人事みたいに言うなよ ハハハ」
 「そうだったね でも、俺より風音とゼスさんの貢献が一番だよ」
 「それで かざねさん 『ディオルド硬貨』5枚を貰った 本当に話通りの分け方でいいのか? 」
 「もちろんじゃ ゼス20,000 わし20,000 託也は10,000じゃ 託也もそれで構わないな? 」
 「もちろん! 俺、ついて行っただけだしね」

 風音と俺は、小さな木製の化粧箱に入った『ディオルド硬貨』を受け取った。
風音は、中身も見ず袖の中に化粧箱をしまう。
 俺は、『ディオルド硬貨』がどんなものか確かめてみたくなり化粧箱から取り出して裏表を見たり重さを確認した。

 「なんか、これで金貨10,000枚とか 実感沸かないね」
 「そんなもんじゃ かえって金貨10,000枚あったほうが実感は沸くかのう」
 「そりゃそうだ 見たまんまだしな ハッハハ」

 ゼスは、大型馬車の手綱を握り高らかに笑った。

 「落とすと大変だから 風音 これも一緒に預かっておいてよ」
 「うむ よこせ なんせ金貨10,000枚分じゃからのう」

 俺が、風音に預かって貰うとゼスが走り出そうとした馬車の手綱を緩め少し青い顔をして風音に言う。

 「か… かざねさん メイドスまで俺のも預かって…」
 「なんじゃ!? 急に臆したのか? やれやれじゃのう どうもゼスは最後の詰めが甘いところがあるからのう 今回だけ預かってやる よこせ」
 「うん… 頼みます」

 こうして、全ての『ディオルド硬貨』を風音に預けると俺達は海に向かって馬車を走らせた。短い滞在だったが、王都『オディール』での出来事は忘れられない思い出になるだろう。
 
 一応、北ダンジョンの総括は最高の結果で幕を閉じたのだった。
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