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都市税争奪対抗戦編
46話 抽選会 その1
しおりを挟む足早に、ギルド本部を立ち去る風音の後に続く俺とゼス。
人混みを抜けると、ゼスが口を開いた。
「ふぅ… 焦ったよ かざねさん 冷や冷やしたぞ」
「ほんとだよ 風音 もし、冒険者資格剥奪になったらどうすんのさ? 」
「そんなに酷かったかのう? 」
「「酷かった! 」」
「ふむ… どうも、あやつは人を試すような感じがしたからのう まぁ、これで暫くはふざけた態度は取らんであろう」
宿屋に戻った俺達の元へトーマスが尋ねてきた。トーマスはギルド本部で一体、何があったのだと早速聞いてきた。
本部長の様子がおかしかったらしい。
あの威圧を受けたんだ、本部長とて普通ではいられないだろう。
「大丈夫じゃ トーマス心配するな 例の件はトーマスと話を進めてくれと本部長は言っておったぞ 後は、『税杯』の話しじゃった。恐らく、こっちの話が本命じゃろう 『税杯』で、わしに風穴を使わないで欲しいとな」
「風穴の使用禁止か… 他に手立てはあるのか? かざねさん」
心配性のゼスは風音に尋ねた。
「当然じゃ わしが、風穴しか使えないと思っておるのか? お前達に見せていない術は他にもある 安心しとけ」
―― 前夜祭 『税杯』抽選日
風音の指示で、必要以上に街には出ない方針となった俺達は前夜祭まで大人しく宿屋で過ごす事になっていた。すでに、東門を出た場所にある特設闘技場までの道端には臨時屋台がぎっしりと建てられていた。
前夜祭では、特設競技場の前で1回戦の組み合わせ抽選会が行われる。ここまでの情報によると棄権する都市は、前回に引き続きマベルーラだけで他の都市は全て参加となる。賞金総額、金貨35,000枚の争奪戦となった。
前回優勝都市の、王都はシードで1回戦はない。ちなみに今回の参加者は260名となっていた。その他の都市の、参加状況は透明化したカリナの情報収集で予想通りだとゼスは言った。
メイドス 8名
マリル 150名
トレイル 50名
アーデラル 150名
トロレス 140名
ドリボラ 70名
この中から、3都市が決勝に進出することになる。俺達は、人数が圧倒的に不利なのは言うまでもない。初めから判っていた事だ。
抽選会は、ボードに1~6の数字が事前に書き込まれ、設置された箱の中にも1~6までの数字が書かれた紙が折り畳んである。その紙を、前回の高位順で引いていくのだという。前回、不参加のメイドスは抽選を引く権利も無かった。
そろそろ、日没… 街に、外灯の火が点りだした。宿の窓から、街の様子を眺めていると多くの人々は東門の方角へ流れて行く。
「抽選を引く、権利も無いが 行ってみるかのう」
風音の一言で、俺達は出かける事にした。
古代指輪と、面を付け宿屋を後にする。
東門から、特設闘技場までは人の流れが出来ていた。途中で、屋台の食べ物を買い腹に入れる。丁度、小腹が減る時間だったので助かる。面を少し斜めに被り、串に刺さった肉や野菜を食べ歩く俺達。人は、ごった返し前に進むのも侭ならない。
そんな状況下で、頭からすっぽりと外套を被る2つの影が風音を見つめていた。この人混みだ、感知に意味は無かった…
「やっと… 見つけたぜ」
「ああ 王都に来て正解だったな この人混みだ… これで熟睡出来る」
日は、すでに落ち 外灯だけが頼りの足元。
抽選会場が見えてきた。
特設闘技場の手前に、ボードが設置され1~6の数字が書かれてある。ゼスの言っていた通り、手前の、テーブルの上には箱も設置され回りに参加者代表の椅子と特務機関とギルド本部長の姿が見えた。
各都市の代表1名が、椅子に座り抽選を行う。他の者は、周りを囲むように後ろで立っている。
全員で来る訳もなく、何処も10名前後の人数で抽選会に参加していた。すでに、各都市の代表は椅子に座っている。
風音が、椅子に座ろうとした瞬間だった。
風音の身体を2本の刃が突き刺さる。
「ゴフッ… 」
風音が被る、面と顔の間から多量の血を吐血したのだ。
「風音!! 」
「「「風音様!! 」」」
俺達は叫び、風音の元に駆け寄ると背後から剣獣殺の2人が風音の身体を突き刺していたのだ。
「こ… こいつら剣獣殺!? 」
外套を脱ぎ捨てた2人は、声を高らかにして笑う。
「ヒィィィィーーー!! ヒッヒッヒィィィ! 」
「これで… やっと熟睡出来るよ フフフッ」
「この化け物が!! 腕を切り落としたところで どうせ生えてくるんだ… だったら身体を突き刺されたらどうなる? お終いだろ? えええっ!! 殺したぞ! 化け物を殺したぞー!! ヒィィィィーーー!! ヒッヒッヒィィィ! 」
「「「ぎゃああああ!!」」」
「「「ひぃーー! 助けて!! 剣獣殺だ!! 」」」
場は、騒然となる。
座っていた、各都市の代表達も相手が剣獣殺と解ると緊張している。一斉に立ち上がり身構えるが、その腰は引けていた。
剣獣殺の変わり果てた姿… 風音に、両足を切断された男の足には義足が嵌められ、引き千切られた女の片腕には仕込み刀が施されている。地面には、直前に外された義手が転がっていた。
「まるで、獣じゃのう… クックク こやつらは、すでに人間ではない あれだけの恐怖を与えても 尚、復習に取り憑かれ わしを殺しに来たか」
「取… 取り押さえろ! 」
焦る特務機関が拘束しようとする。
「待て!! 」
風音が制止する。
「おい 本部長 こやつらの扱いはどうなっておる? 」
とっさに、風音に話を振られた本部長。
「こ… こいつらは重要指名手配犯… 金貨600枚の賞金首だ」
「生死は? 」
沈黙する本部長…
風音は聞き直す。
「聞いておろうが 生死は? 」
「生… 生死は問わず… 」
風音が、振り向き様に手刀で剣獣殺の首を2つ同時に刎ねた。
ビシャャャャーーーー!!
2つの身体から、噴水のように血が吹き出し剣獣殺の身体が、その場に倒れ込む。転がった首の表情は、不気味な笑みを浮かべていた。
その光景を見ていた、一部の一般客等はパニックになり失神する。
あちこちで、悲鳴が聞え何の騒ぎかと見に来た客達は凄惨な現場を目の当たりにする。俺は、なるべく死体を見ないようにした…
トラウマになりかねない。
「おい そこの」
風音は、特務機関の人間に手招きし用事を言い付けた。
「何をしておる とっとと片付けんか」
ハッと、した特務員は仲間を集め死体に布を被せて移動させる。
「まったく、ボサーとしおって おい 本部長 後で賞金の金貨600枚取りに行くからのう 用意しといてくれ クックク」
風音は、笑いながら本部長に言った。
本部長は、冷や汗をかき黙って頷いた。
その様子を見ていた、他の冒険者達も度肝を抜かれていた。
風音の後ろにいた俺達の、さらに後ろにいた冒険者達が小声で話す声が聞えてきた。
「お… おい あの小さいのは何者なんだ? 」
「し… 知るかよ とんでもねえのがいたもんだ… 化け物だ」
風音は、着物に血が付いているのが解るとブツブツと文句を言いながら着替えだす。何時もの様に、肩に手を添えると白い着物は真っ赤な着物へと変化した。風音は、何事も無かったように椅子に座るとギルド本部長に、こう言った。
「何をしておる さっさと抽選会とやらを始めぬか」
面の口元をずらし、袖口から取り出した煙管を咥え煙草を吸い出した。
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