倫理なんてくそくらえ

星野るな

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第1章

まさかのひとりHスタート

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 築30年以上の4階建てのぼろいマンション。
 エレベーターなんてものはなく、階段を勢いよく上がって、簡素なドアを開ける。
 誰かが帰ってくればこの建物の全員がわかるくらい音が響くが、今日ばかりは知ったことではない。

「ただい、ま…っ」

 玄関をあけてすぐに目に入ってきたのは男の上半身。
 いま正に考えて考えて死にたくなっていた男の、である。
 帰ってきてシャワーでも浴びたのか、腰にタオルだけを巻いた姿で冷蔵庫から水を取り出している。たくましい胸板は、高校に入ってからさらに分厚くなってしまった。
「あ、樹里おかえり。遅かったね、風呂空いてるよ」
 それともメシ食う?冷蔵庫の中に入っている晩御飯を取り出しながら聞いてくる。
 樹里はそれを全部無視して自分の部屋へと入った。
 いま口を開いたら、なんだかとんでもないことを言いそうだった。
 んもー、すぐ無視するんだから、と聞こえて来たがもちろんそれも無視だ。それどころではないのだ。
 床にカバンを放り投げ、ベッドにダイブ。

「ばか裕貴……」

 裕貴は、母が再婚した相手の連れ子で、血の繋がりはないが「兄」である。
 裕貴の上にさらに上の司がいて、ある日から突如3人兄妹になってしまった。
 このマンションは、義理の父の所有していた家。
 両親は樹里が高校に入ると同時に父の仕事の転勤で2人で海外に行ってしまった。
 もちろん両親は心配して自分だけでも連れて行こうとしたが、拒んだ。
 兄たちと一緒にいたかったから。
 長男の司はすでに就職して、親代わりのような存在。
 長く付き合っている彼女がいるから、きっともうすぐ結婚したいと思っているに違いない。
 次男の裕貴は樹里の2つ上で、幼い頃から兄貴ヅラをして何かとかまってくる。
 小言も多い。
 自分にはいつも風呂上がりに薄着で歩くなとか、足出すなとかうるさいくせに。
 自分はどうなんだっての。
 
 目を瞑るとさっきの光景が頭に広がる。
 分厚い胸板と、すらりと長いのにたくましい二の腕。
 水を一口飲むたびに動く喉仏。
 薄いタオルの下には……って、変態か、私は。
 どうしたって考えてしまう。あの太い腕に抱かれる女が何人いるんだろう。
 この間学校で見かけた、綺麗な女の先輩ともヤッたのかな。
 ちくり、と痛む胸。
 見ないふりをしているけど、いつだって誤魔化すことができなくて、本当に嫌になる。
 いつもヘラヘラとしてる裕貴はどんな風に女を抱くのか。
 妹である自分は、それを一生知ることはない。
 それでも、妄想くらいは許されるはず……そう考えているうちに、少し熱くなる身体。

「う………さいあく」

 それでもこの熱は止まらない。
 自らの手をそっと制服のスカートの中に忍ばせて、下着の上から敏感な場所をいじる。

「ん、……っ、ふ」

 声が出ないように片手でそっと塞ぎながら、下を弄る指は止めることができなかった。
 くちくち、といやらしく音を立てるソコは、誰も受け入れたことがないのにすでに敏感で感じやすくなっていた。
 指はさらに奥へと滑る。下着を軽くずらして、滑りを借りて指が一本。
 怖くて浅いところまでしか弄れないけれど、裕貴のものはきっとこれの何倍も太くて、熱くて、奥まで届くに違いない。

「はぁ、……」

 さっきみた光景が、頭に浮かぶ。
 薄い布地の、タオルの下。
 あの下にある熱が、自分に興奮して硬くなって、腰を振ってくれたら。
 どんなだろう?痛いかな、気持ちいいかな。
 きっと自分は素直になれない。
 
 けれど、それでも裕貴は優しくしてくれる。妄想でもそれだけははっきりわかる。
 それが嫌で、嬉しくて、自分はきっと堪らなくなるのだ。

「~~っ、ん、ん……」
 ゆうき、ゆうきっ、ゆうき……。

 声には出せないその名前を、頭の中で必死に呼んで、耳元で「樹里、かあわいい」と言われる想像をして、イった。
 はあ、はあ、と震える下半身と、余韻でしばらく息を乱して、それからため息をついた。
 またやっちゃった……。
 そんな罪悪感で死にそうになりながら、樹里はそっとびしょ濡れになった下着を脱いで、お風呂へ向かうのだった。

 そっと部屋のドアを開けると、裕貴はもういない。
 自分の部屋に引っ込んだのだろうか?
 わからないけれど今がチャンスと駆け足で横切る。
 脱衣所に駆け込み、そのまま全裸になり、シャワーで火照った身体を落ち着かせる。
 水滴がこぼれ落ちていく、まだ幼さが残る自分の裸体。
 高校生になったばかりで、まだ胸もそこまで大きくないけれど、これから大きくなるんだろうか?
 裕貴は絶対巨乳が好きだよね……。
 一緒にいた女の身体つきを思い出しては顔をしかめる。
 裕貴は、家に女を連れ込むことは一切なかった。
 だけど、同じ学校にいればしょっちゅう耳に入って来る。たいして知りたくもない情報とともに。

「宮田さんのお兄ちゃんってかっこいいよね。隣の駅の女子高の子と付き合ってるって本当?」

「でもこの間、綺麗なお姉さんと駅歩いてるの見たよ」

 羨ましい、なんて同じクラスの女子たちは言う。
 自分もそんな風に気軽に言えたらよかった。
 このまま報われない気持ちを抱えたまま側にいても辛いとわかっているのに、裕貴のいるこの家から出ることが出来ない。長男の司とも離れたくなんて無い……。
 悶々と考えているうちに、泡はすっかり落ちていた。
 キュッとシャワーを止めて、脱衣所へ戻った。
 そこであ、と止まる。替えの下着を持ってこないままだったことに今更気づいたがどうせ戻って寝るだけだしどうでもいい。
 そのままパジャマ代わりのゆったりとしたTシャツをすっぽりとかぶって、下は何も履かないまま。
 太ももくらいまで隠れるオーバーサイズの裾を気にしながら脱衣所を出た。
 部屋に戻ろうとリビングのドアを開けるとテレビの音。
 そこには定位置のソファに座ってテレビを見ている裕貴がいてギクリとする。もう自分の部屋に戻って寝たんだと思っていた。

「まだ起きてんの」
「んー?もう寝るよ」

 そう言う瞳は確かに少しとろんとして眠そうだった。
 いつもより、少し幼く見えるその顔。
 樹里の姿を捉えると、その眉がキュキュッと眇められる。

「まぁた、そういう格好でうろつくのやめなさいって」
「……別に。部屋戻るだけだし」

 えー戻っちゃうの?と拗ねたような声。

「おれね、樹里がお風呂入ってる間にいいもの買ってきたよ」
「なに」
「冷凍庫見てみ」

 そう言われて見れば、いつも食べているアイスクリームが入っていた。
 一本だけ出して裕貴の横に座ると、「一口ちょーだい」と距離を詰めてきて一瞬息が止まる。

「やだ」
「えーケチ!」
「裕貴も持って来ればいいじゃん」
「樹里のが食べたい」

 言い合いしていると、ニヤッと笑って樹里の手首ごと自分の口元へ持って行く。
 裕貴の下がアイスを舐めて、それからパクリ。
 大きな一口で持っていかれる。……いや、食べ過ぎ。

「一口でかすぎ」
「まあ、まあ」

 もう、と言いながら自分も一口……と思い一瞬止まる。
 裕貴の舌と唇が触れたアイスの先端。そんなものを意識してどうする。
 それでも、あの大きな口と長い舌はそういうことを想起させるには十分だったのだ。
 樹里の手首を一周するような手のひらにも、もう少しだけ触れていて欲しかった。
 思い出すと、先ほど慰めたはずの下半身が小さくきゅんとする。
 そして同時に下を履いていなかったことも思い出して焦る。
 さすがにノーパンはまずい。

「……部屋で食べる」
「司兄に怒られるよ」
「いないし、裕貴が言わなきゃバレないじゃん」
「どうしよっかなー。じゃあ、あと一口くれたらいいよ」
「は?もうだいぶ食べたでしょ」

 しつこい裕貴が手を伸ばしてそれを避ける。
 戻ろうと思って、中途半端に立ち上がっていたところだったので、あっけなく体勢を崩して転びそうになる。

「うお、あぶね」

 当然のように裕貴に腰を支えられ、その拍子に少し溶けたアイスがぼたり。
 塊が落ちて、着地したのはむき出しになった太ももだった。

「ひゃ……っ」

 とけたそれは内腿を伝ってこぼれていく。
 冷たさに思わず跳ねた身体は、力が抜けて裕貴の膝の上にちょん、と乗っかる形になってしまった。
 無慈悲にも、ずり上がるTシャツの裾。
 その下の、樹里の、………全部が丸見えになってしまった。
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